特別授業〜その人は突然に〜
【無敵の宿屋】
《食堂》
「へぇ……自分らがいない間にそんなことが起きたんだ。それで住人が増えてたんだ」
「………フィリム。そんな冷静であろうとしても、だらけきった表情で全部台無しだからな?それと俺の幼馴染みに「一目惚れしました。結婚を前提にお付き合いしてください」と島民たちの目の前で言ったこと将来ネタにされるぞ」
「そんなのは昔から行われている事さ」
「俺を接待して唯糸の情報を聞きだそうとしても教える気はないからな?幼馴染みだから知る秘話とか」
「良いじゃないか〜」
「酔ってるだろ?フィリム」
「そんなことはないよ」
「隆太郎も俺も口は固いからな?そこんところは先生に教え込まれたから」
フィリムはニコニコしているが心の中でコイツ本当に酔わないしそもそも口を割らねぇなと思ってから舌打ちをしたことだろう。
この腹黒野郎に唯糸を紹介できん。
「あんなに隆太郎に酒を昼間から飲ませて酔わせて殺す気か?」
「いや〜結構飲ませても平気そうだったからさ」
「俺も先生から聞いてるからな?フィリムが異世界でやってること、悪いが唯糸を巻き込ませることしたくないから」
「ケチ」
「ケチじゃないから腹黒裁縫師」
フィリムは遂に異世界の強者たちから強さを認められ異名が付いた【腹黒裁縫師】と。
「何で裁縫師なんだ?」
「手合わせして貰ったあと服が破れたりするだろ?それを直してたらそう呼ばれるようになったんだ」
「流石、呉服店の跡取り」
「自分も異界を世界を旅してやはり生まれ故郷が最高だよなってもう思い始めたよ。
最近は転移者に厳しい世界が多くなってきたから」
「それは俺も先生から聞いたよ」
ケラケラと話しているうちに島全体に放送があった。
『今から緊急の特別授業を行うから無敵の宿屋か火天の宿屋に来てほしい。
島にいる動物たちに関しては無敵の宿屋の方にある【緑地の部屋】に連れてくる許可をする』
暫く沈黙の後にフィリムが言った。
「サニカ先生たちって今日、【時空維持】の組織に呼ばれてたんだよね…特別授業の内容はそこで聞いた話だよね。
それに【緑地の部屋】が使われるってどういうことだろう。
フルーレじゃないけど嫌な予感がする」
「そのへんの説明もあるだろうから俺たちはこのままでな」
「あぁ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【無敵の宿屋】
《大客間》
「コレでこちら側は全員って事かな?」
「そうだと思うわ」
「それじゃ各々の場所に座ったら話すよ」
この場に現れたのはアスチル、ラブさん、イダルベールさん、ハルディオラさん、フィリム、フルーレ、ポーリアさん、ニヴァさん、キユク、シェルフィナ、隆太郎、唯糸の12名であった。
その他の住人は火天の宿屋に向かいルウカ先生の方から話を聞くそうである。
隆太郎は気付け薬を先生から飲ませられ正常化させられた。
「全員座ったね。それじゃ今日の【時空維持委員会】系列の総会に呼ばれた時に聞かされた事を話す。
…まず最初に話す事は【境界兵団】についてから。
近年になって【境界兵団】のが裏で活発に活動し、希少な種族の血統を持つ者を拐い数多の世界を荒らし回っていた証拠が見つかったことで判明した。
そういった事も含めて世界の壁を越えて旅をしていた者たちにしわ寄せが寄っていたことも判明した次第である」
「サニカ先生良いですか?」
「良いよフィリム」
「考えたくもないことなんだけどさ……もしかしてだけどマコトさんとかも取り込まれてないよね?」
「……フィリム、その心配は無用だ」
コツコツと足音を響かせてこの島で見たこともないひとりのキレイな女性が現れた。
「あっ貴女は…!」
「良く無事で…」
「いや、この件に関しては数多の世界を巻き込んでのことだったしそれに推薦された身として徹底的にやらないとな」
「……ロッカ、ロルスと落ち合えたかい?」
「親父はあたしをこの世界に逃がすために死んだ」
「えっ」
「ちょっと!ロッカちゃん!オレを勝手に殺さないで!」
「ちっ」
慌てるようにロルスさんが現れた。
「サニカ先生、これまでオレたち島民たちをずっと騙してたんだな?」
「親父、何度も説明したけどこの件はサニカ先生たちだってかなり悩んでたんだからな?でなければあたしに【ワールドアイテム】を持たせるはずがないんだ。
それに敵を騙すなら味方からと言うやつだろ?」
その場にいる全員が先生を見た。
「この事も話さないとだね…ロッカ。本当に良く生きて帰ってきてくれたね」
「先生が持たせてくれたワールドアイテムのお陰だ。その代わり短剣の方は壊れてしまったけど」
「それくらいで済んで良かった。ロッカどうする?」
「あたしもここに居る。どうせ今日【境界兵団】が手を出しては行けないと言われている地球と化け物が居る世界以外の世界一斉に襲撃するんだろうから」
「はっ?」とフルーレが間抜けな声を出した瞬間にドッカーンと爆破音がなった。
「………もう来たか」
よく見ると上空が赤く染まり空から何かがやって来ていた。
「イルミナット島の方は!どうなってるん?!」
「イルミナット島の島民たちは手を出しては行けないヤバい人が今回限り特別に来て結界を張ってくれてるから馬鹿じゃない限りは手を出さないだろ」
「手を出しては行けないヤバい人…」
「そうか…それにしても良く動いたね…説明を聞くといい」
外ではカオスな光景が広がっているというのに先生は淡々と説明を始めた。
「まず、ロッカについてからだね」
俺の遠い親戚になるロッカさんはとんでもなく秀でていて先生たちですら驚くくらいだった。
ちょうどその頃、自世界から追逐された強者の集団が創設した【境界兵団】で良からぬ動きがあると【時空維持委員会】系列の数多の組織が頭を悩ませていた。
【時空維持】の任務に赴いていた方々の顔は知られていた為に潜入出来ずに手をこまていていたが沢山の異世界の中から才能があり優秀な者を入り込ませようと案が出た。
そこで声をかけられたのが強者たちがそこまで興味を示さなない僻地の世界にいる優秀な若者たちだった。
「あたしを含めて15人の若者たちが選出された。生き残ったのはあたしを含めて5人だ。
ここに来るまでに【時空維持】の連中に知らせたから【手を出しては行けないヤバい人】が至竜連盟でわざわざ呼び出されて手伝わされてる」
その手を出しては行けないヤバい人とは超ド級の気まぐれで自分中心で実力も次元を越えているどころじゃないと言った。
「ラブナシカですら相手にしたくないでしょ?」
「絶対に嫌。あれ本当に元人間なの?って言いたくなるもの。アタシら神族をパチンと指を鳴らしただけでパッて消すし」
「えっ…派手な魔法とか使わないの?その人たち」
「面倒だからと言って魔法やら武器やら使わないわ。本当にパチンって指を鳴らしただけで消すわ」
「次元が違う……あれ?外の時が止まってませんか?」
いつの間にか戦艦から放たれたビームが途中で止まっているし、コチラを睨みつけている強そうな人たちが口を開いたまま止まっているのがわかる。
「面倒だからと時間を止めたぞ」
「止まっている人たちって自分たちの時が止まっているってわかっているの?」
「わかってる、一応強者の集団だから。体が動かないって脳内パニックで足掻いていると思う」
「こんなのどうやって戦うんだ?」
「……いちいち自分の世界を自身の周りを創造して動いて戦い、造った世界を止められてまた自身の周りに世界を創ることを繰り返す…順序を踏んで動き回らないと行けないから嫌なのよ」
ラブナシカさんも本当に嫌そうにしていた。
「流石の自分も悪寒が…」
「だから手を出しては行けないヤバい人と呼ばれているのさ」
そしてロッカさんが今度は口を開いた。
「………あたしは数年に一度だけ弟と連絡を取り合っていたがマコトたちがこの世界から巣立ったと聞かされ【時空維持】の連中からどこに赴いたか場所を特定させて向かった」
「それで姉さんたちは?」
「マコトたちは下手をこいて行方知らずさ」
「えっ」
「向かった先の世界に裏で繋がっていた【境界兵団】の輩と接触しようとしていたみたいだが【星渡りの星間獣】にその世界そのものが破壊され生死不明となった」
その場が固まった。
「…………もう一度、説明を…」
「何度でも言ってやるさ。向かった先の世界に裏で繋がっていた【境界兵団】の輩と接触しようとしていたみたいだが【星渡りの星間獣】に世界そのものが破壊され生死不明となった」
すると…不自然に置いてあった水晶玉からファムロスさんの声がした。
『それは本当なのかロッカ!?』
「あぁ、ホントだよ。【時空維持】の連中から預かったその時の記録が入っている【記憶の水晶】をそちらに転送するからその目で見てくれ。
記憶の水晶は捏造は出来ないから嫌でも現実だと知るだろう」
ロッカさんは2つの水晶を取り出すと一つを声がした水晶玉に吸い込ませもう一つを先生に渡した。
「見るタイミングは先生に任せたからな」
「わかった……まさかそんなことになっていたとは」
「サニカ先生たちですらやはり引くか」
「そりゃ…【星渡の星間獣】は数多の世界を渡っている至竜ですらいざ相手すると手を焼くからね」
「え」
「私とルウカが本気になっても追い返すのがやっとだと思う。
試した事がないからわからんけど。
それに異世界を行ったり来たりしている時に鉢合わないように気をつけてるし」
本当に厄介なんだな。
「手を出しては行けないヤバい人たちは平然と狩るけどね…」
「おう…」
「あたしからはコレで終わりだ。
コレであたしも漸くのんびり過ごせるし、ナナヤの事も親父から聞いたがアイツなりに納得したらなあたしはそれで良いと思う。マコトたちも自身で選んだ道だからな」
ロッカさんが説明を終えようとするときに恐る恐るこの部屋から出ようとしていた人物がひとり。
「どこに行こうと言うんだ?フルーレ」
「ひっ!」
ロッカさんはフルーレを見て言った。
「お前はあたしの婿になるってお前が生まれたときから決まってるんだ。もう一度言うがどこに行く気だ?」
「とっトイレだにょっ!」
「あっ噛んだ」
するとフルーレは「オイラはまだ独身でいたいんだー!」と叫びながら大客間から出て行った。
「ロッカお手柔らかにな。無理矢理は駄目だからね?」
「大丈夫だサニカ先生。逝ってくる」
ロッカさんはどこぞの特殊部隊レベルの走り方で大客間か飛び出していった。
「……嵐のような人だな」
「昔からです」
「遂にフルーレも大人の階段か」
「えっそういう意味でなのか?」
「ロッカがこの島から出ていくときに次に戻ってきた日がお前の独身最後の日だと宣言してったの〜」
俺は心の中でフルーレの無事を祈っておいた。
ロッカさんの話を聞く限りクールな人だと思っていたが公明正大で豪胆な人だったんだな…。