連行とチート
「はぅっ」
バタッと隆太郎はその場で気絶した。
「おいぃい!こんなところで気絶すんな!こういうときにいつも気絶する!お前は乙女か!」
「お前は乙女か!」
ルウカ先生と「お前は乙女か!」のツッコミがほぼ同時だった。
「唯糸さんは僕が背負うので白虎は隆太郎さんを頼みますね」
「いや、キユクたちは身一つで歩きなさい。唯糸は私が背負うよ。ルウカが隆太郎を背負って」
「わかってるさ」
美鈴の方を見ると既に千太郎さんが背負っていた。
「どうするんだ先生!」
「このままにして置けないから連れて行くっきゃないから拘束魔法を使って効いたら連れてく!無理だったら魔法で石にしてここに放置!」
先生たちはそれぞれ魔法の鎖を家族が結合した姿に向けて放ったが六本の腕と足を器用に使い避けたその光景を見て俺は引いた。
「避けた」
「壁走りしてます」
「人間としての理性はあるんかな?」
「なさそうですが…どうでしょう?」
俺とキユクは呑気にその光景を見ていた。
「なんか早くね?」
「捕まるまいと意地を感じるけども何とかしないと、このまま放置するわけには行かないでしょ」
「なんかが近づいて来てるから早くしないとだぞ?」
「わかってるけ……もう面倒だからこの施設と周辺を凍らせてしまおうか。そうすればこの施設に簡単には近づけまい」
ルウカはその言葉を聞くとすぐさま白虎たちの元に向かい隆太郎を俺たちの近くに置きサークル魔法を展開し唯糸をサニカ先生から預かってこちらにやって来た。
「ルウカ先生どうしたんですか?」
「お前ら今からこのサークルから出るなよ?氷漬けになりたくなかったらな」
「えっ」
「千太……キユク、千太郎はどこだ?」
「えっさっきまで美鈴さんを背負って近くに居ましたが」
「あれ?」
いつの間にか千太郎さんたちは姿を消していた。
「………探しに向かいましょうか?」
「…いや、今は動くな。オレとサニカがいるこの空間に居てくれ。場合によってはもう美鈴とやらと会えないかもしれん」
「えっ」
「千太郎が暮らす地球は白虎たちが過ごした地球よりもかなり特例でオレやサニカですら近づけない」
「美鈴は入れるのか?」
「多分だがな。美鈴とらを回収するためだけに来たなら目的は果されからこの場から逃げたかもな」
「………」
「白虎は美鈴とやらに未練はあるのか?」
「幼馴染みってだけで突然の引っ越しだと思えば良くあることだと思う」
「お前のそういう冷静というのか冷淡といえば良いのか…そういうことを言える所は祖先に似てるな」
「えっ」
「縁があればどこかでまた会えるであろうがな」
「………」
ちょうど魔法の詠唱が終わったのか先生が「アイス・プリズン・ド・サンクチュアリ」と言うとパリパリと音がなったと思ったら一瞬で周囲が氷に包まれた。
「おぉ……一瞬で銀世界になった」
「どうやら唯糸さんたちのご両親も捕らえるのに成功したみたいですよ」
キユクが天井の方を見て言った。
ほぼ氷漬けになり怪物になっていた両親が固まっていた。
「先生、この後はどうするんだ?」
「アイテムボックスに眠っている車を出して唯糸たちを火天の宿屋から家族ごと「明けの仙人」がいる地球に飛ぶ」
「……明けの仙人って地球のお方?」
「あぁ。チート増し増しが無かった世代の召喚勇者だからガチで強いぞ」
「そんなパターンも居るんだ…」
先生は唯糸たちの家族を縛り上げて魔法で小さくし何かの箱にしまいアイテムボックスにしまった。
そして先生が亜空間から車を取り出していた。
「自動運転があるからシステムに任せちゃうか……皆、車に乗り込んで。向こうさんも本気を出してきたみたいだから」
俺とキユクは後ろに乗って助手席にはルウカ先生が乗った。
そして先生がエンジンを掛けるタイミングでドッカーンと壁が破壊された。
現れたのはスーツ姿の変な集団ではなく特殊部隊が使ってそうな装備を装着した集団だった。
その集団は容赦無く銃やら重火器を使い攻撃してきたがこの車は完全に効いてなかった。
「もしかしてこの車ってチート?」
「あぁ、チート車だ。あの宿と同じだと思えば良い」
「…………まだチートを持ってた」
「ここぞと言うとき以外はあんまり使えないんだけどね」
先生は車に搭載されている何かのボタンを押すとコチラを襲ってきた集団が困惑していた。
どうやら俺たちが乗っている車が小さくなった事で見つからず困惑しているようである。
先生は出発進行と合図すると車からの景色は面白く特殊部隊の人たちの足の間をスルリと通り俺たちがこの世界に来た場所に向かっていた。
「……なんだかゾンビの様な集団が多くなってきましたね」
「ホントだ…森の奥から出てきてる」
「藪をつついてろくなのが出たら嫌だからこのまま帰るよ」
その場にいただけでグニャグニャと周りが歪みいつの間にかゾンビの集団が消え去り俺たちが過ごしてきた地球に戻れたようである。
「よし」
車が元の大きさに戻り、先生はそのまま俺たちが過ごしてきた町の周辺に着くとほぼ町の原型がなくなっていたがポツンと宿屋だけが建っていた。
その周囲には俺ですら呆然とする兵器が囲っていた。
「ガン〇ムとかがあるんだけど」
「それ以上の戦艦も上空に浮かんでますよ」
「どうする?」
「簡単だよ。あんなの無視してこのまま宿屋に向けて走らせてそのままドアを破壊して宿屋に突入する」
「だよな」
ルウカ先生はスマホを取り出し宿屋に設置されている電話に掛けて中に居る人に「今乗っている車ごとドアに突っ込むから」離れていろと連絡していた。
先生はカチッと何かのボタンを押すと【自動運転(極)】と【透明化】が発動しましたとアナウンスが入った。
特に何事もなく進み宿屋前に来たが何かの壁に阻まれた。
「ちっ…やっぱり張ってたか」
見覚えのある金髪のハーフエルフが宿屋を囲っている兵器を所持している人たちと思わしき者たちと共に破壊しきれなかった森から出てきた。
『あー…透明化している車に乗っている者に告ぐ。今すぐに投降し宿屋の権利を寄越しな―――』
などと供述しているが先生は無視して車を進めている。
「サニカ先生、あの演説してる方が「あの宿屋は我々、火村家の所有物である」って言ってますよ」
「あー……そういうことか…わざわざ【特別な地球】から出張なさっておられますぞ?ルウカさんや」
「そうみたいだな。だが今のオレたちには関係のない話だ。そんなの知らねぇな」
「もしかして前世と関わりが?」
「私やルウカはやるべきことは全部やって次の生に行ったし、もはや他人で関係ありません。
良く漫画や小説でこういった物語も見るけどね」
先生たちはやれやれといった感じである。
「……血が途切れず悪用しない者が生まれていれば宿屋を育てていく感じで新しい宿屋が使えるはずなんだけどね」
「野心を持った者が生まれたんだろう……それか能力を持った子供が欲しいといった輩に血を与えたかだな」
「やーねー、本当に」
「あっガ……ロボットが動き出した」
ロボットの目がピカッと光り立ち上がろうとしたがその前に向こうの方々が張った結界を俺たちが乗る車が通り越し宿屋の入り口に突っ込んだ。
何事もなかったかのように俺たちはそのまま車から降りたが壊れたドアに関しては直ぐに先生がドアを召喚して直して車をアイテムにしまった。
そして東側の囲炉裏がある方のリビングから宿屋のエントランスに見覚えのある人がやって来た。
「本当に無理やり入り込んできた…」
「マスターがいた。てっきり敵だと思ってたのに」
「酷いな白虎は。そんなことするわけ無いよ〜長い人生楽しまないとね。……官邸に戻ったのは良かっんだけど下剋上されちゃったよ」
「え」
元首相もとい喫茶店のマスターはそう言ってのけた。
「えっこの世界の日本の政治が荒れる…」
「荒れないさ。既に下剋上した輩が新しい政治が動いてるから自分が居なくても大丈夫でしょ。
あっ準備出来たようだから行くねー」
喫茶店のマスターはそれだけ言うと火天の宿屋の階段に開きっぱなしの扉が現れていてそこに吸い込まれて行くように入っていった。
「マスターはどこの世界に渡ったんだろう」
「多分だけど母方のドラゴンと妖精たちが暮らす世界だと思うよ。母竜が生きてるだろうから」
「あぁ…」
「【明けの仙人】の元にはいつー…」
「呼んだ?」
声がする方を向いたら喫茶店のマスターが入っていったドアからひょっこりと高校生らしき人が現れた。
「よう、陽雲。久し振りだな」
「久し振りだなじゃないよ。悠珂」
「君から来てくれるなんて手間が省けた」
「ふたりしてぼくを見る目が怖いよ」
「単刀直入に言うが…」
ルウカ先生が事情を説明した。
「そういう事か。賀実から連絡があって驚いたから座標を合わせて来たんだけど。
一度、氷漬けにしたままで良いから様子を見させてよ」
ルウカ先生が先生から預かった物を持って稽古部屋に【明けの仙人】を連れて行った。
そして俺たちは隆太郎たちを介抱するためにソファーに寝かせてルウカ先生たちが帰ってくるまで心身を休ませるためにソファーに座っていたらいつの間にか俺は寝た。