根性、熱情、手に持つのは棍棒
そもそもこの世界における〝魔法〟とは。
四大元素(地、水、火、風)から成り立っており
その強さは初級から幻級まである。
また、四大元素を組み合わせたり、四大元素から派生した魔法なんかもあり
多種多様、星の数だけ存在する魔法の中で
俺の中に眠る〝特殊魔法〟は、そのどれにも当てはまらない魔法、らしい。
昔々に消滅した魔法らしく、その中身、威力などは〝大賢者〟と呼ばれているヒスイさんでも知らないらしい。
そんな魔法が、なんだって俺の中に?
「ワシにもよう分からん」
お煎餅らしきものをパリっと齧ってヒスイさんは言葉を続けた。
「最初にお主を見た時からきな臭い奴だなとは思うておったのじゃが、まさか失われた魔法持ちだとは」
「いや、全然そんなかんじがしないんですけど…」
「当たり前じゃ。おそらくその〝特殊魔法〟が発動するにはある条件がある。条件を満たさんと使えんようになっておるのじゃ」
「じゃあ、もしかしたら、この魔法が使えるようになったら元の世界に戻れたりできるんですかね」
「お主の言う元の世界がどこか分からんが、少なくともお主の願いが叶う可能性はある…と思う」
これはとんでもないことになってきたのでは?
俺の中に眠る魔法を使いこなせるようになったら、元の世界に帰れる(かもしれない)。
希望が見えただけでも嬉しい。
「ヒスイさんは、その特殊魔法のこと、何か知ってるんですか?」
「ううむ…」
ヒスイさんは頭をガシガシと掻き「知らんわけではない」と意味深に言う。
「が、それを言葉にするのは…亡き両親からの口伝だけで聞いただけなのでな。細かいことは分からぬのじゃ…すまぬが少し時間をくれんか」
「はあ…」
「ただ一つ言えることは、」
その魔法は、この世界の埋もれてしもうた歴史に関わってくる、ということじゃ。
ヒスイさんのその言葉は、俺の心の隅に不穏な影をもらたした。
数日後。
俺とハルさんは水の国の平原で、武器の扱い方を教わっていた。
「つってもよー…ショウ、センスなさすぎだろ」
銃剣を肩でトントンと叩きながらハルさんが笑う。
「いや、俺、生まれて武器なんて持ったことなんて一度もないって言ったじゃないですか!」
片手剣、両手剣、戦斧、槍、双剣…
様々な武器を持ち、言われた通り素振りしてみるものの、まず武器自体が重くて上手く振れない。
かと言って弓や鞭などの射撃武器が操れるかというと、それも怪しい。
「こうなったら棍棒でとにかく殴るスタイルでいくか?」
差し出されたのは先端が太くなっており、布が巻きつけられている棒だった。
つーかバットじゃん、これ。
ヤンキー同士の喧嘩で使うような見た目のそれは、今まで持った武器よりも軽く、持ちやすかった。
「これならいけそうです」
「棍棒が使いこなせるようになったら斧や大槌も使いこなせるようになるからな。最初の武器としてはいいと思うぞ」
それから俺はハルさんに棍棒の使い方を教えてもらった。
刃物のように殺傷力はないので、相手の急所を狙うように教わる。
一撃必殺の威力もないが、力の入れ方と場所によっては相手に大ダメージを与えられるらしい。
「まずは俺を殺す勢いで殴りかかってこい」
「殺す勢いでいいんですか」
「死なねえから大丈夫だ」
ハルさんが腰を低くし、戦闘態勢をとる。
俺も両手に力を込め、思い切りハルさんに向かって突撃した。
「どぉりゃあっ!?」
渾身の一撃は見事に空振りに終わり、地面に転げ落ちる。
「違う違う、棍棒は大振りじゃ当たらねえよ。」
バットのように振るだけじゃダメらしい。
ハルさんの指導は〝習うより慣れろ〟で、俺は何度も何度も地面に転がった。
悔しくて、棒を支えに立ち上がってまた攻撃を試みる。
躱され、いなされ、それでも俺はハルさんに何度も立ち向かった。
バレーを続けてよかった、と思う。
シャトルラン、ラダートレーニングや長距離走、筋トレや地獄の縄跳び300回などなどやらされていた現役時代(今もか?)
基礎体力については結構自信があるのは、バレーのおかげかも知れない。
「体力あんなあ、まだまだいくぞ!」
俺とハルさんの修行は、こうして何日か続いた。