星降る夜の贈り物
『夜の女王様ノチェ』の怒りは激しく、いつまでたっても使従が選ばれることはありません。そんなある日、カピバラの子供を助けた少女が住む国で病気が蔓延し、王家は城で管理している残り少ない “月の雫” を放出するしか、民を助ける方法がありませんでした。
王家が “月の雫” を放出したことで、民の多くの命が助かりました。ですが、しばらくして今度は王様が病になり倒れてしまったのです。王家には、もう使従が集めた “月の雫” はありません。
お城の薬師達は乱獲から守った植物や動物を保護していましまが、 環境が違うためかなかなか “月の雫” は手に入りません。このままでは王様の命な危ないと、民に向けお城から御触れが出ました。
【王様がご病気である。この国の民の力が必要だ。どんな “月の雫” でもかまわない、お城に持ってきて欲しい】
と。人々は、王家が手持ちの “月の雫” をすべて民のために放出してくれたことを知っています。今こそ王家のために働こうと、人々は “月の雫” を探し回りました。
少女と両親もこのことを知って、カピバラを連れてお城に行きます。お城の人達は、カピバラを見てびっくりしました。今やカピバラは、目にすることも出来ないほど珍しい幻の動物だったからです。
カピバラの流す “月の雫” でなんとか元気になった王様は、少女と両親にお城の端にある家を与え、お城の庭師として雇い入れました。少女がカピバラを持っていると知られると、少女達が襲われる可能性があるからです。
お城にある保護された植物や動物達の世話をしながら、少女も一生懸命働きました。そして七年後、少女はその国の王妃様になっていました。平民が王妃様になることを反対する貴族は多かったけれど、申しわけ程度の力しかない “月の雫” と言えど、カピバラを持つ少女を王家は家族に迎え入れたかったのです。
ある夜のこと、王妃様はため息をつきました。この国の王妃になって数年、苦労は耐えません。もし今国中に病気が蔓延するようなことになったら、“月の雫” が足りず沢山の民の命が奪われてしまうからです。
今日は満月。美しい月を見ながら王妃様を励ますように、カピバラは一滴の涙を流しました。そしていつものように、カピバラは “月の雫” を王妃様に差し出します。王妃が微笑んで
「いつもありがとう」
そうカピバラに言った時です、まばゆいばかりの光が窓からさしこみました。王妃様はびっくりして、恐る恐る窓へと近づきます。そして窓の外を見つめその瞳を見開き、涙を流しました。
夜空には美しい光を放つ満月。そしてその満月のまわりから、数えきれない程の流れ星が西の大陸の一ヶ所に向かって流れていたのです。
まるで真昼かと勘違いしてしまいそうなほどの光を放ちながら、大量の流れ星が西の大陸の夜空を覆いました。人々は
「使従が選ばれた!! 夜の女王様ノチェが、我々に贈り物を下さった!!」
と口々に叫び声をあげ、喜びました。この日、西の大陸の不可侵の地、月の国に『夜の女王様ノチェ』の贈り物が届けられたのです。
自分の民を信じられなくなった『夜の女王様ノチェ』が地球と言う星から連れてきた、五歳の女の子がパパと一緒に “月の雫” をせっせと集めるのは、また別のお話。
《 final 》