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邪祓  作者: 白雪 慧流
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信じる者

こんにちは、邪祓第六話です!

前回の続きとなります

それでは本編をどうぞ!

表札には【清水(きよみず)】と書かれている。ここが、みゆちゃんの母親の家か。

黒子(くろこ)ちゃん、急なお願いなのにありがとう」

この家を調べてくれた黒子ちゃんは、ドヤ顔で、土壇場(どたんば)でも問題ないですわ! と誇らしげにしている、頼もしい限りだ。みゆちゃんの方を見ると、私の手をただぎゅっと握っていた。私は、意を決してインターホンを押す。しばらく待ったが、誰も出てこない。

「留守かな……」

「いや、居ますわね」

黒子ちゃんが玄関の戸を開ける。おい、邪祓(じゃばらい)に関わっている者は法律無視(ほうりつむし)なのか。

「ちょっと黒子ちゃん、不法侵入はダメだからね?」

「清水美代子(みよこ)は出ませんわよ」

中学生とは思えない冷たい声で、黒子ちゃんは淡々と告げる。そして家の中へ入ってしまった。出ないってどういうことだろうか、疑問を持ったまま、私も黒子ちゃんについて入った。

「家の中が暗い」

「邪のせいで空気が澱んでやがんな、邪道とまでは行かんが、この家の主も邪を持ってんだろ」

異様な雰囲気なのだろう、けれど私はそこまで違和感を持たなかった。手を繋ぐみゆちゃんの足取りが重いのと、御影(みかげ)が嫌そうな顔をしていたので、いい雰囲気ではないと感じた程度だ。何故こんなにも普通にしていられたのか、その理由はすぐにわかることとなった。

 居間と思われる部屋の扉が開かれている。中は、祭壇のような物の前に座り、祈る女性の姿。

「お母さん!」

手から温もりが離れ、みゆちゃんは走り出す。

 その光景がノイズとなり、頭の中で再生された。

「お母さーんって、聞いてないか」

鳴り止まないお経、キッチンに立ち、適当に夜ご飯を作り、テーブルに並べ、椅子に座る。その間母は一切こっちを見ない。

「ねぇ、大学遠いから一人暮らしするけど大丈夫? その様子じゃ心配なんだけど、お父さんもいないわけだし」

未無(みむ)、お父さんは居るわよ」

「はいはい」

私が高校に入ってすぐ、父は肺癌で亡くなった。歳は四十五、母は父より歳下で、若い母にはキツイだろうと誰かが話していた。私がいたとしても、大学が遠いのは周知の事実だから、母が一人になるのはわかるのだ。

「近くに大学があれば良かったんだけどなぁ」

田舎特有、実家から通えるのは高校まで、高校でもギリギリの距離。母はこの家から離れそうにないし、大学行かないとこのご時世仕事は見つからない。

「まぁ……無事就職すればなんとかなるか」

あまり美味しくないご飯を食べながら、軽く考える。私まで精神が参ってしまえば終わりなのだ。おやすみ、お母さんも早く寝なよ、それだけ声をかけ、食べ終わった皿をシンクに置く。布団に潜っても、お経の音は鳴り止まない。頭にインプットされ、素人の私ですら唱えられそうな程だ。

「いつになったら、お母さん顔を上げるかな」

大学は四年間、その間母は生きていられるだろうか、そもそも私はちゃんと通いきれるだろうか。

「悩んでも仕方ないや、眠ろ」

固く目を閉じる。そうだ、あの家も今思えば暗かった。何かに支配されているかのように、闇が渦巻いていたんだ。

「おねえさま!」

「っ……黒子ちゃん?」

ただ突っ立ていたのだろう、黒子ちゃんの声で引き戻された私は、少し下を向いた。そこには、涙目の黒子ちゃんがいた。心配かけちゃったかな。

「だ、大丈夫ですの?」

「大丈夫大丈夫、ちょっと考え事してただけだから」

務めて笑顔を作る。彼女の背後にいた白咲さんは、睨むようにこちらを見ていた、こ、怖いです白咲さん。

「じゃあ説明しますわよ、美代子は熱心なキリスト教信者ですわ、だから娘の預け先にあの孤児院を選んだ、娘を預けた後はずっとこの調子のようですわよ、全くダメな大人はほんとダメですわね」

今にも舌打ちをしそうな勢いで、不機嫌な黒子ちゃんにたじろぐ、嫌いな人がこんな感じなのだろうか。

「誰が話しかけても反応がないそうですわ」

「でしょうね」

あら、わかっていましたの? 黒子ちゃんの声を背後に、私は歩く。美代子さんの後ろに立つと祭壇を眺めた。

「お母さん! お母さん!」

みゆちゃんが必死に呼ぶ声が聞こえる。その声は、届いて欲しい人には届かないのだろう、聞こえちゃいないのだろう。本人が聞こうとしていないのだから。


「おねえさま、何かおかしいですわ」

 清水美代子の背後に立ち、祭壇をただ眺めるおねえさまを見守る。何か考えがあるかと思ったが、そうではないようだ。

「邪を祓わねぇと、ありゃ話聞かないぜ」

「そうですわね……って、あんたおねえさまの厄神(やくしん)でしょうに! 何突っ立てるんですの!」

居間の入口、壁に寄りかかっている御影、部屋にも入ろうとしないなんて、厄神の務めをサボってるとしか思えない。

「仕方ねぇだろ、入りたかねぇんだよ、こういう、自分が逃げるために何かにを信じ込んでる奴の邪は気持ちが悪い、なんかまとわりついてくるみたいだからな、むしろミムの奴が普通にしてられんのが理解出来ねぇよ」

邪がまとわりついてくる? どうも、力の差で邪の感じ方が違うようだ。私もこの空間は気持ちのいいものではないが、そこまで嫌がる程ではない。しかし、御影に良く映らないなら、主であるおねえさまも同じく映るはず。

「先程、未無様は何かを思い出してらっしゃいました、もしかしたらこういう空間に慣れてらっしゃるかもしれませんね、今回彼女に祓ってもらうのは苦かもしれませんよ」

白咲は目を細め、祭壇の前にいる三人を見る。私もそちらに目線を戻す。おねえさまから連絡があった時、こんな私でも頼ってくれて嬉しかった。おねえさまは、私の失敗を見ているから、仕事で頼られるなんて思ってなかった。

「白咲、やりますわよ」

「我が主が望むなら」

あの強い彼女ができないことがあるならば、頼ってくれるならば、私はそれに応えたい。

 邪祓人は、力量によって、道具を使って祓う者がいる、むしろおねえさまのように両手を打ち付けるだけで祓える人間は希少(まれ)だ。カバンからステッキを取り出す。服と同じく白黒で、先端はハート型になっている。よくアニメで見る変身道具がモチーフになっているので、少し子供っぽいが、どうせ見た目が小学生な私が持っていても違和感はないだろう。

「我汝に命ず、我が邪魔をするモノよ消え去れよ」

両手でステッキを強く握る。弱いなら弱いなりに、全力を出すしかない。普段は絶対に聞かない断末魔の悲鳴。その音量に負けないよう、私は目を瞑った。

「成功ですよ主、後は私にお任せを」

黒いモヤが光の中でチラチラと見える。白咲がそのモヤに向かって、キャンディステッキを向けると、粉々に砕け散った。

「で、できましたの……?」

「ほぉ、小娘にしてはやるじゃねぇか」

「誰が小娘ですって!」

白咲が少し離れた場所に着地し、暗かった家の中も気持ち少し明るくなった気がする。驚いた顔をしたおねえさまに、私はニカッと笑って見せた。

「これで話を聞いてくれますわよ」

「……そうね、ありがとう」

ぎこちなく笑われて、少し照れくさくなる、おねえさまがいなかったら、私はここまでできなかっただろう。

「あとは任せましたわよ、おねえさま」

「黒子ちゃん!」

邪祓ってこんなに疲れるのか、私は眠くなりその場に倒れた。


 バタ。黒子ちゃんが倒れ、駆け寄ってみるとちゃんと息はしている、眠ったようだ。

「いきなり強く力を出そうとするからだ、ま、少し休めば問題ないだろ」

「そう、良かった……ごめんね黒子ちゃん、貴女が受けた依頼ではないのに」

御影を見ると、ふんっと鼻を鳴らし、親子の方を見た。御影も私の仕事方法を理解してきたようだ。黒子ちゃんを御影に任せ、私は二人の方へ行く。

「美代子さん、娘さんはリハビリで歩けるようになりました、貴女の事情は知りませんが、もう少し娘さんと向き合ってあげてくれませんか」

「お母さん……」

「海悠……」

みゆちゃんだけではない、美代子さんも苦しかったのだろう。抱き合う二人を見て、私は立ち上がる。

「黒子ちゃん起きた?」

「いやこりゃしばらく起きんぞ」

じゃ、背負って、御影に頼むと嫌そうにしたが、背負ってくれた、なんだかんだ言って優しいものだ。静かに清水家を出る、あの親子はまだやり直せる。

「私はどうだろう……」

「あ? なんか言ったか?」

「別に、帰ろ御影」

いつか、私も母と対峙する時があるだろう。その時邪があれば祓えるだろうか、次こそ救えるだろうか。

 邪祓人になってから、人々の営みを、悩みを見るようになった、それは確かに私を成長させるし、考えを変化させていく、その変化に追いつこうと、日々藻掻(もが)くのだ。

「今日のご飯なにかなー」

「その前にこの小娘をどうにかしろ、作ってやらんぞ」

ふふっと笑いながら過ごす日々。いつの間にか、キラキラと輝くモノを持ったものだ。それを守れるくらいには、私も強くなりたい。

読んでくださりありがとうございます。

未無の過去がチラチラと出てくるようになりました

というわけで、次回は未無の過去編となります

それでは第七話でお会いしましょう!

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