きゅう
お城に帰ってきた私たちのボロボロな様子を見てグレースさんとリテアちゃんは驚いてとても心配してくれた。
保護した子獅子はしばらく様子を見たあと親元に帰っていったらしい。
よかった……。
私も魔王様も一応レッタリアさんに診てもらって大事をとって休むことになった。魔王様の傷も私が聖術をかけたからなのか綺麗に塞がっており、傷跡も残ってないようだった。それを聞いてほっとする。
後に残らなくてよかった。ほんとうに。
私を庇ってできた傷だ。後に残ってしまったらどう詫びればいいかわからない。
安心したらどっと疲れが出てきたのでその日はシャワーを浴びただけで、夕食を食べずに寝てしまった。
翌朝起きると魔王城が偉く賑わっていた。元々人の出入りが激しく賑やかなところだが、いつもの倍くらいはがやがやしている。あちこちに飾り付けをしていたり、何かを慌ただしく運んだりとみんな忙しそうだった。
なんかパーティーでもするのかな?
そんなことを考えながら場内を歩く。何故か道行く人達にとても感謝された。
「ありがとうございます。聖女様。」
「我々はとても感謝しております。」
と出会う度に感謝され、握手を求められ、挙句の果てにサインまでお願いされた。なんか有名人みたいだ。
一度に何人もの人に囲まれ疲労困憊になっているところにオルド団長が現れた。私は嬉々として団長の所に駆け寄る。
「ちょうど良かったです。オルド団長〜。」
私が半泣きで向かうとオルド団長は私の周りに集まってきていた人達を
「こら、聖女殿を困らせるな。」
と一喝してくれた。みんなは謝りながら自分の仕事に戻っていく。みんなが居なくなるとオルド団長は私に向き直って感謝の言葉を伝えてくれた。
「改めて言おう。本当にありがとう。聖女殿。魔物たちも私も感謝している。」
「いえいえ、当たり前のことをやっただけですし……。」
なんというか、仕事しただけなのにこんなに感謝されると困惑してしまう。
私が否定してもオルド団長は食い下がってくる。
「いいや、聖女殿、それは違いますぞ。いくら仕事と言えど救ってもらったなら礼をするのが道理といいます。」
本当に偉く感謝されるな……。
「でも、こちらも色々して貰っていますし……。」
衣食住から何から何までやって貰っているのはこっちの方だ。
「それは聖女だから当たり前なのよ。フィリナ。」
ひょこっとリテアちゃんが顔を出して話に入ってくる。相も変わらずツインテールが揺れていた。
「でも、当たり前って言ってもな……。」
前まではこんな扱いされなかったし。私が小さく否定するとリテアちゃんが頬をふくらませて怒った。
「それはフィリナの周りにいたやつがおかしいのよ!聖女は本来こういう扱いをされるのが当たり前なのよ!」
そ、そうなのか……?
納得しかけている私になおもリテアちゃんは続ける。
「だからボクたち、フィリナに感謝の気持ちを伝えるため、べふっ」
いつの間にか近くに来ていたグレースさんが持っている紙の束でリテアちゃんの頭を叩き話をさえぎった。
結構いい音したけど……大丈夫かな?
「いったぁい〜。なにするのよ?!グレース!!」
怒るリテアちゃん。対してグレースさんは呆れていた。
「なにするのよじゃないわよ。全く。早く持ち場に戻りなさい。」
グレースさんは私の方に向き直り言った。
「ごめんね。フィリナ。ちょっと部屋に戻っていてくれないかしら?」
部屋に?なんでだろ?
疑問に思ったが、何となくグレースさんの目が有無を言わせないものだったので聞くのを辞める。
オルド団長にお礼を言い、グレースさんとリテアちゃんに別れを告げ部屋に戻ることにした。
部屋に戻る途中、魔王様とヴォークさんが偉く話し込んでいるのが見えた。気になったので少し聞き耳を立ててみる。
「……わかった。……は……に……して……。」
「了解です。……は……でよろしいですか?」
「大丈夫だ。」
うーんよく聞こえない。もうちょっと近づいてみようと1歩踏み出すと、ちょうどこちらを見た魔王様とぱちりと目が合った。
やばっと思ったが、私を見た魔王様が嬉しそうに破顔する。
さっきまでの真剣な表情とのギャップに私の心臓はドキドキしていた。
「フィリナさん。どうしたんだい?」
にこやかに笑いながら魔王様が尋ねてくる。私は顔を逸らしながら答えた。
「いえ……なんか騒がしいなと思って……。」
恥ずかしくて顔が見れない。魔王様は屈んで私と目を合わせようとしてくる。
やめて……これ以上その整いまくった顔を近づけないで……。
ごほんと咳払いが聞こえたので、私も魔王様もそちらを見る。ヴォークさんが少し頬を赤く染めて口に手を当てていた。
「あーフィリナさん、部屋に朝食を用意したから食べてきたらどうだ?」
その言葉を聞いてさっきの恥ずかしさはどこへやらあっという間に私の頭はご飯でいっぱいになる。
何故かしょぼんとしてる魔王様に別れを告げ私は急いで部屋に戻った。
美味しい朝食でお腹いっぱいになり、本棚にあった本を適当にとって読んでいると部屋の外からカリカリと何かを引っ掻くような音が聞こえてきた。
なんだろうと思い扉を開けるとそこには昨日助けた子獅子がちょこんと座っていた。
この子……昨日の子だよね?どうしたんだろう……?
驚いていると子獅子はするりと私の足の間を通り抜けて部屋の中へ入っていってしまった。慌てて扉を閉める。子獅子はしばらくうろうろした後にソファの上にジャンプして乗るとそのまま丸くなった。
恐る恐る近づいて隣にそっと座る。すると子獅子は私の膝の上でお腹を見せるとゴロゴロと言い始めた。
もしかしなくても懐かれてる?
ふわふわの毛並みをそっと撫でる。とっても癒された。どうやら私は外にいるの都合が悪いらしいのでしばらく子獅子と遊ぶことにした。
何時間くらいか子獅子と戯れていた。ヴォークさんに言うと猫じゃらしとおやつを用意してくれたのでそれで遊ぶ。一生懸命猫じゃらしを追いかける子獅子はなんとも言えぬ可愛さがあった。
いつまでも子獅子呼びでは可哀想なので仮でネオという名前をつけて呼ぶことにした。私がネオと呼ぶとなーおと返事をしてくれる。とても可愛い。
そんなこんなでネオと遊んでいると突然扉からバリバリバリと物凄い音がした。驚いて思わずネオを抱きしめる。ネオはしきりに扉の方に行きたそうにしていた。
少し様子を見てから恐る恐る扉を開けるとそこには巨大なネオがいた。正確に言うとネオによく似た獅子の魔獣がいた。
ネオは嬉しそうにその獅子へと駆け寄る。獅子もネオのことをぺろぺろと舐めていた。
……ネオのお母さんか。
ネオを舐め終わった獅子は私の方をじっと見る。私も見つめ返す。しばらく謎の時間が続いたあと獅子は静かに歩き始めた。ネオは頭で私の足を押してくる。
どうやら着いてこいということらしい。
私は黙って獅子について行く。途中ネオが抱っこをせがんできたので抱き上げた。
にしても、朝の喧騒が嘘みたいに静かだな……。
周りを見渡しても私達以外誰もいなかった。不思議に思いながら獅子について行く。しばらく歩くと獅子は大きな扉の前で立ち止まった。私に道を開けるかのように脇に逸れて座る。
この扉を開けろということかな?
取っ手に手をかけて扉を開ける。
するとぱぁんとクラッカーの音が鳴った。
「「「「魔王城へようこそ!!!」」」」
みんなが声を揃えて言う。辺りにはたくさんの魔物たちがいた。見知った顔から知らないものまでそれはもうたくさんだ。
みんなの輪の中から魔王様が出てきて私に手を差し出す。
「フィリナさん。今まで色々とありがとう。改めて歓迎会だ。」
私は嬉しくなって魔王様の手を取る。ネオは私の腕からぴょんと飛び降り私の隣に立った。
「ありがとうございます。嬉しいです!!」
魔王様に手を引かれながら中央へ行く。後ろの方をとことことネオがついてくる。広い会場にはたくさんの料理とプレゼントが置かれていた。
「ボク達からフィリナに贈り物なのよ!!」
にっこり笑ってリテアちゃんが言う。どうやらそれぞれみんなが用意してくれたらしい。
朝のがやがやはこれのためだったのか……。
嬉しさのあまり感極まって涙が出てくる。突然泣き出した私に魔王様達は慌て始めた。
「どうしたんだ?フィリナさん」
「何か嫌なことでもあったの?」
「ほら、とにかく涙拭きなさい。」
グレースさんが差し出してくれたハンカチで涙を拭い、しゃくりあげながら言った。
「こんなことっ、されるのがっ、久しぶりでっ、聖女になってから、誕生日も祝われたことなくてっ」
私の発言に魔王様達がまた動揺する。
「誕生日祝われたことないのか?」
「あんた、誕生日いつなの?」
「教えて!!フィリナ。」
「来月の一日です。」
そう答えると、魔物たちは次々にもっと盛大なパーティーをしようと話し始めた。それが嬉しくてさらに涙出てくる。
魔王様は私の涙が止まるまでずっと頭を撫でてくれていた。
泣き止むと今度はたくさんのプレゼントと感謝の言葉を貰った。両手で持ちきれないほどの量で開けるのが大変そうだ。
最後に魔王様からも貰う。みんなよりも幾分か小さめの箱だった。
なんだか魔王様から貰ったものだけその場で開けてみたくなる。
「魔王様、これ開けてもいいですか?」
「構わないよ。」
了承されたので破かないように包装を開けた。
箱の中身は紫色の宝石がついたネックレスだった。
綺麗……。
きらきらしていて光の辺り具合で紅にも見える。そして何より上質な魔力がこもっていた。
「これ魔石ですよね?」
「そうだ。よくわかったね。」
魔力のこもった石のことを魔石と呼ぶ。この世界には魔力が豊富にあるので、魔石は道端によく転がっており、それを集めてギルドや質屋に売ると少しのお金になる。もっぱら子供の小遣い稼ぎになっている。
だが、こんなふうに石自体が綺麗でこもっている魔力も上質な魔石は希少でとてつもなく値が張る。
これを作るのにはたくさんのお金と労力がかかったはずだ。
私は魔王様に向き合い改めて礼を言う。
「こんな凄いプレゼントをありがとうございます。」
「いいや。フィリナさんにはたくさんのことをして貰ったからな。それに髪紐のお返しもまだだったしな。」
魔王様が微笑んで言う。リテアちゃんがネックレスを指して
「つける?」
と聞いてきたのでお願いする。リテアちゃんにつけてもらい魔王様に見せる。
「どうですか?似合ってます?」
「ああ、似合っている。綺麗だ。」
ふわりと微笑まれる。途端私の心臓はバクバクし始めた。
……まただ。最近こうなんだよね……。
しばらく見つめ合う。なんだか目が逸らせなかった。
「イチャイチャはここまで。みんなお腹すいてるだろうしご飯にしましょ。」
グレースさんがパンパンと手を叩いて言った声で引き戻される。
なんだか夢見心地だったな……ってそんなことよりご飯!!
私の興味は一瞬で周りにある食事へと移った。
「どんまい……。」
がっくりと肩を落とした魔王様をリテアちゃんがポンポンと叩いていた。
食事の時間は賑やかに進んだ。途中料理長が挨拶に来たので料理をすごく褒めると、やる気満々になって厨房へ歩いていった。
そして宴が進むとどこから出してきたのかみんなお酒を飲み始めてどんちゃん騒ぎになった。
うん、こういう賑やかなのも好きだな。
私はお酒を飲まずみんなの様子を楽しく見ていた。魔王様は飲んでいたようだったが酔ってる気配が全然なかった。さすがだ。
以外にもレッタリアさんとグレースさんはお酒に弱く、すぐに酔って2人とも私に絡んできた。
2人のだる絡みからやっとこさで抜け出してバルコニーへと行く。外はいつの間にか暗くなっていた。ネオもついてきたので抱き上げて一緒に空を見る。よく晴れていて星が綺麗だった。
「前まではこんなの信じられなかったな……。」
激務でろくな食事も睡眠も取れずふらふらで更には王太子たちに暴言を吐かれていた。
でも、今は暖かい人達に囲まれて美味しい食事に十分な睡眠もとれている。
この人たちのために働けて本当に良かったな……。
後ろに気配を感じたので振り向くと魔王様が立っていた。
「フィリナさん。どうだったか?」
魔王様は私の隣に来る。真紅の瞳が星のように煌めいていて吸い込まれそうだ。
「楽しかったです。とても。」
「それは良かった。」
目を細めて魔王様が言う。前から思っていたけどこの人はとても優しく笑う。
そんな笑顔を見る度に私の胸は締め付けられる。
なんなんだ……これは……。
私が自分の感情について考えていると魔王様が私に聞いてきた。
「他に何かしたいことや欲しいものはないか?」
充分過ぎるほど貰ったのにさらにくれようとするのか。
「もう充分ですよ。」
私がそう答えても、魔王様は聞いてきた。
「そうは言ってもな。他に何かあるか?」
その言葉を聞いてなんだか全て見透かされているような気がした。だからぽつりとずっと胸の中にあったわだかまりを吐き出してしまった。
「家族に……会いたいです……。」
ずっとずっとここへ来てから思っていたこと。
ここで暖かさに、想いに触れて思い出してしまった。昔のことを。家族を。
それで会いたくなってしまった。
魔王様はいたずらっぽく笑って言う。
「じゃあ今から会いに行くか?」
「え?」
戸惑っていると魔王様は私を抱き寄せた。
「みんなには内緒だぞ。フィリナさん、覚えている限りの家を強く頭に思い浮かべてくれ。魔術で読み取ってそこへ転移するから。」
そう言われて5歳まで家族と暮らしていたこじんまりしているけれど暖かかった家を思い浮かべる。
するとふわっと浮遊感がして次の瞬間その家の前に立っていた。
目の前の家は記憶の中の家と全く同じで変わっていなかった。中から人の笑い声がする。窓から覗いてみると記憶の中と同じリビングにお母さんとお父さんがいた。
ちょうど夕食時だったらしく、お母さんが料理を運んでいた。お父さんもそれを手伝っている。
記憶よりも少し老けた2人の顔を見ると今までわすれていた思い出がよみがえってきた。
3人で囲んだ食卓。お父さんに遊んでもらったこと。寝る前のお母さんの子守唄。
たまらず声が出た。
「おかあさ……「お母さん!!」
私の出かかった声を遮ったのは私よりも幼い10歳くらいの女の子だった。その子に連れられて8歳くらいの男の子もやってくる。4人は一緒の食卓で仲良くご飯を食べ始めた。
思い出が塗り替えられていく気がした。3人での食卓が4人のものに、お父さんと遊ぶ私があの2人に、子守唄を歌って眠るのが私からあの2人に変わっていく。
……ここにもう私の居場所はないんだ。
いつの間にか私の頬に涙が伝っていた。振り向いて魔王様の方に歩いていく。魔王様は何も言わずに私のことをぎゅっと抱きしめてくれた。
涙がとめどなく頬を伝う。私は大声を上げて泣いていた。
魔王様の匂いと魔力に包まれていると落ち着いてきた。そっと顔をあげるといつの間にか空の上にいた。
「うわぁっ」
驚いた声を上げる私の背中を魔王様はさする。
「大丈夫だ。魔術で立っている。」
足元を見ると巨大な魔法陣があった。
「フィリナさん、見てご覧。星が綺麗だ。」
上を見上げるとたくさんの星々が瞬いていて宝石が零れたみたいだった。
……綺麗。
落ちてきそうなほどの星空は息をするのも忘れるくらい綺麗だった。
慰めるために連れてきてくれたのかな?
隣にいる魔王様を見上げる。私の視線に気がついた魔王様がふっと笑った。
真紅の瞳が星のように弾ける。
まるで世界が煌めいているみたいなその景色は私の脳裏に鮮明に焼き付いた。
転移魔術で城に戻るとみんな酔いつぶれていた。城の床で思い思いの姿で寝ている。その様子がなんだかおかしくて、帰ってきたみたいで私と魔王様は顔を見合せて笑った。
読んで頂きありがとうございました




