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氷結の咆哮、光が見る夢  作者: 如月 茜
水の国と大地の国と俺
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勝利のファンファーレ

 ある程度棍棒の扱いに慣れてきた頃、俺とハルさんはヒスイさんに呼ばれた。

 ヒスイさんの部屋は相変わらず殺風景で、この部屋の主は珍しく長い髪の毛を一本に束ねていた。


「大地の国に行く」


「それってショウの冒険者登録のためですか?」


 ハルさんの問いに、ヒスイさんは「それもある」と言葉を続けた。


「アカデミーに用があっての。調べたいことがあるのじゃ。ショウはともかく、ハルもついてくるじゃろ?」


 勿論、とハルさんは胸に手を当てた。


「ショウが冒険者として認められなかった時に励ます役が必要だろ?」


「ハルさん、俺のこと馬鹿にしてますよね」


「はは、バレたか。でも俺との修行と低レベルの敵との実戦を重ねてきたから、よっぽどなことがない限り不合格にはならないと思うぜ」


 確かに。

 ハルさんとの修行と、水の神殿付近に出没するレベルの低いモンスターを討伐してきたこの数日間。

 戦闘時の自分の立ち回りにも自信がついてきた…ような気がする。


「そうと決まればすぐ出発するぞ」


「え、ちょっと」


 立ち上がるヒスイさんに、俺はヒスイさんに声をかける。


「ヒスイさんってこの国の偉い人なんですよね?勝手に国から出て大丈夫なんですか?」


 その問いにヒスイさんは「必要な外出なので問題なし!」とズバリ言いのけた。


 大丈夫なのだろうか?

 日本の首相が外国に行く時だって、こんなに簡単にできるわけじゃないだろうに。


「メノウ、そこにおるじゃろ」


「ここに」と、ヒスイさんの扉が開き、当たり前のようにメノウさんがそこにいた。


「ワシが不在の間、水神様のことを頼むぞ。封印の祝詞が効かんようじゃったら時間停止(ライカス・アレッテ)を使うてもらって構わぬ」


「承知致しました」


 メノウさんは一礼すると、すっとその場から立ち去る。


「さて、善は急げじゃ。出発するぞ」





 久々の大地の国は最初に訪れた時と変わらず、城もその佇まいを変えることなく厳かにそびえ立っていた。

 ハルさんと俺はアドヴェンチャー・ステーションへ

 ヒスイさんはセナトゥス・アカデミーへとそれぞれ向かった。


「冒険者の登録をしたいんですけど」


 もう一般人とは言わせねえぞ。

 ちょっとした自信を持ちながら、俺はステーションの受付の人に申し出る。


「かしこまりました。それでは現段階のスキルとステータスの確認を行います。ご案内致しますので、こちらへどうぞ」


 あ、これ、前にやったやつだ。

 前の結果と今の結果と同じだったらどうしよう、という不安を抱きつつ

 いや、俺は修行してきた!大丈夫だ!という自信もありつつ

 後ろから「がんばれよ~」という呑気なハルさんの励ましを受け、俺は受付の人についていった。



 小部屋に浮いている水晶に手をかざす。

 ぴり、と感じるあの冷気。

 ここまでは一緒だった。


「…ありがとうございます。では、別の部屋へご案内します」


 どうやらここで冒険者として不適正だったら待合室へ帰されるらしい。

 ということは、第一段階クリアということか?

 次に案内された部屋は、小さな格闘場のような場所だった。

 目の前には太くて重そうな檻が見える。


 嫌な予感しかしない。


 案内してくれた人は、俺にこう説明した。


「今から低級モンスターを放ちます。武器、魔法、その両方を使っても構いません。排除してください」


 刹那、ずごごご、と檻が上に開く。

 現れたのは狼みたいな、熊みたいな、よく分からない生き物だった。

 それは俺の姿を見るや否や、勢いよく突進してくる。


「グルォオオオオッ!!!!」


 う、


「嘘だろぉっ!?」


 間一髪、モンスターの突進を避け体勢を立て直す。

 聞いてねえよ、こんな試練があるなんて!

 っていうか、これ、低級モンスターなの!?


「ちょちょちょ、ちょっと待って!?」


 使い古された棍棒を持ち、構える。

 まあ、モンスターが大人しく待ってくれるなんてことはなく。

 俺を敵と認識したモンスターは再び俺に向かって突進してきた。


「ちょっと───」



 『直線的な攻撃をする相手に対しては───』



 ハルさんの言葉を思い出す。

 そうだ、直線的な攻撃は比較的避けやすいんだった。

 冷静に攻撃パターンを読んで、隙を突いて棍棒を叩き込む───。



 ことができればいいんだけどね!?


 もう一回突進を避け、モンスターに向かい合う。

 と、あることに気づいた。


(あれ、こいつ…)


 突進をし終わったあと、モンスターはキョロキョロしながら、俺の姿を探している。

 猪突猛進タイプか?


 もしかして!

 これはチャンスなのでは!


 音を立てず、モンスターの背後に回る。

 そして思い切り駆け出し(スタートダッシュはバレーで散々鍛えられたので得意だ)

 モンスターが俺の姿に気付き、振り向いたその瞬間に───


 大きく振りかぶって、モンスターの脳天に一撃ぶち込んだ。

 叩き込んだ衝撃が大きすぎたのか、モンスターはその姿に似合わないようなか弱い鳴き声を上げ

 そのまま地面に倒れこむ。


「や、やった…のか?」


 痺れる両手。


「討伐おめでとうございます。これより審査に入りますので、待合室でお待ちください」


 告げられる勝利。


 しかし待合室でお待ちくださいって、まさかまた不合格じゃないよな?

 と思いつつ、俺は案内してくれた人についていった。


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