ろく
なんのフラグを回収したのか分からないが翌日私は見事に風邪をひいた。
朝から身体が重く、ふらふらな所を朝ごはんを持ってきてくれたヴォークさんに見つかって、レッタリアさんの診察を受けて風邪だと言われた。
ちなみにレッタリアさんは医者らしい。
はぁはぁ
身体が暑い。だるい。
そりゃあんな冷たい水に長時間つかってたからな。
でも別に風邪をひくの自体は久しぶりじゃない。王国にいた時は激務のせいで身体を壊しまくってたし、常に風邪気味だったからね。
無理矢理聖術で何とかしてただけだし。
だから、今日も聖術で何とかしようとしたら、ヴォークさんから私の事を聞いてすっ飛んできた魔王様に全力で止められた。
だから私はベットの上で寝込みながら、いつものように至れり尽くせりをしていた。
「何か必要なものはあるか?」
ベットのそばに座っていたヴォークさんが聞いてくる。
「大丈夫です。ごほっ」
「まったく……。あんなに冷たい湖に浸かったら風邪をひくのは当たり前だろう。自己管理はしっかりしろ。」
ヴォークさんは小言を言っているがさっきから耳としっぽがしょんぼりと垂れ下がっている。出会って3日も経っていないが、ヴォークさんが素直じゃない優しいひと(?)だと言うことは理解できた。
さっきからずっと私の世話を甲斐甲斐しくやいてくれてるし。
ぬるくなった額のタオルをヴォークさんが変えてくれる。その度にもふもふが当たって心地よかった。
熱でぼーっとしてるからなのか普段なら言わないことを口走ってしまう。
「ヴォークさん、もふもふしていいですか?」
「何だと?!」
ヴォークさんがびっくりした声を上げた。私は慌てて弁明する。
「ご、ごめんなさい。もふもふが気持ちよさそうだったので……。」
私が焦っているとヴォークさんが咳払いをした。
「べ、別にダメだとは言ってはいないぞ。」
そして私の目の前にしっぽを置いてくれる。
触っていいってことなのか?
「触っていいんですか?」
「ああ、少しだけな。」
了承の言葉を貰ったので遠慮なくもふもふさせてもらう。毛並みがよく手入れされていて触り心地が良かった。
もふもふ、もふもふ。
しばらく夢中でもふもふしていると、突然ヴォークさんがしっぽを下ろした。
「も、もういいだろう。」
少し残念だが、充分堪能できた。
「ありがとうございます。」
私がお礼を言うと、ヴォークさんは戸惑ったような顔をした。
なんだろう?
しばらくじっと見つめるとヴォークさんがようやく口を開いた。
「……ありがとう。瘴気を祓ってくれて。」
何だ、そんなことか。
「いえ、私の仕事ですし。皆さんのお役にたてたなら良かったです。」
私の言葉にヴォークさんの顔はさらに戸惑ったようになった。
「そ、そうか。いや、なんだ。みんな感謝している。だから、ゆっくり休め。」
そういう言うと、ヴォークさんはもう一度額のタオルを変え、部屋を後にした。
しばらくして、レッタリアさんが食事を持って部屋に入ってきた。
食事をテーブルの上に置いたあとレッタリアさんは私の傍に来る。
「大丈夫ですか?なにか食べられますか?」
レッタリアさんの質問に私は咳をしながら答える。
「お腹……すきました……。」
レッタリアさんは微笑んで食事を持ってきた。
「これ、卵がゆですわ。料理長が作ってくれましたの。こちらを食べたらわたくしの調合したお薬を飲んでくださいね。」
卵がゆをよそってレッタリアさんは手渡してくれる。そしてそのままベット脇の椅子に座った。
私は冷ましながらそれを口に運ぶ。
……美味しい。
食欲のままに食べ進める。ぺろりと全部平らげてしまった。
レッタリアさんは
「それだけ食べれていれば大丈夫そうですわね。」
と薬を飲ませてくれた。
薬は想像していたより苦くなく飲みやすかった。
「色々とありがとうございます。」
私がお礼を言うと、レッタリアさんは驚いて言った。
「そんな、お礼を言うのはこちらの方ですわ。フィリナ様。わたくしたちの為に働いてくださってありがとうございます。」
レッタリアさんは微笑んだ。
「ですからゆっくり休んでくださいね。」
そう言うとレッタリアさんは部屋を後にした。
時間がそう経たないうちに今度はグレースさんとリテアちゃんが来てくれた。
「大丈夫なの〜?」
「大丈夫?」
それぞれ心配の言葉を口にしてくれる。ありがたい。
「大丈夫です。ごほっ」
「咳しながら言われても説得力ないわよ。ほらこれ。」
グレースさんが私に何かを渡してくれる。見るとそれは宝石みたいにきらきらした飴だった。
「これ、喉によく効く飴よ。レッタリア程では無いけどあたしもそういうのに詳しいから。」
グレースさんは私の頭を撫でる。
「早く元気になりなさいよ。なんだか調子狂うわ。」
みんな、出会ったばっかりなのに色々してくれている。
嬉しいな。
リテアちゃんも私の傍に来て、心配そうに言う。
「ボクも早く良くなって欲しいのよ。フィリナ。」
リテアちゃんが魔法陣をかきはじめた。
何するんだろ?
私が疑問に思っていると、ふわっと心地よい眠気がやってくる。
「フィリナ、風邪の時は寝るのが1番なのよ。フィリナが悪夢を見ないように、心地よく眠れるようにボクが魔術をかけてあげるのよ。」
リテアちゃんがそう言った。でも、私は半分も聞き取れていない。眠気に抗えず目を閉じる。
すぅっと穏やかな眠りについた。
どれくらい経っただろうか。
ゆっくりと目を開けると隣に魔王様がいた。
「起こしてしまったか?」
申し訳なさそうに言ったので、首を振る。扉の方に目をやるとオルド団長がいた。
私と目が合うと魔王様に一礼して部屋を出ていった。
私は魔王様に視線を戻す。まだ身体はだるかったが眠る前よりかはましになっていた。
「あの、今何時ですか?」
声が思ったより掠れていた。魔王様は水を差し出しながら答える。
「もう、夜だ。」
私は手渡された水を飲む。喉は痛く無くなっていた。
あの飴凄いな……。
私はゆっくり身体を起こした。
「大丈夫なのか?」
魔王様が心配そうに言ってくる。それがなんだか可愛らしくて笑ってしまった。
「大丈夫です。」
魔王様は私が辛くないように背中にクッションを置いてくれた。
気が利くな……。
「あの……湖に住んでいた魔物たちはどうなったんですか?」
私の質問が意外だったのか魔王様が少し驚く。だが直ぐに答えてくれた。
「元の住処に戻った。君のおかげだ。ありがとう。」
魔王様はそっと頭を撫でて微笑んだ。その様子になんだか昔のことを思い出す。
昔、ずっと昔に、まだ家族と一緒にいた頃に、風邪の時お母さんに頭を撫でてもらってたな……。
そんなことを考えているとなんだか悲しくなって涙がこぼれ落ちてきた。
私が泣いていると魔王様は慌てて私の涙を袖で拭う。
「どっどうしたんだ?何かあったのか?」
焦っている魔王様に私は泣きながら答えた。
「みんな、優しくて。何だか、昔を思い出したんです。」
「昔?」
「はい。」
私は何故か魔王様に自分の家族のことについて話し始めた。
「私、5歳までは家族と一緒に暮らしてたんです。でも、聖女だと分かって、そしたらみんなと離れ離れになって。1度も会えてないんです、みんなと。」
話しながらいつの間にかぐしゃぐしゃに泣いていた。
「みんな、元気かなって。ご飯ちゃんと食べてるのかなって。辛い思いしてないかなって。もう、顔も朧気にしか思い出せないのに、そんなことをずっと考えるんです。」
支離滅裂な私の話を魔王様は私の頭を撫でながらずっと聞いてくれている。
私はしばらく泣いていたが、ちょっとずつ涙が止まってきた。
私が泣き止むと、私の頭を撫でる手を止めて魔王様が言った。
「君にかけられていた制約魔術、あれは解術した。それと、あの足枷も外した。」
私はびっくりする。
ていうか、あの制約魔術解けてたんだ。
「いいんですか?私捕虜なのに。」
「魔物たちにあれだけのことをしてくれた人を縛るわけないだろう?」
私は鼻をすすって言った。
「あれは私のお仕事ですし、それに魔王様の魔物を大切に思う気持ちをみたら力になりたいって思ったんです。」
魔王様は驚いていた。私はそのまま続ける。
「私、貴方が愛するもののために働けて嬉しかったです。」
にっこり笑うと魔王様は嬉しそうな顔をした。
「そうか……。ありがとう。本当に。」
そしてまた私の頭を撫でる。
「ゆっくり休んでくれ。」
そう言うと魔王様は私が寝るまでずっと私のそばにいてくれていた。
そのおかげで私はなんだか安心して眠れたのだ。
目が覚めると全快していた。
レッタリアさんのお薬すごい。
お腹が盛大になったので、ボタンを押して誰かを呼ぶ。来てくれたのは魔王様だった。
「体調はどうだ?」
顔を合わせてそうそう私の事を気を使ってくれた魔王様に私は笑って言う。
「全快です!!」
魔王はほっとしたような表情を浮かべ朝ごはんを持ってきてくれた。
なんだか一緒に食べたい気分だったので誘う。
一緒に他愛のない話をしながら食べた。相変わらず魔王城のご飯は美味しかった。
魔王様が部屋を後にしようとした時にマントを返し忘れていたことを思い出したので、綺麗に畳んで手渡した。魔王様は微笑んでお礼を言ってくれた。
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