表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷結の咆哮、光が見る夢  作者: 如月 茜
翔んで異世界
4/86

本の国

 船を降りるとそこは、別の国だった(当たり前だが)


 結局、〝大地の国〟につくのには1日くらいかかった(気がする)

 途中船酔いして大変だったり、艦砲が鳴り止まなかったりと最初の船旅は散々なものだったが。



 降り立った大地の国は火の国とは違い、まるで中世のヨーロッパみたいな建物がずらりと並び、目の前には大きなお城がそびえ立っていた。


「ようこそ大地の国へ。よい滞在になりますように」


 久々に地面に足をつけたら、フワフワした感じに襲われた。

 うまく上手く歩けているかどうか不安になっている俺に、ハルさんは俺の名前を呼んで


「おいショウ、ちゃんと歩けてないぞ」


 そう笑い、スタスタと一人歩いて行ってしまった。

 いや、分かってるなら助けてくれよ。

 俺は歩くのをやめ、もう一度空を仰ぐ。

 大きな城からは重厚な鐘の音が鳴り響く。

 街は活気づいていて、呼び込みの声や楽器の音色があちらこちらから聞こえてくる。

 色々な看板が出ていたり、広場には噴水があったりと

 なんだか外国に旅行に来たような気分だ(旅行ではないんだけど)


 石や煉瓦造りの家が多く立ち並び、花や木もそこら辺にあって

 火の国とは大違いだな、と思った。


「ショウ、こっちだぞ!」


 ハルさんに呼ばれ、おぼつかない足を懸命に動かして彼のもとへ急ぐ。


「すごいですね」


「この国を統治する王がとんでもねえ奴でさ。火の国のお飾り番長よりしっかり国を見てるから治安も悪くねえし、住みやすい国だぜ」


 眼前にそびえる城の名前はセナトゥス城といい、どうやらそこの城に用事があるらしい。

 道中、露店で買ってもらったホットドッグはソーセージと野菜が挟まっていて、かかっているチリソースは辛かったけど普通に美味しかった。

 買い物の時にやり取りした硬貨や紙幣を見たが、俺の知っているものではなさそうだった。


「食べ物も旨いし、飲み屋の酒も旨いし。いい国だよな、ホント」


 肉多めのサンドイッチを頬張りながらハルさんが呟く。


「この国に移住しようとは考えたことなかったんですか?」


 俺の質問に、ハルさんは意外な反応をした。


「あるさ、何回も」


 ハルさんの足が止まる。


「馬鹿みてえな戦争に駆り出されて、なにが正義でなにが悪か分かんねえ戦いの中で、なんで俺こんなことしてるんだろうって、何度も考えてさ。戦争から抜け出して、別の国で生きるのもアリかなって思ったりしてさ…」


 でも、と言葉を続ける。


「分かんねえけど、人殺しまくってる俺がさ、こんな平和な世界にいちゃダメな気がしてよ」


「そんなこと…っ」


 言いかけて、やめた。

 そんなことない、と言えるほど、俺はハルさんのことを知らない。

 言葉に詰まる。

 するとハルさんはいつもの笑顔で


「ま、ショウが気にするこたねえよ。すまねえな、湿った話になっちまって」


 さ、城までゴーだぜ!と歩き始めた。

 慌てて追いかける。

 ハルさんの背中は大きくて、なんだか

 兄がいたらこんな気持ちなんだろうか、と

 ぼんやり考えた。


「…でも……。」


 ハルさんがなにか呟いた気がしたけど、風の音でかき消されてしまった。





 セナトゥス城にたどり着くとハルさんはずんずんと先へ進む。

 こっちだぜ、と案内されたのは〝セナトゥス・アカデミー〟と書かれているカウンターの前だった。


「こんにちは。ご用件をお伺いいたします」


「アカデミーの本の閲覧に来ました」


「本…?」


 俺の問いにハルさんは「まあまあ」とだけ言い、カウンターの向こうにいる受付の人から差し出された書類になにか書き始めた。


「入館のサインありがとうございます。アカデミーへのご来館は初めてですか?」


「いや、何度か来たことあるもんで。案内は大丈夫です」


「かしこまりました。閉架書物を閲覧したい際は改めて中にいる担当の者にお声がけくださいませ」


「ありがとう」


 ハルさんは一礼すると、俺の腕をぐいぐい引っ張ってカウンターを後にする。


「ハルさん、ここどこですか?それに本って?」


「いや、ここなら色々お前の知らんこと、沢山知れるかなって。世界中の本が集まってるし」


「世界中の?」


 眼前には大きな木製の扉が立ちふさがっていた。

 ハルさんはドアハンドルを押し明け、部屋の中に案内する。


「え…」


 俺の目の前に広がったのは吹き抜けがある円形の部屋で───でもただの部屋じゃなくて、壁一面には本棚と、本がぎっしり詰め込まれていて(なんなら床にも積まれている)

 上の階層も、同じように本で埋め尽くされていた。

 図書館、と呼んでいいレベルじゃないほどの蔵書量だ。


「ハルさん、ここって…」


「さっきも言ったろ、世界中の本が集まる場所だって。もしかしたらここにお前の知ってるなにか、があるかもと思ってな」


「にしたって本多くないですか!」


「そりゃ世界中の本がここに集まってるからな」


「まあ、そりゃそうなんでしょうけど…」


 部屋はかなり広いのに、今にも沢山の本の波が迫ってきそうな雰囲気で、なんだか落ち着かない。

(図書館は眠たくなるのであまり好きじゃないんだよな…)


「ちょっとここで色々見といてくれよ。俺、ちょっと別の場所に行ってくるからさ」


「え!ちょっと、ハルさん!?」


 静止する俺のことを無視して、ハルさんはこの部屋からとっとと出て行ってしまった。


「…ええ~……」


 どうすればいいの、この状況。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ