職務放棄による被害状況について
日間3位に衝撃を受けました。
これも読んでいただいた皆様のおかげです。ありがとうございます。(12月3日)
日間1位になりました。見間違いかと思いました。
それもこれも皆さんのおかげです。ありがとうございます。(12月4日)
彼女は『無能』と呼ばれ、我儘、横暴、変人と陰で囁かれていた。
***
彼は聖女の我儘のとばっちりを受けただけだった。
まず前任の護衛騎士が彼女の気まぐれな一声でその任を解かれ、急遽、新たな騎士が聖女の護衛としてその任に就くこととなった。
引き継ぎも何もなく、上司からはただ彼女の機嫌を取り、その身を守るだけで良いと言われた。
朝、時間となり部屋へ行くとすでに聖女は身支度を整えていた。
「新しい護衛?よろしく」
顔を見ずに挨拶をされ、挨拶を返す間も無く部屋の外へと歩き出した。
「どちらへ?」
「貴方には関係ない。好きにして」
部屋を出て行こうとした足を止め、振り返る。
「あ、ただこの部屋は私の部屋だから。貴方の私用では使わないでよ」
「?はあ」
そう言うなり部屋を後にした。慌ててその後ろをついていく。
「……別について来なくてもいいよ?」
「聖女様の護衛ですので」
「ふーん、変わった方」
顔を一瞥し、また歩き出す。
目的なく歩いているのか、はっきりとしない。時々隅によっては何かをしてそしてまた歩き出す。隅をきょろきょろと、時々じっと見つめ、また歩き出したり、時折端によってはそのまま歩き出したり、何もないところで足を蹴り出したり、手を振ったりその奇行はあげればきりがなかった。
だから聖女は変人と呼ばれるのか、護衛騎士のマルコは思った。
「ほらまた何かしている」
「気味が悪い」
メイドや官僚達は目を顰め、こそこそと陰口をたたく。
意味のわからない行動を目の前でされるとそうなるだろうと見ていて思う。聖女はそれを何も思わないのだろうか。それを聞いたところ、
「言っても理解されないから諦めた」
少し肩を落としてそう呟く姿は、拠り所のない幼い少女のようにも見える。
それでも彼女は続けている。
次代の聖女、聖人が見つかるまでの間だからと。
***
聖女の護衛騎士となり一月がたった。
果たして噂通りの無能、我儘、横暴、変人なのか。行動ははっきり言って変人と言って問題ない。その通りだ。否定はしない、できない。だが、他の無能、我儘、横暴は本当だろうか。彼女の我儘、要望、果ては希望は何も聞いたことがない。無能は判断がつかない。
世話をする侍女がいるはずだが来ている様子はない。聖女から何とか聞き出したところ、初めは来ていたが、今では誰も来ておらず、食事も自分で調達しているという。
どういう訳だがわからないが、至急改善が必要だった。
そのため信頼できるメイドを呼んだ。
「はあ!?私洗濯メイドよ!?世話なんてできないわよ!?」
「ご飯を持ってきて部屋を掃除して、最低限の生活を整えるだけだ」
「何それ。どこのダメ人間の世話?」
「聖女様だ」
「げぇっ!?嘘でしょ!?あの人、独り言ぶつぶつ言ったり、なんか気持ち悪いのよ。匂うし」
「………じゃあ頼む。給料は良いぞ」
「えー……、我儘って聞くけどぉ」
「この一月何も聞いたことがない」
「……わかったわよ。何かあったらすぐ辞めてやるから!!」
聖女に妹を紹介した。
「え、要らない」
「え、何この部屋。きたなっ。物置小屋?」
「…………」
「ちょっとこれいつの肌着!?」
「あ、それは洗濯しようと……」
「いつのやつ?」
「いつだったか……な?」
「処分。とりあえず、邪魔だから出て行って?」
スイッチの入った妹は恐ろしいと説明し、早々に仕事をしてもらう。
彼女の仕事は城内を歩くことのようだ。いつも同じところを歩いているように見える。それを伝えるとその通りだと、そしてこれ以上は機密になるから話せないと。
ただ今日はいつもと違った。
いつもと同じように同じところを歩いていると、急に止まり一点を見つめ始めた。それだけだといつもと変わらなかったが、こちらを振り返った。
「騎士様、名前は?」
「マルコです」
「マルコ様、手を」
手を聖女に握られると、世界が変わった。
その世界は極彩色に彩られていた。様々な色が見え、よく見ると樹の形をしていたり、人の形をしていたりと様々なものだったが、気を抜くと酔ってしまいそうだった。
「見える?」
「あ、え、何が?」
「あの黒いもの」
「煙のような」
「はい、あれを剣で切って」
腰にある剣を手にかけようとすると、短剣を渡された。
「私の力が付与されているので、これで」
「承知いたしました」
聖女に渡された短剣で煙を突くように刺すと、キイィッと短い断末魔を残して消えて行った。
「助かったわ。行くわよ」
「はい。……今のは」
「よくわからないけど良くないものよ。ほっとくと生き物にとり憑いて面倒なことになるのよ」
「そうですか。これを毎日?」
「いつもは追い払うだけ。あれだけは追い払っても何度も来て、大きくなるし陣の強化でもしようかしら……」
そして彼女はまたいつもと同じ道を歩き始めた。
***
そんなことが何度か続いたころ、聖女に至急の呼び出しがあった。
「第二王子殿下から?」
「はい、至急とのことです」
「わかりました。今伺います」
妹の手により人並み程度の生活を送れるようになった聖女は、衣類の匂いを確認しいい匂いであることに礼を言い、謁見の間へと向かった。
***
護衛騎士は謁見の間へ入ることは許されなかった。だから中で何が行われたのかはわからないが、戻ってきた聖女はこう言った。
「新しい聖女が見つかったって。明日来るみたいだから」
新しい聖女は、下級貴族の令嬢のようでこれまでも領地でその力を振るっていたと言う。
「戦乙女だって」
そうやって笑う彼女はこの生活が嫌になっていたのかもしれない。誰からも疎まれる生活は、さぞかし気の休まる時間はなかっただろう。
「その後はどうするのですか?」
「さてねー、何も考えてなくて。修道院か孤児院にでも行こうかと」
「ではしばらく私のところに来てはどうですか?」
「マルコ様の?」
「両親はすでに他界していますが、幼い弟妹達がいるのです。面倒をみてくれる人を探していたので……いかがですか?」
「うーん。そうね……」
「少しの間でもいいのです。3食はもちろん、昼寝は時と場合によりけり、可愛い子供や動物も少々、うるさい人間関係なんてありませんよ?煩い子供は沢山いますけどね。余った時間は好きなことをして下さって結構です」
「へー。いつまで?」
「聖女様のお好きなように。ずっといてもいいですよ」
人好きのする笑顔をむけて、良い職場環境であることを切に訴えた。彼女は少し悩んで答えを出してくれた。
まず今後のことが決まるまでということで話はついた。妹は後ろで小躍りしていた。幼い弟妹達の世話はそれはそれは大変だからだ。
私も真面目で優しい聖女を路頭に迷わせることにならなくてほっとしている。贅沢はできないが衣食住は完備されているし、賑やかだから寂しさを感じることも少ないだろう。彼女には少しでも安らかに過ごしてほしいところだ。
***
聖女、彼女の護衛につき暫く経つが、噂などあてにならないということがよくわかった。やはり自分の目と耳と感覚が信用できるものだ。
彼女の行動は理由を知らない者からすると奇行にしか見えないが、それ以外では全くもって普通の非常に可愛らしい女性であることがわかった。それが何故あんな悪評になるのか、尾鰭に背鰭がつき、聖女という穢れがなさそうな女性にあんな悪評が立つのが面白いという輩がいるのか、王族の庇護下にありながら全くもって庇護されていない状況もわからない。知らないだけなのか、後はよろしくーという放任主義なのか。
「自分の知らないことがあるのだろうな……」
にしてもこの状況は捨て置けないが、下っ端の自分にはできることは限られている。彼女が今後困らないように立ち回り、さっさと城から連れ出してしまおう。
何よりもこの悪意ある城は彼女にはやりづらいだろう。善行したいと願っても、悪評高い聖女に助けられたいと思う者達は少ない。手を差し伸べたいという彼女の気持ちはどこにも行き先がなく、出口を彷徨うばかりだ。力を込めて手を握るあの姿に何故誰も何も思わないのか。
助けてやりたい。
握りしめた手に口づけを贈りたい。
泣きそうな時に抱きしめて胸を貸したい。
マルコの頭の中で色々と考え耽っていると、前任の護衛騎士が通りかかった。
「お、マルコ。久しぶり」
「レオ様。お疲れ様です」
「いやいや、お前もな。そういや、あの変人聖女大変だろう?」
「いえ、自分なんかとは生きる世界が違うのだと日々痛感しております」
「まあ、お前も堅物の真面目君だからな。気があうのか?ははっ」
へらへらと笑い馴れ馴れしく肩を組む。せっかくの楽しい考え事が霧散し、残念な気持ちになる。
「でもよ、あいつ堅物でつまらんだろう?いつも城内を適当に歩くだけで仕事なんざ何にもしないしさ。ま、俺はその間楽しませてもらったけどよ」
この男とはどうにも馬があわない。着崩した制服、勤務態度、口調、剣の腕、どれをとっても腹立たしい。肩においた手に剣でも刺してやろうか。
「あいつの部屋を使わせてもらったこともあるけどよ、まぁ汚ねぇ部屋で女連れ込むのも大変だったわ。その後綺麗にしたのによ、がみがみうるせぇし。使ってねぇならケチケチしないで快く貸してくれてもいいんじゃねぇ?」
「……は?今何て?」
「ん?部屋のことだよ。汚ねぇし着替えは散乱してるけど立派な部屋だろう?女連れ込むのに使わせてもらったんだけどよ。あの部屋は駄目だ。女の部屋じゃねぇ。お前まだ見てねえのか?ひっどいもんよ。ごみ箱だよ」
頭の中でレオをゴミクズの如く殴り続けたおかげで、目の前にいる本人には手を出さずにすんだ。そうか、最初に聖女様が言っていた部屋云々はこいつが原因か。
「護衛対象から離れる、対象者の部屋を無断で使用する、おまけに仕事中に女性を連れ込み職務放棄とはなかなかのものですね」
「ん??……あ、ああ…いや、まあ、女がしつこくてよぉ。仕方なかったんだよ」
ぶつぶつと何かを言い続けてその場を去っていったが、マルコは許すつもりはなかった。上司への報告はもちろん、内部調査員にも密告するつもりだった。内部調査が入ると面倒ではあるが仕方がない。
「聖女様のためだから。それも致し方あるまい」
その顔は普段の無表情からは程遠く、柔らかい微笑みを浮かべており、滅多にみることのない彼の微笑みに皆が振り返るほどだった。
***
次代の聖女と思われる女性が来室した。領地から護衛と侍女達を引き連れていた。
「初めまして。貴女の噂は地方まで及んでおりました。一刻も早い代替わりを、との殿下の思し召しで急ぎ参上しました」
「そうですか。では引き継ぎを。手を貸してください」
「手を?」
「はい」
次代の聖女が手を出すと、聖女が自分の手を重ねた。
「偉大なる大樹の恩寵を」
そして重ねた手が輝いた。
「……貴女、大樹の聖女なの………」
「はい」
「そう」
戦の聖女は深く息を吐いた。
戦士が扱う武器が様々あるように、聖女にも得意なこと不得意なことがある。
『戦』は、特に女性は『戦乙女』、男は『戦神』とも呼ばれ、戦いの中で指導力、求心力が最大限に高まり、戦いの最中自分を慕う者達の能力を高める。
『豊穣』は実りと成功の約束を。
『雨』は恵みと全てを洗い流す浄化を。
そして『大樹』は周りの人達の能力向上、施し、そして守護。
守ることに関しては右に出る者がおらず、そしてその周りの者達への能力向上は、その者の能力以上に引き出すことができるため、諸刃の剣ともいえるものであった。
そして城に上がっている大樹の聖女は、後任へは手を合わせそこから自分がこれまで行ってきた役割とその意味を全てを伝える。
「貴女のことは殿下は知っていて?」
「伝えている」
「貴女が何をしているかも?」
「報告書もあげている」
「ごめんなさい。私は貴女とは役目が違います。貴女がしていることは私では引き継げないわ」
「聖女の力は変わらないはず。その方向性が違うだけで」
「刃の通る敵がいればそれも叶いましょう。ただ貴女が立ち向かっているモノには私の力は及びません。もちろん貴女の付与があれば戦えるでしょうが、貴女がここから身を引くのであれば私は何もできません」
「私は無力だし、何もできないし、やらせてもらえない」
「……ここの守りは大樹の聖女である貴女の役割です。私が刃で敵を屠り味方の士気をあげることができるように、貴女には周りの人を守り、戦う力を与えることができる。大樹とはそういうものです」
聖女は諦めたかのように戦の聖女の手を離した。
「殿下は私の後任は貴女だと決めていたから、私では殿下の決定に異議は唱えられない」
「聖女担当はあの第二王子でしょう。あの方の扱い方は心得ております」
そして戦の聖女は思案するかのように腕を組みしばらくの間静かになった。その後口を開くと、ニヤリと笑い驚くようなことを言い始めた。
「ふっふっふっ、良い案が浮かびました。この戦我らの勝ちですよ。安心なさい、大樹の。貴女の名誉とこの職場は私が守りましょう」
「あ、いえ、次の職場は決まってますし、もうここには未練も何もないから……」
「まぁ、欲のないこと。貴女の後釜なんて誰にもできません。大樹の聖女はただでさえ数も少ないのです。他の聖女達も貴女の後は引き継ぎたくはないでしょう。私が保証します」
「保証されても困る」
「安心なさい。貴女の望みこの戦のが叶えましょう!この戦は我々の勝ちです」
「勝ち負けはどうでも良いんだけど……」
二回も勝利宣言をして去っていった。聖女様は深い溜息をつき椅子へともたれかかった。そんな聖女様を労うため、マルコは菓子とお茶を速やかに準備し始めた。
***
戦の聖女の作戦はこうだ。
『職務放棄』
簡単なことだ。仕事を放棄するだけのこと。普段行っている城内の見回りや陣の点検を行わないだけだ。
大樹の聖女を城内で見かけなくなり、やめたのではないかとの噂が持ち上がり始めた頃、城内で体調不良者が続出し始めた。
引き継ぎのために城へあがった戦の聖女は、辺境での魔物の出現の多さで一度領地へと戻っていった。
代わりに参内した聖女は三名。雨と豊穣が二人。彼女達は引き継いだもののほんの数日で「やってられない」と帰っていった。
さらにその数日後、聖女、聖人五人集められたが彼等、彼女達も10日持たなかった。
その後は皆、城での仕事を嫌がり姿を隠したり集落ごと囲って役人を追い出したりという動きになっているという。
「何故皆さん逃げるのでしょうか」
「どなたかが言ってましたが、職務範囲の違いでしょう」
登城した聖女や聖人達に丁寧に業務内容を説明し、実際にどのように行うのかも見せた。その時点で彼らは遠い目をしていたのを彼女は気づかなかったのだろう。
『あのー、それ私達には少し難しいかなーと……』
雨の聖女と呼ばれる少女が申し訳なさそうに言うが、
『私にできるので皆にもできるかと』
この時点で少し離れたところで様子を見ていた豊穣の聖女は姿を消した。
また別の日には、
『我々聖女、聖人にはそれに応じた役目があります。この役目は大樹の聖女、貴女様にしか担えないのではないのでしょうか』
戦の聖人がはっきりと伝えて、周りの皆さんが頷く。ただ一人、納得できない聖女がいるだけだった。
『この件は私の方から王太子殿下にお伝えします。何、戦の聖女には私から伝えておきましょう。彼女も言っておりましたが、この戦我らの勝ちは揺るぎませんよ」
『何が勝ちで何が負けでしょうか。この場合、私は負けた方が良いのではないのでしょうか。私の望みは叶うのでしょうか』
戦の聖人は高らかな笑い声をあげ、だがしかし、大樹の聖女の質問には答えることなく去っていた。
そして後任は来ず、戦の聖女の作戦どおり引きこもりとなった。
「いつまで引きこもればいいのでしょう」
「戦の聖女様のお話では今しばらくとしか」
妹の話によれば、大樹の聖女が出奔したという噂が出回り、それと同時に城内での体調不良者、辺境での魔物の続出とあいなり、非常に混乱しているような状況だった。
「城の魔法陣がかなり薄くなっているのがすごく気になるし、黒いもやもやはそこら中に湧いてしかも人にまで取り憑いているし、辺境で魔物が出ているみたいだし、このままだと国滅んじゃうんじゃないのかなーって思うと、居ても立っても居られないし、でも仕事はもうやりたくないし、早くマルコの弟妹達の世話をしてのんびり余生を送りたい……。そのためには国が滅ぶのは問題があるとしか言いようがないんです……!!」
拍手をすると彼女はとても良い笑顔で挨拶をしてくれた。以前よりも心を開いてくれているその様子に、くすぐったさを覚えてしまう。
「貴女が仕事を休んでから顔色が良くなってますし、生き生きとした表情にもなっています。この状況は貴女には良くないかもしれないけど、私はこれで良いと思ってます。私のためにももう少し待っててもらっても良いですか?」
聖女様の手を優しく握ると、顔を真っ赤にして俯いてしまった。そしてわずかに頭を縦に動かす。
「私もう少し待ちます……」
***
それからしばらくして。
戦の聖女は辺境に戻る前に、国王陛下に大樹の聖女の現状について報告をしていた。それに伴い、聖女の元締めである第二王子、元護衛騎士のレオと現護衛騎士のマルコ、その隊長、侍女長が内々に呼び出され、大樹の聖女についての聞き取りを行った。
その結果、国王陛下はかなりご立腹となり第二王子は謹慎の上、早めの臣籍降下、レオは辺境の地へ一兵卒として送られ、隊長は降格処分、侍女長も噂に惑わされ大樹の聖女の身の回りの世話を怠ったとして、鞭打ちの上辞職を勧められたという結果になった。
聖女本人へは、国王陛下や王太子殿下から謝罪があり、また彼女が何を担っているのかが大々的に告知された。
城内には聖紋(聖女が『陣』と言っていたもの)が刻まれており、それを維持管理するのが大樹の聖女の役割であると。聖紋を通じて流れてきた聖女の力を国全体へと流し、国境付近にある『塔』から結界を張っているという。これは聖女の力を他者に渡せる『大樹の聖女』にしかできない役割であり、国防の要でもあった。また非常に数が少ないため認知度も低く、今回のことは機密扱いでもあったため、国王とその後継者にしか知らせることのない情報でもあった。しかし今回の大樹の聖女の冷遇、それに伴う職務放棄による被害続出により、大樹の聖女が冷遇されることがないように情報が開示されたのだった。
また今回の告知により、大樹の聖女が二名名乗りを上げた。
これにより現在、城に詰めている大樹の聖女の退職がきまり、これまでのこともあわせて退職金と慰謝料が王家の私財から支払われることとなった。
***
「大樹の、これでお別れですね」
「短い間だったけどお世話になりました。戦のが私の代理としてこなければ、このようなことにはならなかったから本当に感謝してる」
「すぐに結婚するの?」
「いえ、すぐには…「準備が出来次第ですね」
聖女とは認識が違うようだったので、訂正をしておいたが、これは後で互いの認識をそろえていかないと誤解が生じそうだ。
「後程お話をしましょう?」
「……んんっわかりましたが、耳元で話をされると……っ」
「え?どうしましたか?」
マルコは楽しくてやめられなくなりそうになり、聖女から身体を離した。
「あー、羨ましい限りね。次に会う時には子どもがいるのかしら?」
そう言って戦の聖女は辺境へと帰っていった。
「さあ、我々の住まいへ帰りましょう」
「楽しみ。今から何をしようか考えちゃう」
「それはそれは。……まぁ、まずは私との仲を深めて下さると嬉しい限りですが?」
「そ、それはもちろん……で、でも、あの、またそれとこれと、別のことで……」
「今日は初夜ですからね?」
「え?しょ?……え?」
「さあ、さあ、早く帰りましょう」
***
大きな樹には様々な生き物が糧や住まいを求めて集まってくる。小さく弱々しいものから時には強大な力を持つものまで。
小さな森の縁に立つ家の一つには、珍しいことに妖精や精霊が集まり、時には幻獣、聖獣すら姿を見せると言う。悪しき物は一人の騎士が他の生き物達と協力して退治し、その家を守っていると言う。何故その家に様々な生き物が集まるのか。それはその家に住む人達と、僅かな友人達しか知らない話。
お読みいただきありがとうございます。