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氷結の咆哮、光が見る夢  作者: 如月 茜
翔んで異世界
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GO TO アナザーワールド

「ここが俺達の兵舎だ、なんもねえけどそこら辺に座っててくれ。飲み物取ってくるわ」


 案内された場所は兵舎、と言われたが

 立派な建物があるわけではなく、掘っ建て小屋とも呼べないような粗末な作りで(と言ったら失礼だが)

 地面には包帯を巻いた兵隊達が横たわっていたり、小屋の隅にあるランタンの火が心もとなく灯っている。


 言われた通り俺は入り口付近の椅子に座り、今の状況を整理しようと試みていた。


(確か家の屋根から落ちて…雪下ろしの最中に…それから俺はどうなった…?)


 まさか死?

 …んでるわけではなさそうだ(さっき爆風食らって転がった時痛かったし)


 それとも夢?

 …でもなさそうだ(こんなリアルな夢、あってたまるか)


 いまいち状況を飲み込めず、頭を抱える。

 なんだここ?どうなってるんだ?



「待たせたな、こんな状況だから上等なものも出せねえけどよ」


 声がしたので顔を上げる。

 そこにいたのはさっき俺をここに連れてきた、髭面の男の人だった。

 差し出された木製のカップからはゆるやかに湯気が立っている。


「さてとっ」


 男の人は少し遠くにあった椅子を俺のそばに引きずってきて、俺と向かい合うように座る。


「まずは自己紹介からすっか。俺はハル」


 ハル、と名乗った男の人は「よろしくな」と笑顔を俺に向ける。

 どう返せば良いのか分からなくて、とりあえず会釈する。


「俺、萩原祥です」


「ハギ…?」


 ハルさんの顔が一気に曇る。

 俺はお構いなしに言葉を続けた。


「あの、俺、なんでここにいるのかよく分からなくて、ここってどこなんですか、中東とか、アメリカとか、中国とか韓国とか北朝鮮とか、戦争してる国なんですか?」


「いや…え?ハギ?だっけ?お前」


「萩原祥です」


 ハルさんと話が噛み合ってないのがよく分かる。

 分かるが俺は、今のこの状況がなんなのか、どこがどうなってるのか、早く知りたかった。

 というか、早く帰りたかった。


「ちょっと待て」


 カップを持ちながら、ハルさんが待ったをかける。


「チュートーとかキタチョー…なんとか、って、どこの国の名前だ?」


「え…?」


 お互いの頭上に疑問符が浮かぶ。

 どうすっかな、とハルさんが呟いた。


「まず…そうだな、ハギワラ…ショー?がお前の名前なのか?」


「はい」


「俺はお前のことをなんと呼べばいいんだ?」


「なんと…って…」


 ハルさんの質問が、俺にはよく分からなかった。

 何とでも好きに呼んでくれ、と投げやりな気持ちもありつつ「祥でいいです」と答える。


「ショウだな。よしショウ、俺はこれからお前にいくつかの質問をするぞ。分からないことを一つずつ解決していこう」


「は、はい」


 ハルさんは前のめりになり、俺の目をジッと見つめる。


「ここがどこだか知ってるか?」


「知りません」


「だろうな…火の国にいて二つの勢力の戦争のことを知らない時点で変だもんなあ」


「火の国…?」


 俺の疑問に、ハルさんは「ショウの疑問は後で聞いてやるから、今は俺の質問に答えてくれな」そう言ってまた笑った。


「火の国以外に知ってる国名はあるか?」


 国名なら色々知っているが、さっきの感じだと多分どれも通じないだろう。

 諦めて「知りません」と答える。

 うーん。ハルさんは前のめりの体勢からぐっと身体を伸ばす。


「俺の質問はここまで。ショウ、ここからはお前の番だ」


 とは言われたけれど。


 ここはどこですか→火の国(そんな国知らないし)

 俺はなんでここにいるんですか→ハルさんが知ってるはずがない(当たり前だ)

 日本はどうなったんですか→日本ってなんだって言われるだろう(そりゃそうか)


 という自問自答を数分脳内で繰り広げて、俺はひとつの仮説にたどり着いた。


「俺、もしかしたら…違う世界から、来たのかもしれません」




 兵舎を沈黙が包む。




「違う世界??」


 言って後悔した。

 もしかして俺、頭おかしい人に思われてる!?

 慌てて付け加える。


「あ、いや、俺の知ってる世界と違うんで、なんか、ええと」


 しどろもどろになってる俺の肩を、ハルさんは優しく叩いてくれた。


「ショウ、大丈夫だ。落ち着け」


「あ…はい」


 ハルさんは俺の突拍子もない言葉に笑うこともなく、馬鹿にすることもなく

 あのな、と話し始めた。


「お前がどういう人間か、どういう素性か分からん以上、俺達の陣営に置いとくわけにはいかねえのな。多分なんとなく分かってると思うが、今ここは戦場なんだ、しかも、終わりのない」


「戦争!?」


 大きな声が出たので、思わず空いてる手で口を覆う。


「す、すいません…」


「いや、大丈夫だ。気にすんな。戦争なんてくだらねえもんだ。なんで戦い始めたのか、もう誰も覚えちゃいねえんだからな」


 ふう、とため息をつく。


「ただまあ、」


 ショウは運がいいぞ、とハルさんの表情が明るく戻る。


「今日から数日間、メリーダンスナイトロールが始まるんだ」


「メリー…エンド?」


「早い話、戦争の一時休戦期間のことさ。この祭りに便乗して、俺がお前を〝大地の国〟に連れてってやるから」


「どこですか、それ」


 俺の疑問に、ハルさんは「ここよりもずっと安全なところさ」そう言ってぐびりと飲み物を飲み干した。


「そこに行けば、もしかしたらショウのことが分かるかもしれん」


「本当ですか」


 大地の国がなんだかよく分からないけれど、ハルさんの一言は俺を動かすのに十分だった。


「行きます」


「よっしゃ」


 そうと決まれば急いで港まで行くぞ、と言い

 ハルさんは意気揚々と立ち上がった。



 兵舎を出ると、世界が一変していた


「うわ…」


 巻き起こっていた砂嵐

 響き渡っていた爆音

 すべてなかったかのように落ち着いていて

 上空には溢れんばかりの橙色の空が広がっていた。

 夕焼けの空の中には、様々な色、様々な大きさの星達が無数に存在して、密になっていた。

 宝石の入ったバケツをひっくり返したようで

 眩しすぎて、綺麗で、言葉が出なかった。


「これが〝巡る星の舞踏会〟メリーダンスナイトロールってやつさ。綺麗だろ?」


「はい…」


「これが俺達の休戦の合図なんだ。いつもは封鎖されてる港も解放されてるから、とりあえずそこに行くべ」


「分かりました」


 初めて見た〝巡る星の舞踏会〟に

 俺はずっと、目を奪われていた。

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