目覚め
~???~
「ここはどこだ?」
「ここはティルクス…君の心の中だよ」
声がした方を振り向くと綺麗な人が立っていた。
「あなたは」
「私の名はマリンティア…君の祖父に当たるものです」
「急に祖父が現れたんだけど」
「君からすればそうでしょうね」
「母さんは出て来てくれないんだな」
「スイセットは自由人ですからね」
「どうしてオレの中に祖父であるあなたが居るのですか?」
「君の中にある私から引き継いでいる妖精の魔力を解放するためです」
「育ての親であるじいちゃんとばあちゃんでも気づけなかった」
「君を拾った辺りの頃のふたりは魔神の心臓の封印を溜め込んだ魔力と自身の魔力を全て使いきって封印を強化したから隅から隅まで調べられなかったのです。
もし今みたいに魔力が戻って居たのであれば全てわかっていたでしょうね」
「そうすれば…」
「今が変わっていたと思っていますか?」
「………」
「もし君の能力を知っていたならば、君が好きになったあの子供は君を利用していた…妖精の魔力は封印術と愛する者を強化する事に優れています。
君はその力を利用され今の状況が酷い結果になっていたでしょう」
「オレは」
「妖精の血を引くものはその人物が持つ魂に惹かれます、なので男同士であろうとも女同士であろうとも本人は気にならないのです」
「えっ」
「迷惑ですよね~突然性別が同じなのに好きです!って迫られるのですから…性別が違うと良いのですがね」
「………」
「その昔、とある妖精が妖精の習性を知っている者に惹かれてしまって大惨事になった出来事がありました」
「さらりと言うのね…」
「大惨事の後で妖精は善良な人間を見極めるようになりました。
同じ性別の相手なら迷惑かけますが、君の事を心の底から愛してくれる者を妖精の魔力を使い見付けなさい」
「そういうの」
「もう懲り懲りと言う言葉は言わせませんよ」
オレの思うこと読まれてるよ。
「当たり前です、ここは君の心の中なのですから」
「オレは今は」
「君は妖精牢により守られ眠りについています」
「どうして…」
「スイセットが君に人間として生きて欲しいと望んだ事で、妖精の魔力を妖精牢の基礎に注ぎ込んでいた為に今の君に対して自身の妖精の魔力は毒でしかないんです」
「ヤバくないか?」
「身体が妖精の魔力に馴染むまでは目覚めることは出来ないでしょう」
「なっ何年…」
「それはわかりませんが…サニカの妖精の魔力とルトラウスの天使の魔力を浴び今まで育ってきたのでそこまでは掛からないと思いますよ」
「矛盾を感じる…」
「人間として君は死にます、コレからは麓の村の住人のように長い悠久の時を過ごすことになります」
「マジか」
「マジです」
「長い悠久の時を過ごすコツはあるのか?」
「そうですね~…他人に迷惑を掛けない程度の趣味を見つける事ですかね。後は悠久の時を共に過ごす友人や愛する者を見つけることですよ」
「それなら困らなそう」
「長い悠久の時を過ごすのはもう良いかな?と思うのであればサニカとルトラウスに相談しなさい、あと少し昔話でもしますか」
◇◇◇
オレの祖父であるマリンティアさんはオレの祖母あるサイネリアさんと出会ったのは五歳の時で、とても澄みきった魂を持つサイネリアさんに惹かれていくのは時間の問題だったらしい。
押し掛け婿になったマリンティアさんはサイネリアさんに妖精の祝福を授け【海泡の泡盾】と言う盾を渡しサイネリアさんは妖精の祝福を受けたことであらゆる分野で才能開花し凄かったんだって。
野盗賊が暮らしていた場所に現れればサイネリアさんは千切っては投げ千切っては投げの無双し【水泡の女傑】と通り名が付いたらしい。
「サイネリアとの時間はとても楽しかったですよ、毎日面白い出来事が起きてましたからね」
「でしょうね」
話し込んでいると突然ピカッと光るトビラが現れた。
「これは」
「もう目覚める時が来てしまいましたか、ティルクス…現実に帰る時間ですよ」
「マリンティアさんは?」
「私はコレで役目を終えましたので【大いなる流れ】に行きます」
「【大いなる流れ】?」
「それは全てが終わりそして始まる為の準備をする所ですよ」
「生まれ変わるって事か?」
「そうとも言えるしそうとも言えないのです」
「えっ」
「ティルクスもいずれ行く所ですから今は知らなくて良いことです」
「マリンティアさん…また会えるか?」
「いずれまた…生まれ変わったら会えるでしょう」
そう言ってマリンティアさんはオレをトビラまで送り、水泡となり居なくなった。
「…オレも行くか」
◇◇◇
シルトフォール村
大広場
「ブクブク!(これヤバくね?)」
「だれかルトラウス様たちを呼んでこい!」
「ようやく起きてくるのね」
「長いような遅いような不思議な時間だったな」
「…何かもがいてない?」
「ごばばば!って言ってる感じがするが…」
オレは必死になってもがいていたらばあちゃんが来た。
「ティルクス、水を弾き飛ばす想像をするんだ」
「ブク!(無理だよ!)」
「無理じゃない、水の妖精の血族なのに溺れるわけないだろう」
「ブク…(あっ)」
水の中で息ができるわ…ばあちゃんの指示通りに弾き飛ばす想像をしたら水が弾き飛びスタンバっていたカリーナ姉さんたちに当たった。
「ばあちゃんの指示で出てこれたわ…」
「ティルクス…アナタ髪の色変わった?」
「瞳の色も変わってる…」
「髪の色は濃い紺色だな」
「太陽の光を浴びるとキラキラしてて綺麗ねぇ~」
リシア姉さん、カリーナ姉さん、オルセ兄さん、アリン姉さんとソリン姉さん、トルヤ兄さん、カルロ兄さんが近くに一斉に集まってきた。
少し離れたところからばあちゃんはオレを見て穏やかに微笑んでいる。
「ちょっ皆近いよ…濡れてても平気なんだ」
「瞳の色はエメラルドグリーンだな」
「地味だった印象がかなり変わったわね」
「昔も可愛かったけどこっちも良いわ」
「…兄さんたち何か武装してね?皆ゴツいの持ってるし」
「シルトフォレスト山の外は今戦争中よ」
「えっ眠っている間に何が」
「魔神教がね、宣戦布告してきたの」
「小国を取込みながら大国にケンカ売ってるのよ」
「…テムル兄さんどこに」
「アイツは…」
「…テムルは良い奴だったよ」
「南無~」
「あんたたちは止めなさいよ」
「「…っぷ」」
「鮮魚店に行けばわかるわ~」
すると空から所々に血を付けたじいちゃんが降ってきた。
「ティルクス!ついに起きたのか!!」
「登場派手だな~」
「今散歩に行ってきてたんだが」
「師匠!待ってください!」
「お兄様もルトラ師匠も待ってよ~」
「…もしかしてアルセアとユフィか」
「2年ぶりです、ティルクスさん…あと私の名はアスエルです」
「すまん、アスエルとユフィは何か…逞しくなったな」
「お陰さまで~」
お陰さまで~と言っているユフィとアスエルも所々に血を付けている…。
「ハーシュさんは?」
「母は戦場にされた町に出掛けてマジックを使って魔神教を追い込んでます」
「あっ出てるのね」
「…ずいぶん馴染んでるね」
「ルノカ先生にミッチリ鍛えられましたから」
「もうあんな目に会うのは嫌です」
「そっか」
「今日は祝いだ!」
「その前にシカナさんたちに挨拶してくる」
「行ってらっしゃいー」
送り出してくれた人たちがニヤニヤしていた、その様子を見ていたばあちゃんは呆れていた。