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氷結の咆哮、光が見る夢  作者: 如月 茜
翔んで異世界
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不自然なボーイ

 それは、雪が降る土地では珍しい

 晴れた日のことだった。


 俺は母親に命じられて、屋根の上に積もる雪を

 プラスチック製のスコップでせっせと地面に落としていた。

(定期的に屋根に積もった雪を下ろさないと、雪の重みで屋根や家が歪んだりするので雪国では当たり前の作業である)


 俺の住んでいる地域は所謂〝豪雪地帯〟で

 1日雪が降っただけであっという間に数メートルまで積もるから、冬期期間のこの作業は雪かきと共に生きていく上で必須と呼べるものなのだ。

 雪が降った朝は少し早く起きて学校に向かう前に屋根の雪下ろしをして、そのまま学校に行く。


 ちょっとした労働は悪くはないが、連日続くと嫌になるものだ。

 まあ、雪が降る土地にいるから仕方ないのだが。



 雪下ろしをしていた父は数年前に他界してしまっており、父親がいない初めての冬は屋根の上に登ることすらビビっていた俺だが

 毎年同じことを繰り返しているうちに慣れていくもので。

 今日も屋根の上にどっさり積もった雪の塊にスコップを突き刺し、雪を小分けにして屋根の下に投げ下ろしていた。



「ふうー」



 屋根の半分ほどを雪下ろしして、一息つく。

 その上から見渡せる、見慣れた町。

 いや、町なんて言える程の大きさなんかじゃない。

 近所に住む人はみんな顔見知りで、今日も隣に住むおじさんに「おっ、母さんの手伝いか。今日も偉いね!」と声をかけられた。


 俺が生まれ育った、自然が残る小さな集落。

 栄えてる駅前に出るのに、バスで30分以上かかる田舎。

 それでも俺は、生まれ育ったこの町が好きだった。


 雪は嫌いだけど。



 下を見ると、母親が玄関先の雪をもそもそとママさんダンプ(雪国必須の道具で、ソリのように雪を押して運ぶ器具のことをこう呼ぶ)で道路へ避けていた。



(しょう)、そろそろ学校の時間だよ!」



 母親が俺の名前を呼ぶ。

 おー、と返事をして脚立で屋根から降りようとした、その時。

 崩した雪の下に氷が張られていたのに気付いた時には遅かった。


 俺はその氷に足を取られ

 2階から


 滑り落ちた。



「あ。」



 と思ったときにはもう遅かった。

 蹴り飛ばされたサッカーボールのように身体が宙に浮き、快晴の空が逆さまに広がる。

 逆上がりした時に見える景色と同じ。



「雪下ろしの時には落ちるなよ、死ぬぞ」



 いつか父親に言われたセリフが耳に響く。

 もしかして、これって走馬灯?

 母親の叫び声が遠くから聞こえて

 俺の視界はブラックアウトして───。




 ---



「──い、おい」


 ユサユサと身体を揺さぶられ、ハッとする。

 どうやら仰向けに倒れていたらしい。

 痛む身体を起こすと、そこは見慣れた雪国の町ではなく──。



「おっ、気がついたか。よかった」



 目の前には一人の男の人が、心配そうに俺を見つめている。

 どこだここ?

 が、最初に思った感想だった。

 白くて寒い世界とは真逆の、茶色い地面が露出していて

 さっきまで朝だったはずなのに、風で巻き起こる砂嵐でどこか薄暗い。


 見慣れた土地とは全く違う、見知らぬ場所に俺はいた、のだ。



「え…?」



 慌てて辺りを見渡す。

 タタタ、ドーン、という耳に重たく響く音が地面を揺らす。

 砂塵が舞い、木や草と言った植物も枯れ果てている。

 あれ?俺、さっきまで雪下ろししてて、屋根から滑って──それからどうなった?


 もしかしたら屋根から落ちて、気を失ってるだけ?

 ただの夢?


 呆然としていると、俺を起こしてくれた男の人が話しかけてくる。



「お前、大丈夫か?こんなところで倒れてるなんて…この辺の村人か?」


「村人?」



 村っぽいところには住んでるけど、少なくともここまで何もない、そして見慣れない場所に住んでいる覚えはない。

 あー、やっぱり夢なのかな、なんて考える。



「村っぽいところには住んでますけど、ここじゃないです」



 男の人は俺を一瞥し、顎に手を当ててうーんと唸る。



「ここら辺の村の奴じゃない?じゃあどこから来たんだよ、お前。うちの軍の奴でもねえし、アルブスの奴にしては軽装すぎるし…」


「アル…?すいません、なんかよく分からないんですけど、どこですかここ?」


「???」



 俺と、俺の目の前にいる男の人───髭面に、目元には大きな傷跡がある───は、俺の顔をまじまじと見ながら、お互いに頭上に疑問符を浮かべていた。


 と、すぐそばで何かが着弾したのか、爆音と衝撃が俺(達)を襲う。



「うわっ!?」



 なにも身構えてない俺の身体はスーパーボールのように数メートル吹っ飛ばされた。

 咄嗟のことで受身も取れず、砂利と石の上を勢いよく転がるが、着込んでいたダウンジャケットとシャカシャカパンツ(これも冬を過ごす上で重要な装備だ)である程度のダメージは防げているみたい…だ。



「いってー…」


「おい、大丈夫か!?」



 男の人が急いで俺のそばに駆け寄ってくる。

 倒れている俺の腕を取り、身体を起こしてくれた。



「なんかあちこち痛いですけど、大丈夫です」


「結構吹っ飛ばされてたのに、ホントに大丈夫か?」


「いや、まあ…多分。それよりここはどこですか」


「どこって、お前、ここがどこか分かってねえのか?」



 ???

 話が通じ無さ過ぎて、本当に夢か疑い始める。

 って言うか吹っ飛ばされて痛いんだから夢なわけあるか。


 じゃあ、ここ、どこ?


 まさか俺が屋根から落ちて気を失ってる間に核戦争が起きて、辺り一面焼け野原になって、目が覚めたらこうなってて?

 そんなわけあるか、あってたまるか。


 意味が分からないこの状況をなんとか分析しようと考え込む俺に、男の人は俺の腕を取って無理矢理立たせた。



「お前、とりあえず軍の兵舎に連れてくぞ?見たところアルブスのスパイでもなさそうだし、こんなところじゃゆっくり話も出来ん」


「え!?…あ、えーと、」



 ぶわ、と熱気と砂埃。

 口に砂が入って気持ち悪い。


 確かに、ここにいてもいいことはなさそうだ。

 それよりも、俺を助けて(?)くれた、この人は一体…?



「心配すんな、取って食ったり煮て焼いたりしねえからよ。戦争に関係ない人間を保護するのも、俺達の役目だからな」



 そう言って男の人は、ニッと笑った。

 怪しさ満点だが、とりあえずこのなんだか分からない状況を聞きたかったから。

 俺は、とりあえずこの男の人に着いていくことにした。

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