番外編 新年にて
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
【フワット神社】
《鳥居…前》
「キユク、寒くないか?」
「大丈夫です。美鶴さんとサニカ先生によって寒さ対策させられてるので」
「みたいだな」
そこに動きやすい格好をしたふたりがやって来た。
「やっほー、キユクさん。…白虎は相変わらず早いねぇ」
「あれ?美鈴さんは?」
「美鈴ならこの神社で巫女さんのバイトしてるぞ」
「バイトですか?」
「あぁ、フワット神社の行事があるたびに毎年頼まれるんだよ。ここの神主さんにな」
「へぇ」
「その割には昔から不思議な出来事に昔から巻き込まれるんだよねぇ」
「ホントだよな。毎年手伝って拝んでるのにゴールデンウィークや夏休みになると巻き込まれるし、先日のクリスマスの日にも白虎は居なかったが巻き込まれたしな」
「えっ」
「だけど今回は大人の人が手助けに入ってくれたから逃げ切れたもんね」
キユクは「もしかして……」とクリスマスの出来事を思い出していた。
「キユクさんの所にもあるの?神社」
「ありますよ。サキュバスの一族の方々が代々継いでます」
「サキュバスが神職やってんのかよ」
「ご先祖に凄腕の陰陽師が居るんです」
「陰陽師とサキュバスがどの様に結ばれたんだろう…」
「サニカ先生達はその事について教えてくれないんですよね。刺激が強いとかなんとかで」
「こんな所で話してても埒が明かないからお参りしようぜ?」
男ふたりは鳥居を潜ったがキユクと唯糸は鳥居を潜らず神社の中に入った。
「どうしたんだ?」
「気にしないでねえ」
「それで最初はどこに向かうのですか?」
「甘酒を貰いに行くか!子供が飲めるお酒だからな…グヘへ」
「おいら苦手なんだよねぇ…甘酒」
「独特の味ですよね」
「キユクちゃんは飲めるのか?」
「はい、神社の神職さんが作る甘酒は美味しいですから。小さい子供に飲みやすいく成長に合わせてだんだんと本格的な甘酒になっていく感じですね」
「へぇ」
話し込んでいると神社にある甘酒を配っている場所にたどり着いた。
そこには巫女の服を着た美鈴と妙齢の女性が立っていた。
「あっ四人で来たわね」
「甘酒を貰いに来たぞ」
「隆太郎は少し待ってて。唯糸達はどうする?」
「俺は貰うよ」
「僕もいただきます」
「おいらはいいや」
美鈴と妙齢の巫女さんは用意されているコップに甘酒を入れると俺達に配った。
「「「いただきます」」」
飲みやすい暖かさの甘酒を飲んだ。
「うぁっつ!」
「あら?熱かった?」
「琴葉さんっ熱いよ」
「わたしが持った時はそこまで熱くなかったんだけど…」
「ヤケドした…」
「新年早々…不運だねぇ」
「そろそろ流鏑馬の時間だけど?観に行くの?」
「……おれ、甘酒でヤケドした時は流鏑馬観ないことにしてるんだ」
「どうしてですか?」
「甘酒でヤケドした年は流鏑馬の弓矢で壊された的がどこにいても何故かおれの所に飛んでくんだよな」
「………」
「なら他の露店の所に行くか」
「行こう」
甘酒を飲んだコップは指定の場所に向い自分で洗って返した。
そして露店が出ている場所に向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
《露店会場》
「今年も出てるね、おいら飲み物買ってくる」
「そういえば一人だけ飲んでなかったな」
「そうだよぉ」
「待ち合わせ場所どこにする?」
「そうですねぇ…あの御神木の前――」
唯糸が言い掛けた時にその御神木がバサバサと大きく揺れ賑やかだった場所が突然静寂に包まれた。
すると唯糸が持っていた水晶にピシッとヒビが入った。
会場がパニックになり参拝客が一斉に入口のの方に走り出した。
俺も悪寒が走ったので隆太郎と唯糸とアイコンタクトを取り俺達も神社から出た。
キユクも何事かと驚いていたがキユクの腕を優しく掴み共に鳥居を唯糸たちと同じように潜らずに神社の外に出ると、そこには走って疲れたのか他の参拝客が息を整える為に肩を上げ下げしていた。
そして数名の参拝客は休むことなく全力で走って何処かに向かっているのが見えた。
「いっ一体何が起こったんだ?」
「さっさぁ…」
「何だったのよぉもう」
「こっ怖かったよう」
など周囲の参拝客達は動揺している様であった。
「白虎、隆太郎さんと唯糸さんと合流しないと」
「わかっているが境内にいる美鈴達は大丈夫なんだろうか…」
すると今度は神社の入口から鬼の面をしたのが現れた。
それを見た子供達は号泣したし数人の思春期真っ盛りの男子が絡んだが、次の光景を見て子供は泣き止み大人達は子供を抱えて全力で走り出した。
絡んで来た男子に―――したのである。
「マジかよ!」
「もしかして不思議な出来事にあの場にいた方ごと巻き込まれたのでしょうか!?」
「とにかく逃げるぞっ!」
「はいっ!」
鬼のお面を付けた輩は物凄い雄叫びを上げるとさらに数体の鬼の面をした輩が神社から現れ増え走り出し、追いかけっこが始まった。
俺は先生から教え込まれたパルパークを巧みに扱い家の屋根に上がった。
キユクも流石と言うべきか難なく屋根に上がり俺と共に走り出した。
町は静寂に包まれ本来なら居るはずの人達が消え、この場に存続している人は追いかけられている参拝客と遠くにいる幼馴染み達と俺とキユクだけである。
走りながらだが周りをよく見ると数カ所に鏡が設置されていてどうやらその鏡が出口らしい。
逃げられている人達がいた……もしかしてこの現象に巻き込まれた事があるのだろうか?
所々から悲鳴が聞こえるが俺は正義のヒーローではない。パルパークが少々出来る高校生である。
「お前、防御魔法はどうした?」と言われるかもしれないが結界を張ろうにも不思議な力にかき消されて使えません。
「参拝客の皆さん何名かは逃げられているみたいですね」
「みたいだな。俺達もゴールに向かわないと」
ふたりで走りながら周りを見ていると泣いている子供を庇いご両親が倒れ鬼の面をした輩にその子供は追い込まれていたが、キユクは勢いを付けてその子供の元に向かっていった。
俺はキユクの後を追いかけ先に子供の元に付き、キユクは鬼の面をした輩にカカト落としを繰り出していた、。
すると鬼の面をした輩は消えた。
さっきまで泣いていた子供はいつの間にか泣き止んで顔を上げると……鬼のお面をしていた。
「なっ!?」
「駄目じゃないかー…騙されちゃったね?」
するとさっきまで倒れていた男女が起き上がりキユクに向けて攻撃を繰り出した。
キユクは一瞬の事だったが少し腕にかすり傷を作る程度のぎりぎりを避けられていた。
「くっ…」
「反応がとても素晴らしい…是非ともぼくのコレクションに加えたいものだよっ!」
「……!」
キユクは懐からクナイを鬼のお面をした少年に投げると先生と侍従契約をしている本来の巨大な姿の譜月が現れ鬼のお面を付けた少年に右の前足を使い動きを封じると固まった。
「なっ何故、こんな所に異界の聖獣がいるっ!?」
えっ……本来なら驚くような存在だったの?…俺たちを見かけると尻尾振って寄ってきて腹を出して舌を出してへっへっへっへっしてるけど?
『小童、我らの宝に手を出すとはのう…どうされたいのか言ってみよ』
「くっ」
『申してみよと言っておる………噛みちぎるぞ、小童』
譜月が光のオーラを周囲に溢れ出させると他の鬼のお面を付けた輩の動きもぎこちないものに変わっていった。
「こっこんなんじゃ無理っ!予想外な事が起きてるよぉ〜!ぼくはもう引くから!異界の生物が相手じゃ分が悪すぎる!」
鬼のお面を付けた少年はそれだけ言うとそそくさと逃げ出し、譜月はそれを追うことはしなかった。
『キユク、ナイスタイミングじゃ。我を呼ぶとはな』
「偶然ですよ」
『偶然だったとしてもじゃよ…お主の相方は出てこられそうかのう?』
「いいえ、呼ぶための物が使えないです」
『だとするとやはりここは…異空間じゃな…ふたりとも我の背に乗ると良い。元の場所に戻ろうとしようかのう』
「あと二人も頼めない?」
『唯糸と隆太郎か……回収しても間に合うか…』
譜月の背に乗り隆太郎達の元に向かい二人は普段から習っている体術を使いやり過ごしていたようだった。
譜月はそんな二人に合図を送り向いタイミング良く回収して俺たちが出られる鏡の場所まで赴き俺たちを鏡に向けて振りほどいた。