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捕虜、ときどき聖女  作者: きなこもち
第1章
11/26

はち

「これは、瘴気がだいぶ濃いですね……。」


辺りを見渡しながら魔王様にそう言った。

私は今浄化の仕事に来ている。





浄化をして欲しいと魔王様に言われたのは街に行った3日後の事だった。この1ヶ月の間で、魔界の瘴気はあらかた祓い終わっていてる。どうやらこれが最後の浄化になるらしい。魔王様の話によると今までで一番広範囲の瘴気だそうだ。しかも、魔物がひとり逃げ遅れて瘴気に侵されてしまっている。


魔物が瘴気を浴びすぎると自我を失い凶暴化する。加えて急激に増大した魔力のせいで一時的に強くなる。やがて魔力の量に耐えきれなくなり死に至るのだ。

私は今回その魔物の救出と治癒もお願いされている。その事を話している魔王様はとても申し訳なさそうだったが、私もその魔物のことが心配なので喜んで依頼を受けた。

ひと月魔界で過ごすうちに魔物のことが大好きになったのだ。





私は少し小高い丘から瘴気の発生源を探す。隣では魔王様が心配そうに私を見つめていた。


そんなに心配しなくても大丈夫だけどな。


1回目の浄化の後に風邪をひいたことが原因で、私はとても魔王様に心配をかけているようだ。魔王様は私が浄化の仕事に行くたびについてきてくれて手助けをしてくれている。

私はそんな魔王様の態度に未だに慣れなかった。


なんだかとっても大切にされてるみたい……。


考えて少し恥ずかしくなって頭を振り考えを追い払う。気を取り直して発生源を探した。


少し探すと発生源はすぐに見つかった。周りと比べて明らかに瘴気が濃いところがあった。

私は魔王様に発生源を指さして伝える。


「魔王様、あそこが発生源なんですけど、少し遠いみたいで……。」


ここから発生源までは見た感じ距離がある。どうやって行こうか悩んでると、魔王様は急に私のことを持ち上げた。


うぇっちょっと待って……。


突然の状況に混乱する。確かにこのひと月で魔王様と距離が近くなったけど……。

これは……緊張する……。


頬に手を当てなくても顔が火が出そうなくらい熱くなってるのが分かる。何となく上に目線を向けると端正な顔立ちの魔王様と目が合ってしまった。


あばばば……。めっちゃいい匂いする……。


魔王様が私の方を見た。


「急にすまない。だが、こちらの方が早いのでなっ。」


言い終わると同時に魔王様の背中から羽がバサッと音を立てて生える。そして、そのまま飛び上がった。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁあ」


突然の空に動揺する。


私、空、空飛んでる。


魔王様は私を抱えながら瘴気の発生源に向かっている。飛び方は安定していて安心感があった。しばらく飛んでいると落ち着いてきたので魔王様にずっと疑問に思っていたことを尋ねる。


「あの、転移魔術は使わないんですか?」


なんでわざわざ飛ぶ必要性があるんだろうか。


魔王様は私に目線を向けてその問いに答えてくれた。


「前までとは勝手が違うんだ。前までは魔物がいなかった。でも今回は魔物が逃げ遅れてしまって凶暴化している。魔術を使って場所を悟らせるようなことはしたくない。」


そうだ。今までよりも危険なんだ。


凶暴化した魔物の対処は私はしたことが無い。いくら私が聖術が使えようと浄化中に襲われたら対処できない。魔王様が強くても足でまといの聖女1人を守りながらは大変だろう。

抱えられながら魔王様に話しかける。


「でも魔王様、凶暴化した魔物の治療はいつやりましょう?」


「全部浄化し終わったら頼んでもいいか?」


「もちろん!」


「ありがとう。」


魔王様と話をしているとあっという間に瘴気の発生源に着いた。魔王様が私のことをそっと下ろしてくれる。


前からずっと思ってたんだけど魔王様って紳士だよな。


そんなことを考えながら瘴気の発生源の上に聖術式をかく。聖力を込めて魔力の穴に蓋をした。しばらく聖力を流していると、魔力の穴が塞がれた感覚がしたので、魔王様の方を見る。魔王様は離れたところで私の周りに結界を張って瘴気を阻んでくれていた。1回目の浄化から浄化の仕事をする度に魔王様はこうやって私の周りに結界を張って瘴気を阻んでくれているのだ。


嬉しくなって笑いながら手を振る。魔王様も微笑んで手を振り返してくれた。魔王様の反応にもっと嬉しくなる。

すると、にこにこしていた魔王様の表情がすっと変わる。驚いたような少し怖がってるような顔をして魔王様が私に向かって叫んだ。


「フィリナさん!後ろ!」


魔王様の声に従ってそのまま後ろを向くと、目の前に灰色の獅子の姿をした魔物が襲いかかってきていた。体長は私の何倍くらいだろうか。


あ、これ死んだわ……。


これから来る痛みに備えて顔の前に腕を持っていきぎゅっと目をつぶる。

でも、いつまで経っても痛みは来なかった。代わりに魔王様のいつもつけている香水の香りがふわりとする。

目を開けると目の前に魔法陣が現れており、獅子の魔獣の攻撃を防いでいた。


「……魔王様?」


片手で私を抱えて、片手で魔法陣を展開しながら魔王様は私の方を見た。


「無事か?フィリナさん。」


急いできてくれたのだろう。私を抱えている左手には切り傷ができていてそこから血が垂れていた。


「魔王様の方こそ血がっ……。」


焦って言うと魔王様が笑う。


「私は大丈夫だ。それよりもこの子の治療を……。」


獅子の魔獣を見ながら苦しそうに言う。獅子の魔獣の苦しんでいる声を聞いて魔王様も悲しんでいるのだ。


「分かりました……!」


私は獅子の魔獣の上に聖術式をかく。そして聖力を流し込んで魔獣の中にある余分な魔力を浄化する。


ぱぁぁっと白く光り、魔獣が徐々に本来の姿に戻って行った。

光が収まると目の前に真っ白い毛並みのちっちゃい猫がちょこんと座っていた。


……え、猫?てかちっちゃ……。


猫のようにも見えるがしっかり耳が丸い。獅子だ。衝撃の姿に口をあんぐり開けて魔王様の方を見る。

魔王様は苦笑して、その魔物を抱き上げた。


「この子はまだ子供なんだ。瘴気によって一時的に大人の姿になってただけなんだよ。」


そうなんだな……。

納得しながら魔王様に抱き抱えられている子獅子を見る。手をそっと差し出すとしばらくくんくんと匂いを嗅いだあとぺろぺろと舐め始めた。


か、可愛い……。


子獅子の可愛さを堪能していると唐突に魔王様の傷の存在を思い出した。慌てて魔王様の傷を確認しに行く。魔王様の左腕は結構深く切れており血がどくどくと流れ出していた。


や、やばい……。魔王様が死んじゃう……。


焦った私はびっくりするくらいの力を発揮して自分のワンピースの袖を引きちぎった。そのワンピースが高そうなやつだとかなんで袖なのかとかの考えは完全にわすれていた。


そして、その切れ端を魔王様の傷口に巻いた。そしてその上から聖術をかける。傷口が塞がったのを確認してほっとした。


魔王様は驚いたような表情を浮かべたあと、嬉しさが滲んだ顔をした。


「ありがとう。」


優しい声色でそう言われ、胸がキュンとする。

なんだかとっても恥ずかしくなって目を逸らした。

今まで治療して感謝されたことなんてなかったからくすぐったくなる。


私が照れたからなのか魔王様も照れていた。

しばらくてれてれしたあと魔王様がぽつりと言った。


「そろそろ帰ろうか。」


「そうですね……。」


魔王様は私と子獅子を抱き抱えると転移魔術でお城に転移した。









読んで頂きありがとうございました

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