じゅうはち
2回目です。
ぴちょん。水の落ちる音で目が覚める。
んぁっここどこだ……?
周りを見渡してみる。古い石畳に鉄格子。どうやら牢屋のようだ。鉄格子の外から見える景色も随分と古めかしい。多分使われてないのだろう。
起き上がって状況を整理する。確か私は魔王様へのプレゼントを探しに行って、帰る時に変な人に襲われて……。うん。攫われてんなこれ。
身体の節々が痛む。雑に扱われたみたいだ。手は後ろで縛られているが、足は自由が効く。私は手を使わずに立った。とりあえず歩いて見ると首筋にぴんっと糸のようなものが張った感覚がして反射的に後ろに下がる。何か首に巻きついているようだ。
……下手に動かない方がいいか。
その糸のようなものからはほんのり魔力が残っている。魔術がかけられていた。
うわぁ解術めんどくさ。
かけられた魔術は複雑で解術には2、3日必要そうだった。
「このまま助けを待つしかないの?」
ぽつりとこぼす。私の声が反響して聞こえた。地下っぽい。助けを呼ぶのは無理そうだ。
魔王様来てくれるかな?
壁にもたれながら考える。何となく来てくれそうな気はした。ポケットに入ってるプレゼントは取り上げられていないようだし、帰ったら渡そう。
すると上の方から扉の開く音が聞こえた。カツカツと階段を降りる音がする。2……3人か。警戒しながら待っていると明かりを持った誰かが私の前で立ち止まった。
そこに居たのは魔王様とシュレーヴァさんとあとは……誰だっけ?
見覚えがありそうでない人が私の顔を見て言った。
「いい顔ですね。今から貴女の行く末を決めるんですよ。おっと聖術は禁止ですよ。少しでも動いたら直ぐに貴女の身体と頭はさようなら、ですからね。」
いや……誰……?こんな人いたっけ?
私の困惑をよそにシュレーヴァさんが知らない人を説得していた。
「おい、辞めろ!そんなことして……フィリナちゃんの人生をめちゃくちゃにする気かよ!!」
名前!!言って!!
後ちょっとのところで名前を聞けそうなのだが誰も言わない。というか本人が名乗らない。魔王様が冷静に言った。
「こんな状況だとフィリナさんに選択肢がないだろう。まずは彼女の拘束を解きなさい。」
誰か知らない人と魔王様達が言い合いをしているこの状況にだんだんと苛立ってきた。そして遮るように叫ぶ。
「あの!誰ですか!」
魔王様達も知らない人もぽかんとして固まる。しばらくして信じれないといった様子でシュレーヴァさんが口を開いた。
「え……忘れたの?ルーファスだよ?紹介したじゃん。」
ルーファス……。あ〜!!思い出した!あと人だ!
ようやく目の前にいる人が浄化の時にいたルーファスさんだと分かってすっきりする。
「で、ルーファスさん?でしたっけ。黒幕なんですか?」
まどろっこしいのでド直球に聞く。ルーファスさんは驚いたあとものすごい大きな声で笑い始めた。
「あははははっ。さすが聖女様だ。まさか私のことを忘れるなんて。改めまして、ルーファス・フロットと申します。奥方様。」
奥方?誰のだよ。
ルーファスさんの言葉にシュレーヴァさんがサッと顔を青くする。
「おい!ルーファス!」
「シュレーヴァ様。お望み叶いますよ。」
え、え、なんの事?魔王様も怒ってるし。
魔王様から殺気と魔力が漏れ出ている。正直めっちゃ怖い。ルーファスさんはそんな魔王様なんてお構い無しに話し続ける。
「さあ聖女様選んでください。シュレーヴァ様と婚姻するか死ぬかを。」
シュレーヴァさんの顔が歪む。恥ずかしそうな泣きそうなそんな顔だった。私はルーファスさんに聞く。
「なんで私がシュレーヴァさんと?第一彼がお断りでしょうし。それに死ぬってなんですか?」
シュレーヴァさんが俯いた。魔王様が殺気と魔力を引っ込め、困った顔をして背中を摩っていた。シュレーヴァさんがその手をそっと振り払う。ルーファスさんがくすくすと笑った。
「シュレーヴァ様。お気持ち伝わってないですよ。まあ時間はこれからたっぷりありますからね。その時にでも。どのみち我が主を選ばなければ殺しますから。さあ言ってください。シュレーヴァ様のものになると。」
私はルーファスさんをきっと睨みつける。
「私はシュレーヴァさんから聞きたかった。貴方の身勝手ならお断りです。」
途端首に巻きついている糸のようなものがぴんっと張って私の首をゆっくり締め始める。シュレーヴァさんがそれを止めようとルーファスさんに掴みかかっている。
あ、やばい死ぬな……。
その時パキンと音がして首が自由になった。同時に手首を縛っていた拘束具も割れる。驚いているとルーファスさんの上に魔法陣が現れ拘束された。
魔王様だ!
魔王様の方を見ると左手にもうひとつ魔法陣を展開させていた。
「これで証拠は取れたな。」
「まさか……録音魔術?!」
ルーファスさんが驚いた声を上げる。ルーファスさんって魔術に詳しいんだな。私が何故か感心していると魔王様が私に言った。
「少し離れて。」
言われた通り鉄格子から距離をとる。すると魔王様がその長い足で鉄格子を蹴って破壊した。私はあんぐりと口を開けてそれを見ているしか無かった。壊れた鉄格子を乗り越えて魔王様が入ってくる。そして私を抱きしめた。
「怪我がなくて本当に良かった……。怖かっただろう。もう大丈夫だ。」
その言葉に張り詰めていた力がふっと抜ける。魔王様の使っている香水の匂いにとても安心した。
突然ルーファスさんが嘲るように言った。
「まあいいですよ。私は捕まっても。でも聖女はシュレーヴァ様のものになる。」
「どういうことだ?」
私を抱きしめたまま魔王様が怪訝そうに言う。ルーファスさんがにたり笑みを浮かべた。
「お前のような化け物の過去を知ったら慈悲深い聖女はお前など選びはしない。聖女を手に入れるのはシュレーヴァ様だ!」
魔王様の顔色がさっと暗くなる。そして遠慮がちに私を離し、遠ざかる。尋常ではない様子に私は眉を寄せてルーファスさんを問い詰めた。
「何なんですか?一体何がしたいんですか?」
私を無視してルーファスさんは続ける。
「父親殺し。お前は親を殺した。お前のような汚れたやつなど綺麗な聖女は選びはしない。」
私はそっと魔王様の方を見る。魔王様は顔を背け、手をきつく握りしめていた。その様子にぷつんと私の何かが切れた。
ぱしっ
思いっきりルーファスさんの頬を叩いた。私は睨みながら声を荒らげる。
「お前が!言うな!!」
私の様子に魔王様が驚いたように目を見開いた。もう一度頬を叩く。
「私は、魔王様にどんな過去があったして、例え誰か殺してたとしても、それを魔王様が意味もなくやる人には思えない!」
いつの間にかぐしゃぐしゃに泣いていた。悔しい。悔しい。彼のこと何も知らなかった私が嫌だ。
「私は、私は!魔王様の口から聞きたい!どんな事があったとか、彼の口から知りたい!」
言葉にならなかった。でも口を開く。
「どういう事情があったとか、知りたい!優しい魔王様のことだからきっと傷ついてるから。私はそれを抱きしめたい!」
うわぁぁぁんと泣き崩れる。どうして私がないているのか。魔王様は何も言わずに私のことを強く抱き締めた。
しばらくわんわん泣いて涙が止まると急に恥ずかしくなってきた。逃げようとするが、魔王様にがっちりと掴まれて逃げられない。しょうがないので全部忘れて魔王様の腕の中を堪能する。
はぁ〜いい匂い。あったか〜い。
すると魔王様が
「ありがとう。」
と言った。その言葉になんだか色んな気持ちがぎゅっとしているようで嬉しくなる。
「えへへ、どういたしまして。」
そしてようやく話してもらえる。少し離れがたかった。シュレーヴァさんが呆れたように言う。
「やっと終わったの?」
恥ずかしくなって顔を赤くすると、魔王様の笑い声とシュレーヴァさんのため息が聞こえてきた。
お城に帰って魔王様は皇帝陛下に今回の件について報告しに行った。録音魔術があるから十中八九有罪だろう。
そして私はシュレーヴァさんの部屋を尋ねた。少し迷って控えめにノックする。そう経たないうちに扉が開いてシュレーヴァさんが出てきた。
「どうしたの?」
シュレーヴァさんが聞いてくる。目線を泳がせ、そして勇気を出した。
「あの、改めてちゃんと聞きたくて……。」
「あ〜あれ?もういいのにフィリナちゃんは律儀だね。」
シュレーヴァさんはこほんとひとつ咳払いをすると改めて口を開いた。
「フィリナちゃん。好きだよ。」
シュレーヴァさんの真剣な表情に少し照れる。にっこり笑って
「ありがとうございます。」
とお礼を言った。そしてその後続ける。
「でも、ごめんなさい。私、魔王様が好きなので。」
シュレーヴァさんは切なさそうに微笑んだ。
「うん。知ってる。」
なんだかその表情に申し訳なくなってさらに言葉を続けようとするとシュレーヴァさんが私の口に人差し指を当てた。
「もうこれ以上はいい!だから……」
シュレーヴァさんは私を見てふっと微笑んだ。
「だから幸せにね。フィリナちゃん。」
「はい!」
私は満面の笑みでそう答えた。
読んで頂きありがとうございました。多分あと1、2話で完結になります!




