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氷結の咆哮、光が見る夢  作者: 如月 茜
水の国と大地の国と俺
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衝撃すぎる新事実

「ふーむ」


 ヒスイさんに案内された部屋はヒスイさんの私室らしく、寝床と机、座布団と本棚しかない質素な部屋だった。

 ハルさんは俺の代わりに色々ヒスイさんに説明してくれ、俺は終始黙っていた。


「つまり、そこの男が何者か知りたいと…そういう意味で捉えてよいのじゃな」


「はい。大地の国のアカデミーにも行ったんですけど、彼に関わる情報はなくて」


 ヒスイさんの部屋に従者が入ってきて、俺達に飲み物を置いていく。

 見た目は普通のお茶だが、飲んでみると甘く、一瞬脳が混乱した。


「じゃろうなあ…あそこは世界中の本が集まる場所とは言えど、閉ざされれている国の情報が積極的に入ってくるわけでもなし、あそこで全てを知ろうと言うのは限界があろう」


「閉ざされている国?」


 俺のその疑問に、シスイさんは目を見開いて、それから大笑いした。


「はっは!本当にこの国のことを何も知らないのじゃな!戦争に巻き込まれて記憶をなくしたのか、あるいは本当に異世界から招かれた客なのかもしれぬな」


 いいかショウ、とヒスイさんは言葉を続けた。


「この世界にはいくつかの国が存在していることは知っておろう。他国に友好的な国もあれば、他国を敵視してその入口を閉ざしている国があるということじゃ」


「はあ」


「ただの一般人だと門前払いされる国でも入れる唯一の手段、それが冒険者になるということなのじゃ」


「…なるほど」


 しかしですね、とハルさんが割り込んでくる。


「ショウのステータスやパラメーター、スキルをステーションで調べてもらったんですけど、一般人と何も変わらないという結果が出まして」


「なるほど、そこで大賢者であるワシを尋ねたということか…」


 腕を組み、ヒスイさんはうーんと唸る。


「結論から言うとショウが魔法を使うことは無理じゃ。魔法については生まれ持った性質、親からの遺伝など様々な条件が絡み合ってくる。

ステーションで魔力量や魔法潜在値を調べてもらった上でその値がゼロなら、それはショウに魔法を扱う素質はないということじゃ」


「となるとやっぱり冒険者になるには…」


「うむ、ある程度の体術を鍛えて魔法職、ではなく格闘職でステーションに申請するしかないの」


「それってどういうことですか」


 なんとなく分かっていたけど、恐る恐る聞いてみる。


「まあ…武器を持って戦えるようにならないといけないってことだな」


「デスヨネ」


 俺、小学校からやってきたバレーしか自信ないんですけど。

 剣道とか弓道とかやっとけばよかったのかな、と思うがそのワードを二人に言ったところで通じないと思うからやめておく。


「折角だからここを拠点に修行をするとよい。部屋は用意しよう」


「えっ!本当ですか」


 ヒスイさんの申し出に思わず立ち上がったのはハルさんだった。


「はー…ありがたいです。俺の財布事情もキツくて、最悪野宿を考えていたところで」


 そういえば、この世界に来て

 何かを食べるのにも、移動手段を使うのにも俺がお金を出したことは一度もない。

 色々援助してくれたハルさんの存在に改めて感謝する。


「ハルさん、ありがとうございます」


「えっ、そこ俺に感謝するところ?」


 ハルさんはははっと笑い、俺の背中をバシっと叩いた。


「ショウ、一端の冒険者になれるように励むが良いぞ。ワシは格闘職はさっぱりじゃが、何かあれば相談するがよい。仮にも〝大賢者〟であるワシじゃ。

ある程度のことは知ってるし知識として持っている自負はあるぞ」


「はい」


 この話しぶりだと、俺が元の世界に戻れる方法は大賢者のヒスイさんでも知らないらしい。

 やっぱり自分で世界を巡って、自分の足で帰る方法を見つけなきゃいけないのか…とため息をついた。


「さて、神殿の部屋を案内しよう。メノウ、そこにおるか?」


 スラっと、ヒスイさんの部屋の扉が開く。

 透き通る茶色の髪の毛の女性が姿を現した。


「ここに」


「この者らに客間を案内してもらえぬか。ワシは水神様の様子をもう一度見てくる」


「承知致しました」


 ヒスイさんの部屋を後にする。

 去り際、ヒスイさんと目があったが

 ヒスイさんの、俺を見る目が───なんだか冷たく、真剣な眼差しで

 なんだか怖くなってしまった。




 案内された客間の布団の上で、俺は大の字になって寝転がっていた。


「はあ…」


 時計や日付という概念がないこの世界で、俺はこの世界に飛ばされて何日経ったのだろう。

 向こうとこっちの世界の時間の流れは一緒なのだろうか。

 実は浦島太郎みたいなもので、もし俺が無事に元の世界に帰れても

 何百年、何千年と経った世界で、俺のことなんか誰も覚えてなくて───。


 そこまで考えて、俺は思考を放棄した。

 いくら考えても虚しくなるだけだ。


「祥!また靴下脱ぎっぱなしにして…」


 母さんの声が聞こえたような気がした。





「…ウ、ショウ!」


 ハッと目が覚める。

 どうやら寝ていたらしい。

 目の前には、俺の顔を覗き込んでいるヒスイさんがいた。


「うわ!なんですか!?」


 飛び起き、壁まで後ずさる。

 ヒスイさんは真面目な顔で、俺へ話し始めた。


「お主に話しておきたいことがあっての」


「俺に…?」


「ついてまいれ。ここで話すには場所が悪い」


「?はあ…」


 言われるがまま、俺はヒスイさんについていくことにした。




 黄昏の空が、神殿のあちらこちらに差し込んでいる。

 案内された場所は、ヒスイさんの私室だった。

 言われるがまま座り、ヒスイさんと向かい合わせになる。


 ヒスイさんは開口一番、こんなことを言い出した。



「お主に魔法の才能がないと言ったな、あれは嘘じゃ」


「…え?」


 ヒスイさんは自分の横にある紙を取り、俺の前に差し出す。

 それは見覚えのある───。


「俺のステータスが書かれてる紙じゃないですか」


 ステーションで渡された、俺のステータスが記載されている紙。

 体力の値も平均値、魔力量もほぼゼロ、特殊技、特殊ステータス検知なし。

 普通の一般人であるという結果を示している紙。


「そうじゃ」


「見たことありますよ、俺、普通の人間だってことですよね」


「そうではない」


「え?」


 ここを見ろ、とヒスイさんが指さした場所

 備考、と書かれた欄に

「一部測定不能」と書かれていた。


「アカデミーから重要文書として送られてきたものなのじゃが、まあこの手の文書は悩ませるものが多くての…」


 そういうとヒスイさんは文字通り頭を抱えてしまう。




「もしかしたらお主は、古に失われた〝特殊魔法〟を持っている可能性がある」

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