第二十三話
続きです。
よろしくお願いします。
ちゅんちゅん、ちちち
幸の部屋で迎える朝は相変わらず爽やかだった。きーっきーっ、かぁかぁと朝からなんだか呪われた気持ちになってしまう私の部屋とはわけが違う。これが私と幸の差なのかもしれないな、なんて思えてしまった。
初めてこの部屋で朝を迎えた時は少々混乱したけれど、これで三回目だからもう平気、すっかり慣れた。
私は女性だから適応力も高い。私達は元々、そういうふうにできているのだ。たぶん余程でもない限り、どこででも生きていける生き物なのだろう。
「ん、んーっ」
あー気持ちいいーと伸びをしながらちらっと隣で眠る幸を見る。と、ばっちり目が合った。幸は私を見て優しく微笑んでいたけれど、頭をぽりぽりと掻いて少しバツが悪そうにしてその微笑みを苦笑いに変えた。てへへという感じ。きっと、昨夜、声を上げて泣いてしまったことをちょっと恥ずかしいと思っているのだと思う。
その幸に、気にするなと声を掛けようにも伸びを途中で止めることはできない。たぶん気持ちいいからだと思うけれど止めようとしても止められない。人間とはやはり不思議なものなのだ。
「んーっ、はぁぁ」
幸は優しいから私の邪魔をすることなく伸びが終わるまで待っている。幸も止められないいことを分かっているから苦笑いのまま私を見ていたけれど、幸は伸びが終わると待ちきれなかったように、ふぇぇと脱力している私に寄り添ってくれた。
「おはよう夏織」
「おはよう幸。昨日はごめん」
「なんで?」
「だってさ、私だけ…」
幸は、そんなこと気にしなくていいのと首を横に振り、私から少し離れてうーんっと伸びをし始めた。その姿は寝起きながらもやはり様になっている。
かっけー、さすが幸だと思いながら私はそれが終わるのを待っている。
「ぐわっあぁぁぁ」
怪獣なのかと思わせるような、けれど凄く気持ち良さげにも聞こえる声を出したあと、幸は伸ばした腕を素早く私に廻してきた。
私が思った通り、声を上げて泣いてしまったことが照れくさいのか、かおりーと私の名を呟いて、幸は顔を隠すようにもぞもぞと潜り込むようにして私の胸に顔を埋めた。私はそんな可愛らしくも愛らしい幸をしっかりと抱いてから幸にもう一度誤った。
「ごめんね幸」
「気にしなくていいってば。夏織だってここで泣かせてくれたでしょう。私はそれで充分なの。ありがとう」
幸はそう言ってくれて私の胸に唇を寄せた。優しい幸はどこまでも私には甘い。そんなことをされてしまうと私の中に幸への愛しさが溢れてきて、よけいに申し訳ないような、甘ったれな自分が情けないような気になってしまう。
「だけどさ」
「夏織はね、傍にいてくれるだけでいいの。私の夏織。うふふ。これからも私にいっぱい甘えてね」
「幸は…それでいいの?」
「私はね、それがいいの。そうしていたいの」
「うーん」
私は考えてしまう。幸がそう望むならそれでいいのだろうけれど幸がしてくれるように、私も幸のことをいっぱい癒したいのだ。
「もしかして夏織、自分だけがとか思ってる?」
「まあ、そうかな」
「違うでしょう。私だって夏織に甘えているんだよ。ただ、甘え方が違うだけでさ」
なるほどなと私は思う。幸の言っていることは分かる。私は私で夏織は夏織。甘え方だってそれぞれだから私に不満はない、だから何の問題もないよと幸は言いたいのだ。
「それにさ、私達はずっと一緒でしょう?それならさ、泣きたくなったらいつでもここで泣けるから。それで私は癒されるの。だから、ね?」
幸が私で癒されている。幸はそう言ってくれた。私は図らずも幸を癒せていたのかも。
「そっか」
「うん」
「ありがと幸」
「夏織はそんなこと気にしなくていいの」
「うん」
私は幸が顔を埋めている胸に手を当てる。花ちゃんの真似をして、さっそく幸を癒してみることにしたのだ。
「泣きたい時はいつでもどうぞ。ほら幸、DだよD、ちょっ、うっひゃひゃ」
「もうさっきからかりてまーす」
幸が私の胸をぐりぐりとやってきて少しこそばゆい感じがした。
そのお陰で変な声が出てしまった私を面白がって、幸はさらにぐりぐりとやってくる。
「うりゃうりゃ」
「やめろって、あひゃっ。たんまたんま。でちゃうって、でちゃうからっ」
「でちゃうって、あはは。またまたぁ、そんなこと言って」
「いや、ほんとほんとっ、ひゃっ、あははは、ゆるむとヤバいんだってっ」
私は抱いている幸の背中を、もう止めろとぽかぽか叩きつつゆるんだナニを、気合を入れてぎゅっと締め直した。
これでもう暫くは保つ筈だ。いきたいけれどなんか楽しいし、いま私は幸から離れたくないの。私はもうちょいこのまま幸と遊んでいたいのだ。
「うりうり」
「うひっ、肋骨の、間とかやめ、ろっ、うひゃははははは」
けれど、一度ゆるむと中々に厳しいものがある。私はあっという間に負けてしまった。限界がきてしまったのだ。
「や、やっぱむり。ちょっとトイレ行ってくる」
「だめー」
「ちょっとっ、幸。止めろ、押すなばか、でるでる、でちゃうって」
幸は私を離さないどころか、ぎゅっと締めつけてきた。しかも、私の体を上向きにしてその上に乗ってしまった。
「私もしたいんだよねー、お先」
「そっちっ、から降りれ、ばいい、じゃんっ」
私ははち切れそうなナニを我慢しながら幸の方を指差した。なにも私の側から私を乗り越えようとしなくても普通にベッドから出られるのだから。
「いやぁ、こっち側は狭いからさ」
「あ、まて」
幸はにっこり笑って私のお腹に手を当てて起き上がるために体重をかけてきやがった。
「うあっ。でたでた、でちゃったから」
「うそだぁ」
幸はそう言いながらも私を探るように様子を窺っている。幸が止まったその隙を私は見逃さない。
私は今のうちにと私を押さえることを忘れた幸をひっくり返して起き上がり、お返しとばかりに幸のお腹に手をついて、よいしょと勢いよくベッドを出た。
「うがっ」
うわっ、ちょっとでちゃったよーとか言っているけれどそれを確認する余裕は私にはない。幸の声を背中に聞きながら、私はばたばたとトイレに向かった。
「いそげいそげ」
本当にでていたかどうかは教えない。替えるかどうかも教えない。これは私の名誉に関わることだから……いや、泣いてないし。
「ふ、ふぅ。あ、危なかったぁ」
「なんかわざとらしいなぁ」
トイレから出た私は、間一髪間に合ったぜーと額の汗を拭う振りをした。
それをしながらトイレの扉のすぐ側にいた幸をちら見すると、幸は怪しいなぁと笑いながらも、とても優しい顔をしている。さらにはとても優しい手つきで私の髪をひと撫でしてから、じゃあ私も失礼してと、私の横を通ってトイレに入っていった。
けれど今の私には、分かっているよ大丈夫わたしは何も気にしない的なその優しい顔と髪を撫でた仕草が今は逆に凄く辛い。
「セ、セーフだから。う、嘘じゃないからっ」
「へー、そうなんだ」
慌てて言い訳するかようにトイレに向かって叫ぶ私。扉の向こうからそういうことにしておくよと言って、あははと笑っている幸。
「ほんとだからっ」
「はいはい。わかったよー」
「くっ…はっ」
おっとそうだったと私は我に帰る。時間は有限。言い訳している場合じゃないのだ。
「いそげいそげ」
私は幸がトイレに入った今のうちにと、とととと足早にロータンスに向かった。何をとは言わないけれどとっとと替えなくてはならない。私は替えをひっ掴んで洗面所へと駆け込んだ。
「あれ?まだ起きないの?」
「いいのいいの。幸も来て」
「うん。でもちょっと待っててね」
幸はロータンスまでいって引き出しを開けた。そこから取り出した替えを持って再びトイレへと消えていった。
きっと、私の一撃が効いてしまったに違いない。
「なんだそっか。ふふふ」
ともあれ私と幸は同志だったのだ。それならべつに気にすることもないかと私は開き直る。仲間がいることはなんとも心強い。私は決して独りじゃないんだと分かったから。
「よかったよかった。なかまなかま」
こうしてなんだかよく分からない朝の一幕を終えて、私は今、ベッドに潜りこんで、まだかなぁと幸を待っているところ。
私は幸を待ちながら、やはり全てを無かったことにした。憶えている必要のないことは最初から無かったことにすればいいのだ。今回の失敗から学ぶことは何もない。寧ろ仲間がいたことを喜ぶべきだ。ならそれは当然の帰結。
「そうそう」
それにもしも幸が気にしているのなら後で幸にも教えてあげようと思う。
けれどまぁ、あれだけ堂々と替えを持って行ったところをみると、幸は全く気にしていないと思う。
「さすが幸」
その幸がトイレから出てきたところをおいでおいでと手招きをすると、呼ばれた幸はにこにこ顔でベッドの側までやってくると、何を思ったのか私の潜っていた布団をがばっと持ち上げた。
「さむっ。ちょっと幸、何してんの?」
「えっ?布団に入るんだよ」
「もうっ、早く入って。あったかい空気が逃げちゃうから」
「はーい」
くすくす笑って横に転がってもぞもぞと私にくっついてきた幸に私はすぐさま肘を入れてやった。
「あだっ」
「わざとだな」
「あはは。バレた?」
幸はあははと笑っている。そんな幸につられて、私もつい笑ってしまった。
こうした幸のちょっとしたいたずらもまた、実は私に甘えているのだ。それも私には幸がとても可愛く思えるところでもある。
「ああ、そっか」
そして私は納得する。さっきの会話。幸の言いたかったことはこういうことだったんだな、と。
こうして甘えることで幸が癒されているのなら、私だけじゃなくて、私達はお互いがお互いを癒しているのだと今ならはっきりと分かる。
「なるほど」
そう。つまりはそういうことなのだ。
幸は分かっていたんだな、さすが幸だなと私は感心してしまう。
その幸を様子を窺おうと、視線を胸元に向けてみれば、私の胸の谷間から上目遣いで、怒っちゃった?と私を見ている幸がいた。
そして私はいつものごとく、なんだこのかわいい女性はと、なすすべもなくいってしまうのだ。
「くはっ」
ほらね。
「幸の体が冷たい」
「ごめん。まだ寒いから冷えちゃった」
「いいよ。温めてあげる」
「お、ありがとう」
私にくっついてきた幸の体は冷たかった。私が幸に腕を廻してさっきのように胸に抱き直すと、その体の冷たさを感じて私はぶるっと震えてしまった。
「平気?」
「へいきへいき」
幸はそっかと頷いて嬉しそうにくくくと笑っいながら、ありがとうあったかいよと言ってくれた。
こうして幸を抱いていると、昨日の素敵な出来事も相まって、私は今すっごく幸せな時間の中にいるんだなとそんなふうに思えてくる。こんな時がいつまでも続けばいいのになと思う。
お腹が減ったら料理をしながらくっついて、何かを食べてまたくっついて、トイレに行ったらまたくっついて、お風呂に入ってまたくっついて、洗濯したらまたくっついて、仕事に行って帰ってきたらくっついて、ふたりでどこかに出掛けて帰ってきたらまたくっついていちゃいちゃして、愛しの幸に愛を囁いて交わして眠る。
多くの人達が当たり前のようにしている…かどうかは人それぞれだからよく分からないけれど、そんなような暮らしというか生活というか日常というか。
それを誰にも憚らず、隠すこともなく、近所の噂にもならず、どんな御関係ですかとも訊かれることもなく、後ろ指を指されずに私達らしく生きていく。
それができたらどんなに幸せなことだろうと、そうだったらいいのになと思う。今も、おそらくはこれから先も、たぶんあり得ない話だと分かっていても、それでも心のどこかで、頭の片隅でそう思ってしまう。
「くそう」
「どうしたの?」
「いや、なんかムカついて」
「大丈夫。きっとできるようになるよ」
「そうかなぁ」
な、わけがない。それは今そう言ってくれた幸だって分かっていること。
「私達が一緒なら全然余裕。楽勝だよ」
「うん。そうだった」
けれど、全てが気休めというわけでもない。幸の言う通りそのくらいの気構えでいればいいのかなとも思う。
普段から何にでも噛み付いていては疲れるだけ。結果良ければ全て良しと、そんな感じで普段は緩く、締めるところを締めていれば、たぶんそれでいいのだという気もする。
「ね」
「うん」
私達ではどうすることもできないことを、あれやこれやと悩んでいても考え込んでいても意味がない。労力と時間の無駄。不満や不安は私達には常に付いて回るのだから。それに囚われてしまうことはあっても、邪魔をすんなとソイツをどこかに蹴飛ばして私らしく笑って前を向く。
私には幸が、幸には私がいる。これからは死ぬまで一緒。それが何よりも心強いことだからそれでいいのだとも思う。
「ねぇ幸」
「ん?」
「昨日はありがと。すごく嬉しかった」
「そう?でも、夏織が切っ掛けをくれたからね。私もそうしたかったけどまだ早いかなぁとか色々考えたりしてたからさ」
「そうなの?」
「そうなの。夏織が私の背中を押してくれたんだよ。伝えることができたのは夏織のお陰」
「関係ないよ。言ってくれて凄く嬉しかったし」
「えへへ」
照れた幸はなんだかとても可愛かった。
昨日、幸がしてくれたプロポーズ的なヤツ。それは私の人生で、といっても人生を語れるほど生きてはいないけれど、それでももっとも尊くて素敵で最高の瞬間だった。今まで生きていて本当に良かったと思えるものだった。
きっとその光景は、歳を重ねる毎に少しずつ色褪せてしまう。けれど、忘れることは絶対にない。あの時の幸の私を見つめる優しい顔と、死ぬまで傍にいてと力強く伝えてくれた幸の声は、私にとっては永遠なのだから。あの瞬間が私の中から消えることなどあり得ないのだから。
「本当はさ、私からするつもりだったんだけど」
「今からでもいいよ?」
幸が伝えてくれたそれ。私も言葉にしてみたい。伝えたい。
だから私は胸に抱いたままの幸にそれを告げた。
「幸、私と結婚してくれる?」
「なななななっ」
幸は驚いて固まった。その表情は見えないから分からないけれど、きっと間抜けな顔をしていると思う。私は幸の髪を撫でながら復活するのを待つことにした。
「ふふふ」
少し待っていると幸が動き出した。私は幸の顔を覗き込む。もう一度、今度はちゃんと幸の顔を見て、私の想いを伝えるつもり。
「あー、びっくりした」
「なんで?」
「だって、結婚してなんて言われるとは普通思わないでしょ。なんか嬉しくて」
「そっか。ねぇ幸、私と結婚してくれる?」
「ぐはっ…は、はい。もちろん」
「ふふふ。よかった」
「これからもよろしくね、夏織」
「うん。こっちこそよろしくお願いします」
「くくく」
「ふふふ」
愛しいの幸が笑っている。私も嬉しくなって幸を思い切り抱き締めた。幸は、ぐぇってなっているけれどきつく抱き締めて離さない。離すことなんて絶対にしない。私は幸にそう伝えたいのだ。そしてこの想いは必ず伝わる。だって私と幸だから。
「ち、ちょっと夏織、苦しいよっ」
「へいきへいき」
「なんでっ?」
結婚してと伝えたのはそう言ってみたかったから。けれど、それを言葉にしたところで、伝えたところで今はこの国では結婚なんてできるわけがない。そんなことは分かりきったこと。
けれどそんなことは、今の私達にはどうでもいいこと。
私達にとって大切なことは、その想いであってその言葉であって、それが私達を固く結んでくれる。だから私達にとって意味のないそれを、私が口にしたことにも意味はある。
この先どばどば出てくる面倒で厄介なことをふたりで乗り越えながら生きていくという覚悟と、最後に残った希望を見出して、それを忘れずに胸に抱く、いわゆるパンドラの箱的な、いつだって希望はそこにあるぞというヤツ。私もそう思いたい。
私達は昨日も、そして今も、くそ面倒くさい難しいことは何ひとつ口にしなかった。そんなことは分かりきったことだから、百%とはいかなくても、嬉しくて幸せな気分だけを味わった。それでよかったのだと思う。
けれど、いつまでも目を背け続けるわけにはいかない。私も幸もそんなことは分かっているのだ。私達の仲を進めていこうとすればするほど面倒で厄介なことから目を背けられなくなるのだから。
それでもあと少しくらいは幸せな気分だけでいさせてもらいたい。
「結婚かぁ。いいなぁ」
「そのうちできるかもしれないし」
「お。そう思うの?」
「今はね。幸のおかげでそう思えるの」
「そっか。でもその方が絶対に楽しいよねー。生きていく張り合いがあるって感じで」
「うん」
甘いねと、いろんな人にそう突っ込まれてしまいそうな本当に甘くてくそみたいな無駄な願い。
けれど、希望は希望。私達は私達。いつかきっとと思っていてもべつにバチは当たらない。なら私達はそれでいい。
「ね、幸。キスしよう」
私は幸の顔のところまでもぞもぞと降りていく。そして唇を突き出した。
「私たち寝起きだよ?」
「いいのいいの。ちょっと触れるだけのヤツだから」
「そういえば夏織、前にキスなんて唾液の交換みたいなものだから好きな人としかできないとか言ってたよね」
にやにやしながら幸が言う。私は真面目な顔で答えてしまう。だって私は本気でそう思っているのだから。
「そんなの当たり前だから。お口の中には一億とか二億とか菌がいるんでしょ?でろでろチューはどうしても交換するみたいになるんだから好きじゃなきゃできない。むり」
私がそう力説していると幸が私の唇に軽く触れた。本当にほんの一瞬触れただけ。
「これは?」
「「セーフ」」
そう声を合わせた私達。足りないけれど我慢する。感情に任せて調子に乗ってはいけない。そんなことをすれば百年の恋も冷めてしまうのだ。
幸を見つめると柔らかく微笑んでいる。私もまた微笑んでいる。私はそれで満足して、再びもぞもぞと動き胸に幸を抱くと、幸はぐりぐりと顔を埋めてくる。そんなことを暫くして、幸は満足して大人しくなった。
私は埋まっている幸の髪を撫でる。堪らなく愛しくて想いがはち切れそうになる。
「好きだよ。ずっと一緒だから」
「うん。ずっと一緒ね。大好き」
私がそう伝えればもごもごと篭もった声で幸が想いを伝えてくれる。打てば響くとでも言えばいいのか、いや、この場合はちょっと違うか。
「夏織、私お腹減っちゃった」
こうして暫く抱き合ったあと、幸がお腹と背中がくっつきそうだよと訴えてきた。時計を見ると午前十時半。
「じゃあ、そろそろ起きるとするか」
「うん。今日の朝ごはんはなに?」
「パンケーキ。エリートの食事ってヤツ」
なんだそれはと幸が笑う。それを目にすると私は幸せな気分になる。
「よいしょ」
私は幸の笑顔に満足してベッド出てとことことキッチンに向かう。その後ろを、待ってよーと幸がついてくる。
まだそれほど繰り返してはいないけれど、それは定番になりつつある私達の日曜日の朝の景色。
「捕まえたっ」
私に廻された幸の腕にそっと手を添える。幸が私を充してくれる。なんとなく感慨深いものがある。
ベッドとトイレで一話を終えました。
けど平気。わたしは気にしない。しないしない。
私ごとですが、持病の薬を変えたせいでお腹と顔がまあるくなってまいりました。顔はいわゆるムーンフェイスというヤツです。副作用ってこわい、けど鏡を見る度になんか笑っちゃう今日この頃です。
読んでくれてありがとうございます。