クレイバール島の異変と帰還
【クレイバール島】
《カフェ・ド・ラブリー》
『ねぇ、ラブナシカ。何か最近の島が少し変なんだけど何か知ってる?』
「急にどうしたのよ?藪から棒に」
『島の植物の味が変わってたりしてて変なんだ』
「そうねぇ…味に関してはルウカが居ないのもあるけど…アタシも少しだけど島の変化は感じ取ってるわ」
『その割には動かないね』
「だって下手に動いたらヤバそうな案件なんだもの」
『君でもなの?』
「えぇ、アタシが選択を少しでも間違えれば島の子供たちにもシワ寄せが来るだろうから動かないの」
『………そっか』
「ルウカが帰ってきてからアタシは動くわ」
『島の子供たちに知らせるのは駄目だよね?』
「えぇ、今は島の異変に関わっている子の好き勝手させてたほうが良いわ。
下手に妨害して大損するくらいならね」
『……わかった』
「治郎…貴方は犯人に目星は付いてるの?」
『うん』
「それは厄介ね~」
『ホントだよ……気付きたくなかった…子供たちに影響が出ないようにフォローだけはしておく』
「いつものアタシが見られないところを見てくれてありがと♡
裏と表玄関から嫌な感じがするから影抜けして帰りなさい」
『うん』
タヌ治郎はラブナシカの影を利用してカフェ・ド・ラブリーから出て行った。
「なかなかキナ臭い話をしてますね。ラブナシカ」
「居るなら話に入ってくればいいのに」
「私は島の中では強くない方なので巻き込まれたくない…というのが本心です」
「貴方のそういう所アタシ大好きよ」
「……暫く休むと長期休暇を取ってきたので事が済むまで異界に逃げます。
まぁ…周りからは子供たちを置いて逃げるゲス野郎と言われるかもしれませんが」
「アスチルの判断は間違ってないわ♡子供たちは既にマーキングされちゃってるから逃げ出せないけどアスチルなら逃げ出せるわ」
「…それでは行ってきます(私はまだターゲットにされてななかったのですね…良かったー)」
「気を付けて行ってくるのよ」
一方その頃の【六月一日家】では…。
《居間》
「玖寿…勉強は終わったのですか?」
「とっくに済ませました。治郎が外に出るのを控えろって言ってくるので家でのんびりしてます」
「そういえば…白虎も何か感じ取っているのか…最近は薬草採取とか行かないでこう言う時の為にと溜め込んだのを使って薬等を作ってますね」
「……ルウカ先生もなかなか帰ってこないですし」
「んー…いざという時の為に食料やらも貯めてありますから心配は無用です」
「母さんの書斎にある本を読んでも良いですか?」
「良いですよ。今は危険な書物がココにはないので」
「家に危険な書物を持ってこないでください」
「…善処します」
《白虎の仕事部屋》
「おいしそうなにおい…」
「ふしぎな味……」
「クーナ、クートはあまり味見とかするんじゃないぞ。まだ未完成品だから」
「パピィは何を作ってるの?」
「今取り掛かってるのはラブ先生から頼まれている秘薬の中でも俺みたいな一般人でも副作用なく比較的に使いやすい【パナケイア】の制作だな」
「パナケイア?」
「何それ?」
「別名飲める黄金と呼ばれている秘薬だ」
「「へぇー」」
「材料はラブ先生が全て用意しておいてくれたから、後は時間かけてゆっくり作るだけなんだが…本格的な秘薬作りは初めてだからマジェリルカちゃん達に比べて多く時間が必要だな」
「今どのあたりなの?」
「半年前から作らされてて…3割に届いているかいないかのあたりだな」
「…おれっちにはできない」
「クーナも」
「そればかりは経験値の差とか成長していけば出来るようになるな」
六月一日家は和やかに時間が過ぎ去っていっていた突然ドアが開けられて興奮気味のキユクが入って来た。
「白虎!ルウカ先生が帰ってきたそうですっ!」
「おっおう……帰ってきたのか」
「異世界の魔導書や昔話の本とかあるそうなので行きましょう!」
「それなら先にクーナ達を連れて行ってくれ。俺も片付けとかが済んだら向かうから」
「「わーい」」
「わかりました!クーナ、クート行きますよ!玖寿は先に行ってますので後は僕たちが向かうだけなのでっ!」
すると物凄い勢いでキユクとクーナとクートは仕事部屋から飛び出していった。
「異世界の本か…霊薬とかの本とかもあると良いけど」
『………パナケイアの世話はやっとくから行ってくるとええわ』
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【大広場】
大広場ではルウカが土産だと数多の数の本や反物や薬草などを巨大な風呂敷の上にまだまだ出していた。
「悪いな、随分と開けてたみたいだから土産も多く買ったり貰ったりしてきたぞ」
「どの品も高級品ばっかりじゃねえか……お金とかは大丈夫だったんか?」
「侵攻された街とかを直すのにお金が必要で数名だけお金で払えないのが出たから物でも良いか?と聞かれたからオレはそれでもいいと思ったからお金ではなく物を貰ってきたんだ」
「異界の反物とかって生地の作り方の製法が違って面白い効果が付いたりするから面白いんだよな」
「あっフィリム。少し反物を少し分けてくれる?こちらも儀式用の服作るから」
「オレが作るのじゃダメか?」
「儀式用の服を作りながら昔からマルドレア家とデイニシティー家に伝わる呪文を同時に唱えたりするのよ」
「魔女の儀式用の服ってそんなふうに作るんか…大変だな。もしかしてヴァリラ用のか」
「えぇ、そろそろ渡す時期に入ったから」
少し離れた所ではキユクとマジェリルカが異界の本を手に取り興奮していた。
「マジェリルカちゃんっ!」
「そうね、ルウカの割には良い本を選んだじゃない?」
「マジェリルカとキユクが手に持っているのは魔法を得意とする異界の強者が選んだものだぞー」
「……前言を撤回するわ」
「だとしても良い本です!」
「お前たちが喜んだら本を選んだ魔法使いも喜ぶだろうな」
「……コレで異界の少し前〜今現在進行形の魔術がどれだけ進んでいるかがわかるわ」
「マジェリルカも外に出れば良いだろうに」
「嫌よー…絶対に絡まれるもの」
「マジェリルカもカーウェンもオレやサニカ同様に外に出れば強者と呼ばれるからな」
「あー…外に出れば厄介事に巻き込まれるのですね」
「えぇ、だからでないの」
「……最新の魔物図鑑もありますねっ」
玖寿も目をキラキラさせながら大きな魔物図鑑と植物図鑑を抱えていた。
「よく重たい図鑑を2つも抱えられるもんだな」
「母さん、帰っていいですか」
「玖寿、その前にルウカ先生に言うことがあるはずです」
「ルウカ先生、この図鑑持っていって良いですか」
「「……………」」
「フハハハ!…良いぞ持って行ってもな」
「やったっ!」
「その代わり、読み終えたら学校の方の図書室に持って行ってくれ」
「わかりました!」
スタコラサッサと玖寿は自身の家に戻ることなく学校の方に向かって行った。
「おかえりなさいを言いなさいと圧をかけたのですが」
「…小さい頃のキユクも目新しい本を見つけると玖寿みたいだったぞ」
「そうね」
「…そんなことないですよ。遅くなるようなら迎えに行かないとですね」
『それならボクが行くからキユクは白虎と同じく目ぼしいものを手に入れたら何があっても家の方に帰るんだよ?』
「何か…いえ、何も言いませんが……玖寿の事は頼みました」
『うん』
タヌ治郎とすれ違う形でサニカがやってきた。
「おや、帰ってきたか」
「久し振りだな、サニカ」
「随分と掛かったみたいだね」
「そりゃな、侵攻している向こうさんにも見知った異界の強者がいたから余計だな」
「えっ…知り合いと殺りあったの?」
マジェリルカがルウカを引いた表情で見て聞いた。
「あぁ、殺りあったな。巨獣大乱闘みたいで楽しかったぞ」
「戦闘狂共め…」
「まっある意味で日本の喧嘩祭りみたいだったな。ここぞという若い強者達が年上の強者達に対して下剋上のような怨みつらみを発散してたぞ」
「うわ〜…でも見てみたかったかも…」
「それと紹介したい奴が居るんだが出していいか?」
「紹介したい奴?」
「新しい仮の従魔が出来たんだ」
「ついに3匹目ですか!」
「おう、一応3匹目だ。サモン【ドライズ】」
ルウカが召喚するとフェニックスの翼と一定の部分に羽毛が生えているドラゴンが召喚された。
「こっコレは!新種ですか!?」
「新種ではないわ。【不死鳥種】を好物としたドラゴンが稀に進化する個体ね……あたしも実物を見るのは初めてだけどどこかの文献に載ってたわ」
「ドライズ、挨拶しろ」
『………よろしく頼む』
ルウカのお土産を貰いに来た島の大人組がルウカの新しい従魔を囲い込んでモフモフし始めた。
ドライズは最初こそ島民達を見て「ルウカや自分より弱いからマウント取れるだろう」とたかを括っていた。
だか島民達に直接素手で触れられるとセーブしている力の根源を感じ取り冷や汗がダラダラと流れ出した。
そして「話とちゃうやん。島民たち強くね?」とルウカを凝視したがルウカからはグットラクと合図を受けたのだった。
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【星明かりの森】
《星の泉》
星の泉には恐竜のキグルミを着た魔法使いと肩に乗るカモノハシが泉の様子を見ていた。
「私が居ない2000年で何があったんだ………泉に溜め込んであった力が失われて魔王レベルの魔族の力と大天使の力がいい具合に混ぜられて爆発寸前だよ」
『……冷す?』
「冷やしたらこれを仕込んだのにバレるからしない。それにジュナーテの命の大樹が埋めてあった場所に透き通った透明になってる黒結晶樹が埋めてあるし」
『あの木から禍々しい力を感じるわー』
「黒結晶樹は良くないものを引き付けたりするから。禍々しい力を中和させようとした跡もある」
『ここは取り敢えず放置するの?』
「うん…私がココに来てるってバレるわけには行かないから。
移動しようか」
『次はどこに行くの?』
魔法使いは歩きはじめた。
「花畑かな。私が埋めた【純神秘花】が残ってると良いけど…」
「【純神秘花】ってなんです?」
「人が手を加えないと枯れるまで何事にも染まることがない透明な花だよ。普通の人では見つけるのが困難とされている【秘宝】の一つに数えられている花だね」
『…それが自生してるの?』
「残念ながら養殖物さ」
『えっ養殖が出来るものなの?』
カモノハシが嘴を使い魔法使いが纏っているキグルミの毛をハグハグしながら聞いてきた。
「普通は出来ないけど一部の長生き組で徒党を組んでる【希少な花愛好会】の人達のみでお互いに情報交換しながら育てる技術を確立してきたんだ。
だからといってその技術を流通させることなく愛好会の間だけにしてある……その技術を悪用されるわけにはいかないから」
『人間世界って……世知辛いですの』
「そういうわだかまりが嫌で私やルウカも自身の世界を作って引きこもってるんだよ」
『…暫くこのままで良いですの』
「ははっ…」
恐竜のキグルミを着ている魔法使いは苦笑いしながら星の泉から出て行った。
その様子を玖寿以外の子供達が眺めていた見ていた。
「なぁ!恐竜が居たぞ!」
「……見間違いじゃないよね?」
「あと見たことない珍獣を連れてたわッ!」
「跡をつけてみない?」
「そうだな…跡をつけよう」
「……わたしは家に帰るわ…ルウカ先生が帰ってきたからお父様がお土産を持ち帰るのに人手がいるって来たから」
「それならおれも帰る…おれも母さんから呼ばれてるし」
「お姉も帰るですの…母に怒られますの」
「放置しとけば良いのよ…イオン、ルニカ、レンカ、ラローネルは後で叱られるがいいと思うわ…」
「撤収…ひっ!!」
ディーシェが突然声を詰まらせたのを他の子供達はディーシェが見ていた方向に目を向けるとぬめぬめしたナニカと目線があって子供達の顔色がみるみる間に悪くなって一斉に親たちが居る大広場の方に逃げ出した。




