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氷結の咆哮、光が見る夢  作者: 如月 茜
翔んで異世界
3/86

シーパラダイス・ディスコ

 火の国から大地の国

 というところへ行くには航路しかないらしい。

 船に乗るのは人生初めてで、結構ビビってる。

 目の前にあるのは、昔見た海賊の映画で出てきたような大きな帆船で

 かなり年季が入っている…ように見える(大丈夫か?)


「どれくらいかかるんですか?」


「うーん、すぐ着くと思うけど…気にしたことねえからなあ」


 梯子で船に乗り込む。

 船の甲板に足をつけると、波に揺られて結構ふらつく。

 初めての船なのに、俺はずっと憂鬱だった。


 ここがどこなのか、どこに連れて行かれるのか、全く分からないこの状況下を楽しめる奴なんていないだろう。


「ハル隊長、お気をつけて」


 なんて埠頭にいる案内人に言われて、俺はハルさんが軍隊の偉い人だっていうのを初めて知った。



「偉いつっても、あの戦争では敵も味方もどんどん死んで行くからなあ。隊長なんて名ばかりさ」


 船に揺られ、船室の低い位置に備え付けてあるハンモックに腰掛けながら

 ハルさんはへへ、と小さく笑った。


「どれくらい続いてるんですか、戦争」


 俺は窓に近い椅子に腰掛け、ハルさんに向かい合って座る。


「さあ…もう覚えてねえなあ。俺が火の国に生まれてからもう始まってて、物心ついた時から戦場に駆り出されてたからな」


「…そうなんですか」


 駅に貼っている子どもが銃を持ったポスターや、紛争地域の子どもたちを特集したテレビを想像した。

 ハルさんもそういう状況で戦っていたのだろうか。


「まあ、火の国の戦争なんて永遠に終わらねえんじゃねえかな。白も黒ももうよく分かんねえ状況だし」


「白と黒?」


「ああ、ショウはそこも知らねえんだっけか。ホント不思議な奴だよな、お前」


「はあ…」


 そんな不思議な存在の俺にハルさんは、〝火の国〟について、簡単に説明してくれた。

 火の国はもうずっと前から〝アーテル〟(黒き星)と〝アルブス〟(白き空)のふた勢力で戦争をしていること。

 そのため土地がほぼやせ細っており、国の大半が岩と石で出来ていること。

 水や植物は貴重で、火の国に住む人は資源をとても大切にしていること。

 戦争は限られた地域でしか行われておらず、戦争がない地域で人々は細々と暮らしているそうだ。

 生まれた男性はほぼ100%戦争に駆り出され、女性は資源を守り、育てるのだという。


 そんな戦争も、年に数回起きる〝巡る星の舞踏会〟の時期が来たら一時休戦するのがこの戦争のルールだそうで

 期間中は白い勢力も黒い勢力も関係なく、お祭り騒ぎになるらしい。

 そしてその期間中は〝お祭り〟という建前で、普段封鎖されている港も他国の人向けに開放されるらしい。

 

 それくらい、〝巡る星の(メリーダンス)舞踏会(ナイトロール)〟は世界的に人気なんだとか。



 ハルさんと喋っていて、分かったことがある。

 この世界のことは置いといて、まず俺はこの世界の人と会話できるということ。

 仮にハルさんと意思疎通ができなかったとしたら、俺は今頃殺されていたかもしれない。


 次に、この世界の食べ物や飲み物について、俺がいた世界とほぼ変わらないということ。

 水は少し甘いが、野菜も肉も、見た目はともかくきちんと食べられる。

 餓死する心配がなくてよかった。

(ハルさんにお酒を勧められたが、一応断っておいた)


 そして、この世界には

 晴れや雨、曇りという天気の変化はあるが

 夜がない、ということ。

 薄暗くなることはあれど、真っ暗になることはない。

 そのせいか、時計、という概念もないみたいだ。


「これから行く〝大地の国〟って、どんなところですか?」


「あー、そこも説明しなきゃいけねえな」


 大地の国ってのはな、とハルさんが話し始めたその時。

 窓の外が一瞬、光に包まれた。

 びっくりして外を見ると、色々な色の光の玉が海に降り注いで弾けている。


「え!?なんだこれ!(ひょう)!?」


 俺の驚きに、ハルさんはハンモックを揺らして笑った。


「いい反応じゃねえか、ショウ!それはな、メリーダンスナイトロールの星達さ」


「へ…」


「空で踊ってる星達が足を滑らせて落ちてきてる、って俺のオヤジに教えてもらったな。ホントかどうかし知らんけど」


「…なるほど?」


 海の上で弾けて消える星は、なんだか夜空に浮かぶ花火のようだった。

 ホント、どんな世界だよココ。


「大地の国もこんな感じで星降るんですか」


「いや、星が落ちてくるのは火の国特有の気候だったはず…つーことはまだ火の国の海域みたいだな」


 ショウ、大地の国までまだかかるからゆっくり休めよ。

 そう言ってハルさんはハンモックに横たわる。


「ありがとうございます」


 俺は窓の外から見える光景を、ぼんやりと見つめていた。

 憂鬱な気分が少しだけ、晴れた気がした。

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