明日の不安
「のんびりと過ごす時間は最高だな」
「…………」
愛息は隣でうとうと船こいでるし……ますますイベリスに似てきたな…でも目元はオレに似ていると皆は言うよ。
「おっ…トウリの竿に掛かったな」
「う…ん?」
「トウリ掛かってるぞ」
「もう…少し」
「仕方ないオレが釣るか」
バシャバシャ…と釣れたのは…。
「カッパ様何してるんです?」
「ゴールドマスの切り身を餌にするのはワイどうかと思うねん」
「……何で餌につられて掛かるんですか」
「それはゴールドマスの切り身には逆らえない質なんや」
「…………はぁ」
「溜め息とはなんや」
「このシルト湖に住む極上の海老を釣るために用意したのに食われましたからね」
「あのキモい海老のどこが旨いんや…」
「確かに色はグロテスクですが旨いんです」
「ティルクスは極稀にワイに攻撃してくるが…普段は様づけと敬語で話すからサービスしてやるわ…待っててみぃや」
ドポンと水中に潜っていったカッパ様。
「……ふぁ…父さん…私寝てました?」
「あぁ、寝てたぞ」
「私の竿の餌がなくなってる…」
「その事は大丈夫だ、餌を食べたご本人が責任を取ってくれるそうだからな」
「……またあのカッパですか?」
「マスコット的な…な?」
「父さん…何故混乱してるのですか?」
「トウリも今年で十歳だもんな~」
「話をそらさないでください…まだ誕生日が来てないので九歳です」
「無事にここまで育ってくれたんだからな」
「話の途中すまんなコレだけ捕まえれば良いか?」
カッパ様は極上のショッキングピンク色の海老を十五匹持ってきた。
「コレだけあれば充分ですよカッパ様」
「ならワイも帰るわ…またなおふたりさん」
カッパはイケてる表情をしてシルト湖の一番深い場所に守護者に引きずられていった。
「父さん、あんまりベタベタ触らないでください」
「可愛い愛息子をなで回したいだけだ」
「答えになってませんよ!」
「…トウリ帰るぞ」
「わかってますよ」
「そうぷりぷり怒るな…明日はばあちゃんの訓練やるんだろ?」
「そうですね…父さんの時はどうだったのですか?」
「オレの時は気付いてなかったと言うのが正解だろうなー」
そう…実はオレもテムル兄さんたちが怯えているばあちゃんの訓練であるデスマッチ鬼ごっこをやっていたらしい……今は絶縁した元友人と過ごした【彩り花山】と言う綺麗な山で過ごした1週間のキャンプが実はばあちゃんの訓練…通称【ガチ鬼ごっこ】をしていたらしい。
内容はばあちゃんがどこからか借りてくる本物の【鬼】を使った鬼ごっこで捕まったら死ぬと言うガチでヤバい鬼ごっこである。
確かにオレも金棒持った変なのに追いかけられて景色楽しみたいから罠に嵌めてす巻きにした覚えが……。
「…ばあ様が訓練にならなかったて言ってましたね」
「でもとても強かったのは覚えてるよ」
「その当時の父さんはどれだけ強かったのでしょう…」
「心配はないよ…でもコレだけは覚えておけトウリ、アーリィたちと協力し助け合うんだそうすればきっと上手く行くだろう…喧嘩することもあるかも知れないがな」
「私は何事もなく終わることを願ってますよ」
「さてと帰るぞ」
「父さん」
「何だトウリ」
「今日は手を繋いでも良いですよ」
「何だ急に…」
「私はしばらく家を空けるので」
「…なら遠慮はしないぞ?」
「はい」
ふたりで村の近くまで手を繋いで帰っていった。
「お帰りなさい」
「海老取って来たよ」
「わぁ…こんなに良く釣れたね」
「実は……」
五分後…
「食われたのね…」
「カッパらしいや」
「美味しそうねぇ~」
「コレなら宴にちょうど良いわ~」
「ついに始まるのね…」
「アレがね…」
「ママたち怖いわ…」
「いつも通りやれば平気だろ」
◇◇◇
「景気つけにたくさん食べなさいな!」
「お母の隣もらい」
「娘よ…」
「宴じゃー!」
「飲んで食うぞ!」
「いただきま~す!」
「もうコレをやる時期になったんだな」
「ホントにやるんですよね…」
「まぁ…アイツらが邪魔してくるかも知れないから大人も何人か連れてくけどね?」
「キツいよなアレ」
「今から不安にさせないのよ」
「皆、通ってきた道だ頑張りなさい」
明日から不安な日々が始まる…持つかなオレ…この日はあんまり盛り上がれなかった。
「男たちが伸びないとは…珍しい事もあるもんだね」
「肝心の母親たちが今回は伸びたからね」
「相変わらず酒強いなシカナさんたちは」
「俺はアガーテが心配でな…飲めなかったよ」
「確かに…師匠が最近大人しいからな」
「ヴァンヘルムたちの動きはこちらで確認してるからな」
「もしかして…」
「トルヤたちの考えてる事を実行しようとしてるからコルエルやラケルといった年長組に邪魔をしに行ってもらうぞ」
「懲りない人たちだな」
「だからロリコンって言われてるだろ?」
「親父殿…」
「可愛い孫に指1つ触れさせねぇ」
「ヴァンについては前科が有るからな」
「マリウスさんとカリス村長…」
「マリーナたちの世代でも有ったからな」
「どうにかならないの?じいちゃんたち」
「どうにもならないだろうよ…1000年前からアレだからね」
「ヴァンヘルム許さん」
「どうしたんだよカフェルネ」
「アイツは…アイツは!我輩の愛娘すら狙ってきてるぞ!それに」
「ヴァンヘルムはモテるからな~ギルドの女性たちからモテモテなのに全部断ってるし」
「拗らせ童○じゃからなアイツは」
「村の娘たちを諦めて身を固めれば良いものを…」
「娘たちから向こうに行くなら少しの反対をするが」
「この村からヴァンの花嫁は出ないよ」
「えっ」
「ばっばあちゃん…」
「もうしばらくの辛抱だよ」
「ヴァンにも年貢の納め時が来るから安心しろ」
「「ふふふ…」」
じいちゃんたちの黒い笑顔が見えた…何か企んでるのか?
「今日はサニカ婆の家でお泊まりですよね?」
「そうだね…まだ魔神教の奴らに見つかってないが…その方が安心だろうね」
「よし俺たちも手伝うからそろそろ運ぶか」
「そうだな…さてと動くか」
今回は若い男性たちが残っていた事で素早く終わった。
じいちゃん達の黒い笑顔か忘れられないよ。