あっさりとした幾億年の再会と蓄積していた力
【クレイバール島】
《無敵の宿屋前の広い場所》
「愛丸!!」
「もう、なんで来ちゃったのよ……ボロボロな状態を見られなくなかったのに…」
「……………………」
無敵の宿屋のドアの前の広い場所で紫蘭と愛丸は四属性の魔法の鎖によって縛られていた。
それを施したであろう人物が年若い四人組いた。
「久しぶりだね!二人とも!」
「君たちは!」「お前たちは誰だ?」
まつりと悠珂がほぼ同時に言った言葉に愛丸と紫蘭を縛った四人は顔を見合った。
「もしかしてだけどそこの二人して記憶がない…?」
「まつりの知り合いか?」
「うん、本来なら君たちも知っていた筈の人だよ」
「本来ならオレたちが知っていた筈の人?」
「…俺達が楽しく過ごした世界が既に滅ぶどころか消滅してたけど何か知ってるのか?」
「君たちは何を…」
「話がなんか噛み合ってないわね…アタシたちは別に異界の強者みたいに危害を加えるつもりはないから話し合わない?」
愛丸と紫蘭を縛っているだろう四人組からの提案に悠珂たちは少し驚いたが。
「話が通じるなら良いぞ。その代わり少し距離を取らせてもらってもいいか?」
「良いですよ。お互いに警戒するに越したことないので」
するとそれぞれ机と椅子を用意して机と机の間に愛丸と紫蘭を縛っている状態で置いて、話し合いが始まったが悠珂や賀実が話す前にラブナシカが話した。
「まず聞きたいことあるけど魔法少女の格好している人と童顔さん以外の二人は…」
「悪いけどその二人はアタシよりも一つ上の世代の古いとある神族によって貴方たちと再び逢うのを待って大切にしていた記憶を完全に全て抜き取られてるわ」
「愛の伝道神……僕たちと過ごした記憶をかい?」
「えぇ。全てすっからかんよ」
「なんて事だ……」
「遅すぎるのよ…アレからどれだけの…幾億年の月日が流れたと思ってるの?」
「ん?愛丸たちはさっきから何を話している?」
さっきから黙っていた賀実がはっとして言った。
「もしかしてだけど……私と彼にとって全てが始まった時の話だったりするのかい?」
「✕さん!覚えてるの!?」
「悪いけどラブナシカから私と彼が今の姿になってどんな人生を歩んでいたかを見せられたことがあるだけだよ。
それこそ【澄谷賀実】、【澄谷悠珂】と呼ばれていた前の人生の記憶しかない。
そろそろ過去に縋って生きるな、今とこの島の子供たちと共に未来を生きろと、とある大神様に記憶を持ってかれたんだ」
「おい」
「彼らに嘘ついたところで見破られる、今の私達より強いし、他のことを追求される方が面倒だよ」
悠珂は賀実に注意しようとしたが黙った。
「この島の子供たちって?」
「貴方たちが知ってるこの二人はあの後、既に消滅したあの世界で身寄りのない子供や訳ありの子供を引き取って育てながら自分たちの安寧の地をその子供たちと共に一から全て作ったの。
それから幾億年の月日をこの島の子供たちの祖先と過ごしてきて今は子孫たちと過ごしてるのよ」
「…………そんな事をしていたのですか」
「一つ、私から謝りたいことがある」
「何を謝るの?」
「君が所有していた空島をあの世界が外側の魔神に侵略されてた時に魔神の力を削るために魔神に正面衝突衝突さて空島を終わらせた」
「外側の魔神……僕たちが封印した奴は?」
「侵略してきたその外側の魔神に…確か喰われた」
「……」
「君たちが所有していた物で残ってるのはそこの【無敵の宿屋】と【無敵の宿屋内の車庫に収納されてる車】と私が宿屋スキルで収納している【火天の宿屋】とラブナシカが管理している【トラクター】と【錬金釜】くらいしか確か残ってないはずだよ」
「本当にそこの愛の伝道神が言ってた通りなんだ…」
「無理やりそこの二人の魂を揺さぶっても記憶は戻らないわよ」
「愛の伝道神が言ってた通り、僕たちが知ってる二人はもう居ないし、もう少し早くここに来れてれば再会することが出来たのに出来なくなったのか」
「✕✕さん…」
「……んー…そっか……ならもういいや。僕が作った【宿屋スキル】を返してもらっていい?」
悠珂は目を丸くして賀実の方を見たが賀実はさっきから顔色を変えることなくスンッとしている。
「ラブナシカ、彼らは私たちがずっと待ってた待ち人たちの生まれ変わりなのは確かなんだよね?」
「えぇ、間違いないわ…魂がその子達の物よ。貴女たちがずっと…幾億年の月日の中で待ってた子達で間違いないわ」
「そっか…なら返還するよ」
「えっそこの愛の伝道神が本当に何度も助けられたと言ってたし、使い勝手が良かっただろうから少しゴネるかなと思ったんだけど…」
「その【宿屋スキル】があったから幾度となく狙われてたし、返して欲しいと言うのなら返すよ。
私達には過ぎたスキルだったから…あるべき者の元へ還るなら何も言うことない…ラブナシカ、そのままの格好でもスキルの受け渡しってできる?」
「大丈夫よ、本人たちが望めば出来るわ」
「ならお願い」
お互いに了承したことでラブナシカがスキルの継承をするための祝福を述べると賀実から【宿屋スキル】は本来あるべき者の元へ返還された。
すると無敵の宿屋で眠っている島の子供たちとラブナシカの本体が賀実たちの背後に現れた。
賀実は詩子とまつりに子供たちを自身のアイテムボックスから寝袋を多量に出して子供たちを寝袋に入れるように頼んだ。
「用件が済んだのなら帰ってもらっていいかい?これからのことを話し合いたいから」
「……この赤の他人へのつっけんどんな感じ、✕さんらしいや」
「良いのか?」
「うん。魂が同じなのかも知れないけど、僕たちの知っていた人たちじゃないから…もう既に僕たちとの道は別れたみたい、それこそ縋ったりしたら…ね」
「…もうアナタはあっさりしすぎよ」
「……それじゃ返してもらいましたし、行きましょう。ボクたちの旅はこれからなんですから」
「だな」
「さようなら」
「「さようなら」」
すると四人組はラブナシカと紫蘭を魔法の鎖から解放し、アイテムボックスから【鈴】を取り出して使用しこの世界から飛び出していった。
「賀実、宿屋を返してよかったの?」
「いずれはこうなるってなんとなく頭の隅に置いてあったから大丈夫」
「これからが大変ね。貴女たちにしてやられてたのが報復してくるんじゃない?どうするのよ」
「それなら心配ないよ。宿屋を返したけど私たちが集めた本や島の子供と過ごした記録や食糧やトラップとかは私のアイテムボックスに全て収納されてるし、家を潰されたりしたとしても、なんとかなるよ」
「どうしてだ?」
重い空気だったから悠珂は下を向いていたがニッと賀実の方を見た。
「あの宿屋スキルは【太古の勇者】や一部の【至りし竜】によってマーキングされてたけど、私が返還して【宿屋スキルを狙ってた者】からのマークから外れて私達でも対抗出来る輩相手するくらいなら隠居している強者たちと同じように対応するだけだから」
「ここ最近は宿屋スキルを強奪されないようにしながらの生活だったからな」
「それなんとも言えないわね」
「…愛丸も紫蘭も大丈夫?」
「えぇ友人から預かってた【トラクター】も元々の所有者に持っていってくれたわ」
「ならよかった」
「生まれ変わり先も地球人だったみたいだけど、人間辞めてたね…久しぶりに見たけど相変わらずみたい」
「記憶もっての転生すると実力差を知って対処法が分からないから一度は人間辞めるのよ。それにしても向こうもコッチもあっさりしすぎよねぇ」
「後腐れない方が絶対にいいよ。でも神が人間に転生してるのに気づかれなかったな〜」
「あの子達もまだまだこれからなんでしょう」
愛丸とまつりは悠珂や賀実が幾億年の月日を掛けて気長に待ち望んだ人物たちとの再会に関して気になったが、サヨナラをいってとても晴れやかな顔してる賀実と悠珂を見て苦笑いした。
「本当にスッキリした。どれだけかかるか分からなかった約束を果たせたからかな?」
「たぶんそうだろう…賀実なにかオレたちの能力が変化してないか?」
「えっ」
「身体の調子がとても良いんだが」
賀実と悠珂は鑑定紙を使って調べてみた。
鍛冶屋敷 悠珂
種族 人間
性別 ♂
現在 17
職業 学生
通り名 幾億年の智恵者
従魔 ダークグリフォン 空飛ぶ馬
【オリジンスキル】
NEW【幾億年の智恵者】
長い年月【無敵の宿屋シリーズ】を維持するために吸われ蓄積された経験が自身に帰ってきたことにより【鍛冶屋敷悠珂の数多の前世】が持っていた【経験】が全て統合され魂が覚醒し【オリジンスキル】へと昇華した。
純粋な人間でありながら【古の神族】には及ばないが、ありとあらゆる魔法や魔術を見聞きしただけでほぼ魔力を消費しないで使用でき、さらに身体能力もかなり向上した。
多少の無理が出来るようになったが純粋な人間ゆえに無茶は禁物だぞ☆
山本 賀実
種族 人間
性別 ♀
現在 16
職業 学生
通り名 秘伝の職人
従魔 カモノハシ ウルフクイーン
【オリジンスキル】
NEW【秘伝の職人】
長い年月【無敵の宿屋シリーズ】の維持のために吸われ蓄積された経験が自身に帰ってきたことにより【山本賀実の数多の前世】が持っていた【経験】が全て統合され魂が覚醒し【オリジンスキル】へと昇華した。
【傷薬】や【料理】などを作る際により効果や質が良くなり、結界など自身や身近な人を護る魔法や魔術の能力向上がなされた。
回復魔法や戦うための魔法と魔術の能力向上はしてないし、機械音痴なままだから注意。
これまで使えていたクリーン魔法とかも使えるからお気遣いなく☆
「……なんか魂が覚醒したとか書いてある」
「唯一無二の【オリジンスキル】が覚醒したのね。おめでとう、貴女たちは太古の勇者並みになったわ」「「「「えっ」」」」
「ボクもまさか【オリジンスキル】の覚醒を生で見ることになるなんてね」
「よくわからんから説明を頼む」
「説明なんて簡単よ〜【オリジンスキル】は覚醒した本人だけの唯一無二のオリジナルスキルで【魂の成長限界】が来たってことよ。
アタシもまつりも魂が神族ゆえにまだまだ成長してるから【オリジンスキル】は持ってないわ」
「そのへんの強者に対して牽制出来るのか?」
「常識を持ち合わせてるのならば、アポを取らない限りは来ないってくらいには【オリジンスキル】の持ち主がいる場所には行かないかな」
「良いことなんだよね?」
「えぇ、人間…生物として完成したってことだからアタシたちからすれば良いことよ?」
「…とりあえずは子供たちの身の安全とかも含めてオレの錬金術で【無敵の宿屋】に見劣りしない宿屋を建てるか」
「それをやってからじゃないと地球に戻れないね。
家の材料はコレでもかとあるくらい私のアイテムボックスにあるから厳選しよう」
「それならアタシ、入れてもらいたい部屋があるのだけど…良いかしら?」
「部屋の内装とかも相談しつつ作ろうぜ。宿屋は2件建ててもいいだろうし」
「地球に戻る時はどうするのよ」
「それならオレが時間指定した後に集団で転移出来るから問題ない」
「あぁ…フリルデーモンか…」
「あの子たちなら大丈夫よ。地球と異世界の常識がどれだけ違うかわかってるから」
「だと言いけど…(ここまであっさりとしてて良かったのかな?ふたりともケロってしてるし…向こうはなんか納得していようなしてなさげだった感じがするけども。
気まぐれなる大神も二人が大切にしてた記憶を持ってくタイミングとかもよすぎる感じが……考えすぎると面倒事になりそうだから辞めよっ)」
まつりの言う通り、あっさりと今回の件は片付いてしまったのであった。




