じゅうきゅう
報告が終わり私の元を訪ねてきた魔王様から事の顛末を聞いた。録音魔術のおかげもあってか直ぐにルーファスさんは有罪となり投獄されたそうだ。きちんと帝国の法律で裁かれるらしい。何はともあれこれで自分がやったことを反省してくれると嬉しい。
私に事を報告し終わると、魔王様は帰ろうとした。それを引き留め部屋に入れる。お茶を入れ、軽食を用意し、魔王様をソファに座らせる。そして私も隣に腰を下ろした。
「魔王様、お茶飲みます?」
そう言ってティーカップを差し出す。魔王様はお礼を言ってお茶をひとくち飲んだ。私は気持ちが落ち着かず何となく用意しておいた1口サイズのサンドイッチを食べる。
うう……早くなにか言わなきゃ……。
魔王様も私も何も言わないからなんだか気まずい空気が流れている。私はガタガタと手を震わせながらティーカップを口に運ぶ。震えすぎて中身がすごく溢れている気がする。
そんな私を見かねた魔王様がなんとも言えない表情で言った。
「フィリナさん……遠慮しなくていいんだよ。」
私は顔を引きつらせる。
「い、いえ、べべ別に何も……?」
魔王様は苦笑した。
「私の過去が気になるのだろう?聞いても怒りはしないよ。」
ま、まずい。気を使われている……。
私は姿勢をただしお茶を1口飲んで口を開いた。
「あの、魔王様のこと知りたいなって思って。私、貴方のこと何も知らなかったから……。」
魔王様は少し躊躇う。まるで知られることを恐れているかのようだ。私は魔王様の目をしっかりと見据える。
「私、貴方の力になりたいんです。だから教えてくれませんか?貴方のこと。」
魔王様は一息ついて何かを思い出すように上を見上げた。
「私はね、母親の顔を知らないんだ。生まれた時に亡くなってしまったからね。それに父親には物心つく前に捨てられてしまった。だから私は小さい頃は両親の顔を知らなかったんだ。」
私は黙って相槌を打つ。魔王様は目線を下に下げ言葉を続けた。
「私が幼い頃の魔界は酷かった。秩序なんて何も無くて、外に出れば襲われるようなそんなところだった。私もそれまあ酷い環境だったな。その日食べるものにも困っていた。そんな時に師匠に拾ってもらったんだ。」
「師匠ってスウェードさんですか?」
「そうだよ。」
私はスウェードさんの言っていた言葉を思い出す。私が魔王様との関係性を聞いた時、彼は育ての親だと言っていた。その理由が何となくわかった。
「私は師匠から色々なことを教わった。魔術の使い方から勉学、体術まで色々なことを。師匠との日々はそれは楽しかった。そんな時に人との争いが起こったんだ。」
人との争い?そんなことあったんだ……。今は友好関係築いてるけど、昔はそんなこと無かったんだな。
魔王様は私の方を見て言った。
「君の祖国になぜ魔物を悪とする物語があるか知っているか?」
そういえば謎だな。何となくな気がするけど。
「わかんないです。」
「それはね何百年か前に前魔王が君の祖国に攻め入って悪逆の限りを尽くしたからなんだ。人との争いもそれが原因で起こった。」
初めての事実に驚いたが妙に納得してしまう。あの物語たちにはリアリティがあった。あれは数百年前のことを元にして書かれていたのだろう。
「それを止めるために私は師匠やリテア、オルド達と共に魔王城を落としたんだ。前魔王は私が殺した。恐れられていたわりには随分と容易かったよ。」
それを語る魔王様の表情に僅かに嘲りが混じりぞくりとする。だが、それも直ぐに消えてしまった。
「死ぬ直前、前魔王が私のことを我が息子と呼んだ。その時初めて彼が私の父だと知ったんだ。後で師匠に聞いても間違いなかった。でも、私はなんの感情もわかなかった。」
魔王様は私から目を逸らし言った。
「これが私の過去だ。失望しただろう?」
「失望なんかしませんよ。話してくれてありがとうございます。」
魔王様は驚いて目を見開いた。
「でも、君は家族を大切に思っていて……。」
「私があの人たちに情があるのはあの人たちが色んなことをしてくれたからです。」
家族の暖かさをくれた。だから私は大切に思っている。けれど魔王様の父親は家族の情を彼に向けていなかった。だから魔王様が大切に思う必要なんてない。
「魔王様にそういう何かをくれたのはスウェードさんじゃないですか。だから魔王様の家族はスウェードさんですよ。」
きっと彼もそう思っている。私はそんな確信があった。
「そう……なのか……。」
「そうですよ。それに魔王様は魔物と人を傷つけないために殺したんじゃないですか。ならそれはいいことだと私は思いますよ。」
魔王様は泣きそうな顔をしていた。
「魔王様、前魔王を殺したあとはどうしたんですか?」
「その後は、私が王になった。魔界は実力主義だからな。そして色んな人の力を借りて魔界の整備と人間との関係の修復を行った。」
やっぱり、魔界をここまでいい所にしたのは魔王様達だった。私はこんなに優しい人は他に知らない。
「私、魔物も人も大切に思う、そんな魔王様のことが大好きですよ。」
「え……?」
魔王様の頬がほんのり赤く染まる。それを見て初めて私が勢いで告白していたことに気がついた。意識した途端恥ずかしくなる。
「うえっと……その……。」
しどろもどろに言い訳しようとしてしまう。
ええい、いい加減腹をくくれ!
「あの、私……!」
「待って。」
魔王様に人差し指でそっと唇を押さえられる。
「私にも言わせて?」
とびっきり美しい笑みを浮かべてそう言われ私はぶんぶんと頷くしか出来なかった。魔王様は私の手を取ってふわっと微笑んだ。
「フィリナさん、愛してる。」
私はそこで何も考えられなくなる。魔王様は微笑んだままゆっくりと近づいてきて、そして唇に柔らかなものが触れた。
き、き、キスされてる……。
ゆっくりと顔を離し、蕩けるような甘い笑みを浮かべて魔王様が
「キスしてもいい?」
と聞いてきた。その時点で羞恥やら嬉しさやらなんやらでいっぱいいっぱいになった私は
「……する前に聞いてください……。」
と力なく魔王様を叩くことしか出来なかった。
読んで頂きありがとうございました。次回で最終話となります。




