牧場
【クレイバール牧場】
《牧草地》
「ウヒャー!広ーーい!」
元気よく牧草地を駆け回るのはラローネルさんである。
「校外授業の時はラローネルは元気だよなー」
「犬のように走ってるわって犬になってるじゃない!」
ラローネルはいつの間にかハイビースト(犬型)に変身して原っぱを駆け回っていた。
「あらあら相変わらず元気ね〜」
「あっ!イダルベールさんコンニチワン!」
「ふふふ…こんにちは〜」
「母さん、いつの間に」
「…魔物が産まれるなんて珍しいもの、今日はその見学でしょう?案内役をやろうと思ってきたのです。
皆、日陰に入ってハルディオラ君に呼ばれるまで待ちましょう」
そしてイダルベールがポロッと言った。
「今はサニカ先生がお取り込み中だから少し待ってて欲しいのです」
「そうだったんですか…」
「とある一匹が愛想が良かったからハルディオラ君たちが甘やかしちゃったのが行けないのですが…」
「もしかして我儘に育ったのですか?」
「そうなの…その子だけね」
「へぇ…魔物も我儘に育つとかあるんだ」
「ありますよー…そういう魔物ほどユニークと呼ばれる強い個体になるのが多いので余計に厄介なのです」
「えっ」
「ふふふ…だから今のうちにちゃんと躾とかないとイケないので大変なんですよ」
イダルベールの魔物についての話が始まると数名の子供たちがそろりと抜け出し子供の魔物がいる小屋へと向かっていった。
小さい頃から遊び場にしていたから場所は知っているのである。
「あら?数人が居なくなってるわ…残ったのはエトシェリカとコナルヴィアと玖寿と日葵だけね」
「あぁ!いつの間に!」
「うふふ…昔を思い出すわ〜…ロッカたちが良くハルディオラ君のお祖父様であるディトライツさんに怒られてるのを思い出したわ」
「……まぁ…サニカ先生が居るので牧場の魔物が大人しくなってますから…怪我はなさそうですが…仕方ありませんね。
植物たちに監視して貰いましょうか」
「ふふ…エトシェリカとコナルヴィアと日葵と玖寿」
「はい?なんですか?」
残った子供代表として玖寿が反応した。
「私の話を聞いてたり聞き流してたりしていたとしても大人の指示に従って残っている良い子には採りたてのフルーツ盛りを奢るわね?なんだか時間が掛かりそうだから」
「えっ!良いのぉ!?」
「ここのフルーツ盛り美味しいんだよねぇ〜」
すると本を読むことに集中していたエトシェリカもガバっと顔を上げマジでという表情をした。
「ふふふ、待っててね」
イダルベールは一旦席を外した。
「エトシェまで…反応しとる」
「…母さんたちが選んだフルーツは本当に美味しいですからね…その反応わかります」
「あーあ…サニカ先生の元に向った輩はー」
すると突如として氷の塊が現れた。
「おや、今日は雷が落ちることなく氷でしたね」
「アスチル先生冷静……氷の時って大抵記憶が無いんだよね」
「それに………牧場の魔物たちが氷の塊を凝視してるわ……」
「フルーツ盛りぃ〜」
エトシェリカが言った通りに牧場に放牧されている魔物が一斉に氷の塊を一点集中して見ている。
「何を見たんだろ……あれ?タヌ治郎が居なくなった」
氷の塊が出現する数分前…
【特別育児小屋】
《外壁》
「………ここだよな?」
「生まれた魔物とその母親の魔物は皆ここだと習ったわね」
「……ここからサニカ先生の匂いがするわ」
「レンカたら…なんでウチらを巻き込むのかしら」
「べっ別に巻き込んでねぇよ。お前たちが勝手に付いてきたんだろう?」
「一人で行かせるよりは誰が居たほうが…ね」
外周を歩いているとサニカの声が聞こえてきたので子供たちはその場に立ち止まり話を聞いていたがその背後には…。
「こら、ちゃんと食べなさい。食べなきゃ栄養不足でちっさいままだよ?………器用にペッて吐かないの」
『ガウガウ!(不味いからヤー!)』
「不味くても食べなさい。まだ人間の食べ物は早い!」
『ガウガウガウ!(イヤーー!)』
レンカと莉糸とラローネルとルフェルニカはその様子を窓から覗くとサニカが犬型の魔物の口に魔物の餌を食べさせていて魔物の子供は食べさせられた餌を舌を上手く使いペッと出して抵抗していた。
「どうしてこんな我儘に育ったかね」
『この子ったらずっとこうなのよ……イダルベールが用意したご飯食べないし、人間の食べ物食わせろー!ってずっと騒ぐわで育児ノイローゼになりそうになったわ』
「ハルディオラ以外にも甘やかしてたの居たよね、絶対に」
『………………』
「パナフェは喋らなくていいよ、言えないだろうから…それに甘やかすのに関しては目星付いてるし」
『バレてるのに良く甘やかすわね…本当に』
「昔、我儘を放置して育ったやんちゃ坊主を躾けるのにかなり骨が折れたの覚えてると思うんだけど」
『本当よねぇ……ディトライツでも駄目で白羽の矢が立ったサニカがわからせて収まったというのにねぇ?
それでどうするの?私は場合によっては仕方ないと思ってるわ』
「んー……恐怖で従えるとビビリになって出てこないしどうしたも……あっ」
『……アイシクルグランドインパクト!』
すると小屋の外のが冷気に包まれ氷の塊が現れた。
『わうぅうう!(かっ母ちゃんっ!)』
『サニカ、なんだか良からぬものを感じたから一瞬で全てを凍らせたわ』
「………助かったよ。私はもうこういった最上位の魔法は使えないからね」
『確か…かなりの大昔に一度、魔法を返したんだっけ?』
「うん。それくらいしか差し出せるものが無かったし後悔はしてないよ。
至竜の情けで初期魔法は使えるようになったから応用して魔法の鎖やらを使えるようになったけどね……場合によっては窓壊していいかい?」
『……メルゴたちに直して貰えるなら』
「私から頼んでおくよ」
『なら良いわ』
サニカは子供たちがコチラを覗いていた窓がある壁を破壊すると子供たちが覗いていたときの表情のままカッチカチの氷に閉じ込められているが、その背後には人狼が窓を覗いていた子供たちに襲いかかる手前だった。
『あらあら…やっぱりイダルベールが言ってたようにまだ居たじゃないの、サニカがわからせた瞬間に逃げて行方をくらましていた困ったちゃんが。
貴方も我儘を言ってると眼の前にいる人狼の様になるわよ』
『わふ…(えっ)』
「ときどき牧場から老いた魔物が居なくなっていたけど…どうやらコイツが食ってたみたいだね」
『えぇ…食べた魔物から能力を奪い潜んでいたようね。
サニカったらちゃんと魔法の鎖で縛り上げて寸止め出来てるじゃないの』
「それくらいはしとかないとね…パナフェが確実に凍らせてくれたから他の被害は出なかったよ」
『それでどうするの?』
「子供たちに関してはイダルベールに氷を溶かして貰うよ。
この【キマイラ人狼】は警備隊のロッカたちに」
『そう』
「…治郎」
サニカに呼ばれシュタッと何処からともなくタヌ治郎が現れた。
『事情は聞いてたからエルシィに伝達してメルゴたちを呼んでもらったからサニカはそこの子供たちを連れてイダルベールたちの元に戻っていいよ。
この小屋の護衛はボクがやっておくから』
「わかった」
サニカは子供たちが入っている氷の部分だけを削り取りこの場を離れた。
『タヌ治郎先輩じゃないの、どうしたの』
『……別に何も?従魔としての役割をこなしに来ただけだよ』
『へぇ』
『あっそうだった…半年後に君をこの世界から解放するって言ってたよ、君さえ良ければの話だけど』
『あら?もうそれだけの時間が経ったのね?』
『ラブナシカが君を然るべき場所から連れてこられたときはどうなるかと思ったけど…良かったね』
『えぇ、ようやく故郷に帰れるのねぇ』
『……こんな僻地に追放されるなんて君は何をしたんだい?』
『追放されたなんて人聞きが悪いわねぇーコレだから狸は……特に悪さはやってないわよ、人を化かして遊んだだけよ』
『どうだかね…この牧場で産まれた子供はどうするの?』
『着いてきたいといった子は全員連れてくわ』
『了解、ラブナシカにそう伝えとくよ』
そしてその半年後にはラブナシカによって子供たちと共に元の世界に帰されていった。
【カフェ・ド・ラブリー】
《カウンターテーブル前》
「…………的な事をやり取りしたんだけどパナフェは何をしたの?本人いないし時効だよね?ラブナシカが直々に預かる経緯を聞かせてくれない?」
「タヌ治郎…アナタねぇ…珍しく人に化けて来たと思ったらその質問なのね」
「当たり前だよ」
「まぁ良いわ、別に本人に言わないでと言われてないものね。
…パナフェはね、とある世界のとある大国の王を美女に化けて惑わして国を傾けた後に人類が滅ぶ一歩手前までとある世界の国同士を争わせまくったの」
「…ボクの予想を超えてた。大国を傾けただろうなとは思ったけど人類滅亡の手前までやってたんかい」
「でなければ「この性悪な獣を平和で地味な生活をさせて暇にさせろ」なんて言われながらよこしてこないわよ」
「………その世界に戻って行ったけど大丈夫…?」
「さぁ?次は無いと言われているからアタシも知らないわ。
キマイラ人狼に関して何か関与してたかも知れないし……反省しているようなら大人しくしていると思うけど…もしかしたら……」
「もしかしたら?」
「………考えるのをやめましょ。終わったことだもの」
「君も変な所がシビアだよね」
「そんなものよ」