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元勇者の転生人生記録  作者: 冬こもり
【クレイバール島の日々】
317/569

海より来るナニカ

【クレイバール島】


《中心街》


『何なんだよー…アレは…!』

『知りませんよ…アスチル先生に振り返るなと言われて振り返って見てないのですから』

『バラバラに逸れちゃったわね』

『よりによって女子枠が莉糸かぁ……』

『何よっ』

『二人とも静かにしてください…海より来た者に気づかれたいのですか?』



小声で話しているが玖寿はさらに声を小さくして日葵と莉糸に静止するように言った。



『(移動するときに後ろと前にそれぞれを配置して盾に)……どうするのか決めたの?玖寿』

『【人形の館】が近いので移動しませんか?』

『にっ人形の館…【人形の館】か…』

『島にいたヌイグルミ造りの天才裁縫師が作ったヌイグルミに【操り魔法糸】を使い操り僕たちの足に出来たらと思っているのですが』

『操り魔法糸で操ったヌイグルミの方が確かにウチらの足より早いわね(ラローネルが居たら違ったかも)…少しパニックになってて考えもしなかったわ』

(莉糸の場合はおれか玖寿のどちらを肉盾にするか絶対に考えてたな)



逃げ切れるのかと緊張していたのが逃げることが出来そうな可能性が出てきて少し和らぎ落ち着いてきた。



『おれ、人形を操るの苦手なんだよね。

授業参観のラブ先生の授業の人形劇でライオンのパペットの後ろ足左を担当してめちゃくちゃな動きになって父ちゃんたちが笑い堪えていたし』

『前足右をレンカが担当しての前足左がエトシェだもの…後ろ足担当二人がガンバっても無理があるわ』

『そもそも両手足をそれぞれが動かすとなるとバラバラな動きになりまよ……操るのは僕と莉糸です。

それぞれを担当すれば負担が減るかと』

『あたしはどっち担当?』

『前足担当です』

『(前か……でも追いかけられるのをその目で見続けるよりかは良いかな)……なら良いわ』



すると海より来たナニカが発する音が近づいて来た。

三人は魔力感知されて場所バレが起きないように魔力を抑える動作を行った。



『『『………………………………』』』



    ベチャ………

ズリュ……

      ズリュ…

ベチャ……



玖寿は見つかりませんようにと祈っていたが日葵は震えていて莉糸は無表情であったが何かを引き摺る音が自身の近くでしなくなった。


日葵の表情が暗く青くなり莉糸は無表情でありながらぶるぶるマシンの様に震えだした。

だがそこにレンカの悲鳴が響き渡った。



「ア”ァァーーーーーーっ!やっぱラローネルの鼻あってるじゃん!俺のバカーーー!ぎゃぁあ!居るぅーーーーー!」

「ちょっと!馬鹿レンカ!耳元で叫ばないで!耳がキーンとして痛いわ!」

「なにあれ…アスチル先生が後ろを向くなってこういうことだったのね……」

「うわぁ…こういうのはマジェリルカちゃんに見せられてるけどリアルで見るもんじゃない……」

「大丈夫か!?追いつかれないだろうなラローネル!!」

『大丈夫よイオン!5人ともちゃんと掴んでル?!全力で走るわヨ!』




ドシドシと地面が揺れてラローネルが駆ける音が響いた。

そしてそれを追いかける這う音がした。




(声からしてレンカとルニカとエトシェとヴァリラとイオンですか……ディーシェとコナルヴィアが足りないですが、二人で行動しているならもう宿屋に着いてるかもですね……クーナ達が来てなくて良かったです)と思いに吹けていたらトントンと背中を突かれ後ろを向いた。



『玖寿、【人形の館】に行くなら今じゃない?』

『………なら出ますか?』

『でるならひと思いに…』



三人は腹を決めてそれぞれの親からクリスマスに使うために受け取った【聖なる鈴付きリボン】を体に装着してクレイバール島の中心街にある雑貨屋の中に隠れていてが意を決してガラガラとドアを開けて飛び出した。


だが既に海より来たナニカの這った後が残っているだけで遭遇することなく【人形の館】の中に入ろうとしたが【聖なる鈴付きリボン】が鳴り入らないほうが良いと警告したのだった。



「ひっ!鈴の音がなったっ」

「どうするのよ」

「どうにもこ…あっ……そういえばサニカ先生から虎のヌイグルミを貰ったんでした」



玖寿はファンシーな虎のヌイグルミをアイテムボックスから取り出した。



「「えっ」……玖寿って縫いぐるみ好きだよな…」

「小さい頃からの延長線です…」

「趣味嗜好は人それぞれよねー…」



玖寿と莉糸はアイテムボックスから【魔法の操り糸】を取り出し、虎のヌイグルミにくっつけると子供なら何人か乗せられるくらい大きくなり先頭に莉糸が座り、真ん中に日葵、後ろ側には玖寿が乗り込んだ。



「掛け声はおれがやるから二人は運転する方に集中してよ」

「任せたわ」

「それではお願いします」

「せーの!1、2」

「そっちのほうなの?」

「えっ…」

「前足後ろ足じゃなくって?」

「それだとパニックになった日葵が噛みそうなので1、2で良いのでは?」

「……そうね」



日葵が1、2と玖寿と莉糸に聞こえるぐらいの大きさで掛け声を始め二人は虎のヌイグルミを動かし始めた。



「1、2、1、2、1、2、1、2、1、2、1……ふひひ…」



操縦している二人は突如として日葵の声が聞こえなくなったが動かすリズムは既に出来ていたのでなんの問題もなく勧めていた。



「ぷふっ……コナルヴィアが珍しく狐に化けて背中にディーシェが乗っていてドーナツを使って操縦してたよ!」

「ぐふっ…」

「ふふっ……何をしてるんですか…二人は…っ…ふふ…」




木の間を走っていると藪から毛に葉っぱや枝が絡んだラローネルたちが出てきた。



『どうにか巻けたワ』

「おっお前ら!ヌイグルミを使って逃げてたんか!」

「操り糸の人形劇……」

「………わたしも人形を操って移動すればよかったです?」

「おれたちの足じゃ逃げ切れないと思ったから…ふふ」

『三人して何で笑を堪えているノ?』

「ラローネル、君の妹君は度胸のある策士だよ」

『えッ?』



「悪いけどおれらは先に行かせてもらうけどさ」と言った日葵はディーシェとコナルヴィアがいる方を指さした。

ラローネルたちは状況を常に確認しているエトシェ以外がその方を振り向くとディーシェがドーナツを吊り下げた釣竿を使ってコナルヴィアを操っているのが見えた。



「コナルヴィア……ドーナツに釣られとるわ」

「馬の鼻先にニンジンを吊り下げる…ね…」

「ディーシェたち余裕こいてますよ」

「……アスチル先生をさっきから見かけないけどさ…大丈夫か?」



並走して走っているが浜辺で別れたきり遭っていないアスチルのことを今になって思い出した。



「……アスチル先生のことだからもう宿屋の方に居るんじゃない?何かあったらラブ先生が発狂して暴れるだろうし」

「それもそっ……………」



ルフェルニカが日葵に同意しようとしたらアスチルが自分たちを追い掛けていた【ナニカ】に捕まっていたのが見えた。

ルフェルニカが黙ったのを不思議に思いスピードを緩めてからルフェルニカが何かを見た方向を見た。



「捕まっとるんかい!」

「おっ俺たちを逃すために残ってくれてたんだよ」

「そんなことないわアスチル先生、容赦なくウチらを放置して一目瞭然に逃げたわ」



莉糸の言葉にハハッと子供達は苦笑した。



「そういうところは見逃さないわよね、莉糸って」

「……レンカたちは追いかけられてたよね?海から来た者は一体だけ?」

「あぁ……一体だけだと思いたい」

「そうは問屋が卸さないかもです」

『えッ…どういうこト?』

「レンカたちが追いかけられている時、僕たちは人形の館に入ろうとしたのですが、入るなと警告音が鳴ったんです」

「でもあそこって曰く付きの人形とかあるから…」

『皆、元のスピードに戻すからしっかり捕まっテ!玖寿たちもスピードを上げてここから移動しテ!何か背後から来るワ!』




一旦この場所から離れようとアイコンタクトをとり、宿屋に向かうのに間に合わない、いざとなったら行けと言われているクレイバール島で1番神聖な場所と聞かされている【彩りの花園】へ向かっていった。




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