表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
邪祓  作者: 白雪 慧流
3/43

親のために

邪祓第三話ですー!

ちゃんとした(?)依頼回です

楽しんでいただければと思います

それでは本編どうぞ!

カウンセラーにして、東西連合(とうざいれんごう)に所属してる精神科医、薬蘑(やくま)さんと出会った私は、邪祓人(じゃばらいにん)についての説明を受けた。やるとは公言していない仕事だけど、いつの間にか正式な邪祓人に、不安だらけの生活が幕を開けたのだ。

 と言っても、しばらく仕事は無かった、多少の手続きがあるらしく、薬蘑さんの連絡を待ち、昨日ようやっと完了したとの連絡が入ったのだ。

「やっとかよ、待ちくたびれたぜ」

「お金もらうんだから当たり前でしょ」

「貴様も、薬蘑も真面目かよ」

ここ数日でわかった事がある。御影(みかげ)は確かに薬蘑さんは好きじゃなさそうだが、心配してないわけじゃない、古い友なのか、それとも私が考えられないような腐れ縁があるのか、心配はするし、どうも彼自体というより、彼の行動に納得いかないという感じだ。

「ねぇ、御影と薬蘑さんって昔からの知り合いなの?」

「ん? そんなの聞いてどうすんだ?」

「気になったから?」

なんでだよと不機嫌になってしまった。御影に薬蘑さんの話をするとすぐ不機嫌になる、なぜそこまで嫌うのだろうか、確かに薬蘑さんの御影に対する態度は、意地悪だし、面白がってそうだけど……。

「……なんか兄弟みたいね、あなた達」

「あぁ? 誰が兄弟だあんな奴!」

どことなく、兄が可愛い弟をいじくっているように私は見えた。私は一人っ子だったし、友達もろくにいなかったから、ちょっと羨ましい。

「なんだよ、変な顔して」

「んー、仲良さそうで羨ましいなって」

私にも妹か弟がいればもう少し大人としてしっかりしていたのかなぁと、考えなくはない、こんな出来損ないにそこまでの力量があるとは思えないけど。

 私が物思いにふけったせいか、それとも羨ましいの言葉のせいか、御影は、不服そうな顔をし黙り込む。そしてボソッと呟いた。

「別にいいもんじゃねぇよ」

「へ?」

「なんでもねー、ほら手続きとやらは終わったんだろ、仕事行こうぜ、休み過ぎると体がなまっちまう」

ずっと神社に篭ってた厄神(やくしん)が何言ってんだか、ただ、御影の言う通りこうやって部屋にいるわけにもいかない。

「なんかやりたい仕事ある?」

スマホの依頼書まとめページを開いて見せる 遠出は無理なので、近所を検索してみた、このページ東西連合が管理しているらしいのだが、この組織有能かもしれない。

「俺様達東西連合じゃねぇだろ」

「確かに入ろうとは思わないけど、今は頼るしかないじゃない、お金貰うのここだし」

うっ……と御影が言葉に詰まっている間に、気になる文を見つけ、依頼内容を開いてみる。

「兄を助けてください……?」

【依頼内容:兄を助けてください

母が亡くなり、十年目を迎えた今年、兄の様子が明らかに変なのです、自分の思い違いならいいのですが、調査をお願いします】

何がどう変なのか詳細は書かれていない、弟さんも説明できないのかもしれない。

「なんだ、面倒そうな依頼じゃないだろうな」

「面倒かどうかなんて知らないわよ、ただ最初みたいに強硬手段は許さないからね」

ほんの出来心で受けた依頼。それが私の考え方を変えるほどになるなんて、この時は思いもしなかった。


 母が亡くなったのは十年前。認知症になりかけていた母を兄は必死に介護した。しかし母は……母には、その介護が、自分が認知症になるという事実が、耐えられなかった。結局、自室で首を吊って自殺、残された兄は今も尚、自分を責め続けているのかもしれない。

 依頼のあった家に来る。思ったよりも大きく、名家とまではいかないが、そこそこの屋敷である。

「いきなりすみません、邪祓人の者ですが」

「あぁ、いらしてくださったのですね! ささお上がりください」

インターホンを鳴らし、出てきたのはにこやかで優しそうな青年、彼が弟さんかな? 彼に案内されるまま、居間に入り、正座する。

「私は依頼を致しました、本堂悟(ほんどうさとる)と申します」

「邪祓人、伊藤未無(いとうみむ)です」

名刺を出し、とりあえずの自己紹介は終了した。前の会社でもあったやり取りであるが、いい思い出が無いので、正直あまりやりたくはない。

「で、その兄とやらはどこだ?」

「ちょっと御影!」

「兄は……自室にいます」

深刻そうな顔をする悟さんに、私はどう返したらいいか戸惑う。とにかく現状況を聞かないと。

「それで、依頼書には詳細は書かれていませんでしたが、お兄さんに違和感を持ったのはいつですか?」

「兄に違和感を覚えたのは、母が亡くなって二年くらい経ってからです」

それまでは普通だった兄が、いきなりブツブツと呟き始めました、最初は夜中一人で呟いていて、きっと怖い夢でも見たのだろうと気にもとめてなかったんです。ですが、一年経つ事に独り言の頻度は増し、今年はもう私の話すら聞かなくなりました。正直悪霊などは信じていませんが、兄が助かるならなんでもしたいんです。

 悟さんからお兄さんの自室を聞いた私達は、廊下を歩く。

「御影あの話どう思う?」

「ん? あぁ、独り言か? 邪が育ち過ぎたのかもな」

邪が育ち過ぎた……御影は簡単に言ってのけたが、独り言をずっと言ってるなんてそれだけ精神が参ってるに違いない。私にも経験がある、ずっと同じ言葉を自室で呟いていた。それは無意識で、母にそれを聞かれた時は殴られた。

『今更謝るんじゃないわよ! 謝るんなら私の目を見て謝りなさい!』

痛みと、子供ながらに悔しさがあって、なんでこんなに何も出来ない子供なんだろうと、なにか才能があれば、私がもっとしっかりできれば、母を安心させれるのにと考えていた。

「お母さんが亡くなってから十年……お兄さん何かの理由で自分を責めてるんじゃないかな」

「だとしても邪を祓うのが仕事だ」

そうだけど……もし、邪を祓っても、責め続けてるのは変わらなくて、それは祓ったというのだろうか。本来の原因を取り除かない限り、意味は無くなってしまう。結局同じ繰り返しになるのだ。

「何うだうだ考えてんだ、ほら入るぞ」

御影がお兄さんの自室の扉を開ける。

 暗い部屋で確かにブツブツと、男性の声が聞こえた。扉が開いたことにも気付いてないようだ。

「……さ……ご……かあ……」

「ミム祓うぞ」

上手く聞き取れない言葉、でも私には何を言ってるのかわかる、この人はやっぱり……。両の手を合わせる。祓って、ちゃんと話をしよう、私の言葉なんか聞いてくれないかもしれない、それでも、そうだとしても、少しでも救われるかもしれない。

「我汝に命ず、人を惑わすモノよ体から抜け出よ」

悲鳴と光。でも今度はちゃんと見える、邪がお兄さんの中から飛び出し、御影が私の前に出て、刀を構える。その刀が、鞘から抜かれ、邪を切り裂いた。数秒の、ほんの一瞬の出来事、それでも、私の中では数分のように感じた。

「ぐっ!」

「お兄さん!」

お婆さん同様倒れ込む、咄嗟にお兄さんの体を掴むと、意識が引っ張られた。


(かず)、悟、いいかい? あんたらの父さんのようになってはいけないよ」

 父さんは弟がまだ幼い時に、不倫の末家を出ていって、しっかり者の母さんは女手一つで俺達兄弟を育ててくれた。そんな母さんには感謝しているし、介護は俺がやると決めていた。認知症と言っても軽度だし、足腰も歳のせいで弱くなっていたが歩けない程ではない。まだしっかりした介護は必要ないくらい元気だ。俺ができるのは、買い出しと、料理と掃除くらい、洗濯は母さんがまだ出来るとやっていた。 だから、あんな事になるなんて思わなかった。いや、思いたくなかったんだ、絶対予兆があったはず、小さな変化があったはずなんだ。

「母さん……ごめん……母さん……」

暗い部屋の中、人が天井からぶら下がっている。縄がギシギシと軋み、その人はゆらゆらと揺れ、ぽたぽたと液体が落ちる音がした。血ではない、切り傷も無い。それはただ、暗く、苦痛の表情も浮かべず、誰が声をかけても、反応はしない。

「おい! ミム!」

「はぁ……はぁ……はぁ……み……かげ?」

意識が現実へと戻る。なんだ今の、追体験だろうか。

 お兄さんと一緒に倒れたらしく、御影に膝枕をして貰っていたようだ。起き上がり、お兄さんの方を見ると、彼も起き上がっていた。

「お兄さん……」

「……」

黙っている。やはり、邪を祓っただけでは解決にならない。依頼は達成されない。

「お兄さん……和さん!」

「っ……!」

「弟さんが、悟さんが和さんのことを心配しています、自殺は誰かのせいじゃないんです、誰かが悪いなら、それは自殺した張本人が悪いんですよ」

和さんはじっとこちらを睨む。品定めするような目線。怖い、でも負けちゃいけない。

「お母さんが悪いって言いたくないのはわかります、でも、自殺はその人の意思です」

「意思……? お前、よそ者か! 他人に何がわかる! 何が!」

「わかりませんよ、私には介護の辛さも、介護される辛さも、自殺したあと残された人のことも、ただ、自殺しようとする人の心理ならわかります」

私だってそうだ。ずっと母に応えられなくて、会社もクビになって、元から自分に諦めてたのが、更に諦めて、死のうとした。死んだ方がよっぽどマシだと思った、母にも迷惑かけたくないし、誰かのお世話にもなりたくなかった。

「何より自分を許せないんです、何も出来ない自分が、でもそれは自分が自分に絶望した結果で、誰か、ましてや子供のせいじゃないんです、和さん貴方のお母さんは、貴方を責めるような人でしたか? 貴方に全てを背負わせるような人でしたか?」

できるだけ、和さんの目を見て話す。全てが伝わらなくてもいい、少し、少しでも、母の優しさを思い出してくれさえすれば、後は本人がどうにかしてくれるだろう。和さんは、下を向きただ項垂れる。私は立ち上がり、御影を見た。

「帰ろう御影」

「いいのか?」

「いいの、後は和さんが、悟さんがどうにかするから」

和さんに背中を向け、部屋を出ると、居間の前で悟さんが待っていた。ソワソワしたような様子に笑顔を返す。

「邪祓は成功しましたよ」

「本当ですか!」

「えぇ、ただ、和さんには悟さんが必要です、大事なお兄さんを支えてあげてください」

はい、悟さんはしっかりと返事をしてくれた。きっと大丈夫、きっと。


 隣で御影がぐったりしている。もう驚きようがない格好だ。

「ミムくんお見事」

「私はなんもしてないよ、ただ邪祓しただけ」

そうじゃないだろ、薬蘑さんはいつになくニコニコして言う。本当に私は何もしていない、ただ少し、話をしただけ、それをどう捉えるかは本人達次第だ。私は何も助太刀はできない。

「謙遜しちゃってー、本堂兄弟から手紙が届いてるよ」

「手紙?」

はいと手渡された封筒。それには確かに紙が入っているようだ、このご時世に手紙とはなんと古風な。封を開けてみると、綺麗な字が目に飛び込んでくる。

【伊藤未無様へ

 先日は兄共々お世話になりました。あれから兄はすっかり良くなり、今は家事もこなし、私と会話もしてくれ、独り言も無くなりました。これは全てあなた様のお陰です。なんとお礼を申したら良いか、今度家の近くを通る事があれば是非お立ち寄りください、私も兄も歓迎致します。

追記

 この間はすまなかった。俺が間違っていたのだ、君の言うように母さんが悪いとは言えないが、それでも、自分を責めるのはやめようと思う、きっと母さんはそれを望んでいる。悪いのは俺もだったのだとそう、今なら思える。それを気付かせてくれたのは君だ、心から感謝する。

 本堂悟、和より】

「俺様への感謝はなしかよ」

「御影はただ、邪を消しただけでしょ、何もしてないじゃない」

御影は文句があるのか、隣で色々言っているが、気にせずもう一度手紙に目を落とす。

 お母さん、こんな私でも誰かを救うことができたみたいです。まだまだ出来ることは少ないけれど、私はもう少し生きてみようと思います。生きていれば、何か、貴女に応えられるモノが見つかるかもしれません。


 喧嘩をしながら、二人が部屋の外へ飛び出す。そういえば、今日見たら御影の髪が縛ってあった、あれはミムくんがやったんだろうか。

「まさかキミが、新しい主を選ぶなんて思ってなかったよ」

窓から外を眺める、近いようで遠い。やはり、彼と私は正反対なのだろうか。

「あなたが言った通りになりましたね、全く」

一人になった部屋の中、冷めたコーヒーを飲み干した。

読んでいただきありがとうございます。

ここから未無ちゃんや御影の行動に変化が現れる……はずです!

これからの更新続けますので、何か感想等ありましたら是非書いてください!

それでは第四話でお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ