じゅうよん
やる気が出た私は次々に浄化の仕事をこなしていった。毎回シュレーヴァさんは着いてきて、私の浄化を見ていたり、なんか余計なことをしたりしていたが、段々と慣れていき事前に対策ができるようになった。
浄化が終わるとシュレーヴァさんに案内されてちょくちょく近くの街を見て回ることがあった。驚いたことにシュレーヴァさんはどこの地域でも慕われており、必ず顔見知りがいた。
帝国の人達も気さくで私が聖女だとわかるとすごく感謝して、サービスしてくれたり、ものを貰ったりした。みんなこの国のことを愛しているのが伝わってきた。
その様子を見ながらなんとなく、ここまで国が大切にされているのはシュレーヴァさんのおかげな気がした。
なんか、私誤解してたかもな……。
最近はなんだかんだシュレーヴァさんのことを尊敬していた。
そんな時、魔王様が出かけてくるといって帰ってこなくなった。恐らく何か調査に向かっているようだがとても心配だ。
最近街で魔物が奴隷として売られているといった物騒な噂もある。
何も無いといいけどな……。
なんだかすごく嫌な予感がした。
そんなことがあったので最後の浄化はシュレーヴァさんと2人で行くことになった。
私たちには転移は出来ないので地道に馬車で行く。瘴気の発生源はお城からそう遠くない海の中にあった。
発生源のある場所に着いて最初に感じたのは絶望だった。
「いやこれ無理じゃない?」
海を指さしながら言う。そこにはタコ型の魔物が巨大化して暴れていた。
シュレーヴァさんも苦笑いをした。
「……俺もそう思う。」
恐らく瘴気を吸いすぎて魔力過多になったのだろうが如何せんでかすぎる。海に近づこうなら足で攻撃され吹っ飛ばされそうだ。
すると隣でことを見守っていた人が元気づけるように言った。
「大丈夫です!!フィリナ様なら出来ます!!」
……いや誰?
目の前でガッツポーズをして励ましてくれている人を私は見たことがなかった。サラサラの灰色の髪に海色の瞳の美青年なんて1度見たら忘れられないはずなのに。
「あの〜すみません誰でしょうか?」
私の言葉にシュレーヴァさんが驚いた。
「いやずっと居たでしょ!?」
まじで!?気づかなかった。どうしてだろう?
美青年は近づいてきて笑顔で私たちをなだめた。
「まぁまぁ、私も自己紹介をしていませんでしたし。この調子だとシュレーヴァ様も私のことを言われてなかったでしょうから。」
「そういえばそうだね。ごめん。」
お前も忘れてたんかい。
美青年は私の方を見て自己紹介してくれた。
「私はルーファス・フロットと申します。シュレーヴァ様の補佐をしております。以後よろしくお願い致しますね。フィリナ様。」
ルーファスさんが頭を下げる。私も頭を下げて挨拶をする。
「よろしくお願いします。」
すると海にいる魔物が足で浜辺を叩いた。ドォンと大きな音を立てて砂埃が舞う。シュレーヴァさんが眉を寄せて焦ったように言った。
「まずい。この近くの街に被害が及ぶかもしれない……。」
まずいな、この調子だと街に被害がなくてもここが壊滅する……。
シュレーヴァさんはルーファスさんに指示を出す。
「ひとまず城へ戻り救援を呼べ。最悪軍を動かしてもいい。あと周辺住民が残されていないか今1度調べろ。」
「了解です。」
私はルーファスさんが動こうとするのを止める。
シュレーヴァさんとルーファスさんは怪訝そうな顔をした。
「フィリナちゃん、ここは危ないからひとまず逃げるんだ。」
……逃げちゃダメだ。絶対に。
覚悟を決めて海に近づく。足が何本も襲ってきたが聖術で盾をつくり防ぐ。左手で身を守りながら聖術式をかいて瘴気の発生源に蓋をした。
「な、何やってんの?!早く逃げて!!」
焦ったシュレーヴァさんの声が後ろから聞こえる。でも振り向かなかった。
「逃げたらだめでしょ!!街を守らなきゃ!!」
「住民の避難は済んでるから!」
「避難は済んでても、家が大事なものがまだあるでしょう?それを壊しちゃだめじゃん!」
シュレーヴァさんがはっと息を飲む。その時後ろから何かが迫ってくる気配があった。
足だ。防ぎきれない。
怖くて身体が震えている。だけど聖力を流すのだけはやめなかった。
だが、いつまで経っても痛みは来ない。後ろを振り向くとシュレーヴァさんが剣で足を受け止めていた。
「シュレーヴァさん!?何やってるんですか!」
「それはこっちのセリフだけどね。」
シュレーヴァさんが苦笑いをする。衝撃で腕に数箇所切り傷ができていた。
傷が……。
シュレーヴァさんが少しイラついて言った。
「君はいつもこんな無茶なことしてるの?」
シュレーヴァさんが剣を降るって足を弾いてくれる。その隙に周りの浄化をするための聖術式をかく。
「いつもじゃないです!!」
こんなことするのは王太子のところにいた時以来だ。普段は魔王様が守ってくれている。
聖力を注ぎ込んで周りの瘴気を浄化する。あとはこの凶暴化した魔物の治癒だけだ。
魔物のうえに聖術式をかいて、余分な魔力を押し流していく。しばらくすると白く光って元の姿に戻って行った。
光が消えて目の前にいたのは少し小さくなったタコの魔物だった。どうやら大きさは余り変わらなかったらしい。
タコの魔物は頭を下げると海へと帰って行った。
「……終わった。」
どすんとシュレーヴァさんが倒れ込む。私は傍にしゃがみこんで傷の治療をする。
「いいよ……。それくらい治るから。」
「私を庇ってくれてできた傷だから、私が治療するのは当たり前だよ。」
傷がすっと治る。同時に痛みも消えたのかシュレーヴァさんの表情が和らいだ。私はシュレーヴァさんの隣に腰を下ろす。
「しばらくここで休んでこ。俺もう動けない。」
「これくらいでへばってたら皇帝にはなれませんよ。」
「いうねぇ。」
シュレーヴァさんは笑うとぽつりと呟いた。
「でも、俺は皇帝になんかなるつもりは無いよ。」
「え?」
いつもとは違う憂いを帯びた表情に困惑する。シュレーヴァさんは眉を下げて困ったように笑った。
「俺の兄貴たちが優秀でさ。俺は第7皇子だろ?期待されてないんだよ。まぁおかげで趣味に没頭できるんだけどね。」
その言葉の裏に認められなかった過去が垣間見えた気がした。私は押し黙る。なんて言っていいか分からなかった。
「ごめんね。湿っぽい話しちゃって。凄かったよ。フィリナちゃん。」
「私は向いてると思いますよ。皇帝。」
「え?」
シュレーヴァさんの表情が困惑に変わる。私は彼の方を見て笑う。
「慕われてるしゃないですか。街の人達に。私びっくりしたんですよ。どこに行ってもシュレーヴァ様!ってみんな言ってて。」
「……。」
「どんな時でも民のことを考えてるような人だから慕われるんですよ。能力の高さとかそういうのも大事ですけど、いちばん大切なのはそういうのだと思います。」
シュレーヴァさんはしばらく黙ってそしてふにゃりと笑った。
「ありがとう。元気でたよ。」
「どういたしまして。そろそろ帰りましょうか。」
私は立ち上がって身体に着いた砂を払う。シュレーヴァさんも立ち上がった。
後ろには救援部隊が来ていた。
「ご無事ですか?!」
ルーファスさんが叫んでいる。シュレーヴァさんがにやりと笑ってからかうように言った。
「無駄足だったなぁ。ルーファス。」
その言葉に怒り始めるルーファスさんと飄々とかわすシュレーヴァさんの様子を見ているとなんだかすごく安心した。
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