カウンセラー薬蘑
邪祓二話目です。
なんだか、わちゃわちゃしてますが、こんな感じの勢いでこのまま進みます!
楽しんでいただければ幸いです
それでは本編どうぞ
森の中の社に迷い込んだ私は、御影という不思議な人物に出会った。彼が言うには私の力は強いらしくて、 彼の仕事を強制的に手伝う事となったのだ。
未だに信じ難い、邪とか、目の前の人物とか。最初の一件から数日経ち、美味しいご飯を食べながらむぬる。
「やっぱり変よね、ホラー番組じゃあるまいに」
「まだ言ってるのかよ」
「理解が出来ないのよ、あんたもすぐ出ていくと思ってたし……おかわり」
茶碗を御影に差し出し、御影は茶碗にご飯を盛る。いつの間にかこれが日常になっている気がして、少し怖い。朝ごはんを食べたら、温かいお茶をすすり、ゆっくり過ごす。だらだらニート生活まっしぐらルートだ。
「だらだらニート生活……あっ!」
ニート生活……この単語で思い出した。私がいきなり叫ぶので、御影がなんだなんだと慌てだす。気付くのが遅過ぎたヤバいことで私は頭を抱えた。
「やばい、奨学金返せるお金が無い」
「しょうがくきん? なんだそれ」
「大学行くために借りたお金、いわば私の借金」
借金だぁ! 貴様何歳だよ! ドン引かれた。いや、御影にドン引きされたなんてどうでもいい、このままでは親に殺されるでは済まない。自殺は別にいいが、親にだけは嫌だ。
「こうなったら、仕事探さなきゃ」
「そういや今日だな」
「何が?」
窓の外を眺めながら、呟く御影にクエッションマークしか出てこない。行くか、そんな短い一言を言い、コップをシンクに置く。
「どこに行くの?」
私が質問するが、答えはやはり返ってこない。仕方ないので黙ってついて行く事にした。こいつと一緒にいたらろくなことはないけど。
バスに乗り、電車に乗り、一時間近くかかった遠出の末に着いたのは、大きい病院。
「病院……? なんで?」
「ここにいる、薬蘑って奴に用がある、多分すぐわかる」
いつになくやる気なさげに言われ、その薬蘑って人嫌いなのかなと推測する。嫌いな人になんで会いに来たのかわからないけれど。中に入ると、至って普通の病院で、変わっているとすれば雰囲気が妙に暗いというか、怖い。
「相変わらずここには邪が多いな、どれもちいせぇけど」
邪とは人の負の感情らしい、具現化した邪は、黒い渦のような、モヤのように目に映る。御影の仕事はその邪を祓うこと。負の感情なら、病院は確かに集まりやすいだろう。しかし、御影が多いと言うという事は、異常にいるということ、病院でそんなに負の感情が渦巻く場所……。
「邪が多い……もしかしてここ精神病院?」
「ご名答、ここは精神病院だよミムくん」
「うわっ!」
背後から急に元気のいい声が聞こえ、驚きで十歩くらい声の主から離れる。白衣に、黒縁メガネ、ちょっとふわっとした栗色の髪は好青年な雰囲気を醸し出す。現に、彼の周りには女性が多い。
「きゃー! 薬蘑さん今日もステキですねー!」
「ふふ、そうかな、ありがとうお嬢さん」
満更でもないのか、女性から褒められ、嬉しそうにする彼を、御影は心底嫌そうに眺める。ちやほやされている彼に目を移すると、パチリと目が合った。そういえばこの人さっき私の名前を呼ばなかったけ。
「やぁ、初めまして、私は薬蘑、ここでカウンセラーをやっている精神科医さ、君はミムくんだね」
「なんで私の名前……」
「はいっコレね」
近付いて来るので警戒したら、手をぎゅっと握られ、手の中には一枚のメモと名札。名札には、伊藤未無と私の名が書いてある。彼を見ると、ニコッと笑い、女の子達と奥へ消える。メモを見てみると【九階客間】とだけ書かれていた。
「あの人が薬蘑さん……」
「チッ、いけすかねぇ野郎だ」
「羨ましいの?」
素直な疑問を口にしたつもりだったのだが、あぁ? と不機嫌に返されただけで、メモをひったくられる。よほど嫌いなんだなぁ、そう思いながら、エレベーターまで歩いた。御影は私がスタスタと進むので、急いでついて来る。
「おいどこ行く」
「九階の客間、メモに書いてある場所」
エレベーターの前まで行くと、三つあるうちの一つが【関係者用】と書いており、名札を押し当てるような機械が取り付けてあった。試しにメモと一緒に渡された名札を当てると、認証しましたという機械音と共にエレベーターの扉が開く。
「凝った仕掛けだな」
「御影はここに入ったことあるんでしょ? 知らなかったの?」
「俺様が最後に来た時にはこんなもんなかった」
技術の進歩か、乗り込み九階のボタンを押す。しばらく待つと九階に着いた。
辿り着いたのだから、降りたのだが、中々御影が来ない。御影ー? と呼ぶと、よろよろとエレベーターの中から出てくる。もしかして、このくらいで酔ったの?
「御影……もしかして乗り物……」
「ほら行くぞ」
笑えないくらいの光景に、少し心配になる。そういえば、バスや電車も気持ち悪そうにしてた気がする、気丈に振る舞うから気付かなかった。早めに客間を見つけよう、でないと御影が倒れる。館内地図をじっと見つめ、現在位置を確認し、御影の手を掴む。
「客間はこっち、御影反対行こうとしないで」
「ぐへっ、おい急に引っ張るな、吐く」
ここで吐くなとだけ返し、客間まで早足で向かう。客間に入ると御影はぐたっとソファに横たわった。
客間の中は、ソファが二つ向かい合うように置かれており、ソファを挟んだ真ん中に机が置かれているシンプルな作り。よくあるお偉い様の会議室のようである。
「本当に客間かな、ここ」
「二人ともお待たせ……って御影……」
御影が横たわっているので、ソファの隣で立っていると、薬蘑さんが入ってきた。そして御影の姿を見て、少し沈黙したかと思えば急に笑いだす。
「あっははは、何? キミ、エレベーターで酔ったの? 昔っから乗り物苦手だったけどここまでだとは思わなかったよ」
「うるっせぇ!」
腹を抱えて笑う薬蘑さんに、御影が出したのは刀。どっから出てきたのかわからないし、それで薬蘑さんを殴るものだから、私は慌てて止める。
「待って! 危ないから! てか刀なんてダメだから! 銃刀法違反!」
「ミム止めんな、こいつ一発痛い目見ないとわからん奴なんだ」
「御影は物騒だなぁ、ミムくんが真面目でよかったよ」
鞘で殴られた薬蘑さんは、いたたた……と頭をさすりながら、ニコニコしている、あれ、ダメージあまりない? ってダメージの問題ではない、刀の所持が問題なのだ。なんとか御影を落ち着かせ、ソファに座らせると刀がふっと消えた、あまりの出来事に目を丸くして固まる。そんな私の様子に、薬蘑さんがアレ? と不思議なものでも見る目を向けてくる。私がその目をあなた達に向けたいわ。
「もしかして御影なんも話さずにミムくんを巻き込んだの?」
「俺様に説明ができると?」
「キミの方が一回痛い目見るべきだと思うよ」
はぁ……ため息一つ、コーヒーを人数分いれてくれた薬蘑さんは、そのまま向かいのソファに座る。張り詰めた空気に流石の私でも姿勢を正した。カチコチカチコチ、時計の音が妙に大きく感じること、一分くらい、薬蘑さんが口を開く。
「さて、じゃあ説明から入ろうか」
最初に会ったようにニコッと笑うが、目が確実に笑ってない。緊張する私とは反対に、御影はおーと間延びした返事をした、命知らずなのか、見知った仲故なのか、とにかく薬蘑さんは刺激しない方がいいかもしれない。
コトッ、机にコーヒーカップが置かれたと同時に説明が始まった。
「まずは邪祓という仕事について」
邪祓、これはれっきとした仕事らしく、邪、人の負の感情が具現化した、亡霊みたいのを祓う仕事。この仕事に就いている人を、邪祓人と呼び、基本は【東西連合】が管理しているらしい。
「東西連合?」
「東西連合は、邪祓人をまとめてる組織の一つさ、私も所属している、ミムくんが所属するかどうかは自分で決めたらいい、強制ではないからね、所属しなくとも君なら東西連合の依頼は受けれるよ、じゃ次厄神について」
厄神、つまり御影について。厄神というのは、邪祓人の相棒であり、それぞれに見合った武器で、邪祓人が人間から引き剥がした邪を消す能力があるらしい。つまりあの刀は御影の武器か。
「他の邪祓人に出会えばわかるだろうけど、厄神も結構特徴的でね、基本は主に似るよ」
服装や好みなんかも似るらしい、御影が私に似てる気はしないから、私はまだ主ではないのかもしれない、今ならこの仕事おりれるだろうか。
「あ、御影はミムくんにそこまで寄ることはないと思うよ、もう型が出来てしまってるし、ミムくんにどこまで影響されるかだね」
「んだよニヤニヤしやがって、気色悪ぃ」
つまり、御影は似ないと……。結局私に拒否権は無いのか。いつになったら解放されるのかわからないが、ここは従おう。
「後は……邪を取り込みすぎると大変な事になるから気を付けてね、君が取り込むようには見えないけど」
「邪を取り込む?」
「たまに、人間の中に他人の邪を受け入れ、取り込む者がいるんだよ、これが限界を超えると厄介なんだ、ま、ミムくんは気にしなくていい話さ」
はい、この話は終わりとばかりに切り上げられる、聞かれたくない事なのだろうか、だったら深く聞くことも無いだろう。
一通りの説明が終わったのか、薬蘑さんが立ち上がる。そのままぺこりと一礼し、私の目を真っ直ぐに見すえた。
「私達東西連合は君たちを歓迎する、新たな仲間としてよろしく頼むよ、伊藤未無くんに、厄神御影」
「は、はぁ……」
「チッ、御託はいいからさっさと本題に入れ」
「キミがなーんも説明してないのが悪いんだろ」
ソファにドスンと座ると、で、報酬だねーと先程までの空気と打って変わって軽くなる。空気の変動が激しく、こっちが疲れそうだ。
薬蘑さんは傍らに置いてあったカバンから一枚の書類を出す。そこには、口座番号記入と書かれていた、あ、給料振込み式なんだ。
「ついでに今回の報酬は六百万ね」
「へぇー、六百万……ろっぴゃくまん!」
口座番号記入の手が止まった。貰う額として聞いたことは無い。邪祓は人の命がかかってるんだ、当たり前だろ? そう言われたが、そんな危ない職業なのこれ。
「私……やっていけるかな……」
今日だけで様々な不安が押し寄せる。明日には振り込まれるからと、笑って見送ってくれた薬蘑さんの顔が不安を確実にさせた気がする。
精神病院からの帰り道、夕日に照らされ、私の邪祓人としての生活が幕を開けた。
読んでくださりありがとうございます。
メインキャラの一人である薬蘑さん登場回です
未無ちゃんはテンションが高くてなんたか作者が暴走しがちなのですが暖かい目でご覧頂ければと思います何か感想等ございましたら、是非書いてくださると嬉しいです
それでは邪祓第三話でお会いしましょう!