魔王様視点
お久しぶりです。遅くなってすみません……。
フィリナさんが走っていってしまった後、私とシュレーヴァさんは共にフィリナさんを待った。だが、いつまで経ってもフィリナさんは戻ってこない。不思議に思った私達は直ぐに来た道を戻った。しかし、どこにもフィリナさんはいなかった。事があったスラムの入口にはフィリナさんが履いていた靴が落ちていた。
何かがあったのだとそう気がついて私は直ぐに魔物たちを呼び寄せた。魔物たちに何か知らないか聞く。
「ミタヨ。マオウサマ。」
鴉の魔物が私の周りを飛び回りながらそう言った。私は思わず声を大きくする。
「本当か?!」
魔物たちがビクッとしたので私は慌てて謝る。鴉の魔物は私の肩にとまった。
「セイジョ、サラワレタ。ヘンナオトコタチサラッテイッタ。」
「変な男たち……?」
鴉の魔物が言ったのは魔物の売買に関与していたもの達だろう。でもそのもの達は全て衛兵に引渡した。あの中に首謀者もいたのだ。まさかまだ黒幕がいるのか?
考え込みながら部屋の中を歩き回る。内心とても焦っていた。フィリナさんに何かあったらこの件に巻き込んだ私の責任だ。とにかく早くフィリナさんを探し出さなくてはいけない。
魔物たちに情報を収集させながら犯人について考えていた。
そもそも魔物の売買の件は、貴族の関わっていることとはいえ少し大々的に動きすぎていた。魔物達と帝国を初めとした国々は友好関係を築いている。帝国の人間は私や他国の耳にこの件が入ることを恐れたはずだ。たが、現に私が動くまで何の取り締まりもされていなかった。つまり、帝国王朝から何らかの力がかかっていたか、この件が取り締まられると不利益を被る者が帝国の王家にいたかのどちらかだ。
不意にあることを思い出す。そして誰が犯人かをすぐに理解した。私は直ぐにシュレーヴァさんの所へ向かった。
突然の訪問に彼は驚いていたが、何も言わずに部屋に通してくれる。扉が閉まるとシュレーヴァさんは口を開いた。
「それで、フィリナちゃんの行方が分かったんですか?」
「シュレーヴァさん。申し訳ないがルーファス殿を呼んでくれないか?」
「ルーファスをですか?」
私の言葉にシュレーヴァさんは少し怪訝そうな顔になる。私は黙って頷いた。シュレーヴァさんはに何も聞かずにルーファス殿を呼んだ。しばらくしてノックの音が響く。
「ルーファスです。いかがいたしましたか?シュレーヴァ様。」
「話がある。入って。」
ルーファス殿が扉を開けて入ってくる。部屋にいる私を見て驚いた顔をしていた。
「これはこれは魔王様。お久しぶりですね。」
ルーファス殿が私の方に近づいてくる。がっと彼の胸ぐらを掴んで言った。
「フィリナさんは何処だ?」
突然の出来事にシュレーヴァさんが声を荒らげる。
「どういうこと?説明してよ。魔王さん。」
「どうもこうもない。こいつが犯人だ。」
私はルーファス殿を離す。いつの間にか魔力が漏れ出てピリピリと空気が振動していた。それに気づいたシュレーヴァさんが宥めるように言った。
「とりあえず訳を話して。魔王さん。こいつが何をやったって言うの?」
私は魔力を収め、震えているルーファス殿を見下ろして口を開いた。
「報告していなかったが、こちらに来てからずっと私を尾行しているものがいたんだ。気配も魔力も微弱なものだったから最初は気のせいだと思っていた。」
そこで一旦言葉を切った。シュレーヴァさんは私をじっと見つめている。
「だが、それが毎日のように続き、その気配が消えると、魔物の売買の犯人も消えている。そんなことがあれば、その気配と魔力の持ち主がこの件に関わっていることくらい誰だって気がつく。だが、魔力があまりにも微弱で特定するには至らなかった。そんな時シュレーヴァさんにルーファス殿を紹介された。」
その時にフィリナさんはいなかったが、私はルーファス殿と1度顔を合わせている。その時のことを思い出していた。
「その時、ルーファス殿は私と一定の距離を取っていた。臣下なら当たり前かもしれないが、私はこの国のものでは無い。それに私が1度ルーファス殿の方へ倒れかけた時に咄嗟に身を引いていた。まるで私に触れるのを嫌がるかのように。肌が触れ合うとそこから魔力が伝達する。それを知っているのは日常的に魔力を使う魔術師か私たちのような魔物だけだ。」
シュレーヴァさんはふっとルーファス殿の方を見た。そして黙ってこちらに顔を向ける。
「1度だけ君の魔力に触れる機会があった。君がいつもしている手袋それを拾ったんだ。肌に身につけているものには魔力が移る。微細だったが私を尾行していた魔力と同じだった。」
シュレーヴァさんの顔が険しくなった。ルーファス殿は俯いていて何を考えているか分からない。
「ルーファス殿。君は一体なんなんだ?そしてフィリナさんの行方を知っているんだろう?」
シュレーヴァさんがルーファス殿に詰め寄る。
「答えて。ルーファス、お前はフィリナちゃん何処へ攫ったの?」
「シュレーヴァ様は私よりそんな化け物を信じるんですね。」
ルーファス殿がふっと笑う。そして顔を上げた。
「る、ルーファス?」
シュレーヴァさんは戸惑った声を出す。ルーファス殿はにたりと不気味に笑って言った。
「誤算でしたよ。貴方のような化け物がそんなに優秀だったなんて。」
ルーファス殿の言葉にシュレーヴァさんの顔が泣きそうに歪む。私は殺気を纏いながらもう一度言う。
「フィリナさんは何処だ?」
「大丈夫ですよ。怪我はありません。この城の地下牢に捕えてあります。」
その言葉を聞いて私は直ぐに部屋を出ようとした。それをルーファス殿が止める。
「出ないでください。少しでも地下牢に近づけば聖女様の首が飛びますよ。」
ルーファス殿の方を見る。彼は満面の笑みを浮かべていた。
「お話しましょう。化け物さん。」
「何が目的だ?」
ルーファス殿はつかつかとシュレーヴァさんの方へ行きしゃがみこむ。
「我が主を皇帝にして頂きたい。そして聖女殿を譲って頂きたい。」
シュレーヴァさんがルーファス殿を見る。そして困惑したように言った。
「は……?え……?俺は……俺は皇帝になんかならないって……。それにフィリナちゃんは……。」
「そんなことは言わないでくださいよ。我が主、いえ陛下。私は貴方しかいないと思っておりますよ。」
シュレーヴァさんはルーファス殿を黙って見つめていた。ルーファス殿は悦に入ったように言う。
「陛下。貴方が下々のもの手を差し伸べるのを私は傍で見ておりました。この国を統べるのは貴方しかいません。現に私も拾ってもらった。私は貴方を皇帝にしたいのです。」
シュレーヴァさんは眉を寄せて言った。
「そんなことのために魔物の売買なんかに手を出して、フィリナちゃんを攫ったの?」
「ええ、何事にも資金が必要ですからお金を集めるために魔物を売りました。幸い化け物を珍しく思うお客様が多くて。よく売れましたよ。」
その言葉に怒りが込み上げてくる。だがそれをぐっと堪えた。シュレーヴァさんは有り得ないという顔でルーファス殿を見ていた。
「フィリナちゃんは……あの子をどうして妻にって……。」
「聖女を有していれば外交もやりやすくなります。それに陛下。聖女様のことお好きでしょう?」
「は?」
シュレーヴァさんの顔がサッと赤くなる。ルーファスさんはにこにこと笑って言った。
「ということでお譲り下さいね。」
私はこめかみを押さえて先程から疑問に思っていることを言った。
「何故それを私に聞くんだ?フィリナさんは私のものでは無い。」
私の言葉にルーファス殿はおろかシュレーヴァさんまでぽかんとする。
「ちょ、ちょ、魔王さん!それは無いって。あんだけ俺に威嚇しておいて!」
「そうですよ。あれだけの魔石を贈っておいて。私のものではないと?笑わせないでください。」
揃って捲し立てる2人に少し苦笑する。私は咳払いをして言った。
「フィリナさんはフィリナさんのものだ。彼女の預かり知らぬところでそんなこと決められない。」
私がそう言うとルーファス殿がにたりと笑った。
「だったら彼女に決めてもらいましょうか。」
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