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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

辞めてください聖女様

作者: ふるか162号

とりあえず、短編として書いてみました。



 私の眼前にいる、教会の教義に耳を傾ける、自分では何も考えれない無能な信者達。

 私の背には、この世界の唯一神のヴィダ神の像。そして、私を囲むように立つのは、この教団の教皇と大司教。

 そして、私は教会の権力の頂点に立つ聖女。


 私の名前はバーバラ。十六歳の聖女だ。

 出身は片田舎の農村だ。

 何の因果か、十二歳でヴィダ神の姿を見てしまい、つい「なんだ? あのおっさんは……」と呟いてしまったのを、偶々うちの村に来ていた教皇のグリーフに聞かれてしまった。

 最初は、ヴィダ神の像にいちゃもんを付けたと怒鳴られたのだが、ヴィダ神から伝言を頼まれて、その言葉をグリーフに伝えたところ、なぜか聖女認定されてしまった。

 そこからは、今までの人生とは百八十度生活が変わってしまった。


 まず、私に教えられたのはヴィダ教の教義だ。


 私は教義を聞いて呆れた。

 私が住んでいた村は決して裕福ではない農村だ。当然、王国の治安もここまで行き届いていない。だから、この村では人さらいの被害は年に数回はあるし、盗賊や山賊だっている。

 そんな連中を相手にするのに必要なのは、こんな教義じゃない。

 対応できる順応性、そして暴力だ。

 少なくとも、私はそう教わって生きてきた。

 それなのに……。


「ば、バーバラ!? 今の演説は何だったのじゃ!?」

「はぁ? 別にいつも通り聖典を読んだだけじゃねぇか。お前等が後生大事にしているありがたい教義とやらを、一字一句間違えずに読んでやっただろう? 大聖堂を埋め尽くしていた無能(教団)の連中も喜んで聞いていたじゃねぇか」


 この世は所詮、弱肉強食だ。強くなければ大事なモノは守れないし、弱ければ強い者に搾取されるだけだ。

 事実、教団の中にも人さらいや強姦、殺人の被害に遭う者も少なくはない。そして、その被害者家族はなぜか教会にありがたい教義を聞きに来る。

 私としては、この行動に意味を感じない。

 こんな事をしている暇があったら、暴力に対応する能力を身につける方がよほど有意義だろう。


「な、何が不味い事をしとらんじゃ!?」

「じゃあ、お前的に何が気に喰わなかったんだ?」


 私がそう聞くと、グリーフは顔を真っ赤にして「教義を読むときに何の感情もこもっておらん!! お前は教義を何だと思っているのじゃ!!」と唾を飛ばして怒鳴ってくる。汚い。


「こんな無意味な教義に感情をこめろと言われても無理だな。私自身が、この教義には疑問を持っている」

「馬鹿もーん!! ヴィダ教会の聖女であるお前が教義を無意味というな!!」

「だって無意味じゃないか」


 こんな教義を読み聞かせたところで、何ができると言うのだろうか。

 仮に、暴徒が目の前に現れた時、ヴィダ神のありがたい教義を暴徒に聞かせれば見逃してもらえると? 改心させられると?

 ハッ!!

 ありえねぇ……。

 間違いなく、聖典を取り出した瞬間襲われるよ。


 私は馬鹿馬鹿しくなって、溜息を吐く。


「おい、グリーフ。お前等に聖女にされた時、お前言ったよな。『四年後、勇者様が現れ、聖女として共に魔王を倒す』ってさ」

「そ、そうじゃ。それがヴィダ神の神託じゃ」


 馬鹿馬鹿しい。

 魔王を倒すと言っても、今は魔王なんていない。いや、封印されているところも分かっているし、さらに封印を強固にするという案も王国では話し合われていたと聞いている。

 四年後に勇者が現れると同時に魔王も復活すると分かっているのなら、その封印を強固にすればいいだけの話だ。そして次は魔王を倒す為に現地の人間を鍛え上げればいい。それだけのはずなのに、四年後に現れる勇者とやらに期待するってバカか? と思ってしまう。


「なぁ、グリーフのおっさん。その勇者とやらは召喚された瞬間に魔王を倒せるのか? そいつ一人で魔王を倒せるくらいなら、(聖女)なんて必要ないだろう?」

「ば、馬鹿を言うでない!!」


 何が馬鹿なんだよ。

 それに、現時点でこの世界が魔王の脅威に晒されているわけでもなく、魔族も大人しいと聞く。

 これは王国の有力者に聞いたのだが、魔族とは良い関係を築いているそうだ。それに、魔族も魔王の復活には懸念を持っているらしく、対策を取ろうとしていると聞いた。

 それに、実はヴィダ神からは勇者の異世界転移については聞いている。

 その勇者とやらは、平和な世界からやってくるそうだ。しかも、ただの十代の学生だそうだ。

 学生というのは、王国にあるような学校に通う者の事を言うそうで、殺しの技術は学ばないそうだ。

 そんな奴に魔王を倒せるのか? と素朴な疑問を持ったのだが、ヴィダ神は「聖女(お前)がいれば勝てるんじゃねぇかな?」と適当な事を言っていた。


 私が呆れた顔をしていると、グリーフが「なぜ、こんな奴が聖女なんだ……」と呟く。

 これには私も多少イラっとした。


「おい、ふざけるなよ。お前等が私を聖女認定したんだろう?」

「くっ……。お前が聖女を騙るだけの女なら、即刻辞めてもらっているのに……」

「はぁ?」


 辞めてもらう?

 ふざけた事を言ってんじゃねぇぞ……。

 私がここに来ている間に、私の農村は山賊に襲われ壊滅したと聞いた。

 別に弱肉強食だからそれを恨むつもりはない。その場に居たら、もしかしたら私も死んでいたかもしれないからな。

 しかし、今の私は聖女だ。

 この聖女という権力や暴力を使って強者の頂点に上り詰め、賊や暴徒を壊滅させるまでは、聖女を辞めるつもりはない。

 だからこそ、目の前で私に辞めて欲しいと言うおっさんには少し脅しが必要だろう。

 私はおっさんの胸ぐらを掴む。


「おい、おっさん。私は聖女だ。ヴィダ教で最高の権力を持っている。この意味が分かるか? お前をいつでも教皇の座から引きずり下ろす事が可能なんだぞ? それに……」


 私は教会の壁を殴る。すると、拳が壁にめり込み、壁に大きな亀裂が走る。

 これを見たグリーフは顔を青褪めさせる。


「お前もこうなりたいか? 見ての通り、暴力を使ってお前を黙らせる事も可能なんだぞ?」


 ん?

 あ、しまった。泡噴いて気絶してるじゃねぇか。しかも漏らしてやがる。

 まったく、歳を取ると尿道が緩くなるのか? 汚い。

 私は近くにいた大司教に「おい、床を掃除しておけよ。それにヴィダ神からの伝言だ。今夜、勇者が転移……いや、転生されるそうだぞ」と言っておく。

 ついでに勇者が転移してくる事も教えておいてやったが、そんな事よりも床の掃除が先だ。

 あ、壁の修復だけしておくか。

 私は聖女の力を使い壁を修復する。


「じゃあ、私は夜に備えて寝る。邪魔したら、殺すぞ?」


 私はそう言って、自室に戻る。

 さて、どんな下らない勇者が現れるのか、ある意味楽しみだな……。

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