時が流れるのは早いもの
【永久の花園】
《花の妖精の楽園》
「ヴィスタリオス、ここは花の妖精が生まれ行く場所だから花を枯らせたら花の妖精たちが生まれなくなるよ」
「どうすれば良いんだ!師匠!枯れてしまうぅ!」
「私が教えた水と光魔法の混合魔法を使うんだよ」
「ひぃい!オレにはまだ無理だよぉ!」
「泣き言を言ってないでやってみなさい」
……俺はサニカ先生と弟弟子のやり取りをここまで案内してくれた1100年ほど生きている薄い黄色の羽をパタパタさせているヒマワリの花の妖精と共にサニカ先生が用意したテーブルに座って見ている。
普段サニカ先生のサポートをしているハノンはお茶や茶菓子などを用意している。
「詰め込み授業……はちみつ入の紅茶美味しいです」
「嬉しいですね…私が淹れたお茶が褒められるなんて…」
「ハノンのお茶は美味いからな……ヒマリアンはサニカ先生が使っている混合魔法は使えるのか?」
「えっとですねぇ…ここで妖精の王に成らない限りぼくには無理です。
…もともと光の妖精の系譜なら使えるかもですが」
「そうか」
「……それにしても人間さんがココに来るなんて久しぶり過ぎて驚きですよ」
「そうなのか?…ここはとても澄んだ魔力を感じるから魔法使いが来ると思うが…」
「そんなことはなかなか無いです。
お兄さんたちからは澄んだ魔力を感じます…だからこの花園は受け入れたのかも知れないです」
俺は目線をふたりに向けたが、サニカ先生は弟弟子に直接触れて魔力の循環を体に叩き込んでいる。
ヴィスタリオスはぞくぞくと身震いしていたが、コツは掴んだのかキラキラと光る水を杖から出し魔法を少しの時間だが成功させて喜んでいた。
「……俺たち見たいな人間も居るが悪い人間も居るから魂の汚れ具合はちゃんと確認するんだぞ?」
「心配してくれてありがとうです…お兄さん達と先生さんとは花園を出たらもう会えないのが悲しいです」
「……妖精ってそういう所は敏感だな」
「そうなんです、敏感なのです」
「……ふむふむ…妖精はとても感情に敏感…と」
魔法の修行場として使用させてくれてありがとうとヒマリアンにお礼を言ってサニカ先生は【精霊樹の苗木】を渡して花園から旅立った。
この時代で魔境と呼ばれる場所に修行と評してヴィスタリオスを次々と連れ回し鬼畜と言われながらも鍛えた2年の時が過ぎていた。
俺とハノンはヴィスタリオスの話し相手や世話を焼くなどをして過ごした。
【パルマ火山】
《中腹…豊穣石室》
「えっ……何ここ………ミスリルとかオリハルコンとかアダマンタイトとか師匠の持ち運び式の家の図書室にあった図鑑に乗ってた宝石が生えてる…それに普通なら暑いのに熱くないし」
「トンデモ魔導師が居ればそうなるよー…」
そう言ったのはヒマワリの妖精のヒマリアンである。
彼は先生から苗木を受け取って直ぐに苗木を他の妖精に託しヴィスタリオスのバッグの中にちゃっかり自身が生まれたヒマワリと同じ種類のヒマワリを入れていて、そのヒマワリと自分の居場所を入れ替えて着いてきていた。
それは直ぐに発覚したがサニカ先生はいくつかの約束をさせて着いてくる許可を出したのだった。
「ヴィスタリオス、さっさとピッケルを持って宝石や鉱石を採取しなさい。
さもなくば魔法で採取してもいいから」
「………【魔の火山】と呼ばれている場所に入ったと思ったら採取するのが目的だったなんて…」
カーン…カーン…カーン…とすること3時間後…。
「サニカ先生、結構な量取れたがどうする?」
「どれどれ」
「ナナヤ兄さん…って!オリハルコンを採取してる!採取するの苦労するはずのオリハルコン採取してる!」
サニカはガサゴソとナナヤの採取した籠を漁っていたが小さいオリハルコンを取り出した。
「んー…この小さいの貰っていい?」
「あぁ、ピュアオリハルコンか」
「ピュアオリハルコン!?」
「使いどこが無いから良い」
「ありがとう…このピュアオリハルコンを使ってナナヤの刀を強化しよう」
「あげる意味なくないか?」
「ナナヤからもらうから良いんだよ」
「サニカ〜私はアダマンタイトを取ってきました〜!」
ハノンはカゴ一杯に大量のアダマンタイトを持って来た。
「ブフォッ!?」
「………恐ろしいですねー」
「おや…流石ハノンだね、しかもピュアアダマンタイトが大量に取れたね」
「ピュアアダマンタイトっ」
ハノンはドヤッとした。
「ナナヤが採取したオリハルコンとアダマンタイトがコレだけの量があれば君のボディの強化とかも出来そうだね」
「宜しくお願いします」
「えぇー!」
「ヴィスタリオスもヒマリアンもコレが普通に思えてくるよ」
「そんなの絶対に嫌だっ!………あっ大きなダイヤモンドの原石が取れた」
「……その大きさだとピーーーぐらいで取引されるね」
「命が狙われるっ!」
「良く見たらこれピンクに見えるねー」
「え」
「凄いじゃないか、億の世界を超えたね」
ヴィスタリオスはピッケルを持っている手が震えた。
「このピンクダイヤモンドの原石を加工してヴィスタリオスのお守りを作ろうかね」
「それだけは止めて!」
「一応、アクセサリーに加工してヴィスタリオスが採取したから財産として持たせようかね」
「生きた心地がしなくなるよぉ!」
こうして火山での探索も無事に終えた。
【アイス平原】
「ここでは氷や特殊な草を採取しに来たよ」
「うひゃ〜寒い……冬眠しちゃいそう…世界って広いね〜」
「透明度が凄いな……島でもなかなか見かけない…」
「クリスタルアイスと呼ばれるくらいだからね」
「ひっ!下!下!下ぁ!」
ヴィスタリオスか下と連呼するので足元を覗くと巨大な魚が泳いでいたがそこに海竜が現れ弱肉強食の世界が繰り広げられていた。
「ぴぃ!巨大な魚が食われた!」
「コレが魚…と呼ばれる生物なんだー」
「オレが知ってるサイズじゃないっ」
「水族館の様ですね…この場から観るのはなかなかですね」
「襲われ無いから大丈夫さ、ここの氷は竜のブレスを通さないからね」
「へぇ……とても迫力があるな」
「注意するのは氷の下の水中ではなく、この地に暮らす【首狩りウサギ】だよ」
「えっ?」
「ちょうど氷の上で生えている草っぱを見てごらん」
俺たちの2メートルぐらい先の場所に草が生えていた。
その草が揺れるとぴょんっと、とてもモコモコフワフワなウサギが出てきた。
「あれが首狩りウサギなのか?」
「モフモフ…」
「そう、あのモコフワなウサギが首狩りウサギさ」
「信じられないですね……皆だと危ないですから私が行ってきましょう」
ハノンがモコフワなウサギの元に向かうとカワイイウサギから凶悪な顔に変わりハノンの首を狩ろうとしたが硬すぎて斬れずウサギは驚いていた。
首が斬れず首狩りウサギは逃げたが吹雪を纏った巨大な鳥が現れそのウサギを掴み何処かに飛んで行った。
「目の前で弱肉強食の世界が起きましたよ」
「ソウデスネ…ア〜……」
「あの鳥は首狩りウサギが好物で人間は食わないから大丈夫だから。
さっさと氷を採取してこの地から離れよう」
「ヒェ~!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【流星の大渓谷in火天の宿屋】
《エントランスラウンジ(囲炉裏がある方)》
「さて、どうするナナヤ」
「どうとは?」
「暫く帰れそうに無いからこの時代で探索してみる?」
「……良いのか?」
「うん、今のナナヤなら大丈夫そうだから。
それに私はナナヤが満足するまで見聞を広めるのも有りかなって思ってるいい勉強にもなるだろうし。
私は星の観測するから暫くここから動くつもりは無いし、満足するまで行ってきなよ」
「……それも有りか」
「独り旅しても良いし…それとも弟弟子とヒマリアンを連れて男3人旅するかい?」
「えっ!師匠良いのか!」
「うん、ヴィスタリオスも15歳になったし……ヒマリアンも人間を知るために旅にでても良いと思うよ。
まっそれなりに嫌な事も体験するだろうけどね」
「…………なら行かせてもらう」
こうして俺とヴィスタリオスとヒマリアンと【流星の大渓谷】から男3人旅が始まった。
始めは順調だったがサニカ先生に近付くなと言われた国にヒマリアンが拐われその国に侵入して【大怪盗】などと言われるような事をしたり【迷いの森】と呼ばれる場所で迷子になったりした。
そして治安の良い国である【パルナパニア王国】にて王女誘拐が起きたがヴィスタリオスが活躍して【始祖王国】に運ばれる前に救い出した。
そしてヴィスタリオスがその王女に惚れられたが「私は修行者でありハーフエルフ故に貴女と結ばれるのは難しい」と言ったがそれでも王女は諦めなかった。
父王や王妃を説得し納得させヴィスタリオスを王配に出来るようにしてしまった。
俺達はサニカ先生を招集し話し合ったが王女が頑として譲らなかった。
サニカ先生はもしヴィスタリオスにその気があるのなら【愛の試練】とやらをやらせてはどうかと言った。
ヴィスタリオスは悩みに悩んだが王女と話し合い、サニカ先生には不出来な弟子で申し訳ないと言ってパルナパニア王国で【愛の試練】を受けると言った。
王女とヴィスタリオスはサニカ先生やパルナパニアの王と王妃が作った生半可な覚悟では突破出来ない【愛の試練】を3年も受け二人はたゆまぬ努力をして王や王妃、そして国民に認めて貰った。
ヴィスタリオスは結婚した王女が女王として君臨し王配として彼女が亡くなるまで尽くした。
そして王国が次の代になると子供達には「コレから厄介な事に巻き込まれたり長く生きる事で苦労することがあるかも知れないがこの国を頼んだ」と言ってパルナパニアから俺とヒマリアンが二人で旅していた所に合流した。
そうこうしている間にあっという間に200年もの月日が流れていた。
【死者の森】
《聖者の聖域》
「君は本当に……捻くれいるよね、人が寄り付かない場所に住居を構えるとは…パルナパニアには帰らないのかい?」
「帰るつもりはありません。
王国は子供達に託しましたから、それに引き籠もってた師匠には言われたくない」
「……本当にあっという間だったな」
「兄さん達には助けられた…本当にありがとう。3人が居なければ私は逃げてたよ…」
「どういたしましてですかね?」
「わたしから一つだけ言わせてもらっても?」
ヒマリアンが前に出た。
「ヴィスタリオス、貴方の子供達に手紙を出して置いて。
貴方が亡くなり子孫が困った時にわたしが手伝える範囲で手助けをすると」
「ヒマリアン良いのか?」
「はい、それもまた縁でしょうから…直ぐには起きなそうですがいずれ…手助けする時が来るでしょう」
「………ありがとう」
そしてサニカ先生はあらたまってヴィスタリオスに言った。
「君はもう魔術師として一人前です。
前から言っていた通り独り立ちを許可します」
「鬼…師匠、200年という長い年月お世話になりました」
「君がコレからどのような人生を送るかは君の人生だから文句は言いませんが、君のこれからの人生が実り多い人生でありますように」
「師匠達も…実り多い生を生きてください…」
「君に卒業祝いとしてこの【創造の大樹の杖】と【栄繁の導き杖】を託します」
「その2本の杖は師匠が持っている中でも貴重な杖じゃないですか!」
「それでも良いから受け取りなさい…きっとこの杖は必要になるだろうから」
サニカはそれだけ言うとヴィスタリオスに手渡した。
「この2つの杖を使って悪用してはいけないからね?」
「はい」
「それでは私達はヒマリアンを【永久の花園】に送り届けてから私達の世界に帰ろう」
「師匠、最後に…最後に師匠の本当の名を教えてもらっても良いですか?」
「…私の本来の名は【澄谷賀実】地球と言うこの世界の壁を越えた先の世界で生まれ異世界で勇者をしてここまで至った者だよ……それじゃ…またね」
「またね……?」
サニカ先生は最後まで言い切り花園まで転移しヒマリアンを送り届けた。
【永久の花園】
《彩りの花畑》
「それでは…お世話になりました」
「……元気でな」
「ナナヤもサニカ殿も」
「君の心が黒く染まらずその輝きを持ってね」
「はい」
俺たちは元の世界に戻ろうとしたが戻れなかった…先生は何かあるのかもしれないと【様々な世界が交わる狭間の世界】に行こうと言ってその世界に渡った。
そして先生の宿屋は有名らしく壁掛けの看板に【一時的にオープンしてます】と掲げると沢山の異界の強者達がやって来て忙しくなったがたくさん交流した。
そして1ヶ月もすると落ち着いてきたら例の鑑定士がやって来て俺を見ると「運命の糸が歪められている」と俺を見て言い放ち「すぐに直してしまいましょう」と言い先生を巻き込み切ったり結んだりした。
【火天の宿屋】
《西側のエントランスラウンジ》
「ここまで拗れた運命を持った子は久しぶりに見ましたよ!多分ですがその歪みが原因かも知れませんね」
「…えっ戻れないのは…俺が原因なのか?」
「大丈夫ですよ〜落ち込むのはわかりますが、私も結構なヤバい物を扱ってナナヤ君や先輩みたいな現状を両手では数えられないくらい沢山してますし、そのせいで転生先の自世界にて勇者しちゃいましたし!」
「…………………」
俺を鑑定したのは先生が良く口にしていた鑑定士さんで地球人の記憶を持った転生者で前世の時からコレクターをしていて異世界に転生してからもコレクターの血が騒ぎ商人をしながら美術品やら危ない物まで集めていたらしい。
この人も実力派でありながら結構ぶっ飛んでる…。
「私と先輩と一緒に歪みを切って結び直したりしましたがここまでが良いでしょう。
このくらい歪んでた方が良いです。
可能性がない決められた運命なんて辛いですもんね」
「………ありがとうございます?」
「マクスウェルありがとう」
「いえいえ、先輩の処置はかなり充分でしたよ。
まっコレで先輩に借りは返せましたし先輩の宿に泊まったことで英気を養えましたし、数多の世界に旅立ち、稀有なコレクションを集めに行きます」
「あの人達に怒られない程度にね」
「わかってますよ〜」
「それでは」と言ってマクスウェルさんはそのまま時空間魔法を使い宿屋から去っていった。
「本当に世界の理って厄介」
「私のワガママで勇者としての役割を持つ魂から役割を取り除いて当たり前の幸せを手に入れられる人達と同じ様にしてたからね」
「先生、コレからどうするんだ?」
「そうなんだけどルウカと離れたのは数万年振りになるんだよね……数多の世界をまたに掛けるとんでも魔術師達みたいに私も旅しまくろうかな」
「……やはりそうなるのか」
「そりゃね」
「帰れるまでの辛抱ですよ。ナナヤ」
「ハノン…」
「私は何処までもお供しますから」
こうして俺は先生とハノンと共に世界線に渡る旅が始まった。