結婚と野獣
【クレイバール教会】
《礼拝堂》
キユクの願いにより静かな夜に開かれた結婚式には祭壇にサニカが司祭の格好をして立っていて教会のパイプオルガンの椅子にハノンが座っている。
そして左側の長椅子にはキユクの両親だけが座り右側の長椅子に白虎の両親だけが座っていた。
人が少ない理由は若夫婦たちが新婚旅行に出かけて居るから。
ベテラン夫婦たちは式場には来ないでクレイバール島の山頂に向かい今日起きる予定の天体ショーの準備をしているからで身内だけの結婚式の方が気が楽だろうと言って来なかったのである。
ルウカとレシェットは祭壇に並ぶふたりを礼拝堂の出入り口の前に立って見ている。
そしていつもながらのセリフをサニカが言った。
「……新郎六月一日白虎はキユク・ルランフェルを妻とし死が二人を別つまで永遠の愛を誓いますか?」
「誓います」
「……新婦キユク・ルランフェルは六月一日白虎を夫とし死が二人を別つまで永遠の愛を誓いますか?」
「はい、誓います」
「では誓いの口付と指輪の交換を」
俺は顔を赤くしているキユクのヴェールを上げ口付けをしてお互いの左手の薬指に指輪をはめた。
「ここに新たな一組の夫婦が誕生しました…新たな門出を迎えた夫婦に結晶の大樹の加護がありますように…幸せになりなさい、結婚おめでとう」
先生が祝福の言葉を掛けて、手に持っているピンク色の教典を閉じると礼拝堂全体にキラキラした淡く光る花びらが教会の天井から降り注いだ。
俺とキユクが振り向くとそれぞれの両親はふたりを見て優しく微笑み結婚おめでとうと言って祝福し、ふたりがバージンロードを歩き教会から出ていくのを見守った。
「ユウコさん、これから白虎の事も宜しくお願いします」
「はい、任せてくださいと言いたいところですが…夫の遺跡巡りなどで最近は居られないのです」
「ふふっ夫婦で好きなことをする旅は楽しそうですね」
「えぇ」
「これで私たちの子育ては終わってしまいましたね」
「次は………孫だな」
「そうだな」
キユクの両親と白虎の両親は両家の顔合わせの時にヒーリングがとても合ったらしく意気投合し良好な関係を築いている。
「ほらほら君たちも外に出て1000年に一度の天体ショーを見るなり休むなり移動しようか」
「サニカ先生は?」
「私はまだ最大じゃないから片付けして着替えから星が1番見える秘密の場所で天体ショーを観察するのさ」
「先生はいつか天文台作りそうで怖いんだが」
「天文台を作る気でいるよ」
「既に作る気だった」
「流石、ルウカ先生とレシェットは早いですね…既に姿を消しましたよ。どこに行ったんだ?」
「あら」
「ハノンはどうするんだ?」
「ボクはサニカと共に片付けをしてから山頂に赴いて島の子供たちと共に天体ショーを見たいと思っています」
「そうか」
「……これから宜しくお願いします」
「こちらこそ宜しくお願いします」
そしてウェディングドレスと燕尾服から普段の格好に戻った新婚の白虎とキユクがやってきた。
「「……………………」」
「あら、終わったあとの挨拶に来たのかしら?」
「…あぁ」
「わたしたちの事は気にしないで良いのですよ」
「そうかも知れませんけど…」
「俺らのことは気にすんな。後は好きにするからお前らも好きにしろ」
「キユクさん、白虎のこと頼みましたよ」
「はい、……お義父さん」
「なんかむず痒いな」
「ふふ。春兎君たら」
「こちらもだ…白虎君、キユクのことを頼みます」
「必ず」
こうして現地解散したキユクの両親は一度自分たちの家に戻り動きやすい格好をしてからふたりで島のベテラン夫婦たちがいるクレイバール島の山頂に向った。
白虎の両親は火天の宿屋に一旦戻り動きやすい格好をしてから実際はどこでも天体ショーは見えるので大広場にあるガゼボテラスに向かいそこで天体ショーを楽しむことに決めた。
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【六月一日家(ふたりの新居)】
《ふたりの寝室》
「「…………………………………………」」
なんか普段と雰囲気が違うしなんかこう…。
「……白虎、改めてこれから宜しくお願いします」
「こちらこそ宜しく頼むよ」
そこからまた気恥ずかしさから黙り込んだ。
「……俺たちも天体ショーを観に行くか?」
「………観に行きません…だって……今日は…」
「いいんだな…?」
「はい…」
一方その頃のサニカは…。
【クレイバール島】
《とっておき天体観測場所》
「…………………コレでよし」
天体観測の準備を終えた時にハノンから連絡が来た。
『サニカの指示通りにレシェットと共にムッツリとスケベェを確保しました』
「ありがとうハノン。ラブナシカから渡された封じ札を使って天体ショーを観られる場所に飾っといてくれる?」
『了解です。処置が終わり次第、僕は山頂にいるアジサイたちのもとに向かい、レシェットは春兎と美鶴のいる場所に向かうそうです」
「わかった。ハノンご苦労さま」
『はい』
通信が切れた瞬間に大規模な天体ショーが始まった。
「……………星の輝は命の煌めきか……次世代までは忙しいねぇ…星が読めるようになると嫌なものも見えてしまう。
でもそれを乗り越えてしまえば多少の面倒ごとに巻き込まれながらも穏やかに過ごせそうだね」
「ワクワクすっぞ!」
「いつからここに?」
「一通りクレイバール島をぶらぶらしながら来たからついさっきだな」
「…ムッツリの方は取り逃がしたか」
ハノンが捕まえたのはニヴァだろ…って誰がムッツリだ。新婚初夜を邪魔するような野暮なことは俺は絶対にしないぞ」
「どうだが…スケベェは捕まったみたいだけどね」
「…スケベェって誰だ?」
「しれっとこの世界に来てしれっとクレイバール島に侵入したラビリアの事だよ」
「何しに来たんだ…ラビリアは」
「獣人の本能って奴が発動したんじゃない?強者のお眼鏡にかなうのが生まれてくるのを察知したとか…?」
「ラビリア避けしとかないとだな……」
だが突然「キャァアア!」と花畑の妖精さんの悲鳴が聞こえ抵抗したみたいだがこつ然と気配が消えた。
「…えっえ?今のって…カーウェンだよな?助けに行くか?」
「ハノンが仕掛けた封じ札を破った野獣に連れ去られたね……ラビリアに関してはアレを呼ぼうか。この島の子らに手を出したときのための奴」
「…………性的な意味で襲われたのがカーウェンだからな…それにアイツも三千年以上も生きて大人だから…使うまでもないんじゃないか?」
「人でなしがここにいるわ」
ほうきに乗ってマジェリルカがやって来た。
「マジェリルカもよくここに居るってわかったね」
「アナタたちの魔力を追跡すればわかるもの」
「ならマジェリルカとしてはどうするんだ?この状況を」
「…………長い物には巻かれろ精神かしら」
「お前もじゃねえか」
「………次世代のためにとっておくか……すまんカーウェン…!」
3人で無事を祈っておいた。
そしてこの後カーウェンは1年と半年後に娘を連れて帰ってきた。
不老不死になりたての強者の為にラビリア避けを作っている【清廉潔白の聖者】本人が直接作った【聖者の勾玉(極)】を持参して。
サニカとルウカはカーウェンに申し訳ないと思っていたがカーウェンの口からは
「こうなければ子供を持つことはなかったので良かったのかも知れないからお気になさらず。
娘があの様に育たないようにしてあの野獣一族をこの島に絶対に近づけさせんからな」
と真顔で言って勾玉はクレイバール神社に奉納されサニカとルウカとラブナシカで責任もってこの島から無くならないように処置したのであった。