従魔たちの旅立ちと園長
【山本宅】
《リビング》
『エルシィーロ以外は紫蘭の従魔を卒業しようかって話がまとまったから送還の儀を開いて欲しとボクが代表としてやって来たんだけども』
「…紫蘭と話し合いした?」
『うん、話したし、話し合いもしたよ』
「紫蘭が逝くのはまだまだ先だと思うんだけど…」
『タヌ治郎、どうしてそんな話になったか聞かせてくれぬか?』
『理由は紫蘭のお世話をする必要がなくなったから』
「…それを言われると何も言えないねぇ」
『わたちも言えないですねー』
『ふむ…淋しくなるのう。……じゃが契約解除してもこの地に残る選択はないのか?』
『それも考えたんだけど……残ってたら嫌なことに巻き込まれそうで。特に【動物の楽園】を作った園長さん関係でスカウトされたことあるしボクら』
「園長か」
『わたちあの人苦手。レディの体をベタベタと許可なく触って本当に気持ち悪かったの。
賀実に頭をチョップされるまでサワサワと手の動きとさ気持ち悪かったの!』
『気持ち悪いって2回言った』
「そんな風に思わせてしまってたなんて…すまない、美しく毛並みがまろやかで憂い者よ!」
『『きゃぁああ!?』』
瞬時に反応した蓬とタヌ治郎はビクッと大きく体を強張らせて跳ねてから園長から離れ譜月に体をもたれかかっている賀実の背後に避難した。
「不法侵入でしょっぴこうか?園長殿」
「ワタシの中の感が動いてつい、色々と無視して飛んできてしまったのだよ!まさか貴様の家に直行してしまうとは!」
「…それで要件は?」
「タヌ治郎たちをスカウトしに来た!」
「本人…かなり嫌がってるけれども?」
「そんなはずはない筈だが…アレ?」
「アレ?じゃないわよ」
賀実の家のドアをバーンと破壊して入ってきたラブナシカによって園長は後頭部をアイアンクローされた。
「突如として欲望全開の変態オーラを感じ取ってやってきたけど何がどうなってるの?!」
「(ドアを破壊しよった)……タヌ治郎たちの話になるんだけど」
賀実の話を聞いたラブナシカはタヌ治郎を見てあらまぁと言った表情になったが、園長を見る時はコイツは全くと言った表情になった。
「ちゃんとこの世界に渡って来るよと知らせをよこしなさいな」
「感が今だと示したのだ!」
「示したのだ!じゃないわよ。突如として飛ばされたりの例外とかない限りは知・ら・せ・な・さ・い!」
「それでタヌ治郎どうだ!来ないか?!」
『絶っ対に行かない』
「なっ」
『ボクたちもそろそろ次へ行きたいんだ。邪魔しないでくれない?君の物になるなんて絶っ対に嫌だ』
「ワタシの物など厚かましい!ワタシの世界で自然体に生きてほしいのだ!」
『無理!!生理的に受け付けないからっ!!』
「グハッ!」
最終的になんだなんだと島の子供達が破壊された賀実の家のドアの出入り口からわらわらと集まりラブナシカにアイアンクローされてる異界の強者である園長を見て「あぁ…なんだ新手の変態か」となった。
ラブナシカによって生物として人間に興味がない変人は取り押さえているから変なことできないからと集まった子供達を解散させて特に騒ぐことがなかった。
「なんか…ごめんなさい」
「まさか私も園長殿が来るとは思ってなかったから謝ることはないよ。紫蘭は納得したの?」
「うん、タヌ治郎達にはお世話になったし…それに本人達の意見を尊重したいと思って。
もし転生してもまた出会える可能性を信じたいし」
「僕としてはタヌ治郎にはこの島に残っていて欲しかったですけど…ね」
『あはは…玖寿、また会えるよ。玖寿達も200年は生きてくれるだろうからその間に出会えそうだね』
「そうだと嬉しいですね」
『譜月、君とは同じ場所で保護され、同じ時を過ごして来たからねぇ』
『気にするな。考え方はそれぞれじゃからのう…さっきも言ったが淋しくなるが、我は賀実と共に生き抜くと決めておる…それに』
『わたちが居ますので心配は無用なのー!』
『ふふふ…そうだね。しっかり者の後輩も居るし、今なら情勢も落ち着いているからね』
「取り敢えず話は纏まったし、こういう転生に関しては早い方が良いし、別れの宴を開くから夜に送還の儀をしよう。
ちゃんと悔いのない別れの挨拶をお互いにしなさいな【今】のタヌ治郎たちはこの時、この瞬間しか存在しないのだからね。
タヌ治郎、翡翠、メフィリーネにはお世話になったね…ご苦労さま。また何処かの時代、何処かの世界でね」
『うん、またね』
『賀実はさっぱりしてるにゃ…』
『でも賀実らしいな』
賀実はそれだけ言うとお別れの宴の準備をするためにと薔薇色のお宿へと向かっていった。
「僕もタヌ治郎にはお世話になりましたからね」
『玖寿と一緒に行動するの楽しかったよ。元気でね』
「……うん」
『タヌ治郎、翡翠、メフィリーネ…っ』
『エルシィーは泣くにゃ』
『だって〜!』
『出会いもあれば別れもある…様々な場所で使われたり、言われ続けた言葉だけどもね。エルシィも行きたいなら行けば良いじゃないの』
『あっ姉様っ』
『今のアタシはエルシィーロと二人きりじゃないし。世話のかかる面倒を見なきゃいけないのが居るから行かないだけでアタシに気を使わなくて良いのよ?』
『わたくしは行きませんっ!』
『ふふ』
『お前たちはほんとに仲がいいな』
『当たり前じゃない』
「………私に関しては色々とほんとに…助けられたよ。……ありがとう以上の言葉が思いつかないや」
『…ボクたちとしても紫蘭の伴侶と子供を見てボクたちも次へ行きたいと思えたんだ。
紫蘭、今世も来世も幸が多からんことを』
「…………うん……ありがとう…」
こうしてこの日の夜に従魔の送還の儀が開かれタヌ治郎、翡翠、メフィリーネはこの世界から新たな旅路へ向かっていった。




