嵐を呼ぶ天気予報士
【無敵の宿屋】
《中央エントランスラウンジ》
中央のエントランスラウンジではカイリがマジェリルカとマナリオとハルディオラと紫蘭に対して土下座をしていた。
周りの島民たちはその様子を見て、事がすぎるまでチラチラとカイリたちの様子を見ながら嵐が吹き荒れている窓を見ていた。
「申し訳ありません…!…そんな希少な薬草を昨日植えていたとはっ!」
「君が断崖絶壁の場所に生える薬草と標高が高い場所のみ生える薬草を取ってきてくれるなら別に良いけど」
「それならアタシも別に謝られる事はないわ」
「お野菜ちゃん達が…」
「どうしてカイリはこんな時期に嵐を呼んだのよ?」
「快晴が続いたから海の温度が上がりすぎて珊瑚の発育に悪いので海水温をほんの少し下げるために小雨にしようとしたら分量を間違えて…ご覧の結果に……」
カイリは土下座したまま嵐が吹き荒れている窓を見た。
「イダルベールが2つずつ薬草の苗を確保しておいてくれたから全滅は防げたけど…なかったら悲惨なことになってたわよ?」
「オラが植えたお野菜さん達も」
「本当に申し訳ありません…」
「長い年月かけて品質改善してたのがパーになりそうだったからイダルベールが薬草の苗を持ってくるまで雰囲気がヤバかったなー」
「ルウカだって稀にふざけて天気を晴れから嵐にしてるじゃない…ヒヤヒヤさせてくるのは心臓に悪いからやめて」
「……善処するが、オレは楽しいことが大好きだか
そう発言したのは良かったが、マジェリルカ達の絶対零度の目線にルウカも目を背け口笛を吹きながら離れていった。
「それでお野菜ちゃんの生育は間に合いそう?」
「それなら無限収納冷蔵庫に千年前から育てられている果物ちゃんやお野菜が鮮度抜群の状態であるから大丈夫だ」
「そんな便利な冷蔵庫が実際にあるの!?」
「かなり大昔から在るよな?」
「とある山のとある村に暮らしてた頃から」
「それってかなり大昔…」
「あの頃は良かったわ〜。好き勝手して楽しかったわ♡」
「ん?なんか怪しい事してないですよね?ラブナシカ様」
「ダイジョウブ、ダイジョウブヨ。ナニモシテナカッタワ」
「…話しだしたら昔話が前みたいに止まらなく成りそうだからこの話は良いや。……この嵐どうするの?」
「嵐が過ぎ去るまで宿屋に籠もってるしかないわ」
「ここまでの嵐は何年ぶりだ?」
「木や置き物が吹き飛ぶぐらいの威力なのはそれこそ俺たちが小さかった頃じゃないか?」
「ロルスさんたちが小さかった頃…」
「懐かしいわねー。メルゴとロルスが外に出ていて、木に捕まって吹き飛ばされそうになってるのを大人たちが見つけて騒ぎになってたわ」
「そんなこともあったな」
それを聞いた一部の子供たちは引いた目でロルスやメルゴを見ていた。
「コナルヴィア達は絶対に真似をしちゃ駄目よ?」
「大丈夫。あーし達は絶対に真似しないから」
「それにしても……サニカ先生は何処に行ったの?なんかすっごい強いオーラ出してた女性が迎えに来てたみたいだけど」
「それについては明日の全校生徒が必ず参加する【集会】で話をするから待っててちょうだい」
「はーい」
「サニカ先生っていろんな組織にお呼ばれしてるわね」
「情報収集とかも兼ねて行っているからな。オレは今回の【集会】にはお呼ばれしないんだよな…」
「そりゃぁ…アナタは明日の集会で話す組織にとっては反対側の人間だもの…呼ばれないわよ」
「サニカ先生はその組織にとっての賛成派なんですか?」
「違うわよ。サニカは中立の立場を取ってるから中立の立場の人間の一人としてお呼ばれするの」
「ふーん」
「それにしても島を出て行ったきり、アスチル先生もなかなか帰ってこないわね」
エトシェリカの発言を聞いたラブナシカが悲しそうな表情をしていた。
「そうなの。連絡しても前はすぐに返事をくれたんだけど最近は連絡を返してくれないの」
「………もしかして他所で子供を拵えてるんじゃね?」
一瞬だがピシッと空気が変わったのを感じたレンカは「あっやべっ。地雷踏んだかも」と思ったがすぐにもとの空気に戻った。
「レンカ?ラブ先生達に失礼だろ?」
「……失言した。ごめんなさい」
「うふふ…大丈夫よ。アタシの使徒になっているアスチルがそんな事するわけがないもの」
「そんなことしてたら使徒契約が解けてラブ先生のサーチに引っかかるだろうに」
「そうね。使徒って魂の繋がりが深いものだから遠くにいようとも勘ぐればすぐにわかるわ」
「調べてみれば?」
「調べないわよ。そんなことしたらアスチルとハルディオラとイダルベールに失礼よ」
「あらあら…ラブ先生たら」
「確かにアスチルから連絡がこないだな。まめに連絡をくれてたのにな」
「こういうのって最近の恋愛小説にあるドロドロした奴じゃない?」
「…貴女達はドロドロした恋愛小説の読みすぎよ。古典文学とか読みなさい」
「フィクションなんだから大丈夫ヨ」
「……エトシェとルニカが持ってるその恋愛小説はとある強者達の事実を元に書かれたノンフィクション泥沼恋愛小説よ」
「「え"っ」」
「そしてふたりが持ってる小説の作者は強者達に【○ロ公爵】と呼ばれている強者が書いた本よ」
エトシェリカとルフェルニカは読んでいた本を閉じて作者の名前を見た。
「作者の所に【エリュトワール・デュポン・フレロ】って書いてあるわ」
「わたしの方にも……」
「恋愛小説の棚を後で見てきてご覧なさい。本棚にある大半の本がふたりが持ってる作者の作品よ」
「…………うわぁ」
「男子が引くのは分かるけど、物書きさんとしても本当に才能があってね。「その才能が消えるのが惜しい!」と神族によって不老不死にされた珍しいケースの強者なのよ」
「………そんなことあるんだ」
「貴方たち男子が大好きな【フローメリンの冒険】の作者でもあるわ」
「…凄いですね。ありとあらゆる分野で書いてるのですね」
「本当に多彩だから驚きよ」
ラブナシカの言葉を聞いて子供たちは【無敵の宿屋】にある図書館に向かっていった。
嵐が過ぎ去るまで島民たちは思い思いの時間を過ごした。
カイリはある程度のお叱りを受けてからマジェリルカ達から解放されたのだった。




