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捕虜、ときどき聖女  作者: きなこもち
第1章
14/26

じゅう

お皿の上に盛ってあるクッキーへと手を伸ばす。こんがりと焼けた美味しそうなクッキーを口へ運びそのままもぐもぐと咀嚼した。


ん〜おいしい〜。やっぱりここはお菓子も美味しいな。


私は今日も今日とて魔王城で捕虜をしている。

隣にいるグレースさんがティーカップを口に運びながら呆れたように言った。


「あんた、よく食べるわね。さっきお昼食べたばっかじゃない。あたしはお腹いっぱいよ。」


隣にいる魔王様が宥める。


「まぁまぁよく食べるのはいい事じゃないか。魔力を使っても聖力を使ってもお腹はすくからな。」


そうそう、聖力使うとなんかお腹減るんだよね。使えば使うほど飢えていくのだ。


今日はグレースさんとお茶会をしていた。リテアちゃんは用事があるらしく泣きながら今日は行けないと言われた。だけど、魔王様がちょうど時間を取れてお茶会に来てくれた。

リテアちゃんがいないのは寂しいけど魔王様が来てくれるのは嬉しいな。






私がちょうど7枚目のクッキーに手を伸ばしている時、ノックもなしに勢いよく扉が開いた。

慌てた魔物達がが入ってくる。


「どうした?」


魔王様が怪訝そうに聞くと魔物たちのうちの1人が話し始めた。


「それが……人間の軍隊が魔界の近くで魔物を襲い始めていて……応戦しておりますが、怪我をするものも出てきているようで……。」


その言葉に魔王様の顔色がさっと変わる。さっきまでの穏やかな表情とは違い険しく真剣な王の顔をしていた。私は嫌な予感がしたので魔王様のマントの裾をそっと引っ張る。


「あの、それって私の国の王太子かも知れません……。」


もしかしなくてもそうだろう。絶対に。魔物を敵対視してるのは私の知ってる限りであの人たちしかいない。


私の言葉に魔王様が返事をする前にグレースさんが言った。


「でも、あんたんとこの王太子って軍動かせるの?」


言われてみれば確かにそうだ。軍なんてもの普通は国王の許可がなきゃ動かせない。しかも話を聞いていると結構な数がいるっぽいのだ。


……ん?これは……もしかして……もしかして……私を取り戻すために……?


ガタッと音を立てて立ち上がる。魔王様が驚いて私の名前を呼んだが、それに返事もせずに部屋を出ていく。

まずい、まずい、私のせいだ。


焦っているせいか足がもつれて思うように歩けない。でも急がないと。

急いた気持ちに身体が追いつかず転けてしまった。だが、身体が地面に激突する前にさっと手が差し出され支えられる。

いつの間にか魔王様が追いついていた。


「焦っていては危ない。急にどうしたんだ?」


私をしっかり立たせ魔王様が言う。私は魔王様の袖を無意識にぎゅっと掴んでいた。


「わ、わたし、私のせいかもしれないんです。」


魔王様はきゅっと眉を寄せる。


「どういうことだ?君のせいって。」


「もしかしたら、私を、私を、取り戻すために攻めてきたのかもしれない……。」


ほとんど上の空で答える。

早く行かなきゃ。怪我してる魔物もいるから。とめなきゃ。早く。


魔王様が私を落ち着かせようと肩をトントンと2回叩く。そして目を見て優しくゆっくり言った。


「どんな理由があったとしてもそれは君のせいではない。あちらの身勝手だ。もし心配ならば一緒に行こう。テス、場所はどこかわかるか?」


テスと呼ばれた報告に来た魔物が答える。


「西の方です。巨大な湖がある場所です。」


「そうかありがとう。」


魔王様は私を抱えるとふっと転移した。













転移先は一番最初に浄化した場所だった。最初に来た時は瘴気に侵され散々な様子だった。でも今は土地が元気を取り戻している。けれどその土地では魔物と人間が戦いを繰り広げていた。


……みんな、戦いたくて戦ってるわけじゃない。

魔物と戦っている人の多くは命令されているからだ。魔物も戦いの意思なんて元々持っていない。私だけこんな安全な高い場所にいていいんだろうか。


と、人の大軍の中に見知った顔を見つける。飽きるほど見ていた目立つ金髪に整っているけど、傲慢さが溢れ出る顔立ち。王太子だ。


私は王太子の場所を指さすと魔王様にそこに転移して欲しいとお願いした。


「大丈夫なのか?」


魔王様が心配そうに聞いてくれる。でも、行かなければならない。これ以上こんなことをやらないために。


「大丈夫です。お願いします。」


魔王様に向かって頭を下げる。魔王様は少し悩むような仕草を見せたあと抱きしめるように私を抱えて転移した。




突然現れた魔王様に王太子は驚いていたが、魔王様の隣にいる私の存在に気がつくと声を荒らげた。


「おいっ!フィリナ、やっと来たか!迎えに来てやったぞ!」


無茶苦茶なその言い分を無視してきっと睨みつける。


「こんなことやめてください。」


王太子は私の態度がお気に召さなかったのか怒鳴ってきた。


「お、おまえぇ……!この俺様にむかってなんて言う態度だ!」


王太子の後ろにいるリアム、ルルア、レフリートの3人も同調する。その様子に気を良くした王太子が自信満々に私を指さした。


「命令だ。ここにいる魔物を全員殺せ。」


すっと魔王様に殺意が宿る。私は王太子の方に近づいた。


……なんて言う命令を!


魔王様を怒らせた目の前のあほんだらに対して怒りが湧いてきた私はそのまま拳を握りしめて思いっきり殴り飛ばした。

宙を舞う王太子。ぽかんとする取り巻き3人。魔王様は冷めた表情で王太子を見つめていた。

しばらく呆然としていた王太子は、はっと我に返り私に対して


「命令だ!!今すぐ土下座して謝れ!!それで許してやる!!」


とか何とか言ってきたのでにっこり笑って真実を伝える。


「制約魔術解けてるよ。」


4人はあんぐり口を開けて固まった。私は魔王様の方を向いて言った。


「こいつらがすみません。あとは私がどうにかします。帰るでも国に服従するでもなんでもやります。だから魔王様は何もしないでください。私は貴方の手が血に染って欲しくないんです。」


「そーだよ。魔王くん。君は手を出しちゃダメじゃあないか。それを忘れないでくれ給え。」


突然誰かの声が聞こえてきた。魔王様は苦虫を噛み潰したような顔をする。私が不思議に思っていると急に肩をきゅっと掴まれる。


誰?!


びっくりして振り向くとそこには男性がにっこり笑って立っていた。


「どう?驚いた?」


にこにこしながらそう言った彼は全身真っ白だった。クルクルとカールした短い髪も白、肌も透き通るように白く、着ている神官のような服も履いているサンダルも全部白なのだ。


まじで誰だろう?変な人だな……。


私の肩を掴んでいるその人の手を魔王様が振り払った。


「やっとお出ましですか。セイ様。」


セイ様?ほんとに誰?


私の戸惑いをさらに助長させるようにセイ様と呼ばれた人の後ろからまた男の人が現れた。


「そうだぞ、セイ。俺たちは遅くなってしまったんだ。詫びねばならない。」


黒い長い髪を後ろでたばねセイ様と色違いの黒い服とサンダルを着た彼は魔王様にむかって一言すまなかったと言った。

魔王様はため息をつくと2人の方に向き直った。


「もういいですよ。それよりも、この現状をどうにかしてください。」


セイ様と黒い人はそれぞれ手をひと振りすると人間の大軍が全員いなくなり、魔物の怪我が一瞬ですべて治った。


凄いな……。


黒い人は私のを指さして


「これが新しい聖女か?」


と聞いた。


なんだ?これって。失礼だな。


ムカついたので私も黒い人は指差しながら言った。


「まず、名乗ってください!そこの黒い人!」


言った瞬間セイ様がぷっと吹き出した。魔王様もくすくす笑っている。何が面白いんだろうか。

私に呼ばれた黒い人は顔を赤くしたあと少し怒った口調で


「俺はクロウだ。」


と名乗ってくれた。


なるほどクロウ様か……。ん、まてよ。今更だけどなんで二人共様付けなんだ?


「2人とも偉い人なんですか?」


魔王様に向かってそう聞くと、魔王様は少し困ったような表情を浮かべた。


「偉い人というか……うーん……。」


答えずらそうな魔王様を見てセイ様が言った。


「僕達は神様だよ。」


神様?!神様ってあの……?


「聖を司る神様と魔を司る神様?!」


「うん。」


頷くセイ様。


言われてみれば確かにそれっぽい見た目をしている。でも神様がこんなにフットワークが軽いわけない気もするような……。


こんがらがっている私を気にしてくれた魔王様が2人にまずは自己紹介と経緯説明をと促した。


「こほん。改めて自己紹介をするね。僕はセイ。聖を司ってる神様だよ。んでこっちは……。」


「クロウだ。魔を司っている。」


「君はフィリナちゃんだよね。ヴィアくんから聞いてるよ〜。」


どうやら2人は私のことを知っているようだ。てかヴィアくんって魔王様のことだよね?愛称呼びなのか。


2人の自己紹介が終わると魔王様が困っているような怒っているような不思議な表情で口を開いた。


「ここに来たということは何か私たちに用があってのことですよね?なんですか?」


魔王様の機嫌が良くないことを察したセイ様は焦って魔王様を宥める。


「ヴィアくん、そんなに怒らないで。今日はフィリナちゃんに謝りに来たんだから。」


私に?なんか謝られるようなことあったっけ?


セイ様は私の方を向くと頭を下げた。


「ごめんね。僕はあんまり下界を見ないからさ、君の扱いを知らなかったんだ。ヴィアくんが怒って僕に言いに来なければずっと知らないままだったよ。」


自分の扱いが不当であったことはこのひと月の間ひしひしと感じていたけれど、気にはしていなかった。それよりも魔王様が私のためになにかしてくれていたこと嬉しかった。

だからセイ様を攻める気も起きず、私はにっこり微笑んで言った。


「別にいいですよ。気にしてませんし。」


その答えに魔王様はそっと異を唱えた。


「良くないことだ。フィリナさん。君はあの生活で傷ついていたんだから。」


魔王様の痛みに気づいて欲しいと言わんばかりの表情にちょっと泣きそうになる。


痛かった。確かに痛かったんだ。あの頃は。


ようやく自分で肯定してあげられた気がした。


「君に酷いことをした人たちはこちらで何とかする。それで、ひとつ君に聞きたいんだ。君はどうしたい?」


「どうしたいって何がですか?」


「君がもし人間界に戻りたいって言うなら、僕達がそれ相応の待遇を受けさせるって約束するよ。でも、君が他にやりたいことがあるならそれも応援する。聖女が嫌って言っても反対しない。僕達は君の大切なものを奪っていたんだから。」


セイ様が申し訳なさそうに言う。クロウ様も頷いてセイ様の言葉を肯定した。2人とも私がやりたいことを応援してくれるらしい。


やりたいこと、か……。私がしたいこと、居たい場所はひとつしかない。


「ひとつ聞きたいです。聖女は魔界にずっと居ても大丈夫なんですか?」


私の言葉に魔王様がそっと息を呑んだことに気がついた。


「大丈夫だよ。」


セイ様が言ってくれる。ならば私の答えは一つだけだ。


「私は魔界に居たいです。魔王様の、みんなのそばに居たいです。そして誰かの役に立ちたい。」


このひと月魔界にいて、優しさに触れて、感謝されて思ったこと。ベタかもしれないけれど誰かの役に立つことにやりがいを見つけた。そういうことがしたいと思った。


私の答えにセイ様が嬉しそうに目を細める。


「そう言ってくれてよかった。頑張ってね。僕達もできる限りの事はするから。」


クロウ様もふっと微笑んで言ってくれた。


「そうか。それは良い事だな。応援している。」


私は魔王様に向き直る。少し頬を紅くした魔王様はなんだか可愛らしかった。


「不束者ですがよろしくお願いします。」


そう言って頭を下げる。魔王様は焦ったような声色で言った。


「頭を上げて、フィリナさん。」


言われるままに顔を上げる。魔王様はさらに照れたような顔をしていた。そしてふっと嬉しそうに笑って言った。


「こちらこそよろしく。」


その表情に顔がカッと熱くなる。魔王様の嬉しそうな顔は心臓に悪い。




そんな私たちの様子を見て


「なんだか嫁入りみたいだね。」


と言ったセイ様の頭をクロウ様がスパァンと叩いていた。















数日後、私たちの元に事の顛末をセイ様が話に来てくれた。セイ様によると王太子は廃嫡、年の離れた第2王子が世継ぎになったらしい。どうやらあの出兵には国王も一枚噛んでたらしく国王にはセイ様とクロウ様から見張りが付けられることになった。


なんだか呆気なかったなと全部終わってみてそう思う。


「本当にこれで良かったのかな?」


お茶を飲む手を止めてそう呟く。傍で一緒にお茶を飲んでいた魔王様が微笑んで言った。


「これで良かったんだ。」


「そうなのよ。これで良かったのよ!」


私の左隣に座っているリテアちゃんも同意する。私の目の前に座っているレッタリアさんも涼し気な顔で言った。


「これで良かったのですわ。」


リテアちゃんの隣に座るグレースさんも嫌そうな顔をしながら賛同してくれた。


「レッタリアの後に言うのは癪だけど、これで良かったのよ。」


「あら、わたくしも嬉しくありませんわよ。」


グレースさんとレッタリアさんが火花を散らす。それを遮るようにグレースさんの隣のオルド団長が言った。


「うむ。これで良いのだ。」


最後にオルド団長とレッタリアさんに挟まれたヴォークさんが戸惑ってこう呟いた。


「これでいいのはいいのだが、なぜ私まで参加する必要があるのだ?」


そんなヴォークさんを華麗に無視して言った。


「これで良かったんだね。」


いつも通りガヤガヤとしているみんなを眺めている私に魔王様がそっと言う。


「君は君のやりたいように生きればいいんだ。私達もそれを望んでいるのだから。」


私のやりたいように。ストンと胸に落ちる言葉だった。


「そうですね。そうやって生きていきます。これからは。」


私はにっこり笑ってそう答えた。







読んで頂きありがとうございました


これにて1章完結です。お付き合い頂きありがとうございました。この話は2章で完結なので引き続きお付き合い頂けると幸いです

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