冒険前の戯れ
【無敵の宿屋】
《玄関前》
「エトシェリカ、僕はまだ準備が出来てないので後で向かいますので先に行っててくれるかい?」
「えぇー…」
「ちゃんと見送るまでには合流するから」
「……はーい…」
「行くわヨー!」
「気合いが十分なのは良いが、命を大事にだぞ?」
「イオンもね」
子供たちの家族が子供たちの顔を見て少し寂しそうな表情をしていた。
「ヤバいと思ったら今さっき持たせた【帰還の鈴】を使うのよ?」
「大丈夫ですのマジェリルカちゃん。託されたアイテムの効能の結果をお楽しみになのです!」
ヴァリラはとても良い表情でマジェリルカから託されたアイテムがパンパンに詰まったマジックバックに頬ずりした。
それを見た周りの大人と子供たちは引いた表情をした。
「大丈夫よ、投げてフレンドリーファイアしても大丈夫な奴しか持たせてないから〜」
「フレンドリーファイア前提かよ!」
「ヴァリラの方にはサニカも同行してるし平気よ」
「………ラローネル達は大丈夫だよな?」
「大丈夫ヨ。お父さんたちから託された沢山の回復薬とお弁当を持たされてるだけだかラ」
「お前らポーション飲みすぎてポーション中毒に成らないようにナ…」
「もしダンジョンがヤバいようなら一旦戻ります」
「それくらいの気持ちを持って行くほうが良いですね」
「そうだね」
「【仲良しロープ】を皆ちゃんと掴んでる?……大丈夫ね。
気を付けていくのよ?」
「はーい!」と子供たちが元気にポーリアに挨拶を返した。サニカは周囲を魔力を使い確認して宿屋のドアを開き先に外に出た。
「大丈夫そうだね…行こうか」
サニカは【仲良しロープ】の先端を持ちゾロゾロと学校へ向けて歩き出した。
学校へ一直線で向かい始めたが。
「この隊列で大丈夫なの?」
「一直線だからか」
「V字の隊列よりマシかと」
「何かモンスターが出てくるかな?!」
「………サニカ先生と車で出たときと少し雰囲気が変わってる感じがするな〜」
子供たちはヴァリラの発言を流した。
「そう?特に感じないけど……サニカ先生的にどう?」
「莉糸は私とルウカと同じく鍛えてないと感とか鋭くはならないから気付かないかも。
逆に日葵は妖精の中でもかなり珍しい【古の妖精の血】を祖先に引いてるからその辺はかなり鋭いかな」
「あー…ウチは人間という名のミックスブラッドでも妖精の方の血は引いてないものね」
「フィリムの祖は………何の種族だったけ………」
「遠い記憶過ぎてど忘れしてるワ…この島の歴史でも【シルトフィール村】の記録はあんまりないシ、この世界に住居を移す時に資料を持ってこれる状態じゃなかったから資料とかないのよネ」
「だからその時の記憶をもってるサニカ先生とルウカ先生とラブさんの記憶だけが便りなんですよね…」
暫く歩いているとピコーンと閃いた音がした。
「思い出した!フィリムの祖はオーガ系の魔族の血統だよ…あー…思い出せた…良かったぁ…」
「パパ上の見た目からしてエルフの血統かと思ってたけども魔族かーそれにしてもオーガの血統だったのね」
「流石…いつも体育テストで莉糸が握力計を破壊するだけはあるわね……」
「なんですって?エトシェ?もう一度言いなさいな」
「言い合いは帰ってからにしなさいな。もうクレイバール学校に着いたよ」
もう着いたの?と縦一列だったのが横一列になった。
「わーお……ホントに【ようこそ!クレイバール学校迷宮へ!】って、でっかく上の方に書いてあるぞ」
「ホントなの」
「うわー趣味が悪いワ…」
「……もうロープはいらないんじゃない?」
「そうだね、でも校庭に入るまでは握っててね」
「ならもう行こうよー…さっきからこのロープになんか魔力を吸われるんだけど」
「そりゃ昔から子供たちが動かなきゃならないときに使われている魔道具だから少々特殊だよ。
まぁ命を取るもんじゃないから大丈夫さ」
そして少しして
一斉に真っ直ぐ歩き校門を通ってクレイバール学校の敷地内に入った。
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【クレイバール学校】
《表玄関の前》
カーウェンは白い白衣に血の跡を付けながら玖寿たちが佇んでいた所にやって来た。
「どうやら間に合ったみたいで良かったー」
「父様!」
エトシェリカはカーウェンに飛び付いた。
「どこで付けてきたんだい」
「あー……来る途中で陸竜種と鉢合わせてレイピアで突いてきたんだよ」
「陸竜種?……やはり島全体がクレイバール学校迷宮の影響を受けてるみたいだね」
「サニカ、それじゃ温室の方見てくるよ」
「エトシェを付けたまま大丈夫なのカーウェンさン」
「これくらい問題ないぞ、ディーシェ。それとも数人付いてくるか?」
「えっ!良いの?」
「うん、温室の方を見ても特に嫌な感じがしないからね」
「なんか実とかなってたら食料の足しに出来るからおれもついて行ってくるよ!」
「ならあたいも行こうかな」
カーウェンはエトシェを背に乗せ両脇に日葵とルフェルニカを連れて温室に向かった。
「校庭に居ても大丈夫かな…襲ってこないよね?」
「大丈夫、魔物の気配は感じないよ」
何もない時間が数分流れたと思ったら突然学校から悲鳴が響き2階の窓に血しぶきが現れた。
「ひっ!?」
「…………………サニカ先生…本当に大丈夫なノ…?お姉達ハ…」
「…ホラー演出だと思うけども………【身代わりの石】をもっと持たせようか…」
温室に向かった4名が戻ってくるまで子供たちはサニカに張り付いたまま過ごしたのだった。