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woman  作者: しは かた
10/102

第八話

続きです。

相変わらずの長さです。

よろしくお願いします。

 


 いま幸はとても楽しそう。


「ちょっと待ってて。いま冷ますから」


「うん。あ、ねぇ幸」


「なに?」


 私が声を掛けても幸は私を見もしない。私はこれからお粥を冷ますのに忙しいから貴女の声は右から左に抜けています、みたいな感じになっている。まるで聞く耳を持たなくなる私のスイーツ話の時のようでなんかちょっと怖い。


「やっぱりいいや」


「そう」


 隣に座る私は今更ながら、照れ臭いし何かむずむずしてきちゃうからやめてくれないかなぁ、でも幸がなぁ、なんて思いつつ、そんな幸を見ている。






「ぐはっ」


 私の渾身のゆるふわ攻撃(いち)(かた)にそんな声を出して蹲り、あたかも吐血してしまったのかと思わせるスーパーなリアクションを見せてくれた幸はパックのお粥を食べるにあたってふたつのお願いをしてきた。

 ひとつは自分が買ってきた鍋とお玉を使うこと。



「ねぇ夏織、温めるくらいいいでしょ。これせっかく買ったんだよ。わたしこれ持って走って来たんだよ。ね、ね」


 私の枕元に座って無駄になる瀬戸際に追い込まれている渦中の鍋とお玉を振り回しながら必死でそんなことを言う幸を見ていると、いくらでも毒を吐ける女と影で言われているような気がしている私でも、好きで走って来たんでしょ知らないよそんなこと、とは言えなかった。


「わかった。いいよ」


 私だって幸が私を心配して走って来てくれたことは分かっている。そのことは嬉しくもあり感激もしている。

 それに新品の鍋とお玉を手にそんなアピールをされてしまっては、さすがの私も駄目とは言えない。放っておくとそのうち振り回している鍋かお玉が私に当たりそうだし。



「やったっ」


 私の許しを得た幸は凄く嬉しそうにぴょんぴょんと跳ね始めた。

 そんな幸を見ていると私も嬉しくなって顔が綻んでくるけれど、下の住人に怒られないかなとそれが気になってしまう。


「幸」


 私は立てた人差し指を唇に当てる。それを見て、あ、そうだったみたいな顔をして跳ねるのをやめた幸もまた、私と同じように立てた人差し指を唇に当てて、私に向けてしーっとか言っている。

 私はそんな幸を見て、いやいや私は静かだからなんて思いながら、幸はこの部屋に来てからというもの普段とは明らかに違っているように感じていた。


 うまく言えないけれど、気を張っていないというか緩いというかいつものしっかり者の幸とはまるで違って、我儘を言ったりはしゃいだりしているのだ。

 外と内とでは違って当然だと思うけれど、私としては、私の部屋にふたりでいることが嬉しくてはしゃいでいるのかなとか、思っていたよりも私の体調が遥かに良くなっていたからから安心して気が緩んだのかななんて思いたくなる。


 その幸は今も、楽しくてどうにも落ち着かないといったふうに見える。それに少し浮ついている感じもする。こういう幸を見たことがなかったわけじゃないけれど、八年あっても片手に余るくらいのことだった筈だ。

 普段は見えないもしくは見せようとしない幸の違った一面をこうして垣間見ることは私にとって思いがけないご褒美とでも言うべきことだから、さっき私は幸に甘えちゃおうと決めたけれど、幸が甘えてくるのなら私はしっかり者のお姉さんとして振舞うことにするつもり。



「なんか新鮮だし」


「ん?なにが?」


「幸が」


「なにそれ?」


「幸が子供みたいにはしゃいでてかわいいってこと」


「なななっ」


 ただし子供みたいだからといって、決してお母さんとは呼ばせないけれど。


「あ、じゃあさ、夏織マ」

「あ゛、誰が夏織ママだこら」


「ぷっ。自分で言っちゃうの?あはは」



 と、まぁ、チンの方が早くて簡単なんだけれど、お粥を温めるだけだからまさか焦がしたり不味くなったりなんてことはないだろうと思って、私は鍋を使っても構わないことにしたのだ。大丈夫。たぶん。




 そしてもうひとつがこれ。


「夏織には私が食べさせたい。私はそれを楽しみに今日一日を生きてたの。せめてそれだけはやらせて。お願い。ねっ、ねっ」


「わかった。いいよ」


「やったっ」


 自らお粥を作ってそれを食べさせるまでが幸の計画だった。

 大体、それをとても楽しみに今日を生きてたのなんて言われてしまったら、そんなのどうして断ることなどできようか。勝手にそう思っていたんでしょ知らないよそんなこと、なんてさすがの毒吐き女の私でも絶対に言えない。もしそんなことを言ってしまったら、いってしまえと言ってしまうようなものだから。



 そして再び私のお許しを得た幸は今、嬉しさのあまりにいつかの映画で見たような膝をついて両手を上に挙げた姿勢で静かにおおおとかやっている。きっと騒がしくないように気を使って喜びの表現の仕方を変えたのだと思う。

 そこはさすが幸だと感心してしまうけれど、幸が真似ているその人は確かそのあといってしまった筈。幸は本当にそれでいいのだろうか。


「おおおー」



 この時、私には勝者としての余裕があった。鍋やお玉のこともあって、もうなんでも来いや受け止めちゃうぞと驕っていたのだ。

 それに私は、幸にお粥を食べさせてもらうことなんて幸が一からお粥を作った場合に起こり得る、何をどうしたらこうなってしまうのか的な惨事とは比べ物にならないほど楽なことだなと思ってしまっていたのだ。


「おおおー」


「幸。もういいから」


「おおおー、お?伝わったの?」


「哲学者の名前っぽいヤツでしょ」


「おー、さすが夏織」


 幸は満足そうに笑っている。私に伝わったことが嬉しいのだろうと思うけれど、哲学者で私が分かっていることを分かる幸も尋常ではないなと私は思う。





「じゃあいってくる。任せておいてね」


「わかった。幸、鍋から目を離しちゃダメだから」


「楽勝よ」


 私に背を向けて軽やかにキッチンに消えていく幸が後ろ手に部屋の扉を閉めた。

 幸はいってくるとか言っていたけれど、お粥がいってしまったらどうしよう。腐るほどあるけれどそれはそれ。私はお粥を無駄にして欲しくないの。

 それになぜ幸は温めてくると言わなかったのか。いってくるとかこれからひき起こそうとしている何かを予言というか暗に予告でもしているのかなと不安になる。


「大丈夫かな?」


 がっしゃんごろごろぐわんぐわんぐわわわーん。


「きゃっ」


「え」


 なに今の可愛らしい悲鳴は。

 ああそうか。たぶんいま幸はあの小さい鍋を転がしてしまったのだろう。どうやらいってしまったのは鍋だったようだ。幸でもお粥でもなくてよかった。


「まったくもう」


 幸は何をしているのやらと思うけれど、そこは滅多に聞けない幸の可愛らしい悲鳴が聞けたから良しとする。


「ふふふ。かわいい悲鳴もあげられるとはさすが幸」


 転がったと思われる鍋のことは気にもしないで幸の可愛い悲鳴を聞けて喜んでいる私も相当だなと苦笑いを浮かべたところで不意に頭をよぎる嫌な絵面。


「うへぇ」


 もし、既にお粥が鍋の中に入っていたらそれこそ幸の予告通りにキッチン周りが大惨事なんですけど。


「こわい」


 私はすぐにそれを頭から追い出して、敢えて様子を見に行くこともしないで掛けている布団の中にもぞもぞと潜り込む。

 知らなくていいことは知らなくていい。好奇心はなんたらかんたらなのだから。


「くわばらくわばら」




 そして、私が布団に潜ったまま明日は仕事に行けそうだなとか、午後いちで予定があった筈だからちょっとスマホで確認しようかな、ほらねやっぱりあったとかやって逃避すること十五分、夏織どこーと呼ぶ声に布団から顔を出すときょろきょろしながら鍋とお椀ふたつとスプーン二本を器用に持った幸がやってやりましたよ私みたいな満足げな顔をして、そこに居たのかーとか言いながら私の側に近寄ってくるところだった。

 私はその姿に、ああよかった、幸はやり切ってくれたのだと、自然と安堵のため息を漏らしていた。



「お待たせ夏織。ちゃんとできたよ」


「ほんと、ありがとうございます」


「なによ。そんなにあらたまったお礼なんてべつにいいのに」


「え。ああ、うん」


 私はとにかく無事に現れた幸を見て、ただそのことに感謝を捧げただけなんだよねと思いながらお粥を食べる、いや違う、食べさせられるためによっこらしょっとベッドから抜け出した。





 こうして幸は今、私に目もくれず口を尖らせてふーふーとお粥を冷ましているところなわけ。


「これくらいかな」


 いよいよ幸が望んでいたイベントが始まるんだなと思って私も覚悟を決めようとしたけれど、幸はおもむろに冷ましていたお粥をぱくっと食べてほふほふとやりだした。

 それを見ていた私は何で自分で食べちゃうんだろうと思わずそれを口に出す。


「なんで?」


「まだ熱いかな?んー、もうちょい冷まさないとダメなんだね」


 私の疑問に答えることもせず、変わらず私に目もくれず、そんなことをぶつぶつ言っている幸。どうやら食べ頃の温度の確認したくて自分で食べてみようと思ったらしかった。

 けれど、すかされたせいで私の覚悟は無駄になってしまった。またいちから気持ちを作り直すとか勘弁してほしい。



「ねぇ幸、やっぱりやめない?」


「やめません」


 間近でこんな幸を見ているのだからこれはこれで凄く新鮮で嬉しいんだけれど、私が思っていた以上に私にはコレはちょっとキツイかなと思っていたりするのも確かなのだ。


 私は基本的には自分のことは自分でしたい人。例えばコーヒーが飲みたかったら自分で淹れるし、何か欲しいものがあったらついででも人に頼まないで自分で買いに行く。そういうことで人を使うのは私はあまり好きではない。

 そして私は好きな女性に対して何かをするのが好きな人。その人のために飲み物を淹れたり料理をしたり、それこそ恋人には口うるさ…甲斐甲斐しく世話を焼くのが好きだから、それを鬱陶しく思われて揉めたこともあったし、それが別れの原因になったことも、ってそれはいま全く関係ない話だった……いや、泣いてないから。


 とにかく私は今から幸がしてくれるようなことには慣れていない。どうしたって照れ臭いのだ。自分がそうなった場合どうしていいのか分からなくなって、何となく居心地が悪くなってしまう。

 幸がやたらと私を構っていた何時ぞやのだたっ広い休憩スペースの時と同じで、嫌じゃないけれど、凄く嬉しいんだけれど、落ち着かなくなるというか何かこう、慌てちゃったりむずむずしちゃってそれが態度に出てしまう。


 これから世話を焼こうとしている幸を前に、私は今まさにそんな感じになっているのだ。


「はぁ」


 私のそんな思いなど知る由もない幸が、こんなものかな、そろそろいいかなとか言いながら、どんどん先に進めていく。

 そしてついに、幸はお粥を乗っけたスプーンを手に満足そうに私の方を向いた。


「これくらいかな。はい夏織。あーん」


「ぶふっ。こほこほっ、こほこほっ」


 まさかあーんが付くとは思っていなかった私は、そのせいで咳き込んでしまった。


「大丈夫?」


「あ、あのさ、子供じゃないんだしあーんはちょっと…」


「夏織はいいよって言った」


「えと、私そんなこと言ったかな?…あ、い、いや、言ったねうん、言った」


「そうよ」


 かな?、のところで私は可愛く首を傾げて惚けてみせたけれど幸の切れ長奥二重の目は動じることなく、眼光鋭く私を見つめていた。

 これは怖い。しかも私のゆるふわ攻撃一の型がもはや通用しないだなんてさすがは幸と賞賛せざるを得ない。


 けれど私は、はたと何かがおかしいことに気づく。確かに食べさせられることには同意したけれど、約束は約束だけれど、そこにあーんはなかった筈。


「でも幸。あーんは…」


「なによ」


「い、いや、なにも」


「そう」


 分かってくれて嬉しいよとにっこり微笑む幸はなんか凄く怖い。なんでここまで拘るのか全く理解できないけれど、いつまでもこの掛け合いを引っ張っていても仕方ないと思って私は自分を納得させることにした。

 私は今日は姉のように振る舞うのだから幸の我儘をはいはいわかったよと笑って聞いてあげる優しい姉の体で。くっ。



「はい夏織、あーん」


「ぁ-…」


「きこえなーい」


「あ、あーん」


「はいどうぞ」


 私は全てを諦めて、あーんと声を出して口を開けた。そして、幸がよく出来ましたと嬉しそうに差し出しているお粥を口に入れた。


「あむっ」


 あーっ、私がっ、この私がっ、いままで一度も、幼い頃ならいざ知らず、私の記憶の限りでは親にすら言ったことないあーんを言ってしまうなんてっ。しかもっ、最終的にいってしまうのが鍋でもお玉でも幸でもお粥でもなくまさかの私だったとはっ。


 一瞬そんなことを考えてなんだが凄くもやもやっとしたけれど、お粥に罪はひとつもないし、昨日も今日も温かく私を癒してくれたありがたいお粥だからと私は気を取り直し、感謝の気持ちを込めてお粥をちゃんと味わうことにした。


「ん」


 幸のチョイスは梅。そしてお粥の味はお粥だった。焦げ臭くもなく愛情のスパイスがどうのといった奇妙なアレンジもなく、味は全く変わっていなかったのだ。

 あ、これでも私は幸の愛情だけはどうしてもほしいと思ってるから。


「んー」


 これは間違いなくプラスもマイナスもない素朴な梅のお粥だった。

 よかったね幸。少なくともお粥の味を変えないということに関しては幸はレンジと同じレベルかそれ以上ということになるんだから。レンジは過熱しすぎると味が変わってしまうこともあるし。ただね。


「どう?どう?ねぇ夏織?美味しい?」


 幸は期待に満ちた眼差しで私を凝視しながらそのひと言を待っている。

 ならば私に穴が開いてしまう前に是非その期待に応えてあげようではないか。ふふふふふ。



「ぬっる。幸、ちゃんと温めたの?」



「なななっ」





 結局、お粥を巡る攻防は痛み分けのようになった。幸は温めることにさえ失敗して、というよりも、私に食べさせるためにふーふーしている間に鍋のお粥も温くなってしまったのだ。何かのコントなの?

 幸曰く、全てが初めてのことだったからやたらと慎重になってしまったの、とのこと。


 私はあーんと言ってしまったこと。さらに、比喩的にではあるけれど最終的にいってしまったのが私だったから。何だそれはと思うかもしれないけれど、私は酷く負けた気分になってしまったんだから仕方ない。



「「負けた」」


「「ん?」」


「ふふふふふ」

「あはははは」




 ふたりして同じ台詞を呟いてふふふあははと笑ったあと、幸と私はふたりでキッチンに立った。

 これはこうするんだよとか言っちゃったり、必要もないのにわざと幸の手を取っちゃったりしながらお粥を温め直してそれをふたりで食べた。その際、ウチにある海苔とか白ゴマとか、幸の買ってきた卵とネギも加えて、私なりの愛情のスパイスをお粥に込めておいた。幸に伝わるといいなと思って。



「なにこれ凄く美味しい」


「そんなの当然でしょ」


 私の愛情がたっぷりと入っているのだからそれは当然なんだけれど、まぁ、その愛情云々はともかく美味さはちゃんと伝わっていた。



「やっぱりすごい格好だよね」


「その(くだり)、またやるの?」


「いや、いい。それより具合はどうなの?つらくない?」


「んー。なんかもう大丈夫そう。幸が来てくれたお陰かも」


「お。そう思うならあーんしてもいい?」


「それはない」


「えー。けーち、けーち、けち夏織」


 食事中、こんな感じで幸がもこもこな私の格好をからかったり、風邪の具合を心配してくれたり、しつこくお粥を食べさせたがったりと、色々あって楽しかった。

 それから私の買い込んだコンビニスイーツとか、幸が買って来てくれた苺とかみかんを食べながら、幸にも苦手なものがあるとはねと笑っていると、だったら料理を教えてほしいと真顔で言われたからふたつ返事でそれを承諾した。



「幸、下手くそ過ぎ。あれじゃ怖くて見ていられない」


「だったら夏織が教えてよ」


「いいよ。いつでも教えてあげる」


「やった。風邪が治ったらお願いね」


「うん」


 やった。これこそまさに私へのご褒美。料理を教えることで幸とふたりで過ごせる機会が増えるのだから当然逃すことなどできないのだ。


「ふふふ」



 と、こんな感じでほのぼのほんわか過ごしていたけれど、その一方で、私は今も気が気でなかったりする。



「あのさ」


「なぁに」


 たとえそうなったとしても何かが起こるとは到底思えない主にこの後の展開について。

 それのせいでまた私の熱が上がってしまうかも知れない、例のアレ。



「幸はさ」


「うん?」


「幸は今日、泊まっていくつもりなの?」


 私はそれを訊いてやった。だって、なんだか凄く落ち着かないんだから。時間も時間だし、いつまでももやもやしているのも嫌だから。



「あたりまえだのって、あれ?えっ、なんで?ダメなの?」


 幸、ふっる。幸、かっる。と、幸の随分と古いヤツとか軽い口調に、あーあ、幸にとってウチに泊まることはその程度のことなのかと私はがっかりしてしまった。

 けれど、その口調とは裏腹に、幸はそう言ったあと目を伏せて眉間に少しだけ皺を寄せていた。さらには両手をきゅっと握り締め、唇を固く結んでいる。


 それに気付いた私は幸が緊張しているのだと分かった。幸が緊張するときはこんなふうになることを私は知っているのだから。幸はそれを隠そうとして、敢えて軽い口調でそんなことを言ったのだ。


 それはなぜ?


 私は分かってしまった。この部屋に来てからずっと、幸も私と同じだったのだ。あのはしゃぎぶりは本物で、だけど緊張の裏返しでもあったのだ。

 そして私は分かってしまった。幸も私と同じだったのだ。やはりはしゃいでいた幸は本物で、いつもと違うこんな私も私なのよと、私に見せてくれていたのだ。


 ならそれはなぜ?


 つまり幸は私と同じことをしたのだ。幸は私に自分のことを知ってほしかったのだ。

 その幸はいまだ私に断られることを怖がって、そのことに気をとられている。だから緊張していることを上手く隠すことができなくて私に色々と悟られてしまったのだ。



 ああ、そうか。つまりはそういうことなんだ。


 どきどきして心臓が痛い。

 幸。私は気付いたよ。私と幸はきっと同じ気持ち。


 まあまあ優秀な私が気付いたのだから聡明な幸ならもう気付いている筈なのに、どうやら幸は緊張し過ぎてそれどころではなかったみたい。なんか笑ってしまうけれど、放っておいても幸ならそのうち気付くだろう。


 ははは。それにしても幸ったら怖がって緊張しちゃってばれるなんて。

 恋ってものは、いざという時には、幾つになっても怖くなってしまうこともあるし緊張してしまうものなんだなぁなんて思いながら、私は緩む顔を幸に向けた。



「いや、いいよべつに。予備の布団あるし」


 私はそんなふうに言ってみた。

 どきどきしている心臓がこれ以上痛くならないように、また熱が上がってしまわないように、期待に押し潰されないように、幸を真似てあくまで軽く。





キャラが独り立ちしたような気がしています。彼女がそれを望むならそれでいこうかな、みたいな感じです。修正は必要ですが。


読んでくれてありがとうございます。

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