魔王様視点
「愛するもの……か。」
すやすやと寝息をたてるフィリナさんを眺めながら独りごちる。
言われてみて初めて気がついた。確かに私にとっては魔物は愛するもので大切なものだ。
そんな当たり前のことに気付かされた。
「まおーさま、まだここにいたの。」
声がして振り向くとそこにはリテアがいた。相変わらず気配がない。
フィリナさんにはああいう態度だが実はリテアはこの城の中でいちばん長く生きている古株なのだ。私の産まれる前のことも知っている。
リテアはベッドに眠るフィリナさんを見ながら近づいてきた。
「だいぶ良くなったみたいなのね。良かった。」
「そうだな。」
レッタリアが薬を作ってくれたので、明日には治っているだろう。
ヴォークから聞かされた時は随分肝が冷えた。どうやら出会って3日も経っていないこの少女のことを随分と気に入っているらしい。
確かに初めて出会った時からころころと変わる表情が可愛らしいとは思ったのだがな。
でも、それはこの城にいるものもいっしょだ。
リテアもグレースもレッタリアもヴォークもオルドまでもがこの子を高く評価している。
人間嫌いのヴォークがあれだけ懐いていて、辛口のグレースとレッタリアも好印象だ。それになによりもオルドとリテアが気を許したことに驚いた。
歴戦の2人は中々他人に気を許さない。特にリテアはそうだ。相手の懐に入ったように見えて一番信用していない。
それが、フィリナさんには魔術まで使っている。
余程気に入ったようだ。
まぁ、あれだけ私たちの為に動いてくれたならな。まさか、冷たい湖に迷わずに入るとは思わなかった。
「ボクね、フィリナ見ていて思うことがあるのよ。」
リテアは私の方を見た。
「この子、褒められる事に慣れてないの。というか褒められると思ってない。」
それは私も思っていた。いくら天から与えられた仕事だとしても、役に立ったなら褒められるべきだ。事実、私も日々魔物たちに感謝されている。
だが、フィリナさんはどれだけのことをしても当たり前だというような反応をするのだ。
褒められ、感謝されることだとは思っていない。
きっと彼女が今まで生きてきたところでは感謝されたことなどないのだろう。
逆に彼女は自分がして貰った時は異常とも言えるほどに礼を言う。
まるで、自分にはそんな事してもらう価値などないかのように。
どんなに元気に見えても幼少期から培った自己肯定感の低さがところどころ垣間見えてしまうのだ。
それはみんなも理解している。
だから戸惑っていた。今までの聖女はあんな感じではなかったからだ。しっかりと自分の価値と役目を理解しているからこそ自信があった。
でも、彼女は役割だけを理解して、そこに伴う価値が分かっていない。感謝しても喜ぶどころか困惑するだけなのだ。
「……あの人たちは知らないのか、このことを。」
「さぁ、ボクには偉い人の考えなんてわかんないのよ。」
リテアがわざとらしく肩をすくめる。私は苦笑して言った。
「でも、これはあの人たちに伝えなければならないことだな。聖女の意味が正しく伝わっていないという事だから。それに彼女が他国に出たことがないということは他国の瘴気が濃くなっているということだ。」
「あんまり、ボクのフィリナを働かせすぎないでよ。」
リテアに睨まれる。1番懐いているのは君のようだな……。
「わかっている。私も無理はさせたくない。」
ついこの間まで私を倒そうとしてた割には随分とリラックスしているようだ。面の皮は思いのほか厚いらしい。
このまま彼女を褒めて、彼女が少しでも自分に価値を感じてくれればいい。
そう思いながら私は部屋を後にした。
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