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邪祓  作者: 白雪 慧流
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影なる者

初めまして、白雪慧流と申します。

この邪祓という作品は約1ヶ月くらい、毎日投稿致します。

それでは本編をどうぞ!

 チラチラと木々の合間から日の光が差し込む森の中。私の名は伊藤未無(いとうみむ)、田舎者で大学入学と同時に都会に入った、どこにでもいる普通の女。

「どこにでもいる……は一般人に失礼かな」

ふらふらと歩きながら、今までの私を振り返った。一般人と言われる人達より、私は劣っている。何をするにもどんくさくて、とろい、特にこれといった特技もない、せっかく入った会社もクビになってしまった。

 親に頼んで奨学金借りて、大学に行ったというのに、これじゃ顔向けができっこない。

「はぁ……なんでいっつもこうなんだろ」

すっごく幼い時は、褒められたくて、頑張ったねと言ってもらいたくて、色々やっていたが、この歳になったら全て諦めてしまった。

 二十四の夏。私は自殺を決め、この森の中へと足を踏み込んだ。しかし、いい自殺できる場所が見つからず、早朝からずっと彷徨っている。

「場所、変えようかなぁ」

別に森にこだわりはない、住んでいる場所から近いので来ただけだ。海の方が簡単説が頭の中に浮上し、森から出ようと後ろを振り返る。真っ直ぐ行けば出られる……多分。

『おい貴様、ここまで来たならば俺様のとこに来い』

「は……?」

一歩踏み出した時、背後から男性の声が聞こえた気がした。しかし、誰の姿も見当たらない。

「いやいや、こんな森に人がいるわけないじゃん、気のせい気のせい」

『おい、そこまでの力を保持して俺様の言葉を無視するのか』

「やっぱり誰かいるーーーー!」

幽霊? それともこの森の管理人? 管理人なんかいるの? 大混乱の脳内で必死に考えるが、そもそも声をかけてきたのが誰かもわからない。一旦深呼吸すると、先程進もうとしていた方を見る。

「ここまで来たならば、俺様のとこに来い……この先に誰か居るってこと?」

どうせ、すぐ死ぬのだ、少しくらい不思議な現象に付き合っても悪くない。私は、少しウキウキしながら声が聞こえた方へ進んだ。

 二十分くらい歩いただろうか、ずっと木しか無かった視界が、急に明るくなる。少し眩しくて目を瞑ったが、どうやら開けた場所に出たようだ。しばらくして、目を開き目の前にある鳥居に視線を向ける。

「鳥居……ここ神社なのね」

鳥居の背後には和風の建物が、鳥居の傍には石碑があり【邪祓の社】と書かれている。

「じゃばらいでいいのかな、読み方」

聞いた事のない名前に首を傾げたが、そもそも神社なんか有名なものしか知らない、知らなくて当然かそう思い直す。それよりも、声の主を探そう。

「ねぇ! いるんでしょ! 私を呼んでおいて出てこないなんて言わないでしょうね!」

鳥居をくぐり、力いっぱい叫ぶ。しかし、声はもう聞こえない。少し苔がついた、石畳を歩き、賽銭箱が置かれていたであろう、社の入口までくる。それでも尚、私を呼んだ男は見つからない。

「なんなのよ」

社に座り込むと、境内を改めて見た。なんとも物寂しく、生活感はない、手入れもされていない。人がいる気配はなく、やっぱり気のせいだったかな、そう思い始めた時、霊感のない私でもわかるくらい、周りの空気が変わった。

「な、何、急に涼しくなったけど……」

『貴様来るまで時間かかったくせに、やけにせっかちなのだな』

紫のようなピンクのような、それでいて青い、不思議な煙が目の前で爆発したかと思えば、その煙の中から一人の男が現れた。黒く長い髪、片目が髪で隠れ、その目は不自然に青い。黒い着物を羽織り、にんまりと笑う姿は、人間ではないように見える。いや、こんなよくわからん野郎人間とは思えない。

「そんな驚くな小娘、俺様は御影(みかげ)と言う、貴様名は?」

「今度は声がハッキリしてる……」

今まで、何も物がない部屋で喋るかのような、聞き取れるがぼやけている声だったが、目の前に現れた途端ハッキリと耳に届いた。それに驚き、質問を無視したせいか、長く綺麗な足を動かし、私の前に移動すると、私の頭を叩いてきた。痛いので、痛いわバカ! と言うと、無視した貴様が悪い、名を名乗れと返される。この男、少し見目がいいからって調子に乗りやがって。

「未無、伊藤未無よ」

「ふむ、ミムか、気に入った、おいミム、俺様の仕事を手伝え」

半ば強制的に手を捕まれると、気付いた時には街へ戻っていた。御影とかいう男の姿もない。まるで狐につままれたような感覚に、少しぼーっとしてしまう。

 手を見ると、掴まれた感触は残っているが、赤くなっていたりはしない。夢だったんじゃないかと思うくらいに、あっという間だった。

「仕事手伝えとか言ってたけど……やっぱり夢? ダメだ私疲れてるのね、帰ろ」

自殺はまた明日にしよう。帰って布団に入ろう。夕日が登り始めた空を眺め、部屋のドアを開く。ボロボロのアパートは、私を冷たく迎え入れた。

「はぁー……明日はどこに行こうかな」

「なんだ、ミムは暇人なのか」

「もう働いてないし暇人に決まって……はい?」

収納から出した布団が手から滑り降ちる。最初からいましたとばかりに、机の前で正座している男、御影は、部屋を見ながら、なんもねぇなーと呟き、私の方を見た。

「もう少し、家具とか揃えたらどうだ? 茶くらいあってもいいだろ」

「黙らっしゃい! 茶はあるし、余計なお世話だわ!」

布団と一緒に出した枕を御影に向けてぶん投げる。ごふっと、声にならない声を出した御影は、その場で蹲ると、呻いていた。

 息を切らしながら、御影を見る。この男私をつけてきたの? てか何者なのよ。謎しかないが入ってきてしまったものは仕方がない、一応客人なのだ、茶くらい出そう。

「貴様、もう少し女らしくしたらどうだ? 衣類こんなに少なくていいのかよ」

クローゼットを開き、心底疑問だと言葉のニュアンスに出ている。私はお前の行動が疑問だよ。

「さっきも言ったけど余計なお世話よ、てか、人の部屋漁らないでよ、茶飲んだら帰って」

「断る」

即答された。何故だ、私のような人間に執着する意味がわからない。御影と向かい合うように座り、麦茶をすすりながら彼をまじまじと見る。見目は本当にいい、 街で歩けば何人も振り向きそうだ。髪もツヤツヤしているし、片目が見えないせいかミステリアスな雰囲気もある、口調を差し引いても、普通にかっこいい部類になるのだろう。こんな奴が家にいると親に知られたらと思うとゾッとした、やっぱり追い出そう。

「貴様のように、力が強いものは希少なのだ、見つけたからには手伝ってもらうぞ」

「力が強い? 手伝うってあんたの仕事を? 私はお断りよ!」

面倒事に首は突っ込みたくない、私が適任な仕事なんてあるとは思えないし、この男が何か勘違いしているのだ、そうに違いない。

 私が疑っているのを感じ取ったのか、御影は黙り、しばらくの沈黙の後パンと手を叩いた。

「ま、仕事がわからんのだから貴様が警戒するのも無理はない、ミムよどうせ暇なのだろ? 明日実戦と行こうではないか」

名案! そう言いたいのだろう、ドヤ顔だ。どうも話が合わない、元より話を聞く気がなさそうだ。

「てか明日……? あんたさっき帰らないって言ったけど寝る時どうすんの?」

「無論、この家にいるが?」

「…………帰れ!」

男が部屋にいるですって? 信じらんない。手を思いっきり掴み、玄関から無理矢理追い出す。そして鍵を閉め、念の為チェーンも付けた、これで入って来れないだろう。客人を同意もなく追い出すのには罪悪感はあるが、いられたら困るのだ。

「って、あいつが勝手に入ってきたんだもの追い出されたって文句は言えないわね」

最初から不法侵入だ、これは正当防衛。自分の中で自分を正当化し、今度こそ布団を敷き、眠りについた。


 街を歩く。目的地は知らない。

「ねぇ、私をどこに連れていく気?」

「黙ってついてくりゃわかる」

御影に言われるまま歩く。何故こんなことになっているのか、それは時刻が戻ること数時間前。

 眠りから覚めた私を出迎えたのは、男の声のおはようという言葉。つい私はおはようと返したが、すぐに立ち上がる。私今誰と話した?

「貴様、忙しい奴だなぁ、俺様を追い出してみたり、寝てみたり、急に立ち上がってみたり」

「ど、どうやって入ったの?」

キッチンでなんかしてる御影は置いておき、玄関に行くと、チェーンも付いているし、鍵も閉まっている。つまり鍵を開けて入ってきた訳ではない。窓を見てみるが窓も開けられた形跡はなかった。

「あ、あんたやっぱり人間じゃないの……?」

「俺様が人間なわけねぇだろ」

人間だと思ってたのか? その言葉と共に、心底面白いと言いたげに笑い出す。確かに半信半疑ではあったが、少しだけ人間である可能性を信じていたかった。ガックリ肩を落としていると、いい匂いが漂ってきて顔を上げる。そういえば御影はキッチンで何をしているんだろう。

「俺様は口で説明すんのは苦手だからな、とりあえずこれ食ったら実戦行くぞ」

「これ食ったらって……」

カタン。皿と机がぶつかるいい音と共に、目の前には煮物料理が出てくる。ぽかんとしている私を放置し、何故か鍋で炊いているご飯を茶碗に盛り付けると食わねぇのか? と聞かれたので大人しく箸を手に持ち、食べた。

「美味しい」

「当たり前だろ、俺様だぜ?」

悔しいけど本当に美味しい。料理の美味い化け物……なんとなくシュールな気がして笑いそうになる。ただ、私のために作ってくれたのだし、笑うのは失礼だからグッと我慢した。

「なぁ、なんでこの家食料がほとんど無いんだ? 貴様ちゃんと生活できて……」

「余計なお世話だと言ってるでしょうが!」

とまぁ、こんな経緯があり、私は外に連れ出された。

 道のりはそんなに遠くはなく、数十分歩くとピタリと止まる。

「なんだご近所さんじゃない、なんでこんなとこに」

なんの用、と言おうとしたら、御影は悪びれるもなく家にズカズカと入る。こいつ不法侵入って言葉を知らないのか。

「ちょっと御影! 勝手にはいるんじゃないわよ!」

「問題ない、依頼主は俺様達が入るのを許可している」

訳の分からない事を言い、そのまま庭へと進む。同罪になってしまうが、彼一人で行かせるのも心配だ、私も庭に入ると、綺麗に手入れされた光景に息を飲んだ。規則正しく置かれた石畳、ミニバラのアーチは手入れが行き届いており、住人の気品さが垣間見えた。凄い……拙い言葉しか出てこない、近所にこんなにも庭に手をかけていた人がいたのか。

「依頼主はこの家の主人の娘だ、この庭を手入れしているのは、依頼主の母親らしくてな最近妙に苛立っているらしい」

「苛立っている?」

「恐らく邪の仕業だろうな」

邪? 聞き返すが答えは返ってこない。口で説明するのは苦手だと言っていた、つまり見て理解しろということか。私にそんな高等技術無いんだけど。不満は様々だが、私に拒否権は存在しなさそうだ。

 腹をくくり、御影が止まるまで歩く。そして一人のお婆さんの前で止まった。

「貴様だな、この庭の管理人」

「誰かね!」

お婆さんは、こちらを振り向いた。一瞬ひっ、と変な声が出そうになったが、口を抑える。このお婆さんの周りになんか、黒い渦がある。懐かしいような、それでいて怖い、本能的に近付いちゃいけないと感じ後退りした。

「ミム、見えるか? この婆さんの周りにあるのが邪だ、人の負の感情が具現化してる……だったけな」

「だったて」

こまけぇことはいいんだよ、それより祓うぞと言われ、次は驚きで、は? と気の抜けた声が出た。祓うって、邪とかいうこのわけわかんないのを、私が祓うの? まっさかね。にこっと作り笑いを浮かべ、御影を見ると、彼は私の背後に周り、とんっと背中を押し出す。

「唱えろ、追い出せさえすれば後は俺様が処理してやるよ」

「唱えろって何を!」

チリン。鈴のような音が頭に響いた。背中を押された反動で少しよろけたが、すぐに体制を整える。そして両手をパンと強く打ち付けた。

「なんじゃい! 人の庭に勝手に入ってきて!」

「我汝に命ず、人を惑わすモノよ体から抜け出よ」

唱え終わり、耳を劈くような悲鳴が聞こえたかと思えば、御影が私の前に出て、眩しい光の中黒いものが引き裂かれるのが見えた。

 目を開けると、眩しい光も、お婆さんを包んでいた黒い渦も消えており、何事も無かったかのように気持ち良い風が吹く。術中一瞬他のなにかが見えた気がしたが、頭の理解が全く追いつかず、ぽかんとしてしまう。

「初めてにしては上出来じゃねぇか、上手く追い出したもんだ」

「そ、そう?」

実感のない全ての出来事に、どう反応したらいいかわからない。ただ、私にしては珍しく褒められているようだ。

「あ、あれ、私は……」

「あっ……やば! 御影出るよ!」

御影の腕を掴み、来た道を戻る。お婆さんが起き上がり、警察呼ばれたら厄介だ。てか、お婆さん倒れていたのか、なんてこったい。

 私の家までダッシュで帰り、御影を部屋に押し入れると、バタンと扉を閉める。息を切らしてる私と違って、御影は涼しい顔をしている、ぶん殴りたくなるが、八つ当たりは止めよう。

「貴様、本当に変なやつだな」

「なんも変じゃないわよ! 警察沙汰になったらどうする気!」

「けいさつざた……?」

そうだ御影は化け物だった、警察沙汰なんて知る由もない。人間にはルールがあるのよ、そう説明する他なかった。

「他人の家に勝手に入るのはルール違反、違反すると警察っていう組織が捕まえに来るの」

「捕まったらどうなるんだ?」

「罰金とか、罪が重いと刑務所行きね、決められた期間牢の中に居なきゃいけなくなるわ、まぁ、不法侵入だけではそこまで行かないでしょうけど」

とにかく面倒事になる、それだけ伝わったのか、頷いてくれた。とりあえずわかってくれたようだ。

「わかったら、次からは何処に行くのか、どこに入るのか教えてよ、ちゃんと順序踏むから」

「おう、ん? 次からという事は手伝ってくれるんだな」

あっ……時すでに遅し。じゃよろしく頼むぜと笑顔で言われたら断れない。

 どうせ死ぬ気だったのだ、もうどうにでもなってしまえばいい。

「飽きたら出て行くでしょ」

上機嫌でキッチンに立つ御影を見ながら、そんな長くない付き合いだと呆然と考えた。

読んでくださりありがとうございます。

久しぶりのなろうで緊張気味ですが、暖かいめで見て頂けたらと思います。

感想は随時受付中です、何かありましたら遠慮なくどうぞ!

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