血染めのバレンタインデー
【クレイバール島周辺の大海原】
「ヒャッハー!!悪が栄える時間だぜ!」
「槍を振り回すな!刃先に当たったらヤバいことになるから!」
「駄目よ、サニカ…諦めなさい奴は既にバーサーカーモードに入ってるわ。アタシたちはルウカから離れてチクチク攻撃していれば良いわ」
「離れれば攻撃が届かないからね?私もラブも接近戦用の武器だから」
「手斧にアレンジしちゃえば?」
「ヤダよ…今より危険な物にしたくないからしないよ」
めでたい日だというのにバレンタインデー当日に【混合獣】が島に攻め入ってきていた。
「でもまさかこんなに大量発生するなんて思っても見なかったわ〜」
「私もこの数には驚いたよ」
現在、クレイバール島の周辺には50体以上の【混合獣】が現れていた。
現在3人で1体ずつ【混合獣】を倒しているが今戦っているのは51体目の【混合獣】である。
「宙に浮いて戦うことになるなんて思わなかったわ」
「ホントにね」
「エプロン着けたままここに来るなんて余裕そうねぇ」
「バレンタイン料理してたところに来たものだから着替えている暇なくって…もう既に血塗られたエプロンになってるけどね」
サニカは初期の風魔法しか使えないので自身で浮くことが出来ずにルウカ特製のジェットパックを使い宙に浮かんでいる。
時空間魔法を使い瞬間移動しながらであれば空中に居られるがそれだと体力的に限界が来るのでやめている。
「サニカ、背後に混合獣の左手が来てるわ」
「ハイよ」
サニカはジェットパックを使いクルッと器用に1回転すると同時に右手に持っている例の斧を振りかざすとスパーンと切り落とされ巨大な左手が海に落ちていった。
「ガァォオオオオオ?!」
「ホントによく切れる斧だね…【混合獣】相手にしてるのにサクサク行くから………ゾクッてきた」
「大丈夫?今、悪寒が走ってたみたいだけど」
「コレくらいならまだまだ」
ルウカは槍で【混合獣】の角を突いたり刃先で爪を薙ぎ払ったり鱗切りしたり【混合獣】の素材を集めているのが見えている。
「それにしても周辺の海が鮮血に染まって真っ赤になったね」
「……この血によって【混合獣】に変化しているわけじゃないわよね?」
「それはない筈だよ。星間獣の血肉を食べて【混合獣】になった魔物の血は特に何も無いと生物研究がかなり進んでいる異界の【生態マニア】が実験の結果を発表していたから」
「あらそうなの?」
「うん」
「ポーリア達からの救援要請もないからこのままで大丈夫そうだね……もうこの個体はルウカの剥ぎ取り生物に成り下がったみたいだから52体目の元に行こうか」
「そうね」
ラブナシカは宙に浮いて、サニカはジェットパックを使い海の底から現れる52体目の【混合獣】の元に向かった。
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【新クレイバール学校】
《屋上》
「わぁ!【混合獣】がまた現れたよ!」
「………日葵は嬉しそうだな」
「安全圏で見てられるからね!もし安全圏で見られなかったらそこのイオンみたいに大人しくしてるよ」
「日葵、サニカ先生達が狩りをしている反対側に獣系の【混合獣】が現れましたよ」
「えっ!?」
「………玖寿も双眼鏡を使って呑気に観察してる」
レンカは【混合獣】が現れてからガタガタガタガタ震えていイオンを見た。
「イオン」
「うひょっ」
イオンはビクっと反応した。
「変な声が出てるぞ」
「レンカは怖くないのかっ!」
「うん、怖くない危害はこちらに来ないってわかってるから」
「我は怖いぞっ…オーラが半端ないからな!」
「俺達には見えない何かが見えるとここまで怯えるんだな」
レンカは考えるのを放棄して巨獣が暴れているのをボケーと見ていると甘い香りが校内からしてきた。
「そろそろチョコ料理が出来たのか?甘い香りがしてきたぞ」
「我は先に行くとしよう…巨獣対決を見てるより良い」
イオンがドタドタと屋上から家庭科室に向かいた。
その音に反応した日葵と玖寿がビクンっと反応して体が固まった。
「…………………ついに完成してしまったのでしょうか」
「サニカ先生やハノン…大人達が居ないバレンタイン料理…」
「何が不安なんだよ?」
「味」
「どのような食材が使われているか…です」
「流石に下手な食材は使わないだろ」
すると『ハッピーバレンタイン〜さぁ男子たち家庭科室に来るですよ〜』と放送が入った。
「…お前ら行くぞ」
「「はい…」」
レンカに率いられ玖寿と日葵は家庭科室に向かっていった。
【新クレイバール学校】
《家庭科室》
3人は腹を決めて家庭科室のドアを開いた。
「ようやく来たわね」
「バレンタイン料理出来てるから食べテ」
「自信作ですよ!」
「あれ?先に来ている筈のイオンとつまみ食い常習犯のコナルヴィアは何処にいるんだ?」
「イオンはマダキテナイワヨ?」
「最後の方カタコトになってるよ…?ラローネル?」
「魔女の秘………隠し味を入れてあるだけだから♡」
日葵と玖寿はそれを聞いて怪しい女子達にバレない程度にキョロキョロすると見てはいけないのを見てしまった。
それはバレンタイン料理が置かれている場所から少し離れたテーブルの床にイオンの足とコナルヴィアの足が並んでほんの少し飛び出していた…靴下と上履きが本人だと主張している。
どうやっても女子が自分たちが来る前に乱雑だが隠しているというのがわかった。
それをアイコンタクトでレンカに教えたが。
レンカは知らせる前に気付いていたらしく震えているのがバレないように気丈に振る舞っている。
「はい……お前ら逝くぞ」
既に拒否権はないと理解しているので3人はバレンタイン料理がある席の椅子に座りフォークを渡された。
「さぁ…召し上がれ……」
目の前のバレンタイン料理から怪しい雰囲気が出ている。
3人は震えている手にフォークを持ちガトーショコラらしき物体を取り口に運んだ。
(……………あれ?別に普……えっ………なんかネチョネチョしてます……えっ……!?……あっ辛いっ!……急にっ!……よく噛んだらこれカレールウじゃないですか!……嚙んでも嚙んでもなくならないっ……うっ……)
玖寿は日葵とレンカの方を見ると顔を青くさせながらも飲み込んだらしく引きつった表情をしながらトリュフチョコレートにフォークを刺して口に運んでいる。
玖寿はガトーショコラらしき物体が口に残っているがフォークを使いトリュフチョコレートを口に運んだ瞬間に玖寿の意識が消えた。
所々で戦闘が行われたが夕方になると【混合獣】が現れなくなり戦闘が終了した。
島の大人達も特に怪我もなく無事に終わったと連絡が来た。
「終わったわね……この日で終わってると良いのだけど」
「……まだ終わってないよ。フェイースと戦って生き延びた隻眼の【混合獣】が出たとハノン組と譜月組から連絡きてないからね」
「………でもいっときは落ち着くわよね?」
「落ち着くだろうけど気を抜かずにパトロールを増やさないとね」
「アタシはこのまま返り血まみれのルウカを宿屋に運んじゃうわね…バーサーカーモードが切れて燃え尽きてるから」
「よろしく頼むよ。私はクレイバール学校に居る子供達を迎えに行ってくるね…子供達の両親や祖父母たち…ハノン達にも全員ちゃんと連れてくるから宿屋に居てくれと言っといて」
「わかったわ」
ラブナシカとルウカは無敵の宿屋の方に向かって行きサニカは自身に浄化魔法が込められているスクロールを使い体や服を清め学校に向かっていった。
【新クレイバール学校】
《家庭科教育》
サニカは家庭科室の部屋のドアを開くとあ然とした。
「あはは〜きれいなちょうちょうがいっぱい〜」
「あ~こっちにもいっぱい〜」
玖寿と日葵が何故かハイになり幻覚を見ているのだろうかルンタッタと家庭科室をスキップして徘徊している。
レンカはテーブルの上に体を預けて倒れている。
そしてサニカも家庭科室を見渡しイオンとコナルヴィアの足を見つけた。
「……ルニカ…何があったか話しなさい」
「………はい…話します」
ルフェルニカたちはバレンタイン料理を作るときに家庭科室の冷蔵庫の中にあった物を全て使いバレンタイン料理を作ったそうである。
隠し味にヴァリラが隠れて持ってきた【魔女の秘薬】を持ってきて使った。
「……魔女の秘薬を使ったんか……まぁ……悪い効果はないけど……この状況を見てどう思った?」
「流石に…やりすぎたと思いました……ごめんなさい」
「味見とかしたの?」
「コナルヴィアがつまみ食いしてそのまま倒れちゃったんだけど材料がなかったからそのままにしちゃった…」
「食べさせないという選択肢はなかったの?」
「ヴァリラがこのまま観察してみたいって言っテ」
「……今回は流石にやりすぎだよ……何をやったかちゃんと全て話してそれぞれ親に叱ってもらって玖寿達が正気に戻ったら謝りなさい。
私からの罰は家庭科教育の冷蔵庫にあった野菜や果物を自身で畑に行って収穫して入れておくこと…調味料や海の物に関しては私が戻しておくから良いよ。
監視役としてポーリアとピナを付けるからね」
「はい」
こうして大人も子供も散々なバレンタインとなったのであった。
【魔女の秘薬】
デイニシティー家の魔女に伝わる秘薬で怪我を癒すのに特化した秘薬だが飲むと気分が上がりハイになり幻覚を見たりする副作用がある。
そしてとある薬草を入れると強力な惚れ薬にもなるので扱い注意とされている。




