神族との契約はとても重くエグいのである
【とある国】
《王宮の大広場》
「相変わらず我が番は美しい」
「他国の伯爵家ごときが他国の目上の身分を持つものに気軽に話すなんて…どれだけの時が過ぎ去ろうともマナーがなってないわね」
「そんな釣れないことを言わないでおくれ」
「ここにアナタ方の席は御座いません……どうぞお帰りくださいませ」
王族達が座る席に突如として現れた獣人の国の王族や貴族が乗り込んで今にも迫っていったのを見て、この国の貴族たちは眉をひそめ様子を見ていた。
「我が番は何処だ?招待されているはず」
「アフェランドラ殿は来ていない。アシュクラフト当主としての仕事をなされているはずだ」
「何だと?」
「招待状を出してもないのに我が国に無断で不法侵入するとは相変わらず野蛮な者たちだ」
「貴様…!」
「ふふふ……母上から話は聞いていたが他国の王族に対してもこの態度なのか…本来なら斬り捨て御免されたとしても文句は言えないぞ」
「貴様が今の国王か」
「あぁ…私が今この国の王だ……訪問するならばちゃんと手続きを得て来てもらいたいものだ」
「フン!今度ばかりは番を連れて帰らせてもら…
獣人の国の王弟は突然腹部に違和感を感じたと思ったら自身の腹部を国王の腕が貫いていた。
「キサマラモ我が神ノいけにえニナルガイイ」
「がっ!……お前たち!」
獣人の国の王弟は振り返り自身の部下や伯爵家の者達の方を見渡すといつの間に肌が崩れゾンビの様な姿となった貴族達に…群がられ血肉を食われていた。
「なっ!!」
「本当に……獣人の王族は頑丈ですこと…もう貫かれた部分が再生し始めている」
「メルビス貴様!何をやった!どうして貴様だけは無事なのだ!」
「何をやったとは?……ワタクシがこの国の実権を今も握っているから好きなように動けるのですよ……息子に関しては傀儡政権でした。
親子共々中身がからっぽに育つようにしましたから」
「きっ貴様っ!」
「ワタクシずっと…ずっと…アナタ達が憎くて憎くてたまりませんでしたの。
今から七十年前に遡りますが……我が親友…エマルエの名前に聞き覚えありませんか?」
「エマルエ?…………………!!」
「良かった、覚えておいで…ですよね?」
「エマルエは父上の運命の番…」
「えぇ…そうです。彼女はまだ13という年齢だったというのに貴様らの先の国王が我が国に訪問していた時に運命の番だと抜かし…連れ出そうとしたが抵抗されたために彼女を王家が所有する山荘に攫ってその身を穢した」
「なっなぜそれを知っている!」
「その山荘にワタクシと弟が肺の病に掛かり療養していたからです」
「!!」
「その現場をワタクシと弟は目撃していたのですよ」
「…あの場にいたのか」
「えぇ……そしてエマルエはワタクシの弟の婚約者でもありました」
メルビスから放たれる言葉に流石の王弟は黙り込むしかなかった。
「弟はエマルエが穢されているのに絶えられずに彼女を助け出そうと先の王の元に飛び出してしまった。
そして……弟は先の獣王と暗部に切り捨てられ、それを見た彼女はついに発狂し山荘に火を付けて……」
「だか!その件で我が父も!」
「お黙り!!」
「っ!」
「この事件は獣人の国の上層部と我が父によって秘密裏に処理されエマルエと弟はそもそもこの世に存在していなかった事にされた!!
身勝手な獣人の国の王が死んだことの責任をワタクシの国の番として選ばれた生贄とされた者たちの犠牲のもとに免除された!!
貴様らの先の王の身勝手な行動で起きたことだと言うのに被害を被ったのはワタクシの国だった!!」
「っ…」
「……だからこそ…だからこそいつか絶対に獣人の国の王族を根絶やしにしてやろうと心に決めていたのですよ?」
「何をする気だ…!」
「本来なら初代マトリーチェの約束通りに我が国の国民と共に神の身元に向かわなければなりませんが…今回の件でやはりどんなに話しても変わらないと理解しました…たから敢えてアナタ達を巻き込んで神に反逆し、共に地獄の底に堕ちることにしましたのよ」
「!?」
「さぁ…共に堕ちましょう…地獄の底へ」
メルビスの言葉に真っ赤な光が床から現れ、地面が割れた後に底から黒い手がびっしり出てそれぞれの足をがっちり掴んで引きずり込んだ。
「嫌だ!私はまだ番と!」
「アッハハ!永遠にそんなチャンスはもう二度と来ませんよ。この地は穢れた土地とし【観測者】と【現人神】によって禁足地とされることでしょう!
永遠に苦しみ続けるがいい!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
《とある国がよく見える丘》
ライルは国を出てすぐに事の顛末を見るためにライルの国を目指していたサニカとラブナシカに回収されて自身が身一つで出ていった国が見える丘に連れてこられていた。
「………ひゃ〜ものすごい憎悪ね〜…よく腹の底に隠せてたもんだわよ」
「この距離なのに見えるのですか…」
「ラブは受肉しているけど神族だからね…ある程度の制約のもと見通せるものさ」
「…ラブナシカ様でも救えないのですか?」
「無理よ。神族同士の盟約やらがあるし初代マトリーチェが契約した神族とアタシは仲悪いもの。
それに契約相手が悪いわね…頑固で融通がきかないのよ」
『誰が頑固じゃ』
「あら…噂してたらなんとやらね」
「えっ…」
『マトリーチェの子孫ヤりやがったな。わしの力とするためのあやつらの魂を回収したらコチラが穢れるから手出しだせないぞ』
「なら!今すぐにでも契約解除は出来ないのですか!?」
『契約解除は出来るわけなかろう。そんなことしたら他の神族達に神との契約解除が出来るという前例を作るなと怒られるわ。あの女傑の子孫もヤりよるわ』
「ならば私と契約を!」
『無理だな、なんの功績もない輩に力を貸すなんてしない』
「そんな…!」
『今回の件は向こうから契約違反…反逆した堕ちた魂たちは…我が手を出し穢れないようにそのまま放置する。
【観測者】よ、悪いがあの国の領土全てを不浄の地として反逆し堕ちたあの国に存在する全ての魂が粉々に消滅するまで禁足地として封印して欲しい』
「貴方が最後までちゃんとやりなさいよ」
『それが出来てたら今やっとるわ!出来ないやんごとなき事があるから頼んでいるのだろう!向こうの有責なのに我が穢れて邪神になどなりとうないわ!』
「力を貸した者の善悪の見極めできなかったアンタが悪いんじゃないの!」
『お前は優良物件を見つけすぎなんじゃー!!』
「当たり前じゃないの!」
ワーギャーワーギャー騒いでいる神族を放置してサニカはライルの生まれ育った国の土地の封印するための準備を始めた。
「………サニカ殿……私をコレから禁足地となる場所の……図々しい願いだが守護者として組み込んではくれまいか?」
「無理」
「どうしてもか?」
「うん。君はあの国の生まれの者だから絶対に何処かで同情したりするときが絶対にきて災厄を撒き散らすのが見えるから無理です」
「そうか………ここから見守るには大丈夫か?」
「見守るには大丈夫だけど……いくつかちゃんと約束を守って欲しいことがある」
「何なりと」
「見守るのは君だけで結婚し子をなしたとしても子々孫々達に禁足地の事を伝承しない、この丘に家を立てるにしても暮らすのは君だけにする。
それを守るならこの丘に一時だけたけど【観測者】権限を使って見守らせられる」
「…了解した」
「約束を破ったら君には初代マトリーチェと契約したあの神の言いつけ通りにあの国に存在する魂が消滅するまで永遠と国民の命を奪い続けることになることを胸に刻みなさい」
「……はは…随分とエグいし重いな」
「神との契約はとてつもない程エグいし重いものだから」
それだけ言うとサニカはラブナシカと今回の件に関わった神族の言い争いを辞めさせて禁足地の封印を施したのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
時は戻り【無敵の宿屋の食堂】では…。
「………ていうのがサニカの第二の番問題のお話よ」
「重いわ!」
「当たり前じゃないの」
「それでサニカ先生と約束したライルさんは約束をちゃんと守ったの?」
「えぇ、約束を守ったわよ」
「禁足地とされたあの国は解放されたの?」
「………いいえ…残念ながらアナタ達の先祖がこの世界にお引越ししてあちらの世界そのものが滅ぶまで消えなかったみたい」
「…おぉう」
「だからこそ何時まで経ってもどの世界でも番問題が出てくるシ、番問題関連の組織ができて常に厄介な問題として挙げられるんだナ」
「うふふふ……本当に困っちゃうわよね」
「だからこそ男女関係なく運命の番対策を僕たち含めて小さいうちから叩き込まれるんですね」
「あ~…【アフェランドラ流おビンタ術】な」
「……あはは」
最後まで話を聞いていた島の大人組は苦笑いしてその場を過ごしたのだった。




