次代のクレイバール島を担う者
【クレイバール学校】
《キユクの研究室》
「ふむ……やはり現場に行ってー」
「キユク?」
「大丈夫ですよシェルフィー。既に安定期は過ぎてますから」
「当たり前でしょうが臨月なんだから」
「そうですけど」
「サニカ先生に軟禁されるわよ?」
「シェルフィーは神経質すぎるんですよ〜」
「神経質ちゃうわ」
のほほんとした臨月のキユクを見てシェルフィナはため息が出た。
「シェルフィーたちも新婚旅行から帰ってきて妊娠が発覚して産まれての怒涛の日々でやつれていたのに」
「カイリが娘を見ててくれるから多少は楽になったわ。アタイの唯一の女の幼馴染の能天気ぶりに驚いてるんだよ」
「気を張ってたら疲れますか…ら……」
「どうしたのキユク?」
「…………なんか…破水したかも?」
「え”」
キユクの下半身を見ると確かにレギンスが濡れていた。
「病院ーっ!」
「違いますっ……僕は自宅出産予定ですよ!」
「そんなこと聞いてないわ!!」
「うわっ!」
アタイは急いでキユクを姫抱っこして職員室にいるサニカ先生の元に駆け込みキユクが産気づいたと話すと六月一日家の家に転移してた。
白虎が調合作業していて突然帰ってきたアタイとキユクを見て驚いた。
「どうしたんだ?!」
「キユクが産気づいたんだよ!」
「え!」
「キユクが出産する部屋は!」
「1階のこの部屋!」
白虎は用意していた部屋に案内してアタイはキユクをベットに降ろした。
ちょうど良いタイミングでサニカ先生がロディンナを連れてやってきた。
「シェルフィナと白虎はこの部屋を出て産まれるまで待機してなさい。ロディンナは指示通りに頼めるかい?」
「あいよ!」
するとアタイと白虎は部屋を追い出された。
「陣痛がいつ来るかわからないから覚悟しとけと言われてたけど突然だな」
「始まればやめられないとめられない。白虎は調合途中の奴を完成させちゃいな」
「おっおう………」
5時間後……出産中の部屋では。
「うぅ……はぁ………痛い…です……」
「キユク、もう少しかかるよ……まだ産道が開けきってないからね」
「まだ……はぁ……続くのですか……?………うぅ……」
「眠くなったら寝てもいいから。寝られたらね」
「はぁ………出産……舐めて…ました…ふぅ……」
「ロッカとシェルフィナとロディンナはスルッと子供が産まれたからね…でも普通は初産ってこんなもんだよ」
「じっ地獄の時間…ですぅ………はぁ……」
「キユクは強いね、唯糸とヒペリカは痛いーって叫びまくったというのにね」
「痛すぎて…出ないん…です…………あぅ……」
「ロディンナ、キユクが呼吸しやすいように体を動かしてくれるかい?キユクも姿勢を動かすけど痛かったら我慢せずにちゃんと言いなさいね」
横に寝転んでいたキユクを人をダメにするソファを使いソファーにのしかかる体勢にした。
「少し………楽になり……ました………」
「キユク何か飲む?結構汗が出てるし」
「……少し……」
サニカはキユクの口元にストローの付いた飲み物を持っていった。ドタバタとドアの周辺でまた聞こえた。
「……ドアの近くが騒がしいから行ってくるよ」
「白虎もクール振ってるけど慌ててるねぇ…さっきからドタバタしてるし」
「…………はぁ〜……痛っ…………」
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【六月一日家】
《リビング》
「アンタたち、煩いよ、キユクが頑張ってるんだから気張りなサニカも呆れてたよ」
「あー…聞こえてたカ…白虎がウロウロして転けた音とかガ」
「丸聞こえだよ。落ち着かないのであれば少し散歩してきな」
「いや、俺は……この家に居させて…生まれた瞬間をフィリムみたいに見逃したくない…!」
「なら大人しくするんだね。アタシはもう暫くキユクの様子を見てるから」
「宜しく頼む!」
それだけいうとロディンナは部屋に戻っていった。
「……ロディンナさん超たくましいし、ドンとしてて凄いな」
「そうなんだヨ。凛としてすっごく綺麗だロ?ロディンナをひとめみた瞬間に一目惚れだったゾ」
「確かに姐さんって感じがするよな」
「そこもゾッコンだヨ……白虎、さっきから目がキョロキョロして落ち着きないゾ……まぁ妻が分娩時の男ってこんなもんだよナ」
「ラタムだってロディンナさんが分娩時物凄いあわあわしてたじゃん」
「……あんましその時の記憶ないナ〜」
「ごまかしてる…」
ラタムにツッコまれたりボケたりを繰り返し気を紛らわせ、さらに数時間が過ぎると悲鳴じみたキユクの声が聞こえた。
「キユク!!」
「おっこの感じは産まれるんじゃないカ?」
ラタムがそう言って数分後に「おぎゃー!おぎゃー!」と産声が聞こえた。
「うぉお!産まれたぁ!」
「喜びようがハンパないナ」
白虎はガタッと椅子から跳び上がりドアの前に向ったが「もう少し待て」と言われ俺が固まっていると数十分後に面会の許可が出て俺はキユクの元に駆けこんだ。
「キユク!大丈夫か!」
「………煩いです」
「すっすまない」
「ふふ……冗談ですよ……白虎…見てください……僕…頑張りました…よ……?」
「キユク、本当にご苦労さま。ゆっくり休んでくれ」
「………僕が寝るまで…手を繋いで………もらえませんか…?」
「いくらでも側にいるよ」
「……ありがとう……ございます…」
ぎゅっと手を握っているといつの間にかキユクは眠りすぅすぅと寝息を立て始めた。
「先生……」
「ん?」
「俺の妻最高すぎじゃね?」
「女性はそういうふうに出来てて強いから」
「あぁ…女性ってホントに凄いな……それで性別は?」
「男の子」
「そうか…男か」
「名前は決まってるの?」
「男女別で考えてるよ」
「ラタムに性別を確認しなかったのか」
「うん。生まれてからの楽しみにしようって」
「そうか…本当におめでとう」
俺とキユクの間に生まれた子供は玖寿と名付けられクレイバール島の皆に祝福された。
子供が生まれるのを本能で察知したのかユウコさんと香瑠さんが二人揃って翌日島に帰還した、俺の両親と祖母も。
初孫と対面しデレデレになり出産を成し遂げた娘を褒めちぎり一週間島に滞在してユウコさんと香留さんまた遺跡巡りに向った。
俺の両親も祖母も長い休みに入ったらまた来ると言って地球での日常に戻っていった。
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【六月一日家】
《夫婦共同の部屋》
夫婦が寝るベットの上に我が子を寝かし夫婦で右と左に分かれて我が子を見ている。
「ふふふ……ホントに子供って可愛いですね……玖寿の髪は白虎に似て日本人特有の黒髪に僕の銀髪がメッシュで生えてます」
「とても綺麗な銀色の髪がな。メッシュに関しては婆ちゃんや父さんや姉貴にもあるんだ」
「今……そうなんですか?」
「父さんの場合は短く切り揃えてメッシュを染めるから見えないけど姉貴は後ろ髪の方にある」
「へぇ…」
「玖寿は俺とキユクの血が良い具合に混ざった感じがするし、なんかこう……絶対に婿にやんねぇ」
「普通は娘に対していう言葉のような気がします」
「……ふぇぇ……」
「あっ………そろそろ玖寿をベビーベットに運んで寝かせないとですね」
「その役目は俺がやるからキユクは先にベットに入って休んでくれ」
「いいのですか?…では遠慮なく先に休ませてもらいますね」
そういうとキユクは大きめサイズのベットに先に入った。
俺は玖寿を抱きあやしながら俺たちが使っているベットのすぐ隣にあるベビーベットに玖寿を寝かせて部屋の明かりを消しベットに入った。
……生まれたての子供は夜泣きやらがある。
妻と支障が出ない程度の負担を分け合うためにと俺たち新米パパになった男たちは子供が生まれる前にラブナシカさんとルウカ先生に指導を受けることになっている。
妊婦さんが生活するのにどれだけ大変かをあじわったら次は出産の痛みの疑似体験もしていて、クレイバール島の子持ちの既婚男性たちは妊婦さんの疑似体験を全員体験済み(ゴッツい男も関係なしで)。
そして今日も明日も仕事に支障が出ないように(妻に丸ごとやってもらうときもあるが)愛しい我が子の夜泣きの世話を妻と共に焼くのである(妻に邪外にされるときもあるが)。
我が子が成長していく様を近くで見るていると胸に熱い物を感じる。
3ヶ月して首がすわって寝返りを打つようになって「あー…」とか「うー」とかヨダレを垂らしながら口足らずで喋るさまは必死な感じがしてマジ可愛い。
平和な時間と充実した日々ってホントに時が流るの早く感じるものだと思う日々である。