古の神が創造せし本の迷宮
【聖都ネビュラス】
《ブック・オブ・ラビリンス》
「賀実、あったか?」
「いや……興味深い本があり過ぎて探すの忘れてた」
「………」
「そんな目をしなくても良いじゃないか、薬草に関する事とか結界維持の知識が凄くてね…まだまだだったと感心していたところだよ」
「ほぉ」
「でもこの迷宮に関しての本は見つけたよ」
賀実は一冊の本を悠珂に手渡した。
「私はもう読み終えたから渡すよ…それに写本も作ったし」
(すでに読み終えて写本も作ってた…)
「非常食まだ間に合いそう?水分は?」
「それは…大丈夫だ…」
「(この感じ)……失礼なことを聞くけど、もしかしてお手洗い場を探してる?モジモジしてるけど…」
「………」
「(こりゃぁ探してるな…冷や汗かいてるし…知恵者の君でも見つけられなかったか…流石は【神が創り出した迷宮】)その本にはこの迷宮のマップ
賀実の言葉を全て聞くことなく悠珂は本を開き、静かでありながら確かな足取りかつ小走りで目的地へ向かっていった。
(……前は宿屋のドアを出してくれだったけどもう使えないからねぇ…それにしてもこの迷宮取扱説明書その1の写本を持ってないと危なかったとは…ちゃんとこの迷宮に関して1ページずつちゃんと読むかな…まぁ次に会うときにでも…悠珂だから大丈夫か。
それにしてもこの世界の司祭や下級の聖職者たちは上より機転が回るようで。
この聖書だけは上の者から要らないから燃やせと言われる前に迷宮に投げて隠していたようだ。
黒塗りとかもされてないし、私たちが心から欲しいと望む本は深層に行かないとないかもね)
賀実は興味を惹かれる本を探しその場で読んだり写本を作り目的の本を探し始めた。
しばらくするとどこからともなく悲鳴が上がった。
【セーフティゾーン】
写本にした本を読んでいるところに悠珂が現れた。
「…………」
「賀実っ!」
「その感じ…君も観たかアレを」
「なんなんだっアレっ!」
「ヤバイよね」
「おっお前…まさかっ」
「悪いけどそのお手洗い場は私でも嫌だったから違う場所でしたよ」
「他にも有るのか?!」
「セーフティゾーンのあそこにある手洗い場」
「!」
「セーフティゾーンのお手洗い場は異界の有識者たちが作ったみたい…流石にアレなお手洗い場はねぇ」
それを聞いた悠珂はスタスタととても美しい所作でお手洗い場に向かっていった。
賀実は読みかけの本の続きを読み始めた。
「こういったの久し振り過ぎて焦った」
「でしょうね」
「それで何を読んでいるんだ?」
「この迷宮の取扱説明書その6」
「そんなに有るのか取扱説明書が」
「ここ【古の神が創りし迷宮】らしくてね…私たちが欲しいと望む本は深層にありそうだから深層に向けての本を読んでる」
「神代迷宮か…そんなに歴史の有る場所だったのか……かなり異質なのが混じってるから納得できなくなもないがな」
「ラブナシカが神としてちゃんと信仰されてた世界と時代の本があった」
「…なんだと」
「そこに写本として取っておいたから読むと良いよ」
賀実はラブナシカが信仰されてたとされる事が書かれている写本を指さした。
「お前は読んだのか?」
「最初の1ページだけね。他のページは見る勇気がまだないからみてない。ラブナシカの触れちゃいけない部分に触れそうで怖くってね」
「…アイツとは長い長い時を一緒に過ごしてきたからそうなるか。
でも流石は聖書の迷宮だな…俺たちすら知らない古い時代の本が有るとはな」
「…ここに入ると中々に出てこないと迷宮に入らず残された知り合いが愚痴ってたけど、実際に入ってみると理由が一目瞭然だね」
「あぁ」
「悠珂、この迷宮の取扱説明書その1をちゃんと1ページずつちゃんと読んでね」
「どうしてだ?」
「この迷宮の基礎知識とか制約が書かれてるから」
「…わかった」
悠珂も賀実が座っている席に着くと賀実から渡された本をアイテムボックスから取り出し読み始めた。
読み進めていくに連れて気になる項目が見つかった。
この迷宮にはこの迷宮を創り出した神の怒りに触れたいにしえの時代から彷徨い続けている【忘れられし怪物】が徘徊していて鉢合わせしても絶対に戦闘せずに逃げること。
この迷宮ではどんなに強い力を持つ者であろうともマッピング能力は使えない。
取扱説明書その1に乗っている地図だけはこの迷宮を創り出した神がこの迷宮を訪れるであろう数多の旅人への温情として閲覧可能。
魔法のマッピング能力が使えない理由は【忘れられし怪物】を永久に閉じ込めるために…。
この迷宮では火やお手洗い場は特別に水の魔法を使用できるがそれ以外では使用してはならない。
この本を読み終えたら一階ならどこでも良いのでちゃんと本棚に戻すこと。
もしこの迷宮の地図機能を使いたければ自身の力で取扱説明書その1の写本を創造し持ち歩くこと。
この迷宮の本や写本をセーフティゾーンで読むことは許されるが、この迷宮から出るときには写本を全て炎と水を使わずに写本を作った本人がちゃんと消滅させてから出ること。
アイテムボックスに入れて持ち出すのも禁止。
悠珂はチラリと賀実が作った写本の数を見てラブナシカ関連の写本を含めて5冊しかないのを見てホッとした。
「賀実、写本を作ったということは炎と水を使わずして写本を消滅させる方法をわかっているんだろうな?」
「…………うん」
「間合いが怖いが、わかっているなら良い」
「それじゃちょうど写本を読み終えたから見せるよ」
すると賀実は手に持ってた写本に魔力を込めると本が朽ち果て砂になった。
「コレなら消滅したと言えるんじゃない?」
「いや、駄目だな」
「えっ」
「少し待ってろ」
悠珂は賀実が砂にした写本を再生魔法を使って元通りにした。
「ほれ、もとに戻った」
「……もし子供たちを目覚めさせることが出来る資料が見つかったら先に帰っていいよ」
「諦めるな」
「諦めないけども、時間が掛かりそう…これ以上は写本は作れないな」
賀実はテーブルに置かれた写本を見て何とも言えない表情になったのだった。




