林間学校 その3
【宵の孤島】
《男子のテント》
「………………ふぁ……」
玖寿は目を覚まし辺りを見渡すと既にふたりがテントから抜けていることに気づいた。
(………日葵と……意外ですがイオンが居ないですね…目覚まし時計で指し示す時間は午前5時10分ですか………二度寝……)
玖寿がぼぉ〜としていると外からの「キャーー!」と叫び声が聞こえ寝ていた他の男子がガバっと飛び起き、玖寿も目が覚めた。
「うぉおっ!…何だ?!」
「わっ!……なっ何?」
玖寿はふたりに出ないように指示を出してから何も言葉を発せずにそぉーとテントの外をひょっこっと覗いた。
するとそこは見たこともない景色が映っていて玖寿は直ぐにテントの中に戻りテントのファスナーを閉じ、ふたりに念話で喋ろうと言った。
緊急事態だと理解したふたりはカタカタと震えていたが、少しするとテントの壁に今現地点で見たくないシルエットが影として写っていた。
(…………………マジですか…)
(ひぃー!クマっクマのシルエット!)
(コラっ…クート……静かにしろ。ここは息を潜ませろ……おいおい…初日からコレかよ!)
するとテントの周りをウロウロし始めテントを引っ掻いたりしてくるようになった。
(ムリっ!ムリだよぉ〜!怖いっ)
(こういう時こそパニックになるなっ!ルウカ先生達どこだよぉ!何なんだよぉーもう!)
(ここは大人しくしてたほうがいいですね)
(えっ…)
(助けが来るまでここに居ましょう)
玖寿とレンカとクートの3人で大人しくしていると突然ルウカの声が聞こえ始めた。
「おーいどこに居るー!もう熊とかいないから出てこいー!」
クートはルウカの声に安堵して外に出ようとしたが玖寿とレンカが動きを封じた。
(クート、声は出せずに聞いてください…今我々がいるのはキャンプ場ではありません。魔物かナニカに引きずられて離れた場所に放置されてます)
(えっ!)
(やっぱりかー!なんか外から変な感じがすると思ったらやっぱりかよ!)
(もしもルウカ先生が助けに来てくれたのならばすぐにでもテントのファスナーを開ける筈ですがしてこないのでナニカが声真似している可能性が大ですので…)
(ここは大人しくしてたほうが良さそうだな。母ちゃんにこういった狡猾な魔物の対策の訓練をさせられてて良かったー)
(このテント大丈夫かなぁ)
(魔除けのテントですから持つのでは?)
(…どれくらい?)
(さぁな〜どれくらいだろうな。今俺たちを探してくれてるだろうからな。今はまだ待っているかないな)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【キャンプ場】
《キャンプファイアー前》
「してやられたな…音を一斉に8箇所も同時に立てられてその場所の様子を見に行ったら、男子のテントとサニカが用意した食料をいくつか持ってか行かれた」
「不幸中の幸いね。案外冷静なレンカと玖寿がいるからクートの暴走は防げているだろうけど…早く見つけてあげないと」
無事だった子供達は身を寄せ合い震えていた。
「しょっ初日でさっそく……」
「こっ怖すぎるワ…」
「そう言えば日葵とイオンはどうして無事だったの?」
「えーと…その…」
「我と日葵は子供だけのテントで寝られなくて天藍が人に化けて寝てたルウカの寝床に行ったのだ」
「あっ…言った…」
「…ダサいなんて言わないわ〜そっちのほうが安心感半端ないわね〜…あーしも明日は紫蘭先生と寝よ〜」
「譜月達には匂いを辿らせてるが見つけられてないからな…ここまで狡猾だと見つけるのに時間が掛かりそうだ。
オレとラブの魔力感知サーチですら見つけられてないんだからな」
「それでタヌ治郎と譜月がキャンプ場にいた時にかなり殺気だってたのね…治郎も男子のテントで一緒に寝てたわよね?」
「治郎はおれとイオンをルウカ先生のテントに夜は危ないからって先導して送ってくれたんだよ」
「譜月は物音に気づいて外に行ったのだ」
するとどこからか狼煙がモクモクと上がったのを見つけたルウカはその場に向かっていった。
「あの狼煙は……」
「治郎が上げた奴ね」
「ごちそうさま〜」
「ってコナルヴィア…こんな時によく朝食を食えるな」
「だって〜食べとかなきゃ…今日必要なカロリー取っておかないと…散策出来ないよ〜」
「……ラブ先生…まさか散策しないわよね?」
「アナタ達は無事だからヤるに決まってるじゃない」
「えっ」
「紫蘭先生?」
紫蘭が子供達と目が合わないように目線をずらした事で「マジで行う」と理解した子供達は一斉に朝食を無理やりお腹に詰め込んだ。
「治郎と譜月が3人にピッタリくっつくだろうから一度グループを作ってみてちょうだいな」
すると子供達はそれぞれ性格や自身に相性の良い従魔にピッタリくっついた。
「あら〜」
「見事に別れたね」
エルシィローにピッタリくっついたのはラローネルとディーシェのふたりで、ベルネクローネにはエトシェリカとヴァリラ。
天藍にピッタリくっついたのはイオンと日葵でメフィリーネには莉糸とルフェルニカがペタっとくっつき、翡翠の背にクーナが既に座っていた。
コナルヴィアはフリルデーモンが担いでいる神輿に乗っていたのだった。
「………コナルヴィアは何をしているのかしら?」
「神輿に乗ってるの〜」
「アナタ達も何をしてるの…どこからか神輿を持ってきたのかしら?」
「一人くらい派手に動いても…」
「流石に神輿は駄目でよ…せめて神輿からは降りなさい」
「は~い」
子供達と紫蘭は神輿は駄目だけどフリルデーモンは良いんだ…と思った。
「アナタたちはコナルヴィアを甘やかしたら駄目だからね?ちゃんと守るのよ?それともし甘やかしたり大怪我させたら…サニカの折檻が待ってるからね♡」
「「「「へい!」」」」
「それじゃスタンプラリー頑張るのよ〜!」
子供達と護衛する担当従魔たちは紫蘭から渡された地図を手に持ちスタンプラリーの場所へと向かっていった。
子供達と従魔達が去って少しして選ばれることなく一匹残されたヨモギはぷるぷるしながらしくしく泣きだした。
『うぅ~!』
「あら残されたのね」
『選ばれなかっったー!わーん!』
「ねぇヨモギはウォール系の魔法は使えるのかしら?」
『…ぐすっ……使えるわ。サニカに防壁を張れるだけでも助かるって言われたから…使えるようになったの〜』
「ならこのキャンプ場に属性はなんでも良いから防壁を2日間張っていてほしいの」
『…うー…わかった〜』
するとヨモギは防壁を張った……神経毒と致死性が強い猛毒の防壁を。
「……私はてっきり水系の防壁を張るかと思ったけどまさか毒性の強い防壁を張るとは…」
『これなら空を飛んでる魔物しか来れないの。一応、追尾弾付きよ』
「「えっ」」
すると空の上から鳥型の魔物がヨモギ目掛けてやって来たが、ヨモギが言った猛毒の追尾弾が毒の防壁から光の速さで放たれ鳥型の魔物を溶かした。
『えへへ〜…あっわたちはメスだから普段の体内には毒はないよ〜安心してねー』
ラブナシカと紫蘭はヨモギの秘めたる力の一部を見てドン引きした。
ヨモギのお陰でこれより先は誰も連れ去られる事はなくなったのであった。




