高校デビュー
今日僕は高校デビューをする、文字通りね。いや姿がめちゃくちゃ変わったという意味だとしても高校デビューなんだけどさ。
お弁当も二つ用意して、お嬢様と一緒に登校をする。夏用の半袖の方の制服を着ている自分を見ると、女性ものの服を着慣れてきた自分に驚くばかりだ。ただ、リボンをつけるのはさすがに恥ずかしくてネクタイをつけた。
ここはなんか譲れない壁だ。
その防衛ラインはほとんど使い物になってないことくらいわかっているけど。
教科書とかは学校で受け取れるらしいので、僕はこれと言って持ち物はなく教科書を受け取るための空っぽのリュックサックを背負っている。せめてお嬢様の荷物を運ぼうとしたけど、断られてしまった。
最寄り駅は乗り換えができるところなので、朝は人で溢れている。そこから五駅進み歩いて十分程のところに花鳥高校がある。
花鳥高校は間違いなくお嬢様学校。その歴史は長く創立はもうすぐ八十年を迎えようとしている。
お嬢様学校と言っても別に全員が全員お嬢様じゃなくて、昔とは違って一般的な家庭から進学してくる子の方が多いのだとか。
「うゎーやっぱり綺麗ですね」
校内に入るとまず目につくのは花畑。お嬢様曰く入学すると、生徒に種が渡されてそれを育ていて最初は手入れをするのが面倒だけどやってみると意外と愛着が湧いてしまい、台風の直撃を受けて散ってしまった花に涙を流す人もいるらしい。
「あら、刹那さんだわ」
「ホントだ、今日も綺麗ー!」
「隣にいるの誰?」
お嬢様と一緒に校内を散策していると、生徒達から注目の的になる。
そんな中でもお嬢様は堂々としていて、日の光を浴びて輝いている髪も相まって窓辺に置いてある一輪挿しのようだ。
「まずは職員室に行かないと」
お嬢様にそう言われて二階にあるらしい職員室に向かう。
花鳥高校は小、中、高の附属学校であり全てが同じ敷地内にある。また、グラウンドも部活動一つにつき一つあり相当の敷地量を保持しているというのはお嬢様談。
「失礼します、一年一組冬神です。母からお話が行っていると思うのですが、入学者を連れてきました」
職員の扉を数回ノックしてから扉を開けたお嬢様は僕の背中を、押すようにして職員室の中に入れた。
「冬神さん、話は聞いてるわ。ええと、貴方が三笠 傑さんね」
黒いジャージを着た女性の先生が僕の方を見て言った。
えっ、お嬢様学校なのになんかこんな感じ?意外と緩いんだ。
「はい、そうです」
「ちょっと待ってね」
整理整頓という言葉を忘れたような机の上で必死に何かを探している。
「あぁ、あったあった。これこれ」
古代遺跡を発掘した探検家のように嬉しそうな顔で、捜索物を掲げる先生。
「これが、学生手帳。これが学生証の役割もするからいつも持ってて」
そして、職員室の端っこの方から重そうな段ボールを持ってきた。
「えっとね、これが教科書。学校のバック。これくらいかな?」
「じゃあね傑。また教室で」
「はい、また」
僕はホームルームまで職員室で待機命令がでので、職員にある来客用のソファーに腰を下ろす。
「足、広げない」
ジャージ先生の手が僕の足を閉じさせる。
「よろしくね、三笠さん。私が君のクラス一年一組の担任の島波 灯」
「よろしくお願いします」
「ねぇ、君ってさ冬神さんのなんなの?」
「へっ、あっ、あのォあれです。しつ、使用人です」
「ふぅん、まぁこの学校は冬神さんのお爺さんが経営してるから、その関係者なことはわかってるけど」
平泳ぎでもしていそうな僕の目をジッと見てくる島波先生。
「いやね、あんな柔らかい顔した冬神さんって初めて見たから」
「そうなんですか」
「そうなのよ、あの子のあだ名知ってる?」
「いえ、学校での過ごし方って聞いたことないので」
「『氷の姫』なんて名前つけられちゃってさ。いやね、別に揶揄われてるとか嫌われてるとかじゃ全くなくて、みんな尊敬しるし私も元々そういう性格なんだったら何も言わないけど……。あなたがいたらあんな顔をするんだったら少し考えないとね」
氷の姫ねぇ、お嬢様が?いやまぁ確かにちょっと当たりが強い時とかはあるけど、料理食べてる時とかめちゃくちゃにんまりしてるしなぁ。
島波先生はもう一度僕のことをみて、わざとらしく口角を上げた。
「そういうことなのかねぇ」
「どういうことですか?」
「あー、いいのいいの」
ホームルームの開始を告げるチャイムが鳴り、僕は先生に案内されて一年一組の教室の前に。
「入ってきてって言ったら入ってきてね」
ぷらぷらと右手を振って島波先生は教室に入って行った。
ドアを一枚挟んだだけだから、教室の中の会話は聞こえてくる。
「えー、今日は喜ばしいことに君たちの仲間が増える」
少し騒つく教室内。
「この時期に?」
「どんな子ですかー?」
「まぁ落ち着け落ち着け、うーんそうだなぁ、美少女って言葉が似合うとだけ言っておこう」
激しく騒つく教室内。
いや、美少女の皮を被ってるだけなんです。本当の美少女に謝らせてください。
「入っておいで」
僕はドアをスライドさせて中に入る。
「マジ美少女だ」
「これがガチってやつか」
「ん?めちゃくちゃデカくね?」
「刹那本気だったんですのね」
JK達のキラキラとした目は僕には眩しすぎて、この女の園に入ってしまったことに申し訳なさを覚える。
あと、僕がデカイ所なんて一個しかないので言わないでくれ……。
「じゃあ自己紹介を頼む」
どこを見て話して良いかわからず、教室を眺めてみると桜街様も同じクラスらしい。
後ろの方に貼ってある、美化週間のポスターに目を付けて昨日から考えてあった自己紹介を始める。
「えっ、えっと、ぼっ僕は、みみみ、三笠、傑です。あっ、あの、その、刹那お嬢様な、に、つ、仕えてら、るひつ、じ、じゃ、なくて、使用人、です。少し、かっ変わった時期のに、にゅう、学ですが、よろしく、お願いします」
緊張しすぎて、昨日考えてきたことが吹っ飛んでしまった。本当だったら、ベストを綺麗に畳む方法を見せる予定だったのだ。
そもそも、僕は多人数に慣れていない。sayoyoさんも、元々ある程度の関わりがあったから普通に喋れたし、島風先生も一対一だから喋れたけど、全く知っている人がいない多人数から囲まれている状態の僕は目も当てられない。
島波先生が僕の方を意地悪く笑いながら見ている。
教室の一番後ろの席にいるお嬢様を見ると、お嬢様も島波先生と同じような表情で僕のことを見ていた。




