乱獲された贈り物
『夜の女王様ノチェ』の大事な使従を殺めた国は、滅びの一途をたどるしかありませんでした。
“月の雫” が腐りはてたと言うのに病気が蔓延し、王族や貴族達は西の大陸の他の国に “月の雫” を求めに行きました。ところが、どんなに “月の雫” を買い求めても、この国に入った瞬間に “星の雫” は腐ってしまうのです。
貴族達は国を捨て “星の雫” を求め、同じ西の大陸の他国にまで行きました。でも、貴族達が助かることはありませんでした。なぜなら、他国であるにも関わらず、国を捨てた貴族達が “月の雫” を手にした瞬間、その “月の雫” は腐りはててしまうからです。
人々は、『夜の女王様ノチェ』の怒りがどんなに大きいのかを知りました。そして、使従の命を奪った国は滅んでいったのです。
長い時を経て、西の大陸の端に廃墟となった土地がありました。その昔、王都であった場所を中心に満月のような形をした土地。この土地では薬も効かず、植物も育ちません。ただ、その満月のような形をした土地の右側だけに三日月形の深い深い森がありました。
昔一つの国であったと言うその土地は、国を取り囲む他国に土地の一部を吸収され、廃墟と深い深い森だけが “呪われた土地” として残りました。人々はこの呪われた土地を、その形から “月の国” とよび、入ってはならない不可侵の国としていました。
使従がいなくなり一国が消えたことで、人々は疑心暗鬼に陥ります。そして “月の雫” を宿す植物や動物達を、我先にと乱獲しはじめたのです。
“月の雫” は使従が集めれば最大の効果を発揮しますが、一部の植物や動物からとれる “月の雫” は効果が少ないものの使従でなくとも集めることができました。
でも、人々は知らなかったのです。使従でなくても集められる “月の雫” を宿すものはとても繊細で、周りの環境や気配によってすぐに枯れはてなくなってしまうことを。
そんなある日、湖の近くに住む少女が一匹の小さな動物を助けました。弱っていた動物は少女になつき、少女のおかげで元気になっていきました。そしてある満月の夜、その動物の子供は満月を見て、一滴の涙を流したのです。それは間違いなく、『夜の女王様ノチェ』の贈り物と言われた “月の雫” でした。
この涙を流した動物は、『夜の女王様ノチェ』の眷属のカピバラ。かってカピバラは悪しき者によって長い長い間地下に閉じ込められていました。そんなカピバラを助け出したのは『夜の女王様ノチェ』。
助け出されたカピバラは、暗い暗い世界から満月が光輝く夜に助け出され、あまりに美しい月の光に感動して涙を流したのです。それ以来カピバラは満月の夜に一滴の涙 “月の雫” を流すようにり、助け出してくれた『夜の女王様ノチェ』に感謝して眷属になったのでした。