恐怖の丸々一日走り込み
【クレイバール島】
《新クレイバール学校の裏山》
「小鬼ちゃん。大丈夫?」
「お主らいったいなにもんなんじゃ??」
「クレイバールの島民ヨ」
「だとしても体力とか…」
「こんなのまだ序の口だからネ…そろそろ走り出さないと追い付かれるわヨ…ヤバいのに」
今現在、クレイバール島の子供たちはラブナシカによる夏合宿の真っ最。
体がだいぶ作られたので本格的な訓練が始まっていた。
小鬼ちゃんの喋り方はとあるアイテムを使って聴きやすい様になっていたが、ダンジョンに籠っていた時に賀実によって破壊されていた。
それ故にカタコトになっていたが賀実がそのアイテムを修復し違和感なく喋れるようになった。
「ぜぇ…ぜぇ…だとしても丸々一日走らされるのはきついぞ!」
「……あ…(小声)ヤバっ来てるっ」
「小鬼ちゃん、アタシら先に行ってるわネ…」
そそくさとラローネルと日葵は行ってしまった。
「急に顔色を変えてどうしたのか」
「喋る元気があるということは…」
「?!」
小鬼は声のする方にゆっくりと顔を向けた。
すると濃いメイクアップし全身タイツに真っ赤なエプロンを纏ったラブナシカがすぐ背後にピッタリといた。
「いゃああ!」
「もう、悲鳴を上げるなんてひどい子ね。立ち止まってないで走りなさい!」
小鬼ちゃんはラブナシカの言葉を半分聞いてすぐに走り出した。
「うふふ…まだまだ行けそうね♡」
「小鬼に関しては少しは手加減してやれよ?」
「わかってるわ。悠珂」
「オレも子供たちに発破を掛けてくるか」
悠珂は絶対にラブナシカの顔に目線を向けることなく結構な速さで走っていった。
「もう、失礼ねっ顔を見ずに去るなんてっ」
『それは...ピエロ並みの濃いメイクしてれば目線を会わせたくないだろうな』
「譜月たら酷いわ」
『いや、普通に怖いんじゃが』
「…アタシ、そんなに怖いメイクしてる?」
『今日のは特に。知り合いじゃなければ我であろうとも尻尾巻いて逃げてるレベルだな』
「……でもこのままで良いわ。こっちの方が子供たちも真剣にやってくれるでしょうから」
『そうか…(子供たちスマン、説得失敗した)』
「それじゃ譜月、侵入者が入ってこないように見回りよろしくね♡」
『あ、あぁ…』
ラブナシカも結構な速さでこの場所から走っていった。
するとガサガサと藪から蓬が現れた。
『………なんか…猟奇殺人犯のような見ためしてるです…怖っ…あの姿で夜に追いかけられたら賀実なら腰抜かしてるですの』
『確実にそうだろうな』
『子供達はもうラブナシカの奇行には慣れてるから逃げ回るのもお手の物じゃが…』
『小鬼ちゃんは…でも島の子供たちがちょくちょく様子見してくれてるの』
『こればかりは…協力しながら頑張って貰うしかないからのう』
譜月と蓬は小鬼ちゃんが走っていった方向に顔を向けてラブナシカから逃げきれるように頑張れと心のなかで応援した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
クレイバール島の学生達はラブナシカにバレないように小まめに小休憩を挟みながら小鬼ちゃんの様子を見て上げて欲しいと島長のポーリアに頼まれていたので交代制で様子を見て丸々一日走り込みのラストスパートまでは順調であったが。
【クレイバール島】
《星明かりの森 最深部》
「コナルヴィア!玖寿!小鬼ちゃんを連れてそのまま逃げてぇー!ラブ先生に小鬼ちゃんの手助けがバレた!!」
「えぇ?!」
「多分だけど誰かドジったわな」
「ぇ」
「こうなったらあーしが少し時間を稼ぐから玖寿は小鬼ちゃんを連れて逃げ回りなさい」
「わかりました」
すると玖寿は懐中時計で時間を確認して小鬼をファイアーマンズキャリーをしてから目的地へ走り出した。
少ししてコナルヴィアとラブナシカがやり合う音が響きだして小鬼はガクガクしだした。
「ひぃっ…妖狐さんが死んじゃうっ」
「大丈夫ですよ。さすがのラブ先生でもそこまではやらないでしょうから」
「でっでもっ」
「あと30分で丸々一日走り込みが終わりますので耐えてください」
「うぅ」
それからは小鬼ちゃんは言葉を発することなく大人しく担がれたまま身を預けた。
しばらく走り込み森から外に出ると新クレイバール学校の近くにでて校門の前には困惑した表情をした賀実が立っていたが、なにやら体を使ったジェスチャーで訴えているのが玖寿には見えた。
【背後にキレ散らかしたラブナシカがビーストモードで走っている】と。
それを確認した玖寿は絶対に背後は見ないと心に決めた。
だが小鬼ちゃんは見てしまったようだ。
「…っ!!!」
「グォオオオオラァァアアア!!待ちなさい!!手助けするとは何事だゴラァアア!!」
玖寿はラブナシカの言葉を無視してラストスパートとして賀実が待っている校門の前に向かって行くと賀実の他に島長のポーリアが立っていた。
「今回ばかりはアタシが手助けして欲しいと言った手前、荒ぶる現人神の怒りを鎮めるための助力はしなくちゃ」
「…鎮められそうかい?結構ヤバそうな雰囲気してるけど」
「………もしかしたらヤバいかも」
そんな話をしていると玖寿が小鬼を担いだまま走り幅跳びして綺麗に着地してすぐに走り去っていった。
猛スピードでビーストモードで顔にモザイク処理されたラブナシカが迫ってきていた。
「ガッハハハ!やベぇなおい!ラブナシカ、人間の顔してねぇぞアレwww」
「いつの間にか来た…止めるの手伝ってくれるんですか?」
「いや、絶対に嫌だが」
「なら、何しに来たの?」
「賀実が昨日もしものためにと掘った落とし穴にラブナシカが間抜けずらしながらはまる瞬間を見に来ただけだが?」
「え」
ポーリアたちの目の前でラブナシカはビーストモード故に猪突猛進で進むからか面白い体勢を取りながら賀実が深く掘った落とし穴にはキレイにスポーンと落ちていった。
「丸々一日走り込みの件でもしラブナシカを怒らせることになったら校門の前を走り幅跳びしろと昨日の明朝に子供たち全員にそれぞれの家にある動物を模した木彫りの置物を通して連絡しておいたんだよ。
私が居ない過去にも丸々一日走り込みの件でラブナシカを怒らせた事があったんだってね?」
「あったみたいなのよね。アタシも両親もまだ産まれてなかったから詳しく知らないけど。
アサガオおばあ様が当事者なんだけど…話してくれないのよね…目を背けるのよ」
「アレはヤバかったからなww」
「アタシの目の前にいる当事者もヤバかったしか言わないし」
「それでどうするの?」
「落ち着いてからのお話し合いだよ。こういう時のやり方は昔から変えてないでしょう?」
「ソウデスネ」
ラブナシカが落ちた穴の監視を悠珂に押し付けた賀実とポーリアは丸々一日走り込みをしていたが、小鬼ちゃんの件でのラブナシカを止めるために頑張って体を張った子供たちの回収に向かった。
ラブナシカを止めようとした子供たちを見つけたが一発で気絶させられていたのを現場検証した賀実とポーリアはドン引いた。
そして気絶している全員を回収して手当てして起き上がる頃にはラブナシカが落ち着いたのか悠珂の落とし穴トラップに掛かることなく落とし穴の中から這い上がって来た。
それをこっそりと隠れ見ていた小鬼ちゃんはガクブルしていたそうである。




