白百合いっぽん
——ねえねえ、こっち見てよ。
君の気を引こうとして、話しかけてみる。
つんつん、袖を引いてみる。
髪の毛をわしゃわしゃ、乱してみる。
なのに、君はわたしに気づかない。
どうして?
なんでわたしを見てくれないの?
つまんない。
つまんない。
窓の方を見ると、日がこちらに射してきていた。
眩しいなぁ、と手をかざしても。
やっぱりお日様はギラギラしてた。
——ねえ、聡美。
君が呟いた。
やっと気づいたか。
なあに、なあに。
——君はどこにいるの?
やだなぁ、ここにいるよ。
ずうっと、ずっと、ここにいるのに。
無視してるのは、そっちだよ?
諦めたような、ため息をひとつ。
君がついたから、わたしもため息。
まねっこ、まねっこ。
黒いジーパン、白いシャツ。
黒い上着に、白いハンカチ。
黒靴下に、黒い靴履いて。
君は出かける。わたしは追いかける。
花屋に着いて、君は花を買う。
喜んでくれる? そう訊いたから。
もちろんだよと、うなづいた。
その花言葉、知ってるよ。
純粋っていうの。でも、それは。
白百合いっぽんは、死者へ捧げる花。
タクシー拾い、乗り込む君。
わたしも飛び乗り、ついてった。
どちらへ? と訊かれ、君は答える。
——市営墓地まで。
お墓参りかな?
水を汲んでから、君は歩いた。
後を追いかけ、到着したら。
そこには新しい、お墓が一つ。
だれのお墓かな。ねえ、誰の?
問いかけたって、答えてくれない。
横に彫られた、名前を見たら。
そこにあったのは、わたしの名前。
墓を掃除して、花を供え。
線香もやして、君は手を合わせる。
——どうだい、綺麗だろ?
君は言った。
——聡美が好きだった、白百合だよ。
滴を落として、泣いて、言った。
どうして、どうして見えないの?
なんでわたしに気づかないの?
まさか死んでるとは思わなかったけど。
でも、わたしは今、ここにいるのに。
どうして、どうして分からないの?
お願い、お願い。
泣かないで。
ずっとずっと、そばにいるから。




