ナイトメアの迷宮2
【火天の宿屋】
《白虎の部屋》
「なんてコトだ、ようやく仲良くなれたというのニ」
「この状況からしてまず間違いない。白虎は【ナイトメアの迷宮】に魂を引きずり込まれたね。
その迷宮の中でも【フォルモフォスの迷宮】見たいだから一安心だね」
「【フォルモフォスの迷宮】の方カ。でも白虎くん自体に頑張ってもらうしかないゾ?」
「ですね。まずは部屋を出てコレからの方針を話し合った方が良いですよね?」
「そうだね。ファムロス、ナオハル」
白虎のクラスメイトとラブナシカとルウカがタイミングを図っていたのだろうか、一緒に火天の宿屋に押しかけてきた。
「まだ授業中の筈だけど?」
「サニカ先生達だけで話し合うなんてずるいぞ」
「察したのですよ。白虎が一週間来ないなんてあり得なかったので」
「フルーレ達が騒ごうがどうにも出来ない案件だからね?」
「こんな案件、久し振りだから良いじゃない。残っている子供達に取ってもいい経験になるわよ」
「いつから気付いてた?」
「3日前から?」
「ラブ先生、もしかして意趣返しです?」
「そんなことないわよ。ナオハルったら〜」
全員、腹の中で意趣返しだなと思った。
「来てしまったら仕方なイ。話せば良イ」
「潔さは格別だヨ。流石は爺様ですナ」
「……それじゃその辺の椅子をもって来て適当に置いて座ってくれるかい?」
集まった者達はその辺にある椅子をもって来てサニカ達が使用しているテーブルに集まった。
「まず【ナイトメアの迷宮】とは数多の次元と空間と時間に存在する空間で【異次元の強者】ですら簡単には入る事が出来ない特別な場所さ」
「ヤバそうな単語がいっぱいあった気が…」
「…白虎が入った迷宮はそこまで危険度が少ない【ナイトメアの迷宮】の中でも【フォルモフォスの迷宮】と呼ばれている場所だね」
「えっ【ナイトメアの迷宮】はいくつもあるのですか?」
「うん。数多ある世界と同じくらいある」
「へぇ」
「私も白虎とは違う【ナイトメアの迷宮】に迷い込んだ事あるけど…目覚めるのに150年掛かったよね」
クラスメイト達は「えっ」とサニカを見た。
「魔法使いからしたら【ナイトメアの迷宮】に入れると結構な研鑽になるから良いんだけどね。
長命な魔法使いには最高だけど短命の魔法使いにはコンチクショウとなるくらいには」
「…でも命懸けになるよね?」
「フィリムが言うように命懸けにはなる場合はある。迷宮で命を落とせば死だからね」
「サニカ先生ですら目覚めるのに150年ですよね?白虎の場合もっと掛かりそうで怖いのですが…」
「下手すれば肉体が死んで魂だけが戻ってくる可能性もあるから、短命な種族はコンチクショウって思うんだよ」
「だとすればヤバイんじゃないか!どうするんだいっ!」
シェルフィナが勢いよく立ち上がった。
「シェルフィナの言う通りなんだけど、対策が無いわけじゃないから。座りなさい」
「えっ」
「この宿屋の本来の機能を使おうと思ってるんだよ」
「えッ…まだこの宿に何かあるノ?」
「今、この宿は普通にクレイバール島と同じように時間が経っているでしょ?」
「そうだな。当たり前だし」
「実はこの宿には外の時間の経過とは別にとてつもない程の時の経過を遅らせたり早くしたりの機能があるんだよ」
「えっ」
「例えばだけど外の時間で1日が経過するけど宿の中では24秒しか経ってないといった感じに出来る」
「なにそれ……」
「そして、その逆も出来る」
「好きなだけ寝ていられるだと…!」
「ヤバい機能でしょ?」
「ヤバすぎだよ……なんでもっと早くに隠すことなく使ってくれなかったの?」
「朝に弱い子供達が「好きなだけ寝ていたいから使いてぇ」と言い出すからだよ」
その場にいた子供達は黙った。
「この機能をこの宿屋限定で解放して使おうと思う。そうすれば白虎が肉体を失わずに戻って来れる可能性が出来るから」
「確かに……そうすれば自分達は長命だから待ってられるね」
「私、皆を卒業させる気でいるんだけど?」
「高校の卒業に関してはクラスメイト全員でやりたいからな。白虎と一緒にしてやりたいから待つぜ?」
「あらあら」
「白虎は悪いやつではないから仲間意識も出来るよ」
「……まぁ、お前達はあいつ等と違って自分たちに悪影響を与えないと判ると基本はフレンドリーだからな」
「ホントねぇ」
「さてと……話すことも話したし私は白虎の家族と白虎の所属している学校に説明しに行かないとだね。一発貰うかもだけど」
「あっ」
「場合によっては白虎の家族がこの島に滞在するかもだからアジサイ達に言っておいて」
「わかった、その辺はオレとラブナシカでやっておくから早く行ってやれ」
それだけ言うとサニカは宿から出て行き地球に向かった。
「それじゃ僕達は一旦、家に戻って親に説明した方が早いですね」
「アジサイやメルゴ達にはオレとラブナシカが説明しに行くから自身の家族に話すのをやっといてくれるか?」
「コレばかりは」
「はい、それじゃ行こうカ」
そしてクレイバール島の人達に知らされたが特に何かある事はなく白虎の様子を見ながらの日常に戻っていった。
白虎の両親はその事をサニカから聞いたが特に慌てることなく「本人は数年寝たきりになるのですね」と冷静に受け取った。
そして「白虎が目覚めるまでは宿屋で過ごします」と言った後に「我々を白虎が目覚めた年齢に合った時間軸に戻してくださいますよね?」とニッコリと笑いながら言った。
「間違いなく戻す」とサニカは言って六月一日一家を連れてクレイバール島に帰還した。
地球側の学校に関しては真面目な態度と単位を落とすことなく課題提出もちゃんとしているから場合によっては卒業するために必要な範囲を出しそれに受かれば卒業出来ることとなった。
そしてロルスは子孫である六月一日一家が一時的にやって来た事で子孫達が過ごして来た歴史を白虎の父と祖母から沢山聞いて満足した。
【ナイトメアの迷宮(フォルモフォスの迷宮)】
《黄昏の森》
『どうしてなんだ?〇〇』
『こうなる事を俺たちは選んでしまった……だから……』
『僕は納得は行かないっ!共に逃げよう!』
『ダメだ!俺たちがちゃんと役目を全うしなければ他の世界にも影響が出てしまう!お前が出来ぬのであれば俺自身で!』
『止めろぉお!』
名を呼ばれた男性は自ら命を断った。
『僕は!僕はこんなこと望んでない!神よ!どうして!僕に勇者としての役目を与えたのですか!』
だが返事はない。
『この様な事を何度も繰り返さなければいけない罪とは何なんだ……僕はただ…親友と……共に同じ時間を過ごしたかっただけなのに………くっくくく……ふハハハは!』
青年は親友?の亡骸をもって何処かに消えていった。
「始めからなかなかエグいのだが」
「そうだな……」
「ミリーさんが言ってたようにキツいな…コレを巡らないと行けないのか。
それにしても一巡目から青年が旅をして出逢い仲良くしてたのにそれぞれが魔王と勇者になっての離別かよ。
最後の別れの時に片方が発狂でヤバいんだが…彼らは何をしたんだ?特に悪いことはしてなかったと思うけど」
「白、その辺に寝転んでないで行くぞ」
「あぁ」
そして俺はカベルネと共にまた歩き出すと映像が流れた。
今度は幼なじみとして生まれ育ち敵対する流れである。
『〇〇!どうして!』
『もう、駄目なの……お願い私を殺して…〇〇』
『うわぁああ!』
『ありがとう…〇〇…』
青年は少女の胸に剣を突き立てた。
『あぁ………まただ……また君を手に掛けてしまった……どうして僕が勇者なんだ………嫌だ……生まれ変わってまた彼女に手を掛けるなんて嫌だ……いったい僕が何をしたと言うんだ…………そうだ……次は…次は彼女に殺されよう……僕が負ければ良いんだ……僕も直ぐに君の元へ』
「キツイぞこれ…なんか既に病んでるし」
「2回目がコレか……」
「なんか既に切り合ってる感じなんだが?」
「だがコレは…勇者と魔王の戦いの様だが…何処の世界の勇者と魔王の戦いなのだろうな」
「カベルネは心当たり無いのか?」
「あぁ、夜に浮かぶ月の数や背景からして我の知っている世界では無いな。
無数の世界の記憶も記されているからその影響でもありそうだがな…もしかしたら幾億の勇者と魔王の戦いの歴史を辿って居るのかもな」
「うわぁ……漫画のような展開もあると良いんだが…」
迷宮巡りはまだ始まったばかりであると思うと少々億劫になった白とカベルネであった。