飛ばされた先で
【還らずの砂漠】
《?????》
「……ナナヤ、大丈夫かい?」
「…だいぶ慣れてきたから大丈夫だ」
「まさか……私達が飛ばされた先がビワト達が生まれ育った世界でも本当に大昔の時代に飛ばされるとはね」
俺とサニカ先生は俺の知る歴史の中でも本当に大昔、それも神話で語られる時代に飛ばされたらしい。
なぜ特定できたかと言うとサニカとしての人生が始まる以前の人生の知り合いと砂漠に入る前に出会ったからだった。
「【始まりの召喚勇者】とその仲間たちに会うとはね」
「それで仲間にならないかと言われるとは」
「断らせて貰ったけどね。…もし勇者の仲間になったら歴史が変わっちゃうぞ?」
「手加減しないのか」
「…その話は置いといて、遥かな過去の時代だとすると厄介なのが居るんだよね……この時代は特に」
「それで俺たちは何をすれば良いのだろう…」
「…………何かある筈さね」
「それで先生は何処に向かってるんだ?」
「魔王領には行けないね。ルウカが魔王をやってる頃だろうからね…行きたい場所は【パルナパニア王国】さ。
治安がかなり安定していてその国だけは神と勇者の争いに巻き込まれることは無いから」
「そうか」
「まずはこの砂漠を抜けてパルナパニア王国に行ける港町に行かないとね」
サニカ先生と俺は【火天の宿屋】を使い1ヶ月という時間を掛けて砂漠を抜けて【アリュウフェス港町】に着いた。
そして情報収集の為に酒場に向かった。
この時代のお金に関しては心配ないようであった、サニカ先生のポケットマネーは結構な金額がありその場その時代に合わせて取り出すときに勝手に両替されるそうである。
「なぁ、知ってるか?勇者達がついに……」
「知ってるも何も空島と呼ばれる場所で―」
「あと、魔王が―」
「パルナパニア王国の方でー」
ガヤガヤと様々なウワサ話が聞こえている。
「先生…行き先は【パルナパニア王国】?」
「行きたいけど…この頃の世界を旅して回りたいと言う欲望が……出てきちゃった」
「………冗談だよな?」
「……………ふふふっ」
怪しい笑いを取って呑気にしている所に物好きな冒険者が慌ててやって来た。
「おい!コレから【始祖王国】から奴隷が運ばれて町の広場でオークションをするらしいぞ!」
体がビクッと反応した。
「この時代でも珍しい事じゃないからね。…やっぱり始祖王国の名前がこの港町でも出てくるか…嫌だねぇ」
「……確かとんでも王族が治めていたんだったか?」
「うん、手当たり次第に手を出すから最悪だよ」
「………それに……奴隷か」
「ナナヤ、何なら奴隷の練り歩きを見るかい?」
「えっ」
「………人間の残酷な部分を見るのも一つの経験になるからね」
「………………」
「嫌なら見ないで次の場所に行こう【パルナパニア王国】に行くのは今の時期はやめよう。多分だけど【始祖王国】の海賊が出て襲われる確率が高そうだから」
「先生なら退けるんじゃないか?」
「出来るけど【始祖王国】の連中はかなりしつこくねちっこいから関わりたくないのが本音さ。
強い者がいるならと絶対にしつこく追い回されるよ」
サニカ先生は本当に嫌そうな表情をしていた…本当に始祖王国と関わるのが嫌なんだな。
「俺はそういうの見たくないけど……見る」
「わかった、なら少し離れた場所から見ようか」
俺とサニカ先生は飲み物代を払い店を後にして奴隷が見世物として歩かせられているのをこの港町の建物の上に登りそこから眺めた。
「…………本当にあの足枷はあるんだな…それにしても子供が多くないか?………それに………」
「ナナヤには刺激が強すぎるみたいだね」
「…俺たちは本当に過保護に育てられてるんだな」
「この時代は特に弱肉強食の世界だから余計だよ」
「…………」
「さてどうしようか、この町を出て少し離れた場所に宿屋を召喚して休む?それともこの港町の郊外の森にこっそりと宿屋を設置する?」
「………この町の森で休もう…」
「了解」
建物から降りて町の郊外に向かう途中で事件は起きた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【アリュウフェルス港町】
《郊外》
「まてーー!」
先生と二人で歩いていると怒鳴り声が辺りに響いた。
先生と一緒に振り向くとボロボロな布を着せられているプラチナブロンドの少年が足枷に付いている鉄の塊を持ち必死に走っていたが奴隷商の雇われた者によって捕まった。
「このガキ!良くも逃げたな!」
「離せ!おれは!父さん達を殺したアイツを殺しに行く!」
「そんなこと知るか!来い!」
「がっ!」
俺が動こうとしたのを止めたのはサニカ先生だった。
「止めなさい、突っ込んだらダメだと知っているだろう?」
「先生」
「助けたい気持ちは分かるけど……私達の様子を町の人たちが見ているからよしなさい、逆に奴隷にされるよ。
そもそも奴隷を練り歩かせるなんて普通の町ならさせないでしょう?…罪をでっち上げられてカモにされるよ」
「…………」
「まぁコレも経験だね、奴隷商の店に行ってみるかい?(何か引っかかるし…それにもしかしたら…)」
「え」
逃げた少年が連れ戻された奴隷商の店に俺とサニカ先生はそのまま後を付けるようにして行った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【アリュウフェルス奴隷館】
《応接室》
「申し訳ない、後を付けるような真似をして」
「良いのですよ。貴方の様な方が来られるとはコチラとしても嬉しい限りでございます」
この館に入る時に断られそうになったがサニカ先生はとある鉱石を店番に渡しコレで話ぐらいはさせて欲しいと言うと店番は面倒くさそうにしていたが、この館の主にその鉱石を見せに行くと館の主にが護衛を伴ってやって来てすぐにこの部屋に案内された。
「本来なら一見は入れない場所なのに感謝する」
「いえいえ!このピュアアダマンタイトのインゴットを2つもいただくのです!それだけでも商売上がりです!」
この時代でもやはりピュアアダマンタイトは恐ろしい程の価値があるようだ。
あのピュアアダマンタイトのインゴットはクレイバールの鍛冶屋の店主が作った物だが「コレはダメだね」と言ってたなかったか?
「コレだけの純度とは!」
「喜んで貰って嬉しいものです……では単刀直入にあのプラチナブロンドの少年について」
「あぁ……ゴホンッ……あの少年ですか。アレは西北の大陸の辺境の村の生き残りの者でございます」
「そうだったのですか」
「どうしてあの少年を気にかけるのですかな?」
「私の師匠である方に似ていたので気になったのですよ。
私の師がその西北の大陸の出でしかも妻と子供を残してきたと言ってたので」
「それはまた…不可思議な事もあるものですね」
「ホントですよね」
腹の探り合いをしてるし…サニカ先生には奴隷商人時代があったから余計だろうな。
「……と言うことです」
「それなら私の見間違いかも知れませんね、大変申し訳ありませんでした」
「そのようで」
「あのインゴットと鉱石は迷惑料としてそのままお受け取りください」
「宜しいのですか!」
「はい、有力な情報もいただけたのでそれで充分です、西北での戦争が起きてた事は驚きました、数多の数の情報に感謝します」
サニカ先生は素早く帰り支度の準備をして立ち上がり俺の方を見た。
「それと他の奴隷商の方の店にも行くとしよう」
「先生、良いのですか?」
「もしかしたら師匠の子供がいるかも知れないから…」
「もし見つけたらどうなさるつもりですか?」
「………もしもの為にと師に託された最高傑作のピュアオリハルコンのインゴットを混ぜて作られた白金のティーセットを交渉材料に使うさ」
ピュアオリハルコンを使った白金のティーセットと聞いた奴隷商の主の表情が変わった。
……そのティーセットは先生が老人会で作ってなかったか?
「サニカ様、少々よろしいですかな?」
「どうしましたか?」
「つい先程、思い出したのですが……その師匠様は何か体に特徴はありましたかな?」
「どうしてその様な事を…?」
「一応、確認をさせていただきたいのですよ」
「…確か左の目元にホクロがあったぐらいですね」
「そうですか」
すると後ろのドアが騒がしくドタバタし始めたが。
「では我々は下がらせていただきます。情報をありがとうございました」
テーブルに手数料としてピュアアダマンタイトのインゴットをもう一つ置いて館から去った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【アリュウフェルス港町】
《郊外》
「先生、あれで良かったのか?」
「大丈夫、置いて行ったインゴットに私達を襲ったらどうなるか分かるようにして置いたから。
それにここの奴隷商は暗部の方とは繋がって無いみたいだから大丈夫、何か仕掛けてくることないさ」
すると直ぐにサニカ先生は念話に切り替えてきた。
『ナナヤ、あの奴隷商の所の人材が私達の後を付けているからマトモそうな一見さんお断りしない奴隷商の所に行こう。
面白いものが見えるかもよ』
『…その感じたと引かかったみたいだな』
『うん』
暫く歩きサニカ先生と共にマトモそうな奴隷商の店に入って行った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……どうでしょう?ココにお目当ての奴隷はいらっしゃいましたか?」
「んー…私が探している奴隷はこの場所には居ないな」
「そうですかー」
奴隷商人は何やらソワソワしている、まるで時間を稼いでるような感じである。
暫くすると商人の手足となって動いている者が慌ただしくやって来て耳打ちをし奴隷商人がうなずいていた。
「なら、こちらに来てはいかがですかな?もしかしたらお客様のお目当ての奴隷が見つかるかも知れませんよ」
「………わかった、ではそちらに…案内をして貰っても?」
「畏まりました…こちらでございます」
俺とサニカ先生は奴隷商人に違う部屋に案内された。
「…………………確かにこの子は師匠に似ている……魔力の鑑定をしても宜しいのですか?」
「はい、お気に召すまでどうぞ」
サニカ先生は憔悴していてフラフラしているプラチナブロンドの少年の魔力を少々吸い取り鑑定した。
「…この子は私の師と同じ魔力を持っている…」
「お気に召しましたかな?」
「………この子を買わせてもらいます」
「ては購入にあたり契約書などを個室でいかがですかな?」
「わかりました」
俺とサニカ先生は個室に案内された。
「…………確かに金貨5枚いただきました」
「奴隷契約は自身で出来るので大丈夫てす。それと…特別価格のサービスまでして貰いましたし我が師が作った最高傑作の白金のティーセットを貰っていただけませんか?」
サニカ先生は白金のティーセットを取り出し奴隷商人の目の前に寄せた。
「コッコレは!………失礼ながら調べさせてもらっても宜しいですかな?」
「どうぞ」
奴隷商人は白金のティーセットを手に持ち調べ始めると興奮気味になったり手が震えたりしていた。
「このティーセットは我が師が全財産を叩いて作り上げた唯一無二のティーセットです。
私はただ師が亡くなる前に譲り受けただけですので作ることはまず難しいと思ってます」
「えぇ!そうでしょうとも!このティーセットにはピュアオリハルコンが使われているっ!それだけでも希少性が高い!………ですが一つだけ勿体ない事に貴女の師が無名であることが大変に惜しい!」
「そうですか…私の師は頑固な所があり滅多に人に魔道具や装飾品などを売ったり譲らないんです。
それに弟子を取ったのも気まぐれだと言われました」
「そうでしたか……ですが宜しいのですか?」
「はい、私が持っていても宝の持ち腐れなので……有効に使えるなら使おうと思ってたのです」
奴隷商人は自身のアイテムボックスに白金のティーセットをしまった。
「それでは師の子を連れて行かせてもらいます」
「はい………それとコレは?」
「手数料としてお受け取りください。
コレで師から譲り受けた財産は無くなりましたが…私を救ってくださった師の家族を救えたと思ったらそれで満足です」
「そうでしたか」
「はい」
サニカ先生は憔悴しているプラチナブロンドの少年をヒョイッと持ち上げた。
「おや」
「これでも腕には自身があるんですよ。師と暮らしていたのはど田舎出身ですけどね。…我が弟子よ行くとしよう」
「ではまたのご来店をお待ちしております」
こうして奴隷商の店から出た。
俺は追跡されるんじゃないかと思っていたが追跡されなかった。
【アリュウフェルス港町】
《郊外の森》
「……サニカ先生、特に追跡とかされないな」
「まぁ…あれだけのこの時代でも希少な物を保管する事になれば追いかけて来る暇はないよ。
それに希少なアダマンタイトのインゴットを持ち歩いて余裕にしてたから余計だろうさ」
「あぁ……もしかして向こうはアダマンタイトのインゴットを奪いに来るであろう人間と戦い蹴散らしてここまで来たと思っているのか」
「まっそんなところだね」
「さてとドアだけ召喚して私のアイテムボックスにしまわれてる【火天の宿屋】に行こうか……さて」
「……大丈夫、ちゃんとサニカ先生が作ったアクセサリーを俺も身に付けてるよ」
「……この子はアンクレットだね」
サニカ先生は器用に少年の足にアンクレットを装着させた。
【火天の宿屋】のドアを召喚して宿の中に入って行った。
サニカ先生は森に佇んでいるドアを回収した。
「コレで安心して過ごせる…」
プラチナブロンドの子を魔法でキレイにして宿のロビーにあるソファーベッドに寝かせた。
「先生、どうしてこの子を?」
サニカ先生から衝撃的な答えが帰ってきた。
「……この方は転生人生がはじまる前…落ち人だった時にお世話になった方で私の魔術の根本を作った私の師だよ。
ナナヤが反応しないで奴隷と追っ手かとそのままスルーしてたら出会えなかったね」
「えっ」
「師匠の師匠の話を今更ながら思い出しながら歩いたけど……まさか遙か先の未来の私が師匠様を鍛えた師匠だったとは驚きだよね」
「ん?………それは本当なのか?」
「うん、この宿に入って確定した……何で今まで気づかなかったんだろう。
師匠は言ってた「私が師匠と兄弟子たちと共に過ごした家はこの世界の造りでは無かった」っていってたなぁ〜と思いだしたのさ」
……衝撃の真実過ぎて……。
「しばらく帰れないな」
「うん…場合によっては道理を曲げたとしても送り返すよ?」
「………コレも経験だと思って過ごす。俺は寿命が長いから」
「本当に良いの?」
「あぁ……ところで先生の師匠の名は何て言うんだ?」
「ヴィスタリオス・ルミナレス」
「………そうか」
暫らくして目を覚ました少年に引き取った事の経緯を話し食事が終わってサニカ先生は少年を弟子にすると宣言した。
少年は頭にはてなマークを浮かべていたがひとまず頷いた。
翌日から勉学やらを教え始めた。